黒龍
・・・てかグリーンパイソンには正体バレてもいいんだし下手な戦闘を避けるなら国防の装備奪ったほうがいいんじゃね?
ふとそんな事を思った俺は片っ端から部屋を物色。
綺麗そうに保管された装備を発見したのですぐさま拝借し、速攻で着替えた。
「ん? おー、このSMGワールド社製じゃん。珍しいな、国防は柴重工から特注で作ってもらってる事がほとんどなのに。」
多分非正規の装備か押収品だね。
でも俺的には無骨な柴重工よりワールド社のほうが好みだしこっちを持って、、、。
「・・・いや、紛れるのに我を出しちゃだめだろ。しゃーない、こっちにするか。」
思い直した俺は強化アクリルをぶち割り、中に保管されていたアサルトを取り出す。
動きづらさに顔をしかめながら俺はこの部屋を後にした。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「おい! 向こう側に走っていったぞ!」
「てか何でさっき異能使えなかったんだ? 急に暗視が切れて前が見えなくなったし。」
「知らね、体調でも悪かったんじゃね?」
着替え終わって注意深く暗い通路を歩いていると、屯していたグリーンパイソン共に絡まれました。
既にグリーンパイソンに制圧されている区画なので当然国防の装備を着た俺は狙われますよそりゃ、えぇ。
・・・あれ? まだ着替えるの早かったかもな。
ほんの僅かに後悔しながら、頭を掴んでいた一人を絞め落とす。
見張りと言うよりは適当にフラフラしている連中を観察しながらどうしようか考える。
「・・・てかいくらグリーンパイソンが武闘派な組織だとしても幹部以下はただの寄せ集めなはず。国防は訓練を積んだ防衛部隊だ。こんな簡単に奥まで攻め込まれるわけなくね?」
相手が佐巳月や蕪城ならまだしも木っ端の構成員に訓練された兵士が負けるとは到底思えなかった。
まぁ、敵がよほど脅威的な異能を持っていないとは限らないが、何処か違和感がある。
・・・まるで奥に誘い込まれてるかのような、、、。
ガシャァンッ!
そんな不自然さを感じていると、電気が落とされ開かなくなった自動扉が壊される。「なんだ!?」と動揺するグリーンパイソン達の視線の先に黒い外骨格に覆われた装甲を着た国防の兵士が現れた。
俺も初見の兵装に目を細めて様子を伺う。
『チッ、たったの5人かよ。こんなんで性能をためせんのか?』
無機質なスーツから不満げな音声が流れた。
喋り方から男かな?と思っているとその人物は構えをとる。
構え方は陸上防衛戦闘術。
国に属する兵士特有の構えで対象の無力化と防御に秀でている。
本来なら待ちの構えではあるが、男のスーツから白い蒸気が噴き出すと同時に瞬間移動したかのように接敵。
振り抜かれた拳は一人のグリーンパイソンの頭を無慈悲に撃ち抜く。
突然横の仲間が殺され、隣に立っていたグリーンパイソンの男は動揺しながら手を獣のように変質させて反撃するが、片手で受け止められて胸を貫かれる。
周りにいた他の連中もこのままではまずいと同時に動き出す。
『3番解放、血煙。』
そんな音声がスーツから流れると同時に赤い煙が辺りを包む。
すると周りを囲んでいたグリーンパイソン達はふらつきながら倒れていく。
・・・異能? スーツから直接発動できるようになってるのかな?
俺は少し楽観的に考える。
男がつぶやいた『3番』という意味を考えずに。
さて、決着もついたしこの場を離れようと音を立てずに腰を上げると、国防の男から声をかけられた。
『待て、何逃げようとしてんだ?』
「・・・。」
そのセリフに俺は無言で振り向く。
気配は消していたし居場所がバレたのは装備の性能かな。異能だったら見つかるわけないし熱源探知でも付いてんだろ。
俺は観念したように相手の前に姿を現す。
『・・・ん?黒地部隊か? いやそんなわけないか、この区画の人員は全て退避させたはずだしな。』
・・・え? 退避させた?
そういや性能を試すとか言ってたしまさか初の実戦投入?
それなら攻め込んできたグリーンパイソン連中を放置してたこともギリ納得できる。
『ーーは! 脳筋どもの中に悪知恵の働くやつが紛れ込んでいやがったか。』
男はこちらの言葉を聞くことなく拳を構えた。
・・・へ? 待って待って、まだ逃げ遅れた仲間の可能性もあるじゃん。攻撃するのはまだ早いと思うけど、、、あっぶねぇ!?
混乱していると相手は再び蒸気を噴き出して近づき、砲撃を彷彿とさせる威力とスピードで拳を振り抜いてくる。
右手を当てて何とか攻撃をそらしたが、その際に装備と肉をえぐられ血が滲む。
「ってぇな!?」
嫌な痛みに脂汗をかきながらホルスターから銃を引き抜く。え、アサルト?あそこに置いてあるよw
男はさらに腕を引いてもう一撃拳を放ってくる。それに合わせて腕を絡め取って投げ飛ばした。
ーーおっもぉ!? うまく相手の体重を利用できたから楽にすんだけどこんなんじゃバットで殴ってもびくともしねぇぞ!?
相手は土埃の中平然と立ち上がる。
『・・・へぇ、ただの身体能力で反応してくるとは思わなかったよ!』
再び突っ込んできた相手の拳を躱しながら懐へと入り込んで顎を狙い、引き金を引く。バキンッ!と金属音を響かせ銃弾はあらぬ方向に弾かれる。
・・・なんか銃が全く役に立たないんだけど? おかしいなぁ、殺傷能力高いはずなのになぁ。
仕方ないので腕を腰で溜めて少し本気の突きを放つ。
銃が当たった時よりも遥かに鈍い音を立てて相手をよろめかせた。
ーーブシュッ
「ーーっ、わかっちゃいたけどいてぇな!?」
拳の皮がめくれて血が垂れる。
まぁ骨が折れてないだけ上々だけど、めちゃくちゃ痛いよ?
『テメェ、身体強化の異能者か? めんどくせぇ、3番解放、血煙!』
先ほど囲まれた時に全員を無力化した赤い煙が撒き散らされる。思わず袖で口を隠そうとしたがそういえばフルフェイスでした。
視界は悪いけど異能はどうせ効かないし気にせずに突っ込んで相手の腕を掴みながら引き金を引き続ける。
ーーバキィ、バキィ、バギィンッ!!
関節部には太いコードが張り巡らされて外骨格と変わらず銃弾は弾かれた。
衝撃は伝わっただろうしノーダメージじゃないだろうけどここまで打つ手がないのは困るな。
・・・あぁ、負けたら絶対班長にドヤされるぅ。
男が腕を持ち上げてグンッと勢いよくぶん投げられた。壁にぶつかるが何とか受け身を取って背中のダメージを最小限に抑える。
俺は倒れることなく壁を背にして相手を睨みつけた(フルフェイスだから分からないだろうけどね。)。
『くそっ!何で異能が効かねぇ? フルフェイスだから吸い込めねぇのか? 使えねぇ!』
男は苛立ったように吐き捨てて壁に拳を叩きつけた。
それだけで壁は砕け、中の配線がむき出しになる。
『まぁいい、次だ。1番解放、『熱帯び』。』
「・・・ん?」
男は配線を引き抜くとムチのようにしならせる。
配線は真っ赤に染まり、ジューッ!と音を立てて床を焦がす。
「・・・別の異能? 待てよ、3番、1番、、、?」
ここに来てようやく相手の言葉の意味が理解できた。それと同時に怒りが湧き、思わず歯を食いしばる。
「・・・この外道どもが。遂に手段を選ばなくなったか、、、!」
異能が一人に複数宿ることはない。
ならなぜ異能を複数使えるのか、、、。
簡単な話だ、異能が宿った他者の肉体を装備の機能として組み込みやがった。
良識があれば踏みとどまれたはずだが国防は既にラインを飛び越えてしまったらしい。
『はっ、勝てばいいんだよ! 綺麗事じゃあ国は守れねぇからなあ!』
人外の膂力で目にも留まらないスピードで高熱のムチが振り抜かれる。
なんとか既で躱すがそれでも通った後に強い熱を感じた。
相手は器用にムチを操りこの狭い通路で的確にこちらを狙ってくる。
対して俺は冷静に一つ息を吐き、銃を構えて引き金を引いた。
銃弾はムチを操る男の手に着弾。
ムチとはとても繊細で少しでもタイミングをミスれば繰り手が大怪我する可能性が高い。
案の定タイミングをずらされたムチは制御を失い、男の体を捉える。
『あぁ!?』
ーーバジュウウウウウウ!
高熱が男の装甲を焼き表面を溶かしていく。相当な熱があったのか耐熱性が高そうな表面を赤く染め上げた。
俺はその隙に男に接敵。
首に掌底を放ち距離を取る。
『ーーっぷあ! はっ、その程度いくら食らっても問題ねぇぞ!』
「お前雑だな?」
首に付けられた手榴弾に発砲。
男は無理やり弾かれた衝撃で脳が大きく揺さぶられ意識を失う。
手榴弾でも表面に傷がつく程度だが中の人の身が耐えられるわけない。
・・・さすがに殺すわけにはいかないし、何度も撃って強度を確かめといてよかった。
でも手榴弾であの程度のダメージとか硬すぎだろ。どんな素材使ってんだ?
呆れたようにため息をつきながら相手が動かなくなったことを確認する。
「・・・最悪だな。結局国防は真っ黒だったわけか。まぁ対策局からしてみれば人体実験は検挙対象じゃねぇが、胸糞は悪い」
仮に人体実験の内容があまりにも凶悪で暴走する可能性が高ければ動くことはできるが、これはまだ対人兵器の枠からでない。対策局が動くことはないだろう。
「・・・ま、対策局が動かなくてもウチの班長様が動きそうだし取り敢えず今は奥に向かうとしますか。」
相手が感情に左右されるタイプで助かったよ。
激情型で単調な動きは読みやすくて楽だった。それに装備の性能に慣れてなかったことも楽に勝てた要因の一つだね。
俺は傷の具合をたしかめながら、男が壊した扉をくぐるのだった。
ーーー
「・・・あれ?あれあれあれ? まさか僕が死力をかけて作り上げた『黒龍』が破られた? おかしいなー、確かに雑魚がどのくらい強くなるのか知りたかったから送ったのは二等兵だけどこんなにアッサリ負けちゃうの?」
白い制服に多くのバッジを付けた切れ長の青年は楽しそうに笑いながら口元を隠す。
整えられた金髪は真っ赤に染まる片目を隠し、その鷹のような鋭さを抑えていた。
「血煙は少しの隙間があれば入り込むはず。発動はしてたみたいだし効かなかったのは彼の特性かな? 異能で打ち消したか、はたまた異能が効かないのか、、、。」
青年はそこまで呟いた所でとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ふふっ、背丈と戦闘スタイルが名木田君そっくりだ。もしかして本人かな? だとしたらうれしいなぁ、僕の大好きな彼に僕の作品をぶつけられるなんて。」
彼の前には4つのモニターがあり、1つには彼の作品である黒龍を纏った兵士達のバイタルと位置が表示され、写し出している非常用監視カメラと場所を照らし合わせる。
「突破されたのは3人、佐巳月、カリア、謎の国防隊員(たぶん名木田君)か。まぁ一人は例外だし佐巳月はゴリ押ししてこないから崩しづらいんだよなぁ。・・・仕方ない、取り敢えず後数人は誘い込むかな、そしたらまとめて掃除しよう。そうすれば先生も文句は言ってこないでしょ。」
そう決めた青年は開け放たれてしまった扉をそのままに他の入り口を黒龍で固める。
ここから先はセキュリティも警備も一気に厳しくなる。そこを渡り歩けるのは一握りの猛者だけだろう。
「潰し合いも苛烈になるだろうしいいデータが取れそうだ。」
そう言ってカメラを切り替えて別の場所の様子を確認しようとしたところ、背後の自動扉が開かれ通路から黒髪を後ろでまとめた厳格そうな女性が入ってくる。
「ん?」
「阿良田少佐、嶺藤大佐がお呼びです。」
彼女はそう淡々と告げると阿良田と呼ばれた青年は露骨に顔をしかめた。
「用があるなら自分から来てって言っといてよ。」
「上官に対してそんなこと言えるわけないじゃないですか。」
彼女はそう言ってため息をついた。
そして早くしろと急かすように無言の圧で見つめてくる。
「僕も君の上官なはずなんだけど? 祇倉少尉殿?」
「少佐が文句を述べるからです。」
冷たく言い捨てられ、億劫ながらも立ち上がる。
ここで彼女に文句言ってても怒られるだけだしめんどくさいながらも服を整え、帽子を被った。
「では案内を頼むよ。」
「こちらへ。」
そして二人は部屋を立ち去った。




