護衛任務ー2
「・・・ふむ。ここはどこだ?」
突如として皆が飯を食べている場の真ん中に現れる私。・・・完全に教えてもらったマナーを破っているな。
とりあえず机の上にいるのは良くないのですぐに降りて周囲の人達に頭を軽く下げてからモールの中を目指す。
・・・さっき入ってきた奴の異能によって移動させられた事はわかるのだが、今はどんな状況だ?
少なくとも襲撃を受けたわけだし、元の場所に戻う。
そう思い、踵を返そうとしたら、、、
『おーい、聞こえるか居候。』
「どぅわぁあ!!」
『ーーうわ! なんだよ!?』
突然耳元から聞こえてきた声に思わず叫んでしまう。周りの通行人達から変なものを見る視線を向けられ、慌てて端によった。
『ちゃんと説明したろうが! まぁ電源を切ってなかっただけましか。』
消し方がわからないからな。言ったら小言を言われそうだから言わんが。
「それより、お前は大丈夫なのか?」
『いや、俺よりも護衛対象の心配しろよ。俺は平気だ、だがリリカは奴によって飛ばされた。』
飛ばされたってことは私と同じ状況ということか。
・・・まずくないか? つまり今彼女には護衛がいない。敵からしたら格好の獲物じゃないか!
「ど、どうすればいい!?」
『慌てんな騎士団長。いいか、モール内は広いがあの裏にいた全員を飛ばしたとすると必然的に死角は減る。誰かが見つければインカムに連絡が入る筈だから耳を澄ましとけよ。・・・ただ、問題として戦闘員が少ねえ。だからお前の戦闘能力と移動能力が鍵だ。』
思わず固唾を飲んだ。
・・・彼がいう騎士団長の時は動揺など滅多にしたことが無かったのに今は一挙手一投足に常に不安が生じている。私はいつからここまで弱くなってしまったのだろう。
ーーパンっ!
ネガティブに陥りそうになった思考を振りほどくように両頬を張る。綾人は私の力が鍵だと言ったんだ、期待には答えたい。
私は教えてもらったモール内の地図を見つけ、そこで自分がいる場所を把握。
いつ何処に行けばいいのかをわかるように地図の情報を脳裏に刻みつけた。
すると、再び綾人から連絡が入る。
『あ、そうだ。ちなみに戦闘は出来るだけ一般客に気づかれないようにな。下手したら明日のステージに影響して中止になりかけないし。』
私は思わず首を傾げた。
「・・・中止になったほうがいいのではないか?」
『まぁ普通はな。ただ、リリカの警備には多くの人員が割かれていてステージの中止はメンツを潰される意味もあるんだよ。そうなったら連日ニュースに俺達ものれるだろうよ。』
「面子なんかいらんだろう。」
『果てしなく同意だな。だから出来ればでいい。・・・ただ、リリカはステージが中止にされたくないだろうよ。』
それだけ言われて会話は終わった。
そして、私は自分がらしくない事を言った事に気づく。
・・・面子なんかいらん、、、か。騎士団にとって面子と国は自分の命よりも大切な筈なのにな。
ーーー
それから数分後。
綾人から連絡が入った。
『エリス! 3階C区画のブランド服屋『ノール』の中だ!』
今いる場所は4階のC区画、つまり真下か。
場所を理解した瞬間に行動。中央の吹き抜けの手摺に手をかけて弧を描くように下の階へと飛び降りる。
飛び降りる最中に何人かの通行人から驚きの声が上がり、無事を確かめようと下を覗くがその時には私は下の階にたどり着く。
男女のカップルが休憩してるベンチの背後に降り立った。
「うわぁ!?」
上から降ってきた私に多くの視線と驚きの声が上がるがそのすべてを無視して目的の店を探すべく視線を彷徨わせる。
すると、少し端のほうにある大きめのエリアにドンと置かれたノールという服が置かれた店を見つけた。
・・・あそこか。
手すりから飛び降り、あまり不審に思われないように自然と向かう(めちゃくちゃ視線は殺到してます)。
店内は大きく、お客さんも何人かはいるがアイドル衣装の筈であるリリカは見当たらない。
あれだけ目立つ容姿と格好をしていれば騒ぎにもなっていそうなものなのだが、、、。
何度か店員さんに声をかけられながらも探し続けていると。
「・・・あ、エリスさん?」
試着室という箱の前を通ったときに急に声をかけられた。一瞬驚きで声が出そうになったが堪えながら聞き返す。
「リリカか?」
すると更衣室のカーテンが開き中からアイドル衣装のままであるリリカが顔を覗かせた。
・・・なるほど、広いモール内のたった一店舗の更衣室とか見つけるのは至難の業だな。
さて、綾人はどうやって見つけたのかな?疑問は残るがそこを気にするのは後にしよう。
「ね、ねぇ、私どうすれば。」
「むー、そうだな、、、まずは着替えたほうが良さそうだ。ちょうど服屋だし私が見繕ってこよう。」
「・・・え、ちょっと待ってよ!」
まずは着替えだな、そう思ってとりあえず店内に戻るが、そういえば長年騎士団にいたためオシャレとかわからん。
そういうのには昔から無沈着だったし何を選べば良いのだろう?
少し悩んだ末に目立たなければいいかとなるべく地味な服を上下揃えて持って行く。
体のサイズくらいひと目見たときから予想出来てるし、多分着れるだろう。
「これを着てくれ。」
「え、うん。」
服ごとまた更衣室に押し込み外でしばらく待つ。
中から(・・・なにこれ?)というつぶやきが聞こえたが個性を消せればいいと思い直して護衛に徹した。
すると、更衣室のカーテンが開いてリリカが出てくる。
黒のアウターに茶色のシャツ、深緑のズボンというまさしく地味な服装。うん、完璧ではなかろうか?
「・・・すごくダ、、、地味何だけど、逆に目立たないこれ?」
「む?」
そう言われて店内や外を見るとみんな適度に明るくおしゃれに着こなしている。
そんな中をこの地味な外見で歩くというのは目立つといえば目立つな。
「・・・ま、まぁ、正体がバレなければいいだろう。」
「それはそうだけど、、、。というかエリスさんのほうが目立つんじゃない?」
・・・?
自分の姿を確認するが特に目立つところはないと思う。スーツだって対して珍しい格好ではないはずだ。
「平気じゃないか?」
「無自覚か〜。これは一緒にいた人が苦労しそう。」
そう言われてもな。
視線を集める事はよくあったがもはや気にしていては何もできないので無視することに決めている。
あ、そうだ。とりあえず綾人に連絡を取るとするか。
「綾人、聞こえるか? リリカと合流したぞ。」
『おう、こっちでも確認した。とりあえずモールから出ることを優先してくれ。』
「む? ステージには戻らなくて良いのか?」
『あぁ、今日の部は終了してるしな。』
なるほど、それならわざわざモールにいる必要はないのか。
「・・・む、それならなぜ奴らはステージの終わった後を狙ったんだ? 終わる前に散らばされればステージに戻ってくることは確定だし、逃げられる確率は減るのではないか?」
『言ったろ? 警備は厳重だったんだよ。だから、ステージ終わりの気が緩む瞬間を狙われた。』
むー、そういうものか?
あの男の異能であればいくら警備がいても関係ないと思うが、、、。
『あんまり深く考えるなよ。奴らの考えはもっと単純だ。逃げ切る、それだけを考えとけ。』
「・・・わかった。」
わからなければ考えても仕方ない。
私はこの世界に来て常識やルールは学んだが考え方等は分からないからな。
とりあえず通話を切り、リリカに振り返った。
「では、モールから逃げるぞ。」
「え? でも着替えとか荷物は?」
「む? あー、多分平気だと思うぞ。」
連中の狙いはリリカだろうし荷物とかはマネージャーが運び出してくれると思う。
そもそも荷物を抱えての逃走はきついからな。
一番近い出口へ向かおうと歩きだすと後ろからリリカに引っ張られる。
突然の行動に首を傾げているとリリカがそっと私に耳打ちする。
「・・・前から犯罪者が来てる。」
「わかるのか?」
「うん、あのスキンヘッドの男。元はヤクザで名前は残蛇 京 異能は短刀使い。」
遠目でそこまでわかってしまうのか、、、。
驚愕が顔に出ないようにリリカを連れて壁側に寄る。
それでも視界は殺到しているが相手に意識と視線を送らないようにし、適当に人を待っているふりをして端末をいじった。
綾人から教わった人混みへの紛れ込み方その1だな。
男は一度こちらに視線を向けたが、特に気を留めることなく歩き去る。
「おぉー、バレなかったな。」
「・・・視線すごかったよ? 明らかに私達の並びに違和感感じてたからね。」
うん、確かに未だに通行人たちから多くの視線を感じる。おかしいなぁ、別に変な姿はしてないのに(主観)
「それにしても便利な力だな。これなら楽に出口へ向かえそうだ。」
「・・・・・うん。」
? 今何か間があったな。
リリカをみると彼女は影のある暗い顔を覗かせる。
その理由は私にはわからない。
留まっていても仕方ないのでとりあえずモール内を進む。
その後も何度かリリカからの助言を貰い、二階出口付近へとたどり着く。
ここで出れれば御の字であるがそう簡単にはいかない。
出口では一見普通の優しそうなお兄さんがいたが、リリカによると犯罪者らしい。
やはり裏口か?
それこそ張られている気はするが、戦闘はしやすくなる。
「場所を変えよう、こっちだ。」
「・・・うん。」
今度はスタッフ出口を目指す。
しかしそこも敵に張られていた。
・・・完全に囲まれてるわけか。
まずは合流か?
しかしどういうわけか他の人達から連絡が一切入らない。
連絡を取れるのは綾人だけでその点も不自然に感じる。
「ねぇ、少し休まない?」
つぎの手を考えているとリリカが青い顔を浮かべながら休憩をを申し出た。
たしかにずっと移動を続けていたし休息は必要か。
そう思い出来るだけ人気のない休憩スペースに向かい、席を確保する。
体調が優れなさそうだったので戸惑いながらも近くの自販機でコーヒーを買ってみた。
「大丈夫か? すまん、無理させすぎたな。」
そう言うと彼女は力なく首を振る。
「違うの、人が多いところを歩きすぎて頭がパンクしそうで。」
そこで私は自分の無神経さに気がついた。
彼女は異能で敵に気づいてくれていたがそれには常に多くの情報に気を配り、判断を下す必要がある。
私も気を配りながら歩いていたが負担は段違いであっただろう。
「すまん、気が利かなかったな。」
「ううん、エリスさんのせいじゃない。全部、、、全部この異能のせいだから。」
その瞳からは深い影が見て取れる。
私も席に座り耳を傾けるようにそっと彼女を見つめた。
「私、この異能が大っ嫌いなんだ。今のこの状況だってコレのせいだし、昔からずっと嫌な思いさせられてる。」
「そこまでなのか?」
「うん、だって見ただけでその人の好き嫌いとか趣味、経験人数に性癖までわかっちゃうんだよ? そんな事知りたくもないのに。」
たしかに余計な事前情報が入ればそれだけ勘繰ってしまうし付き合いを遠慮してしまったりするだろう。
「だが上手くいくことだってあるだろう。相手の好みが分かれば人付き合いもしやすい。」
「でもそれで人の好みに合わせて顔色をうかがって、私にも好みはあるのに相手の嫌なことは避けようと遠慮する。・・・そんなの楽だけど楽しくない。」
ふーむ、難しいな。
「・・・それに犯罪者に狙われることも増えていつの間にか私の周りは常に誰かが警護してる。今日のステージだってそう。皆紛れてるけど私にはわかっちゃう。・・・全員が私の歌に集まってくれてるわけじゃないって、私のわがままに付き合ってくれてるって。」
彼女の異能の恐ろしさは先程身にしみて理解した。
その力がもし犯罪者に渡れば多くの被害が生まれることは想定できる。そのため、国は彼女を常に警護する事を決めたのだろう。
・・・ただ、それを彼女は望んでいない。
自分のために、自分を見に来てくれた人に歌いたい。
それなのに、観客の中にいる大人は自分のせいで付き合わされている人がいる。
彼女のステージは本当に誰かを元気づけられているのか?迷惑をかけているのではないか?そういった自責の念が感じられた。
軽く目を閉じる。
私には彼女の悩みをわかってあげられない。わかるわけがないからだ。
・・・でも
「・・・それでも、アイドルは続けたいのだな。」
私が問いかけると彼女は涙がこぼれそうになった目を擦りながら頷く。
「・・・うん。昔ね、一度だけ外で見かけたアイドルがいてさ、私の異能で見た限りとても元気でいられるような体じゃなかったの。お金もなくてバイトを何個も掛け持ちして、無理してばっかで今にも倒れそうなほどに体はボロボロな人。・・・でもね、彼女は絶対にそんな様子を表に出すことはなかったの。」
彼女の起源、アイドルを目指した理由、それが訥々と語られてゆく。
「ある時ね、そんな彼女に密着した番組があったの。あまりにもハードなスケジュールに番組からも心配の声が上がる中、彼女は言ったの『私を見て、笑って、楽しんで、元気づけられた人が一人でもいたなら、私はその人のために歌い続けたい。心が折れない限り、私は死なないから。』って。」
憧れなのだろう。そのアイドルの話をするリリカの目はとても嬉しそうに輝く。
その暗さと明かりが混じる瞳は彼女の心を表していた。
「私はその人に元気をもらった。どれだけ辛くても常に笑って、明るく振る舞う。辛い言葉を投げかけられても応援してくれる人を信じて歌い続ける。・・・人を信じれなかった私には凄い衝撃だったんだ。」
リリカは踏み込めなかったのだろう。
相手の事がわかってしまう彼女には相手の心を信じれない。情報は読めても感情はわからない。だからこそ彼女は人の好みに合わせることしかできなかった。
そんなリリカだから、彼女の言葉はよく響いたのだろう。
「私はね、信じたくなったの。どう思われるかなんてわかんない。でも、もしかしたら、迷惑かけてばっかな私にも元気づけられる人がいるかも知れない。だから私は憧れたその人の背を目指したの。」
そう最後の一言を告げた後、再び影が落ちる。
「・・・でも、年々迷惑かけちゃう人が増えててね。その人たちのことを見てたらね。やっぱり私のやってることって正しいのかな?って思っちゃってさ。」
彼女は申し訳無さそうにこちらを見る。
彼女にとっては私も迷惑をかけている人の一人だからな。
だが、私はそんなことかと笑った。
「私はリリカのステージにワクワクしたぞ? 勇気をもらえるそんな歌声だった、君を見に来てくれた観客も同じことを感じたと思う。」
彼女は目を開く。
「大丈夫だろう。観客全員が警備員ではない、ちゃんと見てやれ、君を心待ちにしてる人は沢山いる。」
私には人を見る異能はない。
それでも理解できた、あのステージに魅入っていたのは決して私だけではないことくらい。
「それに私の事は友達と呼んでくれただろう。それならいいだろう、私は友達を守ることを迷惑だなんて思わない。」
目を見つめ、伝えたいことを伝える。
情報としての私ではない、私の感情をリリカに伝えるのだ。
「明日のステージ、一緒に楽しましてくれ。」
そう言って私は優しく微笑んだのだった。




