護衛任務ー1
極東防衛国 第3区の大型ショッピングモール
中は5階建ての吹き抜けになっており、広大な敷地面積と店舗保有数を持つ。
ここのステージは大きく、借りるには結構な額がかかる筈なのでリリカというアイドルはそれなりに有名人なのかな?
あまりTV見ないからわからないんだよね、最近は動画配信サイトしか見てないし。
「・・・すごい人だな。」
「だな、見てるだけで酔いそうだ。」
今は店舗に並ぶ吹き抜けの5階から下を見下ろしている。一度軽くモール内を回って土地勘をつけた後に今は状況の俯瞰。
一番下の階にあるステージでは大人達がせっせと準備と調整を行っていた。
「そろそろ下に行くか、俺達も挨拶位はしないとな。」
「あぁ、行くか。」
エリスはぴょんと手すりから離れて二人でエスカレーターで一階に降りる。
エレベーターに乗ろうかとも思ったが、どこで誰が見てるかわからないし、出来るだけ密室は避けたい。今日はアイドルの護衛だが、エリスが狙われなくなった訳じゃないからな。
一階の大モニター付属のステージ裏に作られた簡易スペースに入ろうとするが、眼の前で黒尽くめの男たちに止められた。
「待て、ここからは関係者以外立ち入り禁止だ。」
もっともな理由なので素直に俺とエリスは懐からライセンスを取り出して提示する。
思ったより年齢が若いことに驚いたのか少し目を開いたがSPらしき男は素直に中に入れてくれた。
中は人は多いが狭くなく、それなりのスペースが確保されていた。
軽く見渡すと護衛らしき黒服と警察官と刑事らしい男がおり、その奥にはカラフルな服を着た女性がマネージャーと話し込んでいる。
とりあえず挨拶しようかと思って歩き出そうとすると、先に刑事らしき男が近づいてきた。
眉間に刻まれたシワとツーブロックをした厳つい中年太りの子供が見たら泣きそうな刑事はこちらに向かって手を挙げる。
「相変わらず不幸面してんな綾人、2ヶ月ぶりか?」
「不幸面は余計だろ、蕪良刑事。あんたも相変わらず見ただけで子供が泣きそうな仏頂面じゃねぇか。」
彼は何度か現場で一緒になり、今では軽口を叩き合える様な仲になった蕪良 冬吾という刑事。
国の管理下にある警察と国際的な組織である対策局はぶっちゃけ仲良くないのだが、別に個人間の付き合いならそこまで根深くはない。
・・・嫌なことは嫌らしいから嫌味はしょっちゅう言われるけどね。
「にしても、警護に刑事が必要か?」
「俺だって仕事だ、上からの命があれば必要不必要なんて考えずに出張るもんなんだよ。」
「つまり納得はいってないのね。」
「・・・まぁなぁ、異能犯罪者に対策局はわかるが刑事はいらなくねぇか? 指揮権は与えられてるから現場を見とけって話だろうけどよ。」
・・・それだけこの件は重いのか? いや、それにしては出張る奴がそこまで偉くないけどね。
んー、まぁ詳細を聞いたほうがいいか。
「・・・それよりも後ろの嬢さんは誰だ?」
俺が顎に手を当ててると蕪良が後ろのエリスを見て聞いてくる。協力するんだし紹介しとくべきだよな。
「最近対策班に入った新人だよ、名前はエリスだ。」
「エリス・ル・ラクラットだ、よろしく頼む。」
「あ、あぁ、蕪良 冬吾だこちらこそよろしく。」
こいつ、いまエリスに見惚れたな?
呆れた半目を向けると蕪良はすっと目を反らしやがった。
「・・・あの、そこどいてもらえますか?」
入口で話し込んでしまい、後から入って来た人の邪魔になってしまった。
その人は目深にキャップを被り、地味目ではあるが上手く着こなされたTシャツとデニムがよく似合っていた。
申し訳なく思い道を開けると、彼女は俺を見て目を丸くする。
・・・ん? 顔になにか付いてる?
「・・・え、見えない?」
「失敬な、俺にも見栄くらいあるぞ。」
「いやそういうことじゃねぇだろ。」
あ、違うのね。
てっきりプライドのなさそうな奴だなって顔を見て言われたのかと思っちゃった。
概ね理解ができた俺は奥に座っていたカラフルな女性とマネージャーに視線を向ける。
彼女たちは立ち上がりこちらへと歩いてきた。
「遅かったわね、リリカ。・・・5分遅刻よ。」
「ごめんなさい林田さん。慣れようと思ってモール内を歩いてたんだけど酔っちゃって。」
「まったく、準備があるんだから早くしなさい。」
「は~い。」
慣れた足取りでリリカと呼ばれた彼女とマネージャーは奥へと向かう。
挨拶くらいあってもいい気がするけど、わざわざ言いに行くのもめんどいし落ち着いたら行こうと思う。
そしてアイドルらしき洒落てる格好の桃色が混ざった金髪の女性に目を向けると、、、
「じゃ! あたしはテキトーにモール内をフラフラしてきますね〜。」
そう言って外に出ていった。なんじゃそりゃ。
よくわからないので蕪良に視線で説明を求める。
「彼女はリリカ専属SPの1人だ。風貌が似てるんでああやって外で囮として動いているらしい。」
「あー、影武者ね。そりゃ良い作戦だこと。」
そう呟いて奥に目を向けると帽子を取り、先程の女性よりも自然に見える桃色が混じった金髪を降ろし、色んな人達と話し込むリリカが目に入る。
隣に美の境地みたいなやつがいるからよくわからないけど相当可愛いな。
ちなみになんでエリスが騒がれないかというと彼女には伊達メガネをかけてもらっている。うん、意味ないね。俺が壁になってるだけです、はい。
モール内を歩く時に視線が殺到して泣きそうだったもん(俺が)。
「・・・さっきの女性は平気なのか?」
「さぁな、だが彼女だって訓練された人間だ。犯罪者と遭遇するリスクだって理解してこの仕事をしてるわけだし、気にしすぎるのも違うだろ。」
・・・そういうもんか。
でも別に気にしなくて良いわけじゃないし、ちょくちょく気を配ってはいよう。何が起こるかわからないのがこの世界だしな。
「なぁ、綾人。私達はここに居てよいのか?」
すると、エリスは護衛らしいことをしてないのに焦りを感じたのか俺に問いかけてくる。
その際に姿が他の人にも見えるので何人かが見惚れたり、咽せたりしていた。
「あー、俺達は護衛だってバレたくはないわけ。だから変に勘ぐりながら歩くと敵に警戒されるだけだから交代で見回りする感じかな。そんで、ライブが始まったら一般客に混じりながら周囲を警戒って手順。」
「要は尻尾を出させるわけか。」
「そゆこと。」
警戒してるよって言うのは外の制服を着た警官たちに任せて俺達は隠密。実際にもう何人かは集まり始めた観客に混じって警戒してるしね。
「・・・ねぇ!」
淡々と状況をエリスに教えていると鬼気迫る表情で奥に行って話していた、リリカが戻って来てエリスの肩を掴んだ。
普通に躱せたとは思うけど敵意のなさと思わぬ剣幕にビビって固まってしまったみたい。
「・・・あなた、めちゃくちゃ綺麗ね。」
「む、そ、そうか、ありがとう貴様もなかなかだと思うが、、、痛い!」
護衛相手に貴様とか抜かすな、失礼やろ。
俺は思わずチョップをかましてしまった。
「何をするか!」
「うるせぇ新人、知らない人には敬語を使えって教えたろ。」
「・・・む? そういえばそうだったな?」
頼むよマジで。人から得られる心証ってすごい大事なんだかさ。
「別にいいよそんなの、、、? え?あなた、、、んん?」
リリカは突然首を傾げて困惑し始めた。
そこまで来てようやく俺は違和感に気づく。そういえばこいつの異能は、、、。
「・・・騎士ーームグ!」
「ちょーっと、アイドルさん!? 個人情報は守りましょうね!?」
思わず俺がインターセプト。
リリカはハッとした様子で口に手を当てて静かになった。
「あ、ご、ごめんなさい。驚いてつい、、、。」
「あのなぁ、、、ほんと頼むよマジで。」
てかよく考えたらこいつとエリスって会わせちゃだめじゃね? まぁ、出身国名とかわかってもそんな国あったっけなー?って思うだけだろうけど、騎士団長とかみたらぶっちゃけ笑う。
「うんうん、よくわからないけど外国の方なんだね。」
「うむ、まぁそうだがな。」
「いやーそれにしてもすごいなー、化粧をしなくても充分綺麗だし髪はサラサラ、体型は少し小柄かな?てか、肌ピチピチ過ぎない? 化粧水とか何を使ってるの?」
「あ、あやと〜、、、。」
グイグイ距離感を詰められて涙目になりながらこちらにこちらに助けを求められる。
いや俺に助けを求められても困るんだがな。
・・・はぁ〜〜
「はいはい、そのくらいでな。後ろのマネージャーも困ってるぞ。」
「え?」
リリカが振り向くと困ったように顔をしかめるマネージャー。実際に忙しいから準備してほしいんだろうな。
「もー、仕方ないなー。ねぇねぇ、もし良かったら今度一緒に遊びに行かない? というか、友達にならない?」
「え、え!? わ、私とか!?」
「・・・?? そうだよ? だめかな?」
・・・エリス、お前何をそんなにキョドってんの?
陽キャの自然な友達発言に動揺してめちゃくちゃテンパってる姿に涙が出てくる。
よかったな、この世界で遊びに行ける奴ができて。
「か、構わないが、、、。」
「やった! じゃあステージ終ったら連絡先交換しよ! また後でね!」
リリカは手を振りながらこちらから遠ざかる。
エリスはまだ困惑しているようだがどこか嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。
ーーー
それからはステージが始まり、俺達は護衛の任務に入る。というか、観客に混じって周囲を警戒してるだけ何だけどね。
隣のエリスは周囲の警戒よりステージに釘付けになっていた。・・・お前、仕事忘れてない?
周囲を見るが、観客はたしかに多い。だが、密集という程ではなく余裕はあるな。
これだけ人気ならこの広いモールに呼ばれるのも納得だ。
俺もそっとステージを見ると完璧な化粧と衣装に見を包んだリリカが迫力のある歌声とキレのある踊りを見せる。
・・・ただ、その表情には少しの強張りが感じられた。
「・・・。」
『ごめんなさい林田さん。慣れようと思ってモール内を歩いてたんだけど酔っちゃって』
先程裏側での会話を思い出す。
恐らく彼女の異能は常時発動型であり、自分の意志では止めることができないのかもしれない。
つまり彼女の視界には常に人より多くの情報が入ってくるのだろう。
入ってくる情報が多ければ多い程記憶の処理には時間がかかる。人が多いモールという環境は彼女にとって負担が大きいだろうな。
「・・・それでもなりたい職業、、、ね。」
俺は周囲を警戒しながらそっとステージを見守る。
その時の顔は一体どんな顔をしていたのだろうか、、、。
ーーー
ステージはつつがなく終わった。
俺達はステージ警護を任された警官に後を任せて先にステージ裏へと戻ることになる。
裏では襲撃が予測されていたのに何も起こらず拍子抜けの空気が漂っていた。
そこへ拍手と歓声を受けたリリカが戻ってくる。
彼女は晴れやかな顔で裏手にいた全員に向かって頭を下げた。
「今日はありがとうございました! 皆さんのお陰で無事にライブを終えられました! また明日もよろしくお願いします!」
あ、そういえば2部制だったね。すっかり忘れてたわ。
ちゃんと任務内容にも2部制と書いてあるし、エリスにも伝えてあるので問題はないけどね。
そう考えながら遠くを見ていると、事件は起きる。
彼女の挨拶に全員が拍手を送り、皆が口々に労いの声を掛けていると、背後の暗幕が開かれた。
そこから姿を覗かせたのは合羽を着ている緑髪の華やかな青年。
姿を確認した瞬間に俺とエリスは即座に動くが、青年は一つ手を叩く、その瞬間に俺とリリカを除いた全員が姿を消した。
「ーーはぁ!?」
「・・・あれ? ひとり飛ばせなかった?」
人がいなくなりフリーとなったリリカを背後に隠すように一度戻る。
青年はまぁいいか、と腕を開いて笑みを浮かべた。
「えー、やだなぁ。俺戦闘能力は無いからさー、こういうことしかできないんだよね!!」
手を懐に潜り込ませようとした瞬間には一歩で肉薄。
急に目の前に来た俺に目を見開いた相手は後ろへと転がった、そこから漏れ出た拳銃を確認して俺は舌打ちを漏らす。
・・・ふざけんなよ、こんな人がいるモールの中で銃なんか打たれようものなら大騒ぎになるだろうが!
一撃を加えようと拳を振り上げるが青年は慌てたように手を叩く。
俺は反射的に振り返るとさっきまで後ろにいたリリカが姿を消していた。
くそ! こいつ初見で異能がわかんねぇ!
「何処にやっ、、、っ!」
「あはは! 油断したねぇ!」
振り向いた際に生じた隙に取り出されたバタフライナイフを突きつけられる。胸を狙ったナイフを手の平で防ぐが刺し貫かれ、血が流れ落ちた。
「さぁどうする!? この広いモール内で誰が最初にアイドルを見つけられるかな!? 急いだほうが良いよ、もう仲間たちは散らばってる!」
うるさく叫ぶ青年の顔面をぶん殴って気絶させ、俺は即座に裏から飛び出した。
お客さん達の視線が殺到するが気にしてられない。
相手の口ぶりから彼女はモール内の何処かにいる、ただモール内は人が多く、敷地は広大だ。
・・・走って見つけられるか? いや難しいな、犯罪者共も紛れ込んでるらしいし時間が足りない。
「だから頼むぞ、エリス。」
俺は俺にできることをしようとある場所へと向かうのだった。




