新友
「お、、、お、終わったーーー!!」
「やっと解放だーー!」
2日ほど事務所で報告書のまとめをさせられた俺とエリスはようやく最終チェックを通り、今度こそ今回の仕事が片付いた。
さすがに事務所に2日も詰めさせられたのはマジで苦痛だった。あのエリスだって机に突っ伏して寝てたくらいだよ。
2人して体を伸ばし、思い思いにリラックスした姿勢になる。そのまま10分くらい放心していると、帆哭さんからメッセージが届いた。
『ご苦労さまです。もうやることはないので伝えた通り2日間休んでください。きちんと仕事が入らないように調整しましたので久しぶりのフルですよ、泣いて喜んで噛み締めてくださいね。』
普通の会社なら週休二日は当たり前なんだけどね。
よっぽど忙しいかブラックなら例外だけど、対策局はどちらかと言うと、、、どっちもだね、滅びろ。
夕焼けにくれる外を眺める。
「さすがにもう夕方だし休みは明日からだよな。フルって書いてあったから大丈夫だよね?」
「・・・疑い過ぎだろう。疑い過ぎだよな?」
最後に疑念が湧いてきた時点でエリスも対策局に馴染んできたね。
まぁ帆哭さんはちゃんとアメとムチを使い分ける人だから大丈夫だと思うよ、ちなみに班長はムチとムチかな(優しさなんてないよ)。
「取り敢えず夕飯の買い出しでも行くか。」
「うむ!今日は何を作ってくれるのだ?」
「そうだなー、豚肉残ってたけど何か丼物食いたいし他人丼とかでいい?」
「さ、冷めてるな、、、。」
「これから絡み合うし熱々だろ。」
そんなどうでもいい会話をしながら部屋を出ようとすると、先に事務所の扉が開かれる。
そこには丸いサングラスに帽子をかぶった不審者が立っていた。帽子から覗くピンクブロンドの髪と見覚えのある可愛い顔立ち、ショーパンとシャツをボーイッシュに着こなしたリリカは俺とエリスをみてニカッと笑った。
「やっほー! ふたりとも久しぶ、、、」
ーーピシャ
俺は取っ手を無理矢理引っ張って扉を閉めた。
折角の休み前に何で面倒そうな人物の相手なんかしなくちゃいけないんだ。
驚いていたエリスを無視して部屋の中へとトンボ返りし、コーヒーサーバーからコーヒーを淹れる。
「・・・30分くらい経てば諦めるか。」
「またんか、まだ用件すら聞いておらんだろう。」
「大丈夫、大事な用でも聞きたくないから。」
「ちょっと! 何で扉閉めるのよ!」
再び開けられた扉から頬を膨らませたリリカが手を腰に当てて文句を言ってくる。
俺は椅子に腰掛けて面倒くさそうにコーヒーを啜った。
「いや何しに来たんだよ。やっと仕事が終わってもう帰りたいんだが?」
「そう邪険にしないでよ、というか何も聞いてない?」
どこか不思議そうに首を傾げているリリカを見て、軽く来ているメッセージや着信を遡ってみたが心当たりはない。
だとすると、エリスかな?と思い視線を送るとエリスはメッセージを遡り「あっ」と声を漏らした。
「副班長から『リリカさんがこの前お誘いを断っちゃったから改めて遊びたいらしいので、休日を与えたことを教えました。別に断っても良いのでお好きにどうぞ。』とメッセージが入っているな。」
「断っても良いって書いてある文面を本人の目の前で読み上げるお前のノンデリ加減に驚くわ。」
普通そういうところは伏せて前文だけを読み上げるよね? まぁ別に俺は構わないけどさ、、、。
チラリとリリカを見てみたが彼女も特に気にしていなさそうだったので神経質になりすぎかと肩を揉んだ。
「直接メッセージしろよ。」
「したんだけどエリスちゃん、返信来ないんだもん。」
リリカに言われてエリスは「へ?」と間抜けな声を漏らして端末を操作すると、徐々に申し訳なさそうに眉を曲げていく。
「・・・電源切っていたのを忘れてた。」
「侵入任務してたしな。」
エリスは今の今まで端末の電源を切っていたようで、見せられた画面にはメッセージが10件ほど溜まっていた。
パソコンと端末に同じアプリ入れとかなかったから仕方ないか。
「すまん、機械に疎くてな。」
「んーん、別に大丈夫だよ。私も久しぶりに休みが取れていい機会だし遊べないかなーって無理に連絡しちゃったから。」
それでわざわざ副班長まで連絡を取ってみたってこと?何その行動力。
まぁでも明らかにテレビで見かける頻度が増えたし忙しいんだろうな。
折角時間を作って来てくれたんだし無下にするわけにわいかない、、、エリス頼んだ。
「それでどう? 遊びに行けたりする?」
「うむ、かまわんぞ。」
・・・いいのかよ、すげえ体力。
俺はもうボロボロだよ、ゆっくりするね。
そう思ってリリカの横を通り過ぎようとすると、ガシッとエリスに袖をつかまれた。
「・・・いやなんでだよ。」
「いや、なんというか私はこちらの常識に疎く、そしてリリカは人気者だ。いざという時に何とかしてくれる人がいるといいなーとな。」
「知らんわ、折角なんだし二人で楽しんでこいよ。」
女の子同士2人で楽しんできてくれ、てか俺邪魔だろ。
あと不安なのはわかるけどその感じだと俺の負担エグくない?
別にそんなに仲良くない男性がついてきても嫌だろうと思ってリリカを見たが、彼女はニコッと笑って頷いた。
「いいじゃん、暇なら一緒に行こうよー。というか来てほしいなー。」
「え、怖、お金取られたりする?」
「なわけないでしょ。・・・私やってみたくても異能で楽しめないことも多くてさ、少しでいいからまた皆が見てる景色を見てみたいなって。」
あーなるほど、虫除け兼、サングラス代わりかな?
可愛く上目遣いでお願いしてくるリリカに俺は露骨に嫌な顔を返した。
「えー、そんなに嫌?」
「嫌というかお前らと一緒だと疲れそう。ただでさえ疲れてるのに。」
「・・・だめか?」
上目遣いをしてくるリリカにエリスも参戦してくる。
あまりに破壊力が高く、家でだらけたい欲求が天秤の上でグラグラと揺れた。
「・・・・・仕方ねえ、今回だけな。」
「やった!」
「さっすが頼りになる!」
「・・・やっすいおべっかだなぁ。」
2人は嬉しそうに仲良くハイタッチする。
俺は仲良さそうな二人にヤレヤレとため息をつきながら軽く笑みを浮かべた。
・・・たまには悪くないか。
ーーー
ただ遊びに行くと言ってももう夕方だし、まずは飯を食って英気を養わないと。
そう思ってアパート近くのスーパーに向かう。
「夕飯って何食べるの? お弁当?」
「いや綾人が作ってくれる。今日は他人丼なるものらしい。」
「へぇー、そうなんだ。なんか意外、めんどくさがってお弁当とか出来合いのもので済ませるタイプだと思ってた。」
・・・3人で。
いやなんでだよ、なんでついてきてんだよ。
確かに遊びに行くことも了承したし、ついていくとも言ったけどそれとこれとは話は別じゃない?
いろいろと問題もあるし、スキャンダルになっても知らないよ?
「・・・まさかこのまま家までついてくる気か?」
「だって暇だし、あ、もちろん夜には帰るよ?」
「わかった、もう夜だし今すぐ帰れ。」
「まだ19時じゃん。」
・・・あれ? 19時って夜じゃないの?陽も沈んでて空も暗いし夜だと思ってんだけど違ったのかな、、、俺の常識。
夜の定義を考えていると、スーパーにつく。
リリカはまだ帽子とかサングラスを被ってるしまだ視線は抑えられてるけど相変わらずエリスに殺到する視線がすごい。
そろそろこいつにも変装させよ、、、フルフェイスの、、、。
取り敢えず豚肉は冷凍してあったのがあるはずなので卵と玉ねぎ、あと舞茸も入れよ。
家に出汁あったよなー。
「つかお前も食うのか?」
「ご賞味預かってみたいなー。」
・・・じゃあ3人分買わないとか。
なんかやっぱ社会って理不尽かも。
まぁたった一人増えたくらいなら大した手間じゃないけどさ、、、。
「あ、もちろんお金は払うよ。むしろお邪魔させてもらうし私が持つね?」
「お、マジで? それはありがたいわ。」
お金はあるけどあって困ることはないしご馳走してくれるなら断る理由もない。
なのでお菓子や飲み物に焼き鳥も買っておいた。
じゃんじゃんカゴに商品を入れたのにリリカは何も文句は言わず、むしろ楽しそうに自分もお菓子とか入れていた。
そして買い物を済ませてアパートへと帰る。
久しぶりの懐かしい我が部屋に、、、。
・・・ホコリ被ってるなぁ。
最近掃除できてなかったし仕方ないよね。
取り敢えずキッチンで買ってきた食材を整理し、下拵えを始めて調理を始める。こういうのは休んでからやるとどんどん遅くなるしやる気もなくなるから流れでやっちゃったほうがいいからね。
エリスとリリカにはその間に机の上を片付けて食器とか温めるだけのものを用意しといてくれる。
だいたいお米を炊く時間を含めて約1時間ぐらいで作り終えて3人分机に並べて全員で手を合わせた。
「「「いただきます。」」」
まずは口をさっぱりさせようとサラダを食べる。ドロっとした体がさっぱりする感覚を味わいながら熱々の他人丼に口つけた。
トロッとした濃い味付けの卵に豚バラの甘みがよくマッチしていてとても美味しい。我ながらよくできたんじゃない?
そっと様子をうかがうように二人を見ると一心不乱に食べていたので味は悪くなかったようだ。そのことに少し安心してお吸い物を飲みながら人心地ついた。
「うむ!変わらずとても美味しかったぞ!」
「すごいおいしかった!こんなにおいしいの久しぶりに食べたかも!」
「はいはい、どうもお粗末様でした。」
さすがにリリカの反応は言い過ぎだと思うけど、褒められて悪い気はしない。
3人で後片付けをしてゆったりとした時間になった。
「お風呂洗ったぞー、先に入るか?」
「あぁー、いいや先入ってくれ。俺はもうちょい休んでから入る。」
ソファに座りながら手だけをヒラヒラ振って先に入るように促す。エリスは「わかった。」と言って脱衣所に入っていく。
暇だし買っておいた電子書籍でも読もうかなと思っているとリリカが伸びをしながら立ち上がった。
「ん~~、じゃ、私もそろそろ帰ろうかな。」
「ん、そうか、帰りはどうすんだ?」
「マネージャーが駅まで迎えに来てくれるよ〜。」
「わかった、そこまで送るよ。」
ジャケットは着なくていいか、最近夜も暑くなってきたしこれから狂ったような暑さになっていくんだろうなぁ。
来月あたりの酷暑を憂鬱に感じていたら驚いたように固まるリリカに気づく。
「ん、どした?」
「え、なんかイメージと違うというか、、、。」
「・・・これで何かあっても後味が悪いだろ。」
てか俺ってそんなにイメージ悪かったの?
まぁ囮にしたし、今日も先に帰ろうとしたしね。
日頃の行いかー、と一人納得しながら端末だけポケットに入れて2人して外に出た。
「・・・本当にいいのに。」
「別に俺の自己満だから気にすんなよ。それに万が一がないとも限らないだろ?」
「・・・・・たぶんないよ。」
リリカはそう言って暗い裏路地を指差すと、先ほどからこちらの様子をうかがっていた人影が姿を隠す。
ストーカー、、、じゃないわな。
「・・・護衛がいるって言ってたか?」
「そ、私のことを昼夜守ってくれる人達。こんな夜中まで申し訳ないよね。」
ケラケラ笑いながらリリカは前を歩くがその目だけはどこか悲しそう。わずかに感じる夜風にあてられ、そういえばこいつ異能のことで悩んでたな〜と思い出す。
「・・・生きづらいか?」
「さすがに慣れたよ。ま、さすがにプライベートまで常に護衛されてるのは居心地悪いけどね。」
ただの一個人でも犯罪者に渡れば大事だからね。
・・・あぁ、だからスキャンダルを気にする必要がないのか。
それほど彼女の異能は上の人達に警戒されている。
「そういえばこの間異能を使えなくしてどうだった?」
彼女が初めて俺の異能で力を使えない状態でライブをしたのはつい先日。あの時はリリカも寝ちゃってたし何の感想も聞いてないんだよね。
すると彼女はパァッと明るい笑顔を向けてくる。
「最っ高だったよ!!普段見えてたものが見えなかったのは不安もあったけど初めて見てる人達みんなの顔がしっかり見えた!」
リリカは興奮したようにその時の思いを語り始める。
その場の光景だけに身を任して歌い、付属情報のないみんなの笑顔を見れたのは彼女からしたら相当な感動だったらしい。
ただ俺からすれば今まで見えたものが見えないというのも強いストレスになるはずだと心配だった。
わかるのとわからないのじゃ未知に対する恐怖が芽生えるはずだ。
そう思って聞いたのだが、本人的には大満足だったらしい。
「余計なお世話じゃなかったならよかったよ。」
「全然!むしろ感動したくらいだよ!」
この普段あまり役に立っているのかいないのかよくわからない異能でも、こう感謝してもらえるのは素直に嬉しいな。
するとリリカは突然立ち止まって手を合わせた。
「そう、そういえばだけど何かお礼出来たりしない? ほら、明日遊び行くのも私の頼みだし何かお礼したいなって。」
・・・え、お礼?
ほんの一瞬だけピンクな考えが頭をよぎったが、すぐに思い直して真面目に考え始める。でも前にエリスに聞かれたときも思ったが別に欲しいものとかないんだよね。
「何もないな、エリスと仲良くしてやってくれ。あいつ友人とかいないし、どちらかと言うと仕事に没頭しちまうタイプだからな。今回みたいに無理にでも連れ出してくれると助かる。」
結局よく考えたが何も思い浮かばなかったので俺じゃなくてエリスの事をお願いした。
あいつはこっちの世界に来てすぐ対策局に入ったし友人も他にいない。同性の友人は気兼ねなく話ができて大切だろう。
「それは勿論だけど、貴方に返せてなくない? てかエリスちゃんとは私から仲良くしたいし。」
「・・・そう言えばお前、エリスのその経歴とか見えた情報どう思ったんだ?」
エリスの話題が出た(出した?)のでついでにこいつが個体識別で見た情報について聞いてみる。
するとリリカは目を細めて気まずそうに視線を横に泳がせた。
「・・・・・笑わない?」
「善処する。」
「えぇ、、、。」
リリカは恥ずかしそうにしながら指を立てた。
「い、異世界転移、、、み、みたいな?」
「頭打った?」
「見えたんだから仕方ないじゃん!」
彼女の言っていることは大正解なんだけどつい意地悪したくなってしまった。
慌てふためく彼女が可愛くて思わず笑みがこぼれる。
「ほら笑う!」
「ははっ、悪い悪い、ま、お前の予想は当たってるな。」
俺がそう言うと今度はリリカのほうが目を見開いて驚いていた。なんとなく見えた情報からそういっただけで本当にそうだとは思わなかったのだろう。
「え、うそ、じゃあ半精霊とか騎士団長とかそういうのも本当なの?」
「あぁ、本人がそう言ってたしな。」
まぁ俺も聞いた時は半信半疑だったしね。
見た目は完全に普通の少女にしか見えないもんな。
「・・・へぇーーー、何があるか分からないものだね。この世界。」
「だな、異能とかよくわかんない力がある時点で今更だけど流石にビビるよな。」
奇想天外な珍事によく巻き込まれる俺でも初めて聞く話だからね。でもたまに常識外な事するけど余りに普通で忘れそうになるんだよな。
「あぁ、だから私に仲良くしてもらいたいって頼むんだ。」
「そういう事、帆哭さんは上司だし他に同性の同僚は居ないからな。まだしばらくここにいるなら挫折や悩みだって沢山出てくる。そういう時に一人でも相談できる人は多いほうがいいだろ?」
そう彼女に笑いかけると何故かプイッと顔をそらされた。え、なんで?普通に傷つく?そんな酷い顔してた?
「・・・ちゃんと考えてあげてるんだね。」
「拾っちまったのは俺だしなぁ。」
そう言って照れくさそうに笑った俺にリリカは小さく笑みを漏らす。
どこか居心地の良い空気に当たりながら歩いていると一番近い駅に着く。そこに以前見たマネージャーさんが車の前で時間を確認しながら立っていた。
その姿を見てリリカは小走りで走り出してこちらを振り返って手を振る。
「送ってくれてありがとねー! また明日もよろしくーー!!」
「はいはい。」
元気よく手を振って走っていくリリカに苦笑しながら俺も2回目の帰路につく。
・・・久しぶりの休日は忙しくなりそうだな。




