中途半端な幕切れ
壊れた瓦礫が降り注ぐ中、我らが班長様が勢いよく降り立つ。
その間も班長は降った瓦礫が石碑に当たらないよう、異能を使ってすべて弾いていた。
あれ?あの人は名奪の石碑の効果知らないはずなんだけど、、、頭おかしい人だからいいか。
「おいおい、上はイルシオンパークのはずだろうが。市民を守るのはやめたのか?」
「私達は対策局だ、避難誘導はお手の物だよ。」
なるほど、つまり完全に事を公にしたのね。無用に被害をまき散らすくらいならその方がよっぽどいいか。
そう笑って腕を組む魔王様はこちらにチラリと冷たい視線を送ってくる。
「隠密の意味は知ってるか?」
「・・・・・はち、みちゅ?」
「甘いのはお前の頭の中だけだ。」
俺の頭はハチミツのように甘いって?割って食われそうですね、あっはっは、、、。
でも別にバレようとしたわけじゃないよ?勝手に巻き込まれただけだしなんなら佐巳月とカリアにしかバレてない。
・・・結構頑張ってない?
トンッ
短く地面を蹴る音がしたと思うとカリアが班長に向かって斧を振るう。
班長はそれを一瞥しただけで斧は触れられてもいないのに受け流されたかのように横に逸れて床にめり込んだ。
「どうしたちゃんと狙え。」
「・・・あんたの異能はもう割れてる。異能は『回転』、自分が触れてるものを際限なく回すことができる異能だ。今も自分の周りの空気を回して私の攻撃を受け流した。」
「あぁ、正解だよ。もう有名すぎて要らない解説だけどな。」
そう、灰原班長の異能は『回転』。
彼女は触れてる空気を媒介して効果範囲を拡大。
つまり彼女は相手の位置さえ認識できれば相手の周りの空気を操り空に巻き上げることも可能なのだ。
ま、流石に直接作用させるには自分の手で触れてないといけないみたいだけどね。
ちなみにこの前空を飛んでたのは自分の異能で周囲の空気を回し推進力を得ていたからだよ。
すると班長は握っていた銃弾を弾き、高速で回転。
それをカリアに向かって射出し肩を狙った。
しかしカリアは自身の反射神経を倍加させ、その高速の弾道に反応してのけ、大斧で滑らせるように弾く。
斧には弾が通った赤い軌跡が刻まれた。
「たった一発弾いて満足するなよ?」
班長は空中に銃弾をばらまくと、そのすべてが回転し始めてカリアへと狙いを定める。
まるで雨のように降り注ぐ銃弾をカリアは大斧を振り回して撃ち落とす。
その間に班長はカリアに近づく。
拳を構えると手の甲に空気が螺旋を描いて集まっていき、それをそのまま相手に向かってぶつける。
まるで台風のような風が辺り一帯にまき散らされるが、カリアはその拳を斧で受け止めていた。
「へぇ、やるね。」
カリアにはいくつもの薄傷が走り、マスクにも線が入っている。それでもカリアは動じず班長に向かって手を伸ばす。
始まりは見切れる速度だったはずなのに途中から捉えることが難しい速度で班長の胸ぐらを掴んだ。
「・・・捕まえた。」
「あぁ捕まった、それで?」
掴んでいたカリアの腕が捻り上げられ、骨を折られながら血を飛び散らせる。カリアはすぐに腕を離し、床を踏みつけた。その衝撃で浮かび上がった破片を掴み取り、ぶん投げる。
すると破片は一気に倍の大きさに膨れ上がる。
飛んでくる破片を班長は手を翳して圧縮。そのままあさっての方向に投げ飛ばした。
・・・いや何この怪獣大決戦。巻き込まれたくないんだけど。
でも実力は拮抗しているわけじゃない、カリアと比べて班長は未だに怪我一つしていない。ただ何故か班長は腕を組んで何かを考えいた。
「・・・おいグズ、あの石碑は壊れたらまずいのか?」
「え、壊れたら全員消えちゃうくらいまずい。」
「先いえ馬鹿。」
班長が指をくるっと回すと石碑の周りを竜巻のように風が覆う。あれなら破片が飛んできても弾かれるか壊れるな、、、てか風強すぎて立ってるのも難しいんだけど?
だがカリアはそんな風をものともせずに飛び上がり、倍加させ遥かに巨大になった大斧を振り下ろす。
もはや周囲を顧みない圧倒的な破壊。
振り下ろされた一撃は施設などの障害を感じさせずにすべてを抉り壊す。
それでも班長には当たらない。
俺は破壊跡の真ん中で無傷で腕を組む化け物に寒気が止まらない(味方なのにね)。
「長引かせてもあれか、、、。」
化け物がそう呟くとカリアの周囲に風の幕ができる。
カリアは抜け出そうと壁に触れたが、それだけで赤い血が舞う。
そして動けなくなったカリアに班長は先ほどよりも範囲は小さめではあるが回転がはるかに速い風をまとわせた拳で殴りかかる。
放たれた風は当たる瞬間に解放され、爆発するかのように辺りに放たれた。
「・・・やるね。」
だが、風が開放される瞬間にカリアは風の障壁に自分から突っ込んで血だらけになりながら後ろへと跳んでいた。
もはや合羽はズタボロでマスクは破れて邪魔なのか払い除けている。
しかしその顔は血だらけで素顔はわからない。
カリアは血に塗れた髪をかき上げながら笑みを浮かべていた(こわぁ)。
「やっぱあんたを殺すのは無理か。」
そう呟くとカリアはボロボロの服から黒い四角い物体を取り出す。
班長はそれを見て目を見開いた。
「幽世渡りノ箱か? どこでそれを、あらかた壊したはずだが、、、。」
「気になるなら6番街にでも行ってみるんだな。」
彼女はそう言いながら目を細めてこちらへと指を3本立てた。
「・・・3ヶ月だ。私達はその日、超常災害を起こす。」
彼女の宣言に俺と班長は何を言っているだと訝しむ。
「正気か? 災害を起こして得なんか一つもないだろ、すべてが滅ぶんだぞ。」
・・・そう、班長の言う通り。超常災害は世界の終わりなんだ。起きてしまえばすべてが滅ぶ可能性がある。得も何も無い、終わりなんだ。
だがカリアはそんな事を知っているとばかりに目を閉じる。
「興味ないんだよ、この世界なんかに。」
その呟かれた一言だけは、彼女の唯一の弱い心情が写し出されていた気がした。
「なにする気だ。」
「深度レベル5の怪物を動かす。」
「・・・馬鹿な、操れる代物じゃない。」
「手段を見つけた。」
カリアの言葉に班長は腕を組み、顎に手を当てて考え込む。そんな事が可能なのか、出来たとしたらどうすれば良いのか、今こいつを殺しておくべきなのかを思案していんるだろうな。実際俺も考えてるし、、、。
「・・・止めてみろ、対策局。」
言いながらカリアは持っていた黒い箱を落とす。
逃げられそうなので止めようと走ろうとしたが、班長が手を前に出して俺にストップをかけた。
「逃すときついっすよ?」
「やめとけ、下手に壊して暴走すればそれこそ災害が起こるぞ。」
そう言われて踏みとどまる。
確かに俺はあの箱がなんなのか知らない。異常具に対して知識もないのに対処を行うのは危なすぎた。
落とされた箱は床に染み込み、黒い円を描く。そこから細い腕が何本も伸びてきてカリアを包みこむ。そしてそのまま暗闇へと彼女を引き込んだ。
「幽世渡りノ箱の生存率は50%だ。運が悪ければ二度と会うことはない。」
班長はそう言って振り返り、そのまま飛び立っていく。あとには俺だけが半壊した施設と綺麗にそびえ立つ石碑とともに残された。
「・・・・・え、後処理って俺?」
ーーー
実際あの後は結構大変だった。
イルシオンパークは実質、長期の営業停止。
国防は防衛大臣が行方不明になったのと、パークの地下に謎の研究施設があったことが大問題となった。
緊急の謝罪会見に事後処理、イルシオンパークの再建などこれからやることは目白押しだろう。
そんでそんな中俺達がしたことは第一に名奪の石碑に対する対処だった。
まずあの後はすぐにエリスがあの部屋に現れた。
「綾人!無事だ、、、なんだこのめちゃくちゃな部屋は!?」
「・・・おぉ、エリス無事だったか。」
疲れた老人のような声を出しながら半壊した施設に驚くエリスに声を掛ける。
エリスはそこまで目立つような大怪我はしておらず、どこか体力も有り余っているように感じた。
そしてどこか満身創痍な俺を見て心配そうな顔になる。
「・・・何があった?」
「まぁいろいろあったけど先ずは、、、。」
・・・・・。
・・・・。
・・・。
エリスと別れた後に何があったかを事細かに説明し、今がどういう状況かも伝えた。
話を聞き終えると、エリスは「なるほど」と呟き一つ頷く。
「と言うか班長も来ていたのか? 何故だ?」
「あぁ、俺が国防に名奪の石碑がありそうって段階で連絡とっておいたんだよ。もし本当に悪用しようとしてるなら俺だけじゃ手に余るからね。」
そう言って黒くそびえ立つ石碑を見上げる。
結局悪用はされ、対処するにも既に手遅れだった。
施していた封印が封印だから気づくことが難しいとはいえここまで何も違和感を感じなかったとはね。
慢心と信頼、反省すべき点はいくつもあった。今回の件は班長に折檻されても仕方な、、、やっぱ嫌だなぁ。
一人遠い目をしていると、エリスが「ふむ」と何事か考えながら今度は自分の方で何があったかを話してくれる。
「・・・へ? 嶺藤がいたの?」
「みね、、、ふじ、、、? 知らんが恐ろしく強い御仁だったぞ。」
特に名乗られてはいないみたいでエリスは嶺藤という名前に心当たりはないようだが、話から聞いた特徴と佐巳月相手に完封してのけた実力からあいつ以外考えられない。
「・・・あとで話でも聞きに行くか。」
国防には出来るだけ会いたくないやつもいるからあまり行きたくはない。だが聞きたいことは山ほどある。
いずれ落ち着いたらお邪魔させてもらおう(文字通りね)。
「いろいろ分からないことも多いが取り敢えずは理解した。」
彼女は腕を組んで一つ頷く。
そして気になることがあるのかこちらを見てきた。
「それで私達は何故グリーンパイソンから時間稼ぎを受けたのだ? そもそもあやつらはここに何をしに来たんだ。」
「え、あ、うん? そういえば何でだろうね。」
言われてみるとあいつらって結局何をしにここまで来たんだ?
わざわざ蕪城を置いて時間稼ぎもしたくせに胡志田を殺せてもいなければ名奪の石碑に手を出したわけでもない。
あいつらの目的ってなんだったんだろうね。
「・・・はぁ、やることが目白押しになっちまった。」
「うむ、流石に休みたいな。」
エリスも頭が痛そうに押さえている。
後で報告書をまとめさせられて、何から始めてどう調査をしていこうか話し合いが始まるだろう。だからこそ今は何も考えないで休みたいよね。
「では2日ほど休暇を与えますのでゆっくり休んでください。」
二人でそんな愚痴を漏らしていたら突然背後から声をかけられる。同時に飛び退りながら武器に手をかけると無表情で両手を挙げた帆哭さんが立っていた。
「きゃー、助けてー。」
「驚くほどの棒読み、、、。てか、え、今休みって言いました?」
帆哭さんは一切感情を感じさせない無表情で淡々と助けを求めたあと腕を組んだ。
「はい、2人ともよく頑張りましたからね。」
「結果から見れば何も得られておらんぞ?」
「災害の事前情報はとても貴重で得難いものです。分かれば対策を立てられます、これほど価値のあるものはありませんよ。」
災害ってのは突然降って湧いてくるものだからね。
少しの情報があるのとないのでは対応できる幅が大きく変わる。
てかそんなのどうでもいいから休みくれるって本当?
必死に期待を込めた視線を送っていると帆哭さんはチラリとこちらを一瞥した。
「・・・はいはい、わかりましたよ。あとは私に任せてください。すでに処理班は呼んでありますので。」
俺の帰りたいって心情が伝わったのか、帆哭さんは白い手袋をつけて石碑に歩いていく。俺はその背後でガッツポーズをし、エリスには白い目で見られた。
「・・・なぁ、綾人。その嶺藤だったか?が言っていたがお前ならあの石碑を完全に壊せるのではないか? なぜあんな危険なものを残している?」
言われて思わず口に当てていた手を離してエリスを見つめた。
「・・・まぁな、壊せる。」
「なら何故だ。」
「あー、いろいろめんどくさくてな。ある怪物の対策なんだよ。その怪物は不死で不老なんだけど名という縛り付けるものがなくなっちまうと誰も干渉できなくなっちまうんだ。でも人はその名を覚え続けるのが難しい。俺は覚えてられるが寿命がなくて運良く名前を刻んでくれたこの石碑を壊すのも損失があるんだよ。」
「だがこの石碑も危険ではないか?」
「危険だけどまだ管理できるからね。」
そう、対策局の基準だと危険性を理解できてうまく保管できるものはまだ安全と言える。一番危険なのは制御できない怪物や異常具だ、それは可能なら即刻破壊が求められている。
「要はその縛り付けてる怪物が名奪の石碑より脅威だってことだよ。」
「・・・つくづく思うがこの世界は危うすぎる気がする。」
ほんとにね、俺も心の底からそう思うよ。
一見平和な世界に見えても常に裏側に終わりの気配が漂う。いつ世紀末になるか分かったもんじゃないなぁ。
「ちなみにこの石碑はどうするのだ?」
「塩水につける。」
「・・・簡単だな。」
一定の水圧と水温を保たないといけないのが面倒くさいけどね。でもそうしておけば名前に線が引かれたりはしない。
・・・なんで知ってるかって? 記録係をさせられたのは俺だからな!
昔を思い出して吐きそうになっていると帆哭さんが石碑にそっと手を添える。その瞬間、そびえ立っていた石碑と帆哭さんは姿を消した。
「転移とは便利だなー。」
「ねー。」
これから待ち受ける報告書地獄に憂鬱になりながら、俺とエリスはこの仕事に一先ずの区切りをつけたのだった。




