別の者
「・・・あ、来た。」
宇宙空間を疑似体験できるアトラクションに揺られながらポツリと言葉を漏らすと、隣にいたエリスはアトラクションの轟音に晒されながらも俺の呟きを耳聡く拾っていた。
「・・・む、何が来たのだ?」
「グリーンパイソン、もう制御室は盗られたね。」
そう淡々と告げるとエリスは驚いたように目を見開いて慌てだす。
「そ、そんな、早く行かないと!」
「まてまて、安全バーを上げようとするな。怒られるぞ。」
騒ぎ始めた時点で今更だけどね。
視線が痛いので少し伏し目がちに乗りながら終わった瞬間に逃げるように外に出た。
「いやー、すごい体験だったな! とても楽しかったぞ!」
「・・・え、もう忘れた?」
「・・・む、なに、、、を、、、あ! た、大変じゃないか!」
あの後のアトラクションの盛り上がりで俺の説明はすっぽり抜け落ちていたらしい。
その切り替えの早さはぜひとも参考にしたいよ。
「どうする!? すぐに助けに行かないと!」
「は? いやいや、助けには行かないだろ。それは俺たちの仕事じゃないから。」
そう言うとエリスにガクガクと肩を揺すられる。
「何を言ってるのだ! 今も襲われているのなら助けるべきだろう!」
「落ち着けって! 仕事の詳細は説明来てただろ!」
首が取れるんじゃないかってぐらい揺すられた後、急に手を離されて尻餅をつく。
いってぇ!?
「・・・お前なぁ?」
「す、すまん。そうだったな。」
エリスは慌てながらこちらに手を差し出す。
その手を取って立ち上がり、少し人気のない端の方に2人で寄った。
「・・・俺たちの仕事は?」
「・・・・・国防軍が秘匿している兵器の調査、及びグリーンパイソンの捕縛だ。」
「そうだ、俺達はこの国の味方ではあるが、もし世界を滅ぼしかねない兵器や、研究をしていたら止める必要がある。国同士のいざこざなんて対策局からしたら関係のない話だからな。俺達が守るのは世界だ、今はグリーンパイソンが攻め込んで国防軍は混乱の最中だろう、お陰で俺たちも侵入がしやすい。」
冷たいかも知れないが、もし国防軍が兵器として人類や生物、大地などが朽ちる可能性のあるものを開発していたら何かしら手を打たないとならない。
グリーンパイソンが目立って動いている今が潜入に適していた。
「だが、人が死んでいるのだろう?」
「だろうな、国防軍が潜入した犯罪者を見逃すわけないし、グリーンパイソンは隠れ潜むことを嫌うしな。既に制御室を取られたとなるとだいぶ攻め込まれてるだろうね。」
事前準備をされて待ち伏せされればグリーンパイソンは太刀打ちできないだろうが、一度中に入られてゲリラ戦に陥ってしまえばグリーンパイソンが優位になるだろう。
・・・にしても制圧が早すぎる。
最初に制御室を取りに来ることは予想できていたが想定していた時間よりもだいぶ早いな。
「・・・・・・・・佐巳月か。」
当たりをつけてため息をつく。
正直来てるだろうとは思っていたが、ここまで乗り気だとはな。
ちらりと横目でエリスの様子を見ると複雑な顔で斜め下を見ている。仕事内容に納得はしてる、してるが、前向きにはなれてない、、、か。
「・・・はぁ、じゃ、様子でも見に行くか?」
そう言いかけるとエリスはすごい勢いでこちらを見た。
「助けに行くのか!?」
「違うな、情報収集だよ。ただ、その過程で戦闘に巻き込まれるのは仕方ないよな。」
エリスは嬉しそうにコクコクと頷いている。
先ずは一般が入り込めない裏に入りこまないとならないのでそちらに向かうか。
「わかってると思うが完全隠密だ。痕跡を残すのも、姿を見られるのも無しだ。下手なことをすれば対策局に迷惑がかかる。」
「あぁ、勿論だ。・・・難しい仕事だな。」
お前が難しくしてんだけどね。
ヤレヤレとあきれたようにため息をつきながら関係者以外立ち入り禁止のエリアへと向かう。
そろそろロックも解除されただろうしね。
ーーー
「サブモニターから監視カメラに、ゲートの制御まで奪われました!」
「何をしている! なぜ制御を取り返せない!」
中央監視室の真ん中で悪い知らせが次々に届き、奮木は汗を滝のように流しながら怒号を飛ばしていた。
確かに制御室は取られたが、その一室で全てをまかなっているわけではない。名前を変えて何個かサーバールームが存在し、繋がっていないはずのシステムすら乗っ取られ始めていた。
「・・・これは、感染してる? でも繋がっていないのにどうして!」
「泣き言を言ってないで手を動かせ! 早く制御を取り返せ! このままだと取り返しが、、、!」
こちらにもシステムに干渉できる異能者はいるが、彼らすら歯が立たずに次々と制御を奪われていた。
・・・くそ! どうしてただの犯罪組織に、こんな厄介なやつがいるんだ!
「まずい、まずいぞ! も、もう大臣も、、、。」
奮木は絶望した面持ちで膝をつく。
既に頭は問われる責任とこれからどうなるのかを考え始めていた。
ーーー
ピピッ!
「・・・。」
『幻想の国、イルシオンパークへようこそ!』
フードを深く被った男はゲートを通り、ほくそ笑む。
彼はポケットのなかで明らかな危険物であるナイフを握っていた。
「ケケッ、パークの外周に張り巡らされた外壁は鉄壁とされ、空に向かって電磁のフェンスが伸びている。その要塞ほ唯一の入り口であるゲートをこうも簡単に突破できるなんて、、、流石幹部様だな。」
長いベロを伸ばしながらニタニタと笑う男は人混みに紛れて荷物をゴミ箱へと突っ込む。
そこではチカッ、チカッ、と怪しい光が断続的に灯っていた。
ーーー
・・・ゴソゴソゴソ。
「あ、あった。」
「・・・頼む、もう少し早く漁ってくれんか? 視線が痛すぎる。」
夢のあるイルシオンパークでゴミを漁るという凶行に走っていると、ものすごい視線が向けられた。
視線を感じるのでチラッと様子を確認したりしたけど露骨に顔を背けられてて笑うw
「笑えんわ、、、。」
「まぁまぁ、お陰で被害を減らせてるんだから安いものだろ? にしても随分レトロな爆弾だな〜。ま、異能者がいくら多くても適した能力者がいるかは別だし、チープな物にもなるか。」
古めかしい作りの爆弾をちゃちゃっと解除する。
この程度なら専門家に聞く必要もないね。
「・・・それしても、あれほど露骨に荷物を捨てるとは、見つけてくれって言ってるようなものだろう。」
「いやー、びっくりしたよね。急に目の前を歩いてた人が悪巧みしてそうな笑みを浮かべたと思ったら外から持ってきた荷物をゴミ箱に捨てるんだもん。そりゃあ調べるよ。」
てか、爆弾を隠す場所にゴミ箱って安直すぎない?
深く考えてなくて助かるなー。
そう適当に考えながら解除した爆弾をゴミ箱に捨て直す。
荷物になるし、下手に見つかったらめんどくさいしね。
「爆弾が仕掛けられたならゲートとカメラも奪われたかな?」
危険物はゲートを通った瞬間に見つかるし、そもそも危険人物の素性もバレるはずなので通れるわけはない。もはや警備システムはダウンしてると考えて良さそうだ。
この調子なら俺達も楽に入れそうだな。
「さてと、いい加減裏側に向かうと、、、エリス?」
「・・・綾人、あの者は誰だ?」
言われてそちらを見ると、この場に馴染んではいるが一般人よりも少し堅苦しい衣服に身を包んだ一団がいた。
その真ん中にいるカタギには見えない中肉中背の鋭い目つきをした男には見覚えがある。
「・・・胡志田。まさか防衛大臣様が表側から入ってきたのか?」
胡志田 郭祇
極東防衛国の防衛大臣で対外国に強硬な姿勢を見せている。常に仏頂面で他者を威圧する様は近寄りがたい印象を持たせていた。
「なるほど、あの者が、、、。どういうお方なのだ?」
「常に仏頂面で他者を威圧するのが趣味なタヌキジジイだよ。」
俺はそう言ってそちらを見ないようにしながら胡志田が表から裏に向かう理由を考えていた。
「・・・エリス、あまりそっち見るなよ? 視線を察知できる異能者がいる。足がつくぞ。」
「むぅ、確かに一人と目が合ったな。少し警戒されたかもしれん。」
言われて俺もチラリと確認すると、1人こちらを見ている人物がいた。俺からの視線は異能で知覚できないのでエリスを見たあと視線を外す。
「ま、気にするな。どうせ他にも見てる人はいるしな、そこまで気にしてこねぇよ。」
ぶっちゃけ連中は場違いな雰囲気に少し浮いてる。
他の一般の方々もちらりと見て目を逸らすを繰り返していた。
ーーー
「・・・攻め込まれてる?」
「はい、グリーンパイソンと言う組織が施設に入り込んでいるようです。」
横に並ぶ秘書に言われて胡志田は鼻白んだ。
「捨て置け、その様な木っ端の組織に庭を荒らされてるのは気に食わんが、所詮一部に過ぎん。」
「既に黒地と黒海が対応していますが黒天は狭い場所では本来の性能を発揮できません。なので要請はありましたが今は外で警戒させております。」
「結構、そのままにしておけ。黒絶だけは絶対に動かすなよ。」
胡志田は深く帽子をかぶり直しながらあるアトラクションの横にある壁に触れる。
プシュッと空気が抜ける音と共に扉の輪郭が現れ横にスライドして開かれた。
そして軽く周囲を見渡し、その場に2人だけ残して中へと入っていく。
いくつものセンサーによってその人物の情報が事細かに読み込まれながら奥まで行くとエレベーターが自動で開かれた。
無機質なそのエレベーターに階層のボタンはなく、そのままゆっくりと動き出す。
会話もなく下まで降りると、チンっと音がして扉の開く音がする。
出ると大勢の白衣の者たちが忙しなく動きながら中心にそびえる柱に向かっていた。
胡志田が石柱を眺めていると、一人のサングラスをかけたボサボサ緑髪の研究者が近づいてくる。
「遠路はるばるご苦労さまです、胡志田防衛大臣様
?」
「くだらん世辞や会話はいい、状況は?」
「あー、現在は18コードまで解除済み。後6つ解読できればいよいよ本腰を入れられるってところっすかね。」
満足のいく返答に一つ頷きながら手渡された資料に目を通す。
今のところ予定通りに進んでいる進捗に笑みを浮かべていると、突如として頭上から声がかけられた。
「・・・・・随分楽しそうだな、胡志田。」
謎の人物は爬虫類のマスクと合羽を着て石柱の先に片足で立っていた。研究者と胡志田の間を縫うように護衛の隊員達が銃を構える。
「何者だ?」
「・・・っふ、相変わらず余裕の態度を崩さないな。私は『カリア』だ。」
「知らんな、装いからして今攻め込んできている愚か者共の一員だろう、どうやって入ってきた。」
この地下施設は既にグリーンパイソンが攻め込んでいる下層一階より、はるかに厳重なセキュリティと警備が守っていた。
その絶対的とも言える守りが破られたというのに、胡志田は表情一つ変えずに問い返す。
会話などただの時間稼ぎ、既にイレギュラーが起きた今、胡志田は次は何をすべきか組み立てていた。
「ふはっ! 侵入手段なんか興味ないだろ?今はどうやって逃げ延びるかでも考えてな。」
「ふん、仮に俺が死んでも代わりなどおるわ。それに逃げるのは貴様だ。」
胡志田が片手を上げると背後の暗闇から黒い異形の外骨格に包まれた2体の隊員が現れる。身体からは白い蒸気が漏れ、高音を発しながら2体は拳を構えた。
カリアはその謎の相手に口元を月のように歪めながら、背に背負う巨大な大斧を構える。
「・・・いいぜ、殺し合おう。」
「放て。」
号令と共に放たれる数多の銃弾。
その中心でカリアは獰猛な捕食者の様に目を輝かせた。




