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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号


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騎士とは



歌奈ちゃんが行方をくらませる数時間前。



「あー、楽しかったなー。」



エリスと歌奈ちゃんは外でできる遊びをノンストップでやり続けた。常人であればとっくに音を上げるようなペースで遊んでいたのでエリスが流石に休憩しようと提案し、今は飲み物とお菓子を唯差さんに貰いに行っている。



「でもお姉ちゃん凄いなぁ、学校の先生でもすぐ疲れちゃうのに。」



歌奈ちゃんは『余剰累積』の異能を持っていた。

1日で回復できる体力には上限があるが、歌奈ちゃんは寝たり食べたりと体力を回復する行為を行えば本来の体力を越えて保持することができる。


異能の発現が幼少期だったため、余剰は増える一方で体力の総量は今では数日間走り続けられるほどになっていた。


ただもちろん体力があって疲れることがないと言っても体は子供。動き続ければ体に負荷がかかる。

疲れて休憩という考えが浮かびづらいため、体を壊しやすいのだ。


本来怪我なく生きるのも難しいのだが、唯差さんの持つ異能によって歌奈ちゃんは健康的な生活を送れている。


唯差さんの異能『時刻み』。


自分で設定した時間に体内リズムを合わせることができる。


例えば12時に昼食と設定するとその時間にお腹が空いてお昼を食べたくなり、起床時間を朝8時に設定したらその時間に起きれるようになる。


そしてそれを他者と共有することが出来た。

5人限りと制限はあるが、生活リズムを合わせられるのは非常に有用だ。


強制力は秋ほど強くはなく、意志をもてば跳ね返せるらしい。


その異能のおかげで歌奈ちゃんは適切な時間で眠くなったりお腹がすくようになっていた。



今は休憩とはエリスに言われたが、歌奈ちゃんは別に疲れてはいない。しかしエリスは騎士団長として多くの人を見てきた為、筋肉の消耗具合や震えが限界に近いと判断して無理矢理休憩に持って行った形だ。



ただやはり体力的には一切疲れてないので、ソワソワしながら辺りを見渡す。



「・・・・・・・・な・・・・・・に・・・・。」


「・・・? あれ、お姉ちゃん?」



手持ち無沙汰になって足をブラブラさせていると、何処かから小さい声が聞こえた気がした。

声の出処を探して立ち上がり、裏から聞こえた気がして振り向く。



「・・・何してるの?」


「・・・? 何もしてないよ?」



裏山の暗い木々の奥からボソボソとした小さな声が問いかけてくる。歌奈ちゃんは興味を唆られてしまったのか、少しずつ森に近づいていってしまう。



「暇なら遊ぼうよ。」


「え、でも今お姉ちゃん待ってるし、、、。」 



遊びに誘われて目を輝かせるが、エリスが戻ってくる事を思い出して歌奈ちゃんは立ち止まる、、、



「・・・大丈夫、お姉ちゃんもくるから。」


「・・・え、そうなの? うーん、それなら。」



子供の好奇心とはとても旺盛で、その最後の誘惑に、歌奈ちゃんは森に一歩、また一歩と踏み入ってしまう。


そしてそのまま暗い森へと姿を消した。



「・・・む? 歌奈ちゃん?」



エリスが飲み物とお菓子を持って戻ってきた時にはすでに歌奈ちゃんの姿はなかった。

トイレでも行ったのかと少し待ったりしたが、一向に姿を現さない。


慌てて辺りを探しても見つからず、時間だけが過ぎていく、すると、森に続く小さな獣道の小枝が折れていることに気付いた。



・・・断面はまだ新しい、今しがた折れたか? ただ擦れたり動物が通っただけの可能性もあるが、、、



『似非鬼』、人の声を真似する鬼の姿が脳裏をよぎる。



もし歌奈ちゃんが似非鬼に誘われて山に入ったとしたら、、、?



冷や汗が垂れ、耳に届くほど心臓の鼓動が速くなる。



・・・どうする、追わないと、ひとりで? 綾人に連絡、、、いや今走らないと、大量の似非鬼がいる山の中に? 間に合うか? いや間に合わせないと、、、。



思考が頭の中でぐるぐる回って足が動かない。

暗い森に向かっての一歩が踏み出せない。



「・・・あれ、エリスさん? 歌奈は?」



すると、後ろから唯差さんに呼びかけられる。

跳ねるように振り返って戸惑った顔をした唯差さんが目に入った。



なんて説明しようか口を開こうとした瞬間に、彼女の背後の太陽を背に騎士の格好をした自分の幻影が見える。



・・・何を立ち止まっている。騎士とは何だ、国を守り、民を助ける者だ。なら進め、迷っている暇などない!



「すまん、すぐに迎えに行く。絶対に連れて帰ってくる。唯差さんは綾人に話しといてくれ。」


「・・・え、なにを?」



手短に告げて、エリスは鎧と剣を顕現させて山へと走り出した。一人の少女を助けるために、、、。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



歌奈ちゃんは謎の声に誘われるがまま暗い森を登っていく。もはや森は本当にわずかな木漏れ日しか差しておらず不気味な様相を醸し出していた。



「・・・ねぇ~、どこまであるくのー?」


「もう少しだよ、ーーザザッ、もう少し、、、。」



その声に本当に僅かに含まれたノイズに歌奈ちゃんは気づかず、誘われるがまま付いていくと、小さな窪地にでた。



「・・・ここだよ。」


「えー、どこー?」



声は色んなところから聞こえてきて場所がわからず歌奈ちゃんは辺りを見渡す。

さすがに怖くなって腕をさすって少し後ずさるとパキッと何かを踏み折る音がした。



「・・・な、に?」



歌奈ちゃんが足元を見ると小さな白い骨が散らばっていた。歌奈ちゃんは骨を見たことが多いわけじゃない。

ただ音をきっかけに歌奈ちゃんの心は恐怖に振り切れ、すぐに後ろへと走ろうとした、、、走ろうとした、、、。



「・・・どこ、、、行くの? あそ、ぼ?」



しかしその直ぐ背後には痩せこけた似非鬼が立っていた。血走った目に口元のテープが勢いよく回る。



「ーーっひ!」



ーーガシャシャ!



腰を抜かしてその場に尻もちをついてしまう。

折れた鋭い骨の破片が腕を切り裂いて血を垂らす。



「あ、遊ぼ? 遊ぼ、遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼーー」



壊れたように同じ言葉を繰り返しながら鬼は腕を振り上げて歌奈ちゃんに迫る。

歌奈ちゃんは涙をこぼしながら必死に顔を隠した。



・・・ポタッ



「ーーあ、、、そぼ?」



襲ってくるはずの衝撃がこない、、、。


歌奈ちゃんは不思議に思ってゆっくりと目を開くと、そこには純白の羽を広げ、鎧を身に纏ったエリスが歌奈ちゃんを抱えていた。



「・・・見つけたぞ。さ、かくれんぼは終わりだ。」


「おねえ、、、ちゃん?」



エリスは歌奈ちゃんの顔を覗き込んでニカッと笑う。

その笑みは相手を安心させ、もう大丈夫だと信じさせてくれる強い意志を感じさせた。



「ーーが、が、ぁあああああああぁ!?」



似非鬼は切り飛ばされた腕の痛みで天に向かって吠える。


その不快な叫び声にエリスは眉をひそめているが、歌奈ちゃんはエリスの横顔から目が離せなかった。




ーーー




・・・何とか間に合った!



必死に森を走っていると僅かなぬかるみを見つけ、そこに小さな足跡があることに気づく。確信を持ってその足跡を辿ってみると、かすかに歌奈ちゃんの声が聞こえた。


それを頼りに追い続け、本当に既の所で似非鬼と歌奈ちゃんの間に入ることに成功する。


斬り飛ばした腕から鮮血が吹き出すが、勢いは直ぐに弱くなり、一度盛り上がって腕が生え始めた。



「・・・? どういう事だ、昨日戦った似非鬼は再生などしなかったぞ。」



昨日と様子の違う相手に警戒を強めていると、ぎゅっと服が掴まれる。



「・・・どうした?」


「お姉ちゃん、お姉ちゃんはほんもの?」



不安そうに呟かれた声にエリスは安心させるように微笑んだ。



「あぁ、本物だぞ。昨日から一緒に遊んだ友達だ。」


「・・・う、う、うぅ、うわぁあーーーーー!」



泣き出した歌奈ちゃんをそっと安心させるように抱きしめる。この山は似非鬼が数多く存在してるため大声はご法度だが、エリスは泣き止ませたりはしなかった。



・・・来るなら来ればいい、たとえこの身が朽ちようと歌奈ちゃんを守り切るまで戦い続ける。



そう覚悟を胸にした今、たとえ千の軍勢であろうと相手にしてやろう。強い瞳を持って似非鬼を睨みつける。



「がぁあああああ!」



怒り狂った鬼がこちらに走りながら向かってくる。

それを冷静に見つめながら、下半身を固定し歌奈ちゃんを抱える腕の力を強めた。


片手の力を込めながら上半身を捻り、剣を振るう。



ーーヒュンッ!



勢いよく風を切った斬撃は相手を吹き飛ばし、上半身と下半身を断ち斬る。


似非鬼は血を撒き散らしながら目を回し、そのまま動かなくなった。



・・・ふむ、一撃で殺せれば問題は無さそうだ。



「ふぅ、相変わらず一体一体はたいしたことないな。」


「・・・すごい、お姉ちゃんかっこいい!」



歌奈ちゃんは何とか泣き止んでくれたようで今は腕の中で興奮したように目を輝かせている。

エリスは安堵すること無く周囲に気を配らせていると二、三体接近してくる気配を感じとった。



・・・飛んで逃げるか?



そう考えていると向こうの方から不可解な音が聞こえる。



ーーズルッ、ズルッ、ズルズル、、、



「む?」



顔向けても何もいない、音は小さかったし割と遠くだったのかと思っていると次の瞬間2人の上を影が覆う。

嫌な気配を察知して直ぐにその場から飛び退くと2体の似非鬼が拳を叩きつけていた。


先程と違って歌奈ちゃんが泣き止んでいるため動きやすくはなっている。剣を水平に構えて片手で対応できるようにしていると、背後に向かって振り向きながら剣を突き刺す。音をさせずに迫っていた一体を刺し殺し、振り抜きながらあとの2体も斬り捨てた。


あの何か引きずるような音も気になるが先ずはここから離れることが先決か。



そう思い直して再び羽根を広げたが、光が弱まって力が入らなくなる。



「・・・む?」



完全に日は沈み、暗闇の中薄っすらと光る鎧と剣によって光源を確保しているなか戸惑う。



「ど、どういう事だなぜ急、、、に?」



言いながら手を握ったり開いたりしてある違和感に気づいた。



「・・・霊力が回復していない?」



向こうの世界であれば霊力は1日も経てば全快まで回復していた。しかし、ここでは本当に僅かしか回復している感じがしない。

その僅かな回復量に対して剣を出したり空を飛んだりする消費量が上回ってしまったのか。



「・・・・・・・ふむ。」


「あれ? お姉ちゃんどうして羽根と鎧消しちゃったの?」


「いや、うん、この程度なら剣だけで充分だ。」



冷や汗を流しながら必死に誤魔化し、歌奈ちゃんの手を取って走り出す。新たに5体くらい近づいてきていたので早めに離れたほうがいいだろう。



・・・まさかここでエレベーターから逃げて窓を飛び降りたのが響くとは、、、!



剣が発する光を頼りに山を走っていると木々の隙間から似非鬼が飛び出す。冷静に目を細めながら突いたり足だけ斬り落としたりして機動力を削ぎながら距離を取っていく。



ただ走りながら焦りを感じていた。



・・・暗闇の森では方向感覚が役に立たん。正直今どこを走っているかすら分からない。このまま走り続けていいのか?



「いや、一度身を隠すべきか。」



日が昇って明るくなってから一度高いところで位置を確認したほうがいいだろう。進み続けて集落の位置を外したら致命的すぎる。


だとしたらこの包囲網から抜けないと、、、。


追ってきている感覚はまだする。どうやってこちらの位置を把握しているのかわからないが距離を取れなければ身を隠すこともままならない。



ーーザザッ!



意を決して窪みのある木の幹に歌奈ちゃんを隠してその前に剣を構えて立ち塞がる。



「お姉ちゃん!? おいついてきちゃうよ!」


「・・・あぁ、わかってる。ただこのまま逃げてもいづれ追いつかれるだろう。なら崩してみせよう。」



逃げ続けてもいずれ包囲されてしまうだろう。

ならまだ体力の残っている今、敵の数を減らし続ける!


どのくらいいるかはわからない、ただ増殖してるとしても今の現存してる数を減らし、増える数を上回れれば隙が生まれるはずだ、、、。



エリスは1度目を瞑ってゆっくりと開いた。



「・・・来い、私は騎士だ。守るべき者があるのなら、決して折れずに戦い続けよう。私は、ラハット王国 白夜騎士団 騎士団長のエリス・ル・ラクラット! 推して参る!」



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