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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号


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20/48

休みは何処へ?


事務所へと戻るとそこでは帆哭さんがパソコンと向き合っていた。

入り口で立ち止まっていると、俺たちに気づいた帆哭さんは眉間を揉んでから姿勢を正す。



「おかえりなさい、任務の完遂、ありがとうございました。」



そう一言労ってから俺達の前にコーヒーを持ってきてくれた。その優しさの裏に次の仕事を与えようとしてくる腹の内があるとか泣けてくる。


必死に涙をこぼさないように堪えていると、帆哭さんはエリスに軽く微笑んだ。



「どうでした? 初の護衛任務は、上手く立ち回れたと聞きました。」


「綾人のおかげでな、私は戸惑ってばかりだった。」


「いえいえ、知らない環境に未知数の脅威、対策など容易ではありません。それでありながら護衛対象を守り抜けたのですから自信を持ってください。」



なんか今の帆哭さん優しいな、疲れてるのか。


相変わらず机には書類が溜まっているし、先程からパソコンの画面にはメールの通知が届き続けている。


幾ら化け物みたいな体力があるとは言え、流石に心配になったので声を掛けた。



「帆哭さん何か手伝いましょうか?」



そう言うと彼女は首を振る。



「大丈夫です、これは別件の疲れですから。積まれてる書類に急ぎのものはありませんし、メールももう少ししたら落ち着くはずです。そこまで詰め込んだりしませんよ。」


「信用はないっすよ?」


「・・・私が倒れるとでも?」


「想像できないから怖えぇ。」



外から見るとキャパオーバーに見えても、帆哭さんからすればこなせる範囲らしい。

ただ無茶しがちな性格ではあるのでそこは見極めて第三者が声を掛ける必要があるだろう。ま、それは担当者がいるから平気か。



「そういえば護衛対象のリリカさんから感謝のメールが届いてましたよ。長いお礼の文章と「挨拶できなくてごめんなさい! よかったら今度遊びに行こ!」だそうです。彼女のアドレスも送られてきてましたので後で登録しといてあげてくださいね。・・・大量の絵文字が散りばめられてて読み解くのには難儀しました。」


「おぉ、目が覚めたのだな。挨拶もできずに別れてしまい、さみしく感じていたところだ。」


「唯一の友達だもんな。」


「向こうにも居ると言ってるだろうが!」



顔を真っ赤にさせて反論してる時点で図星なんじゃ、、、。

そこら辺の問題はデリケートだけど、定期的に弄って遊ぼ。



「さて、では次の仕事ですが、、、」


「・・・はい。」


「・・・おや、素直ですね。佐山くんに会いました?」


「何を言ってるんですか、俺は常にふたつ返事で従ってきた人間ですよ。」


「息をするように嘘つきますね。」



さらに深い溜息をつきながら眉間を揉む帆哭さんに心配そうな視線を向けたらギロリと睨まれました。


こわぁい。



「まったく、任せたいのはある過疎集落の行方不明事件です。元々人口が減り続けている集落だったのですが、近頃は同じ時間に畑仕事をしていた人が突然見かけなくなったりするようで、、、。」


「・・・見かけない? 死体もですか。」


「えぇ、ご近所付き合いが密接な集落でしたから、心配して様子を見に行った人もいたのですが、家はもぬけの殻だったそうです。」



そこまで聞いて顎に手を当てて考えをまとめる。

まだ何も見たわけじゃないのでわかることは少ないが、、、



「うん、十中八九、怪物じゃないっすか。」


「はい、私もそう思います。ただの集落に犯罪者が狙うようなものなどありませんし、潜伏するにしても人口が少ない場所は外から来た人間に敏感ですからね。」



まだ内部犯がいないとは限らないが、可能性は高いだろう。それなら準備しておいたほうがいいものも見当がつく。



「あとは、どういう怪物かわかればなぁ。有名な怪談に心当たりあります?」


「これだけでは分かりませんよ。ただ山間部にある集落なので森、山、川などが考えられます。」



2人で予想を話していると、手持ち無沙汰になったエリスが欠伸を漏らしながら端末を操作していた。リリカのメールアドレスを帆哭さんに転送してもらっていたので登録でもしてるのかな?



「・・・む? あなた限定、開くだけで億万長者? なんと気前のいい、、、!」


「何見てんだよ!? いくら細かな情報を得られるように規制がないとはいっても変な詐欺にハマる必要はないからな!」



何してるのかと思ったら碌なサイトを開いていませんでした。ネットリテラシーについて後で講習する必要があるなぁ。



「まぁ良いです、ここで幾ら論じていても仕方ありませんし、明日集落に向かって下さい。」


「思ったんですけど、そんなにすぐ行く必要あります?」



別に今の話を聞く限り、特段急ぐ必要とかは感じなかった。それなら休みくれても良いんじゃ、、、と思って聞いてみたが、帆哭さんは真顔で首を振る。



「私は構いませんが、仕事が詰まっているので早く終わらせないとこの後開けられない仕事がありますので休めませんよ? それでもよければ、まだ先でも、、、」


「喜んで行かせていただきます!」



勢いよく敬礼しながら諦めの涙を流す。

もう休みもらえないなら早く帰って早く休みたい。明日何時に起きればいいのかな〜(泣)


そうと決まれば早く帰ろうかと思い、エリスに声を掛けるがそこで待ったがかかる。



「待ってください、名木田くんには用があるので少し残ってもらいます。ラクラットさん、ひとりで帰れますか?」


「む、場所は覚えているから問題なく帰れるぞ。」



そう言いながらガラリと窓を開けたエリスの肩を二人で押さえる。何平然と飛び降りようとしてんだ、エレベーターで帰れ。



「か、階段、せめて階段を使わせてくれ。」


「あるので使ってください。悪目立ちするなんてものじゃありませんから。」


「下から見たら自殺だぞ?」



突然上から羽を生やした少女が落ちてくるとかどんなアニメだ。その後ひとりで走り去っていくしで追いかけるのすげぇ大変だったんだぞ?


ちゃんとドアから追い出して非常用階段まで案内して見送る。



まったく、とため息をつきながら事務所へと戻ってふと我に返る。あれ?俺もワンチャン帰れたんじゃね。うん、後が怖いからやめとこ。



「それで? 何の話ですか、もう帰って寝たいんっすけど。」


「徹夜なんて慣れたものでしょう。ただ連勤になってしまっていることは私も申し訳なく思っています。こちらの管理不足ですからね。」



少し申し訳なさそうな、帆哭さんに頭でも打ったのかと心配になりながら対面に座る。

彼女はコーヒーを傾けながら鋭い視線を向けてきた。



「・・・率直に聞きます。名木田くん、今回私が担当していた首無し事件、犯人の目星はついていませんか?」



真っ直ぐに見つめてくる目を見返しながらそっとコーヒーを飲み直す。既に冷めたコーヒーの苦みが口いっぱいに広がった。



「俺は現場を見ていませんよ? 分かるわけないじゃないですか。」


「改めて聞きますね、私はこの事件に『首取り レイッツオ』が関与していると予想します。しかし、あなたも知っている通り、彼は既に死んでいる。」



淡々と話し続ける帆哭さんを尻目に名前を出された殺人犯を思い浮かべる。


首取り レイッツオとは


過去にシャーリアス統制国で一ヶ月間の間に首のない死体が()()見つかるという事件があった。犯人は見つからず、被害が大きくなっていくなか、遂には対策局が駆り出されて1人の容疑者が絞られた。


それがレイッツオ。


壮年の眼鏡をかけた優しそうなジェントルマンだが、対策局の精鋭が捕縛できないほどの実力と変態的な思考を併せ持つ。


何故頭がないのか、それは彼が持ち帰って脳を喰らっていたからだ。理由は聞いてもいないし知りたくもない。当時会話ができた人間の調査記録もあったが読む気は起きなかった。


そんな彼はシャーリアス統制国から追われて極東へと逃げ出す。そこでも変わらずに事件を起こしたのだが、そこを極東最高戦力の一人である我らが班長 灰原 結螺が対処したというわけだ。


班長も最初は捕らえようとしていたのだがゴキブリ並みの生存力がうざくなって捻り潰したらしい。

それでいいのかと思うが相手は元々極悪犯だし、問題にならずに済んだ。



そんな数年前の出来事であるレイッツオによる『首無し事件』と同じような現場が散見されれば帆哭さんも彼の関与を疑うだろう。ただ、帆哭さんが言ったように彼は既に死んでいる。



「・・・模倣犯なのか、それとも死んでいなかったのか、予想は何通りかできます。」


「死んでないなんて事はありませんよ。あの場には俺たちもいたじゃないっすか、頭がジャムみたいに破裂したんですから生き残れなんてしないっす、それにそういう異能でもない。」


「なら殺したのが別人であった可能性があります。」



そう言ってのけた帆哭さんに苦笑を浮かべた。



「捕まる可能性が上り、模倣犯をあの時に殺させて一時的に自分は息を潜める。そして今、落ち着いた段階で再び顔を見せたと言うなら納得はいきます。」


「・・・ただ見つからない?」


「えぇ、首取りは逃げる技術は天才的でも隠れるのはそこまでではありませんでしたから。・・・沙耶香の目から逃れられるとは思えません。」



収集班の班長である須木原さんの情報収集能力は一級品、てか一級品じゃなければ班長に選ばれることはない。

そんな極東支部随一の腕を持つ彼女が見つけられていないのは確かに不自然であった。



「だからこそ貴方の意見を知りたいです。裏側の考え方や見方のできる貴方の、、、。」



そんな俺が反社みたいな言い方しなくても、、、。

別に考えがわかるわけじゃないよ、俺だったらこうするとかこうされたら嫌だろうなって事を予想してるだけで。



「・・・なんとなく予想はできてます。ただ、俺も断定はできませんよ。」


「充分ですよ、教えてもらえますか?」



そう返されて少し悩む。

この人は俺よりもずっと行動が早いし、どう動くか予想はできてもどっちに転ぶかまでは分からない。



そしてそんな俺のためらう様子を見て、彼女は眉をしかめた。



「どうしました、何か言えない理由がありますか?」



その言葉に俺は諦めたように息を漏らして肩を竦めた。

ここで下手に誤魔化しても後でもっと確実な外堀を埋められてから問い詰められるし、わざわざ隠し続ける必要もないか。



「いえ、正直早期解決は求めてなくてですね。なんとなーく、面倒な予感がするんです。」


「・・・どういうことです?」


「先ずは俺の見解ですけど今回の事件は模倣犯ではありません、本人ですね。」



本人を見かけたわけじゃないのであくまで予想ではあるが、俺は模倣犯の線は薄く感じていた。

というかもしレイッツオじゃなければあの狂信者が動き始めているはずだからな。



「俺たちもあいつの頭がパーンとはねてる所は見てます。ただ問題としてその状態から治せる、生き返らせられる異能がないとは限らないってことですね。」



帆哭さんは少し驚いた後に顎に手を当てて考え始める。そして、納得したようにひとつ頷いた。



「・・・なるほど、失念してましたね。救出したのは複数人ですか。」


「頭を治せるのと魂を固定させる、それと隠行の3人は必要でしょう。」


「・・・・・闇医者、影落亭の人間ですか。本当にろくなことをしない。」



本日何回目か分からないため息を漏らして、面倒くさそうに端末を操作し始める。

影落亭の人間に連絡でもとっているのかな?


彼等はお金さえ貰えれば誰でも治療し匿う、そこに裏も表も善悪も関係しない。そんな彼等の拠点は未だに特定されておらず、検挙には至っていなかった。


帆哭さんはひとしきり操作を終えるとポケットに端末を仕舞い直す。



「それで、何故急ぎたくないのですか? このままだとさらに被害者は増えます。」



そう聞かれて眉をしかめながら渋々口を開いた。



「狂信者 ラドリーの一団が動き出す可能性があります。」



名前を聞いて、帆哭さんも嫌そうな顔になるが納得もしてくれたようだ。



「終末教ですか、、、なるほど、頭は神の目、頭を食われることは彼らに対して最大限の屈辱。そして彼らでは首取りは殺せない。」



終末教は厄介なカルト集団だ、終末に降臨するという神を崇拝し、その時我らは神に救われるようで、降臨の際に邪魔になる国を整理したいのだとか。


彼等は命を捨てることにためらいはないが、頭は教義でもあるのか傷ついたり奪われたりすることを恐れる。そんな彼らだからこそ首取りは天敵になりえた。


実際に首取りが現れた時に一悶着があったようで何人かの信徒が首無し死体になって発見されている。その時の被害で彼らは鳴りを潜めたのだが、首取りが死んだとニュースになってからは再び行動を開始していた。


ただ、ここ最近は目立った動きを見せていない。



「既に首取りの生存を察していましたか。」


「恐らくですけどね、ただ彼らもフラストレーションが溜まっていますし、そろそろまた大きな接触があると思います。可能ならその時にまとめて検挙したいですね。」


「首取り相手なら終末教も上を出さざるおえない。尻尾切りが得意な連中には良い作戦ですね。」



そう淡々と言ってのけるが全ては納得できてないのか顔は渋いまま。まぁ、彼らが接触するまでに何人が首取りの被害者になるか分かったものじゃないからね。



「見捨てますか?」



まるで問いかけるように聞いてくる帆哭さんが珍しくて思わず笑みを漏らす。事前に頭の中に大体の予想をしている俺と違って今色々新しい考えが浮かんで整理に苦労してるのだろう。



「何言ってるんすか、俺たちは対策班ですよ。」



笑いながらそう言うと帆哭さんは面食らったように固まった。



「・・・そういえばそうでしたね。・・・どうも疲れが溜まっていたようです。少し休んだほうがよさそうですね。」


「そーですよ、なので帰っていいですか? 俺も休みたいので。」


「はい、いろいろ参考になりました。ありがとうございます。・・・では明日、頑張ってくださいね。」



あ、やっぱりそこは延ばせないのね。

帆哭さんも少しは悩みが解決したようで肩の力を抜きながら自分のデスクに戻った。


カチカチとメールを確認し始めたのを横目に俺は荷物を持って事務所をあとにする。

日が落ち始めた夕焼けを眺めながらため息をついたのだった。





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