護衛任務−3
よし、そうと決まれば戦闘は絶対に避けなければならない。
隠密活動を念頭に入れてこれからの動きをどうするか考えないと。
「・・・む? というか綾人から連絡が入らないな。」
そう思ってインカムを繋げようとするが繋がらない。
おかしい、使い方は合ってるはずなのだが?
「どうしたの?」
「同僚と連絡が取れん。・・・嫌な感覚だ。」
そもそもな話、綾人だけではない。
綾人以外の誰とも繋がらないし、連絡も入らん。
敵の異能は移動系だとわかるがどこに移動させられたんだ?
「・・・ここにいても仕方ないか、リリカはそろそろ動けそうか?」
「うん、大分体調良くなったよ。」
「では行くぞ。」
立ち上がり、再び出口を探し始める。
不安や疑念が拭いきれず、焦りはどんどん大きくなっていくが落ち着けるように呼吸を吐いて歩き出す。
・・・だが事態は思ったよりも深刻ではなかった。
ーー
「蕪良め〜っけ。」
「・・・んぁ? ここはどこだ?」
一番上の屋上にある関係者以外立入禁止の用具入れに移動させられていた蕪良は外から南京錠をかけられており、出られずに寝てたみたい。
こんな緊迫する場面で寝られるとかどんな神経してんだ? さすが刑事。
「ちゃんと仕事しろ。」
「・・・しゃーねーだろ。何もできねぇのに無駄に体力減らしてどうすんだ。俺は異能持ちでもねぇしよ。」
あー、そういえばこいつ無能だっけ? 俺と同じですね。
「・・・てか、何でインカム繋がんねぇんだ? まぁ、大体予想はつくけどよ。」
「敵の異能だろうな。」
ただ俺の無線だけは異能を食らわずに使えたのでエリスや他の連中にも連絡は取れた。
今は全員少しずつ見つけていき、ステージ裏に集めている。
・・・なのにこのバカは寝てたせいで連絡取れなかったがな!
「つか、リリカは大丈夫なのか? まだ見つかってねぇとか洒落にならんぞ。」
「いや大丈夫だ。今はエリスが保護してる。」
「嬢さんは平気なのか?」
「余裕だろ。」
幹部以外は所詮寄せ集めだしな。
洗練された技術を持つエリスなら問題ないだろう。・・・ただ唯一の懸念は戦闘を行えないことだろうか?
あいつ目立つけどなー。
「さーて、最後の一人も見つかったし仕上げていきますか。」
「仕上げ? 脱出か?」
そんな呑気なことを言ってる馬鹿に俺はあくどい笑みを浮かべた。
「あほか、敵さんがせっかく大勢で来てくれたんだぞ? 大量検挙のチャンスだろ。」
俺の言葉に蕪良は目を見開いた。
何驚いてるのだろう? ここで逃げても後でまた集まって襲撃してくる。それならここで捕まえて頭数を減らしておくほうが利口だろ。
だからわざわざあの二人に孤立させるように動いてもらってるんだし(無許可)。
そうすれば敵さんもモールからは離れられない。
「・・・お前、陰湿だな。」
「失敬な策士と呼べ。」
ーー
ずーっと不自然に出入り口で張り込む優しそうな青年にそっと近づいて肩を掴む。
青年は驚いて異能を使おうとし、使えないことに固まる。その瞬間を狙ってバレないようにそっと腹パンを食らわす。
そのままズルズルと崩れ落ちる青年に肩を貸して「大丈夫ですかー?」と声をかけながら従業員事務所へと連れて行く。
事務所には次々と犯罪者共が連れ込まれて大勢の警備員と警察に囲まれ監視されていた。
それを笑顔で確認した後、俺は再びモール内を練り歩く。
そしてフラフラしてる奴らも順次捕まえていく。なんでわかるのかって?歩き方と不自然な視線の配り方だね。
ま、捕まえた連中は後で尋問と持ち物検査もあるし気兼ねなく捕物をこなしていこう。
ちなみにエリスの端末は常に位置情報を付けているので今どこを歩いているのかわかるようにしている。
なので俺はあの二人が通った後を追って一人一人処理していく。囮をさせちゃって申し訳ないけど明日が楽になるから許してね。
pipipipipi−−
・・・ん? 帆哭さんから電話だ。
「はいはーい、解約ですか? 解約には身分証明書のご提示と10万程掛かりますがよろしいです?」
『そんなのに引っかかるのは未成年くらいですよ。』
ワンクリック詐欺の典型には引っかからんかー。
まぁそもそも個人番号にかかってきてるしお遊びだね。
『余裕ありそうですね。無事に終わりました?』
「あー、それはーーーーーー
・・・・・。
・・・・。
・・・。
『・・・はぁ。当然のように新人と護衛対象を囮に使うとは最低ですね。』
「効率いいっすよね。」
『効率が良くても2人への精神的負担は大きいですから。後でツケが回ってきますよ。』
・・・?
たしかに怒られる気はするけど明日が楽になるから喜んでくれるんじゃない?
『まぁいいです。連絡した理由ですが、こちらの方で問題が発生したため、そちらへの合流は難しいという事と、、、』
へぇー、行方不明者でも見つかったのかな?
『クロムロードが脱獄しました。』
・・・?
聞き馴染みのない名前に思わず電話越しに首を傾げる。
「なんでしたっけ? それ。」
『・・・まさか忘れたのですか? あなたに大変ご執心な異常者ですよ。』
そう言われて考える。
考え始めると徐々に思い出していき、比例して俺の気持ちがげんなりしてきた。
「えぇ、脱獄ってそんなに簡単にできるもんですか?」
『ま、あの異能なら余裕でしょうね。そのうち名木田君に会いに来るでしょうから捕まえといてください。』
「・・・そんな投げやりな。」
余裕で脱獄してくるような相手を一人で捕まえろとか無茶ぶりがすぎねぇ?
せっかく犯罪者を大量検挙できそうでウキウキしてたのにすっかりテンションが落ち着いちゃった。
伝えたいことを伝えたからか最後に挨拶をされて通話を切られた。
「・・・さて、後は賭けだな。上手くいけば万事解決。期待してるぞ〜。」
未だに脱出できずにフラフラしてるエリスに後を任せる。
ーーー
「多すぎじゃないか!? どこもかしこもヘビだらけだ!」
モール内をひたすら歩いて歩いて歩いてもどこにでも蛇蛇蛇!
ちなみにグリーンパイソンが蛇だというのは綾人が教えてくれた。
「ど、どうしよう。まだ皆も見つからないし、もしかしたら皆捕まったんじゃ、、、。」
不安に揺れているリリカを見て私も考える。
確かに捕まってる可能性もあるがそれにしては脅しも無いしこちらに不利な情報が入ってこない。
私達に不利な情報を与え、不安を煽り、呼び出すのは定石だろう。
(・・・うーん、なんか胡散臭いな。)
時間がかかれば相手にも苛立ちと焦りが生まれる。
それなのにモール内で何者かが暴れているようなことはなさそうだ。よっぽど従順に作戦に参加してるか捕まっているかのどちらかな気がする。
構成員達はリリカに見てもらった経歴からチグハグな印象を受けたし、従順とは考えづらい。綾人の奴、私達を囮に一人ずつ捕まえてるのではないか?
・・・まぁそれ自体はマイナスにならないし、別にいいのだが、もしそうだったら説明くらいしてくれても良い気がする。
心のなかに生まれたほんの少しの疑念にモヤモヤを感じながら次の出口を目指していると、微かに遠くから殺気を感じた。
リリカの手を引きコチラへと抱き寄せて一瞬だけ剣を形成。謎の投擲物に剣を振るう。
「・・・なんだこれは?」
切り裂いたのは黒い小さな球体。
大きさは直径で5cm程。
飛んできた方向に目を凝らすとヨレヨレのシャツに帽子とサングラスを掛けた男がこちらに指を向けている。
・・・あいつか。
本当であれば即座に斬りかかりに行きたいが、今は護衛中だし目立てない。
それに距離もだいぶ離れている。この距離ではリリカが気付けないのも仕方ないだろう。
というか普通の一般人では気づくことのできない距離。今の現在地である2階ではなく相手は3階の一角で手すりに肘を乗せて余裕そうな笑みを浮かべている。
「・・・リリカ、あいつが見えるか?」
「え? 遠すぎてわからないよ。視界に入る人が多ければ多いほど細かい情報の選別が難しくて、、、。」
上手く弱点を捉えられているな。狙ってる相手の異能を理解していないわけないか。
リリカは目を凝らしているが苦い表情。
・・・相手の手の内がわからないとは動きづらい。
と、一瞬考えたが戦場で相手の手の内が分からないなど当たり前だ。たった少しリリカといただけで随分気が緩んでいたらしい。
先ず、敵に捕捉されたということは連絡が行き渡り集まってくる可能性がある。
「逃げることが先決か、、、。よし、逃げるぞ。」
「でもどこに?」
1階出口は無理だし2階も無理。
なら上か。
「上の駐車場を目指そう。恐らく張られてるとは思うが人目が少ない場所に行けば戦える。」
遠くから再び視認しにくい小さな球が3球飛来。
剣で全て斬り落しながら進むが、嫌な気配を感じ横に飛び退く。すると背中側から2つの球が飛来していた。
急にジャンプした2人に訝しげな視線が向けられる。
だが、それを気にしてはいられない。球の速度は鋭く、人体に当たれば致命傷を与えられるだろう。
死角からの飛来を警戒して視線巡らせると球が空中に浮き静止していた。それらは自在に動き逃げ場を奪うように旋回する。
そしてその球は周りの通行人を狙った。
「ーーッ!」
判断は一瞬、球の数は計8、条件は見えない速度!
呼吸を吸い込んで剣はまだ顕現させずに脇に剣を構える。そして思い出す、、、過去に紡いだ剣技の大成を!
・・・ジャルフ流 風楼閃渓!
溜と捻りによって発せられる一瞬の剣戟。
人々の隙間を縫うような光条は風を感じさせるのみで全ての球を両断した。
「・・・すごい。」
見惚れるかのように割れた球を見つめるリリカの腕を取りそのまま非常階段へと走り込む。目の前を顔に傷がついた怪しげな男が腕を向けてきたので滑るように回避。足をかけて転ばし、そのまま扉を開いて中にはいった。
敵の視界から外れたからか追撃は来ない。
「ーーまったく! 最初からこうすれば早かったか!?」
思ったよりも楽に階段へと出れた。無駄に隠密してた気もして複雑だが、後は上に行くだけだし急ごう。
リリカは普段から踊ったり歌ったりしているからか体力はあるようなので息切れもせず付いてくる。
・・・だがもう少し急ぐか。
リリカの膝裏と首に手を回して持ち上げる。
体は魔力で強化しているため大して重さは感じない、跳ねるように踊り場から踊り場へと飛ぶように上へ登った。
リリカは突然の加速に舌を噛まないよう、しっかりこちらを掴んでいる。
そのまま一番上の階まで跳ねて駐車場へと飛び出した。
屋上駐車場は車もまばらにあるが人は見当たらずここからなら逃げられそうだ。
「でもここからどうするの?」
リリカに不安げな視線を向けられる。
・・・確かにどうするか。
フェンスから見下ろすと結構な高さだ。
出口と書いてある場所は確か車が出入りするので人が歩いてはいけないと教わったし、、、
「・・・飛び降りるか。」
「嘘だよね!? ここ7階だよ!?」
羽出せるし安全に着地できる自信はあるぞ?
と言ってもそれを彼女が知るわけないので、、、
「・・・ん? そういえばリリカは私が羽を出せることわかるんじゃないか?」
そういえば彼女には他の人達の個人情報を読み取れるように私の情報だって読み取れるはずだ。それなら私の手の内なんてすべてわかっている気がするが。
そう指摘すると彼女は変に顔を逸らした。
「・・・そうなんだけど、全く理解ができなくて。だってラハット王国なんて聞いたことないし魔力値なんて初めてみた。それに源炎の継ぎ手ってなに? なんか見てて恥ずかしくなってきて、、、」
・・・は、恥ずかしいのか? 私の経歴とかはこの世界の人達にとって恥ずべきものなのか!?
新たに知った情報に頬が熱くなってくるのを感じていると突如として屋上の階段出口が吹き飛ばされる。
ーーガシャアアン!
「ここかぁ〜、随分と足がはえぇんだなぁ。」
間延びするような軽薄な声で薄笑いを浮かべた前を開けたシャツに短パンサンダルといった若干浮浪者にも見える細身の男が周囲に黒い球を浮かばせながらコチラにペタペタと歩み寄ってくる。
構えを取りながら全神経を相手の行動に集中する。
「・・・リリカ、奴の異能は見えるか?」
「う、うん、えっと『タマ遊び』だって。」
球遊び?
先程のボールを操る能力ということか。それだけ聞くとあまり強そうには感じないが。
「・・・え?」
そう思っていると突然、隣のリリカは顔を青ざめさせて口元を押さえた。
その顔には恐怖と絶望が色濃く映し出されている。
「リリカ?大丈夫、、、っか!」
リリカに声をかけようとした瞬間に狙いを定めた黒い球が飛来する。それをかわし相手をにらみつける。
「・・・随分マナーがなってないな。」
「悪いねぇ、上位存在に人間のマナーが通じるか分からなかったからさぁ。」
・・・。
「あれぇ、さっきより顔こえぇなぁ。地雷だったかぁ?」
「・・・気に障る喋り方だ。貴様らにマナーを問いた自分が馬鹿だったな。」
「教養がねぇんでなぁ。上位のマナーって奴を教えてくれるとうれしぃなぁ。」
ーーガキィンッ!
振り抜かれた剣が相手の前方に密集した球の塊に遮られる。硬度は寄せ集めでも形が悪く刃を通しづらい。
・・・下手に斬り込めば欠ける。ただ手加減しないと駐車場も斬れるんだが。
車は高いものらしいし、下手な戦闘跡は誤魔化しも効かないだろう。
ーーだが!
周囲を旋回する黒球は感覚や勢いをずらして攻めてくるので避けづらく、以前の騙り猫の様に繰り手が近づいて来ることもない。
相手の余裕そうなニマニマ顔に腹が立つ。
「ちなみにぃ、俺の異能はぁこんな感じぃ。」
人差し指と中指に挟んでいた黒球が気づいたら別の指の間にも現れる。それを空中に投げたと思うとそれすら増えて回りだす。
「さっきのぉ、かっこいぃ、剣さばきみせてくれょ。」
迫りくる黒球の量と速度が増す。
確かにこちらの手数が足りないな。
「十雨破カ月」
乱れ撃つ雨のような剣戟で全ての球を斬り落とす。
ジャルフ流は素早さに重きを置いた流派で手数と正確に斬り抜くことに向いている。
「せっかく増やしたのに悲しいねぇ。」
相手の呼吸の隙を突こうと前へと繰り出すが、、、
「でも惜しい。」
呟きと共に車の間に裏、照明の隙間や裏に忍ばされていた黒球がゆらりと現れる。
それは勢いを持ってこちらに飛来した。
「じゃあなぁ。」
ーーガガガガガガッ!
コンクリートをえぐる程の威力で打ち出された黒球は土埃を上げながら周囲を包み隠す。
この威力の黒球に打ち抜かれ続ければ人なんか簡単に挽き肉になるだろう。
「ん~~ん?」
だが、その土煙の中エリスは立ち続ける。
そして煙が晴れると、そこには白銀の鎧に身を包んだエリスの姿が、、、
「かっこいいねぇ。てか凹みもしねぇとかどんな強度してんだぁ?」
「やわな金属と同じにするな。貴様の攻撃など通じん。」
「そりゃあ、試してみるかぁ。」
気だるげな様子とは裏腹に常にこちらの動きに気を配って隙がない。攻撃も先ほどとは違い鎧の守りが薄くなってしまう関節部等を狙って黒球を飛ばしてくる。
ただこちらも先程と違い剣に鎧が加わり致命打を受けにくい。それだけでなくこの鎧と剣は霊力によって構成されていた。
霊力は魔力の源であり、魔力として変換しやすい。
鎧には攻撃を受ける瞬間に反射で障壁を張って物理的衝撃に自動で対応してくれる。
そして剣は、、、
「纏え『誉火』」
紅く燃える炎を纏わせ剣を振るう。
黒球は空気を斬るような抵抗のなさで斬り落とされそのまま炎に巻かれて燃え尽きる。そしてその炎は次々と他の黒球へと燃え移りその全てを燃やし尽くした。
場には私と相手のみが残される。
決して油断することなく剣を構えると相手はポケットから手を出してそのまま頭上へと上げた。
「やめだ、こおーさん。」
「・・・・・どういうつもりだ?」
突然の降参に動揺するが表へは出さない。相手の隙を突こうとする作戦かもしれん。
しかし、男は気負いなく胸ポケットから煙草を取り出して吸い始める。
「どおもこぉもねぇだろ。死にたくはねぇんでなぁ。」
気に障る喋り方とニヤケ面は変わらないが先ほどと違い敵意は一切なくなった。
それでも油断は一切できないので鎧は消さず、炎も灯し続ける。
「今回は俺等の負けだ。大人しくリリカからも手を引く、それでいいかぁ?」
「貴様にそんな権限があるのか?」
「これでもグリーンパイソンのNo2なんでねぇ。それなりには発言権はあるなぁ。」
その言葉に目を見開き、思わずリリカに振り返る。
彼女は肯定するように頷いた。
「信用できねぇかぁ?」
「当たり前だろ。」
「だろうなぁ。」
特に気にした様子もなくヘラヘラしながら手を叩くと男の周囲に3人の爬虫類の被り物を付けたグリーンパイソン構成員が現れる。
即座に構えを取り直すが現れた連中は跪くだけで動くことはなかった。
ただ、その集まり具合に真ん中の男は呆れた表情を浮かべる。
「あぁ? たったの3人かよ、他の奴らは捕まったのかぁ?」
「・・・・・申し訳ございません。」
「別にお前が謝ることじゃねぇけどよぉ。全く、どいつもこいつもなさけねぇなぁ。・・・まぁ良い、帰るぞぉ。」
そう言って男は駐車場出口へ向かって歩き出す。
「ま、待てっ!」
急な出来事についていけず思わず呼び止めてしまう。
すると男は首だけこちらへ向けて手を振った。
「次は荷物がねぇ時に遊ぼぉぜぇ。」
そう言って男はフェンスから飛び降り、黒球の上を歩きながら去って行くのだった。




