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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号
4/35

すべき事



ーーーーー




ーーガシャガシャガシャ




5階へと上がり、俺は寄り道せずに通路を歩いて角部屋へ向かった。

地味に色々買ったから荷物が嵩張ってガサガサ物音が響いてうるさい。



・・・院内ではお静かにって言われて追い出されないかなー。



そんな事を考えながら歩いていると、目の前から医者の風貌をした男性が歩いて来た、少し疲れてるね。



「・・・おや? 名木田くん、やっと来てくれたのか。」



彼は俺を見るなりほっとしたように息を吐き出した。

え、何? 人の顔を見てため息吐くとか失礼じゃね?



「あぁ、ごめんそうじゃなくてね。君はラクラットさんの様子を見に来てくれたんだよね?」



ラクラット? 誰だっけそれ?

聞き覚えのない単語に首を傾げる。



「・・・いや、えーと、エリス・ル・ラクラットさん。君が連れて来たし、君が書類提出したはずだよね。」



あー、そう言えばそんな名前だったね、すっかり忘れてたわ。

今思い出したかのような反応に医者の男性は疲れたように頭を抱えてしまい、今度は本当にため息をついた。



「おいおい、お願いだから頑張ってくれよ? 君しか頼れないんだから。」


「頼れない? 何か問題でもあったんですか?」


「・・・はぁ〜〜〜〜。」



俺がそう聞くと男性はさらに沈んだように凹み出してしまった。

なに、そんなに深刻なの? 話も聞かずにいきなり斬りかかられたとか?(経験談)



「・・・何も話してくれないんだよ。」


「ほん、おっさんに緊張してるんじゃない?」


「おっさんじゃない、まだ32だ。」



ギリだね。


おっさんは頭の後ろを掻きながら悔しそうにため息を吐いている。



・・・おっさんの問題じゃない気がするけどな、向こうはまだ心の整理がついてないだけだろう。



「それなりにいろんな患者さんを見て来てたけど、やっぱり初対面じゃあ心を開けるわけないか、柊さんなら上手くできたかも知れないけど僕には荷が重かったかな。」



そんな愚痴を聞いて俺は呆れた半目になっておっさんを見た。


いやいや、まだ起きて数時間程度でしょ。この短い間で相手の心を開かせるのはもはや異能だから。いくら柊さんでも無理じゃない?



・・・ワンチャン出来そうな感じがするのが怖いけど。



「しゃーないでしょ、むしろ基準が馬鹿げてる。こう言うのは時間で解決するものだからね。いいじゃん、普通に頑張れば、誰が急かしてるの?」



俺がそう言うと彼は瞬きした。

そしてその後軽く頭を振った後軽快に笑った。



「・・・はは、それはそうだね。確かに背伸びしても仕方ないな、俺は俺らしく頑張るとするか。」



そーそー、頑張っても仕事が増えるだけだから、背の丈にあった仕事をすれば充分なんだよ、じゃないと潰れるだけだから。



「じゃ、名木田くん、あとは任せたよ。」



そう言って彼は俺の肩をポンと叩いて去ってゆく。



・・・え? それだけ? 


ただおっさんの愚痴聞かされただけなんだけど。


てか、買ったお菓子何個かあげとけばよかったな。

今更邪魔になるとか思わなかったわ。


仕方ないのでお菓子を持ち直し、また歩き出す。

しばらくすると角部屋が見えて来た。



・・・ようやく辿り着いたな、なんかすごい遠く感じた。

もう起きてるらしいし早く話を聞いて帰りたい・・・。



ここか、よしノック・・・しなくていいや。



ーーガラッ



めんどくなったのでしないで開けた。



・・・ズゥ〜〜〜ン



部屋に入った瞬間淀んだ空気に迎えられる。

奥のベットを見ると壁際に体育座りで死んだような目をしているエリスがいた。



「うっす、元気?」


「・・・。」



・・・、ガン無視(笑)



部屋に入って来た俺に目もくれず、ずっと一点を見つめている。

俺は無遠慮に近づき、横にあった椅子に座った。



「・・・。」


「・・・。」



俺は俺で相手の顔をジーッと見つめる、根比べでもするか。



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」


「・・・な、なんだ?」



顔を見続けていたら少し顔を赤くしながら彼女はようやくこちらに視線を向けた。



・・・ッフ、俺の勝ちだな。



勝ち誇った顔をしていたら相手は少し引き気味に後ずさる。ははは、いやだなーこんな密室に逃げ場なんてないのに。(ゲス顔)



「さて、気分はどう?」


「・・・よく見えるか?」


「んにゃ、全く?」



見えるわけないよね、目の下にクマできてるし、目が死んでるしね。俺は常にだけど。



ーーガサガサガサ



持って来たコンビニ袋を漁ってプリンとお茶を取り出す。

パキッっとプラスチックの蓋を開けて一口、口に含んだ。



甘ーい。



「・・・なぜ急に食べ出した?」


「昼、食ってないからな、お腹すいたし。」


「・・・ぐ〜〜。」



すると、何処からかお腹のなる音がした。まぁ、俺じゃないので原因は一つしかない。



「「・・・。」」



・・・ニヤッと俺はほくそ笑む。



「おいおいおい、なんだ? 飯よこせってか? 騎士団長様は厚かましいですねー。」



俺がそうやって煽ると彼女は途端に顔を赤くし否定する。



「・・・ぐ、そんなものいるわけないだろ!! 私は騎士だ、野営で何日も食べない事だって・・・。」



ぐ〜〜



そう宣言した後にもう一度お腹から音がした。



「・・・なぜだ!?」



知らないわ、人間だったらお腹が空くこともあるだろ。


・・・まぁ、塞ぎ込んでたから空腹に意識が向かなかっただけだろうね。俺にペースを乱されたから今まで感じてなかった空腹を感じてるのだろう。それに考える事だって体力を使うから。



「仕方ねぇな。」



俺は袋から最後までチョコたっぷりな棒状のお菓子を取り出してエリスに投げ渡す。

彼女は落とす事なく普通にキャッチした。



「食っていいよ、後で金は返してもらうけどね。」



後で利子をつけて返してもらうけどね。自分の彼女でもない奴に奢るような器は持ち合わせていないんでね。



「・・・。」



すると、彼女は受け取ったお菓子をクルクル回しだした、何してんの?



「これはどうやって食べるのだ?」



・・・マジですか。



まぁ確かに異世界にこんな箱があるとは思えないけどさー。



「えーっと、箱の裏に切り口って書いてあるところがあるんだけどそこを引っ張ると剥がせるから・・・。」



まさか今の現代でこんな説明をすることになるとは思わなかったよ。

これがギャップってやつか?

だが、彼女は開けないで切り口と書いてある部分に視線を集中させていた。



「・・・見たことない字だな。なぜか意味は分かるが。」



ん?


よくわからない疑問を浮かべられ、今度は俺が困惑を浮かべることとなった。



「え、どゆこと?」


「いや、どうもこうもないが、こんな文字は見たことがない。だが見ていると意味がなぜか分かるのだ。・・・すごく妙な気分だ。」



へー、そんなことがあるんだ。



てかそうだよな、そもそも言葉が通じるのだっておかしい。

てことはまさか、自動的に翻訳されてるのか?

原理は全くわからないけど。


すると彼女は外を見下ろし物憂げな顔を浮かべる。



「・・・この景色も、これほど柔らかいベットも何もかもが私にはわからん。・・・私は本当に異世界に来てしまったのか。」


「・・・。」



せっかくお菓子で空気を誤魔化せたと思ったが、やっぱりそう簡単にはいかないか。

俺はお菓子を開けといてやりながらコーラを取り出しとく、後で飲みたいからね。



「「・・・。」」



空気おっも。



「・・・私はどうすればいいのだろうか。」


「さあね。」



コーラを飲みながら適当に相槌を打つ、え、お茶? こんな重い話には合わないからしまったわ。



「・・・。」



再び沈んでしまった彼女の横顔を見て俺は思わずため息を吐いてしまった。彼女はそれに反応して少し機嫌を悪くしたようだ。



「・・・なんだ?」



軽く睨まれているので弁解でもしますか。



「そうだな、俺の持論でも話すか。・・・お前は今何に悩んでるの?」



そう言われると彼女はポツポツと語り出す。



「向こうの・・・国についてだ。」



ほんほん、まぁ予想通りだな。



「昨日も話したが私は騎士団長だ、国のため、その命を矛として、盾として捧げたもの達の長だったのだ。」


「・・・そうだろうな。」



時代的には小説とか読んだ限り中世ぐらいな場合が多い、聞いた感じだとこいつがいたところも同じくらいの時代背景だと思って良さそうだな。


俺は続けるよう促す。



「もちろん私も命を捧げた、この命は王国のためにある。それなのに私は騎士団から突如として消えた。・・・王国は魔王軍に押され劣勢だったのにだ、私は騎士の中で一番実力があったのだ、そんな私が急に抜けてしまえば後の顛末なんて予想がついてしまう。」



彼女はそう言ってさらに丸くなる。


・・・魔王軍。


さらに知らない単語が出て来たな、やっぱファンタジーじゃ定番なのかなー。

てか、こいつ自分が一番強かったとか言ってるよー(笑)



・・・なんてな、戦場では自分の実力や他のものたちの実力を把握し、適切に配置をする必要がある、だから王国内での実力が一番と言うのは事実なんだろう。



「王国は私にとっての全てだったんだ、・・・な、なのに何故ここに私は来てしまったのだ?・・・もし魔王軍に滅ぼされるなら私も滅ぶべきなのだ、・・・私は、私を慕ってくれていた者たちに顔向けができない。」



完全に顔を伏せて啜り泣くような声に変わっていく。



・・・正直彼女の気持ちなんて全くわからない。

俺は国を背負ったこともなければ導いたことすらないからだ。


でもよくわからないな。



「それで? 君は何がしたいの?」


「・・・話を聞いていなかったのか? もう私には何もない、何も・・・。」


「へぇ、じゃあ何? このままここでダラダラしてるの?」


「・・・何?」



俺がそう言うと彼女は顔を上げた。

その顔には敵意すら混じったほどの怒気が感じられる。



「だってそうだろ? 正直元の世界になんか帰れない、そんで君は君が抜けてしまったせいで滅んだ可能性もある王国に引きずられて止まり続けるんだろ? てか、そんなの死んでることと同じじゃね?」



俺は椅子を鳴らしながらコーラを飲んで喉を潤す。

彼女は一回静かになりこちらの続きを待っている。



「てかさー、たとえ君がいたとしても君がいなくなった程度で滅ぶような国なんてそのうち滅びてたでしょ。なら遅いか早いかだよ。それなら・・・」



ーーシュガンッ!!



またどうやって取り出したのかわからない謎の剣が彼女の手元に現れ俺の横スレスレを通過した。



・・・少し煽りすぎたかな。



「・・・ふざけるな、王国を馬鹿にするな! あの国は強い国だ決して滅んだりなんてしない!」



その目には明らかな敵意、いや、もはや殺気とも取れる非常に強い圧が放たれていた。


でも今の発言には矛盾が生じている。



「・・・なら、なんでお前は国が滅んだって思い込んでんだ?」



俺の一言に彼女の動きが完全に止まった。



「そうだな、一つ教えてやる。仮にスゲェー優秀な奴が突然いなくなったりしても社会ってのは案外なんとかなるもんなんだよ。」



俺は冷静に訥々と語り出した。

彼女はそんな俺の話を黙って聞いている。



「優秀な奴がいなくなったって国は潰れない、代わりに他の奴らが頑張るだけだ。別にそれはそれで結局回り続けるんだよ。」



別に職場にものすごく優秀でできる奴がいなくなったとしてもそいつが頑張ってた仕事は他のやつらが分担してこなされていき、結局普通に日常に戻っていくんだよなー。悲しいことにね。



「まぁ、何が言いたいかって言うとお前の国も案外無事な可能性もあると思うぞ?」


「・・・どうしてそんなことがわかる?」


「わかっちゃいねぇわ、ただそう言う可能性もあるって話。どうせ手の内ようなんかないんだ、だったら案外上手くいってるかもって考えたほうが有意義だろ。」



・・・こいつにはこう言ってるけど実際厳しいだろうな、こいつの実力はそこがしれない。



今の無理な態勢からでも軽く剣を振って壁に傷をつけた、おそらく本当に一騎当千の実力があるのだろう。そんな人物が抜けたら戦力も戦意もダダ下がりだ。

だけど戦場ではいつだって予想外が起こる、その可能性にかけてみるしかこいつにはできない、だったら上手くいってると信じたほうが心の持ちようくらいは変わるだろう。



「・・・そうだな、国には優秀な部下達がいる。彼らを信じられなければ団長失格か。」



結構無理言ったけど一応気持ちを切り替えさせるのは成功したかな?


てか、なんで俺がこんなに頭を回してるのだろう、大して良くないのに。



帰りてぇーー。



「ふふ、なら私は本当にいらない存在だな。」



そしたら今度は別の方向で僻み出してしまう。


また空気が重くなった、めんどくせー。

まぁ、こう言うことを言える奴が居ないからな。少しでも事情を知ってる俺に吐き出したいのか。



「・・・やけになるなよ。別にまだ居場所とやる事が定ってないだけだろうが。」


「それはそうだが、定まるわけないだろう。私はこの世界についての知識がない、それで何を見つけられる?」



何言ってるんだろうこいつ。

俺は肘をつきながらため息を吐く、これで何度目だ?



「馬鹿か、目の前に利用できそうな奴がいるんだから利用すりゃいいだろうが。」



半目でお菓子を食べながらそう教えてやる。

すると彼女は驚いたように目を見開き、瞬きを繰り返していた。

何を驚いてんの? 自分にとって役に立ちそうな奴を利用するのは当然だろうが。



「・・・助けてくれるのか?」


「いやだね、・・・助かるのは自分でどうにかしろ、手伝いくらいならしてやってもいい。」


「何が違うんだ?」


「俺の気分。」



彼女は首を傾げながらも渋々納得したようだ。

だが、今度は別の問題に思い至り頭を悩ませだした。



「だが、何をすればいいんだ。」



知らんがな。そういうのは自分で見つけるものだよ。



「取り敢えず帰る手段でも探してみれば?」



俺が軽くそう言うと彼女は勢いよくこちらに乗り出し、肩を掴んできた。ってちけぇよ!



あっ!コーラ溢れたぁ!!



「か、帰れるのか!?」



彼女は必死の様子で俺の肩を揺さぶってくる。

揺らすなぁ!! お菓子落とすだろうが!?



「探せって言ってんの!! だから揺らすな! 今は手掛かりもなければ情報もない。でも、呼ばれたなら帰る手段だって存在する可能性があるだろ!? この世界にも異能なんて摩訶不思議な力があるんだ。何かしらはあると思うよ!?」



そこまで言ったらようやく手を離して解放してくれた。

床にはお菓子とコーラがこぼれた悲惨な光景が広がる。



・・・いや、この溢れたコーラとかどうするの? 怒られるのは俺なんだけど、柊さんに怒られるのは流石の俺も応えるんですけど。



取り敢えず置いてあったタオルで床を拭いておくか。

その間に彼女の横顔をチラッと見ると先ほどまでの陰鬱な感じはなりをひそめ今はぶつぶつと何かを呟いている。



「・・・うん、そうだな、何事も確定しまってるわけではない。前向きに考えるとしよう。・・・なぁ、えーと・・・。」


「綾人ね、名木田 綾人。・・・綾人でいいよ。」


「す、すまない、名前を覚えるのは得意な筈なんだがな、私もエリスでいい。」



昨日は色々あったからね。自己紹介の内容とかすっ飛んだでしょ。

開けておいたお菓子を手渡し俺は改めて椅子に座り直す。もういいや、怒られるの覚悟で掃除は任せよう。



「では綾人、しばらくの間手伝ってもらってもいいか?」


「・・・拾って来たのは俺だからね。少しぐらいは協力するよ、エリス。」



俺がめんどくさそうに了承すると、彼女はようやく笑みを浮かべるのだった。





ーーーーー





「それじゃあまず、・・・。」



じゃあ改めて聞きたいことを聞こうと姿勢を正していたところ、、、



ーースパーンッ!



「一区切りついたようですね。」



病院内に関わらず勢いよく開け放たれた扉から紫髪の美女が入って来た。

俺はその声と姿を見て顔を青白くしながらそーっと壁際へと逃げる。

エリスは突然の訪問者に困惑げな表情を浮かべているが特に剣を持ち出していたりはしない。



何やってんだ! とっとと斬りかかれ!!



「・・・誰だ?」



少し敵意を込めて睨まれているが突如として侵入して来た帆哭さんは全く気にせずに俺が座ってた椅子の横まできた。

そして、とても丁寧にお辞儀をする。



「お初にお目にかかります、エリス・ル・ラクラットさん。私は超常現象対策局極東支部 異能犯罪対策班 副班長をしております、帆哭 朱紀と申します、以後お見知り置きを。・・・端的に言えばそこの壁に張り付いている愚図の上司ですね。」



流れるような自己紹介の後にさらりと罵倒された、傷つくわー。



「そ、そうか。それで副班長殿はどうしてここに?」



エリスは動揺しているようだが、チラッと俺を見た後帆哭さんに質問を返す。



「いえ、お話を聞いていた限り、ラクラットさんは異世界に帰る情報を求めている、と言う認識でよろしいでしょうか?」



そう聞いてエリスは再び首を傾げた。


そりゃそうだろう、だって帆哭さんは今部屋に入って来たばかり、それなのにこちらの事情を知ってるなんておかしすぎるからな。



「・・・まさかと思いますけど帆哭さん。」


「何のことでしょう?」



彼女はそう言いながら俺にそっと近づく、そのままそっと俺の頬に手を添えた。近くに来た帆哭さんのいい香りが鼻腔をくすぐる。

綺麗な顔が間近に見えてドキドキするな(恐怖で!!)


帆哭さんはそのまま襟に手を滑らせて何かをつまみ取った。



「・・・それなんです?」


「盗聴器って言いますね、遠くの場所から盗み聞きしたりするときに便利です。」



・・・んなこと聞いてねぇわボケェ!何でそんなもん人につけてんだって聞いてんだわ!



「・・・趣味が悪いな。」



流石に盗み聞きされてたとあっては不快に感じるだろう。

エリスからも少し不満な様子が見て取れる、俺もすげえ不満。



「申し訳ございません、名木田くんの証言を裏付けるためには第三者の居ないラクラットさんの話を聞きたかったのです。・・・聞いていた限り、お二方が嘘をついているようには感じませんでした。・・・こちらの都合でご不快な思いをさせてしまったことを深くお詫びいたします。」



そう言って深く頭を下げた帆哭さんにエリスは瞬きしている。

惚れ惚れするほど綺麗なお辞儀ですね。

そうやれば相手の不満を取り除けるってわかってますよね、腹黒いわー。



「あ、あぁ、いや、そこまで怒ってなどいない。むしろこちらを気遣ってくれていたのか、すまなかった。」



だめだ! 呑まれるな!

これがこいつのやり方だ!

反論してやりたいが、帆哭さんから凄まじい圧で睨まれてしまったため身がすくんでしまう。



「とんでもございません、寛大なお心遣いに感謝いたします。」



・・・ま、負けた。


さーて、今日の折檻はどのくらいかなー。


俺は半ば遠い目で窓の外へと視線を送った、てかそれしかできない。

そんな俺の様子を見て帆哭さんはクスリと笑う(冷笑)



「安心して下さい、あなたが途中でゲームショップに行って沙耶香を買収した事も、私の事を空腹の獣と同列に扱ったことも、あとでまとめて反省して貰いますから・・・ね?」



・・・(泣)



まぁ、ずっと盗聴器が付いていたのだからそりゃそうだろう。

この人の笑顔って何でこんなにゾクゾクするんだろうね?



「それで話とは何だ?」



俺と帆哭さんがイチャイチャ?しているのを見かねてエリスが話を戻す。完全に盗聴器の話題で話が逸れたからね。


帆哭さんは改めて話し出した。



「そうですね。・・・ラクラットさん、よろしければ取引いたしませんか?」



エリスは急に提案された取引という単語に訝しんでいるが、対照的に俺は大体予想がついて来た。

どうしてこの人がこのタイミングで入って来たのか。



「取引?」


「はい、もし良ければ私たちが所属する、異能犯罪対策班に入りませんか?」


「・・・は?」



・・・そりゃそういう反応にもなるだろう。だが、確かにこの提案は魅力的だな。それにこの点に関しては俺じゃ解決できない。



「私達が所属する対策局は世界各国の謎の現象、超常を調査し対策するための組織です。なのでそう言った非現実的な事象の情報が多く集まります。ですので帰る手段を探すのであれば対策局に入った方が効率的です。」



ま、その通りだな。


いくらこの世界に異能が溶け込んでいると言っても日常の中から外れた事象には気付きずらい。だから対策局には異日常情報収集班が存在するのだ。

普段の当たり前に過ごしている日常、そこに潜む災厄の前触れ、それを誰よりも早く検知し対策するのが俺たちの仕事だからね。

実際まだ解決が来ていない事象も多い。その中にはエリスの求める魔法とやらの情報が眠っている可能性があるだろう。


エリスは分かっているのかいないのか知らないが、ただただ頷いていた。



「もちろんそれだけではありません。・・・聞いた限りラクラットさんは住居や金銭もありませんよね? 異能犯罪班に入れば勿論給料は支給されますし社宅もありますので寝泊まりもできます。」


「やろう!!」



エリスは給料という単語に飛びつき目を輝かせた。



「待て待て、早まるな今はメリットしか話されてないだろうが、こっちが払う対価と比較してから決めような。」



俺がそういうと帆哭さんは露骨に舌打ちする。っておいこら。

帆哭さん的にはメリットを並べまくってなし崩し的に了承させればOKだからな。



「あ、確かにそうだな。私はなにをすればいいのだ?」



エリスは聞いて当然の疑問を今更聞く、帆哭さんは別に落胆したような様子もなく普通に説明を始めた。

流石に説明を省いたりする気はなかったようだね。



「そうですね、ラクラットさんには私たちの仕事を手伝っていただきます。日常への違和感や犯罪者の動向調査、資料の整理に警備などさまざまな業務をしていただきたいです。」



完全に素人に任せるような仕事じゃないですよね、しかも大分ざっくりした説明だな。



「もちろんこなせた仕事量に応じてボーナスも出ますよ。」



そう言って帆哭さんはサムズアップしている。


・・・うん、案外可愛い。



「・・・ボーナス、褒美ってことか?」


「その認識で正しいです。」



あ、そこの認識がまだだったの?

褒美って言い方やらしいな。



「・・・てか、帆哭さん、入ってもらうって言っても入社試験やライセンスとかあるじゃないっすか。そこら辺はどうするんですか?」



そう指摘すると彼女は首をかしげて頬に指を当て、ニコッと笑う。



「何とかなりますよー。」


「なんか手を回す気だ!?」



そう突っ込んだ瞬間帆哭さんはスッと無表情に戻る。



「失礼ですね、優しくお願いしに行くだけです。・・・優しいは私基準ですが。」


「信用ならねぇ!」



自分基準の優しさほど怖いものはないから。



「だが、私は役に立てるのか? 話を聞いている限りこの世界の日常を深く知ってる必要があるのではないか?」



エリスが鋭い疑問をこちらに述べる。

確かにその通りだな、俺達は事件を解決するのではなく、事件が起こらないように対策をする班だ。

当然日常を把握しておくのは必須の技能となる。



「確かにそちらも重要ですがそこは他の班員がフォローします。そもそも私が期待しているのは戦闘力ですから。」


「・・・? 役に立てる自信はないぞ? 向こうでは騎士団長だったがこの世界ではただの人間だ。戦闘方法も武器もまるっきり違うのではないか?」



そう言ってエリスは自信なさげにしているが、帆哭さんはチラリと壁の傷を見つめた、先程迄の様子は盗聴はしているが見たわけではない。


でもこの壁にできた傷を見れば状況分析はバッチリだろう。



「そのようなことはありませんよ。いつの時代も必要なのは洗練した技術です、使い所は適材適所ですので気にしないでください。」



・・・持ってもいないのに急に取り出される剣、目にも止まらぬ早さで振るわれる剣戟、そして魔法、そんなのもう潜入戦闘なんでもござれじゃん。


そんな人材を帆哭さんがほっとくわけないわな。



「それに、貴女は戦場に出ていたのですよね?・・・常に死と隣り合わせの戦場を生き抜いて来た貴女の経験はとても貴重ですよ。」


「そうだな、戦闘経験はそれなりにある。」



今の現代、平和な国や地域も存在するが、戦争や犯罪者達のテロ行為によって荒れている場所も多い、まぁ、極東支部はそこに行くことは滅多に無いけどね。でも決してゼロではない。

であれば命のやり取りを乗り越えて来た彼女の経験は大きな武器になるだろう。



「できればその力を元の世界へと帰るまでの間、お貸しいただけないでしょうか?」



帆哭さんはそう言って話を締め括った。


エリスは顎に手を当てて思案げにしている。

すると、エリスに対する用が終わったからか帆哭さんはこちらに顔を向けて来た。



「では、名木田くんはこれから個人的な話をしましょうか。」


「あ、そう言えば俺この後予定があるんでした。すみません付き合いたいですけど難しそうですね。」


「・・・そうですか、残念です。その予定とやらは貴方の命より重いのですね。でしたら仕方ありません行ってきてください。」


「なんかキャンセルはいったわ!!」



え、何、俺はこれから何されるんだよ!?

帆哭さんの話に俺の命が関わってんの!?超怖いんだけど!!



「では、ラクラットさん。しばらくしたらもう一度答を聞きに来ますので私たちは一度ここで・・・。」



そう言って帆哭さんは一度席を外そうとしたが、エリスは迷いのない視線を俺たちに向け、、、



「いや、大丈夫だ。その話を受けさせて欲しい。」



そう宣言した。


もっと考えろよとも思うが、彼女の瞳には迷いなんて感じられない。

その目線を受けて帆哭さんも頷き、彼女へと応じた。



「ではこれからよろしくお願いしますね、ラクラットさん。」


「あぁ、よろしく頼む。」



そう言って2人は手を取り合うのであった。



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