お金は大事(他人の金で食う肉は娯楽)
ーー
「では、名木田君が無様に敗北を喫したところで模擬戦は終わりにしましょう。」
「・・・。」
こちらを見ていた帆哭さんが戦いが終わって直ぐ、俺に追い打ちをかけて模擬戦の終わりを告げた。
別に終わりを告げられなくてももう続ける気もなかったしここまで言わなくても良くない?
「では次は検証に移りましょうか。・・・ラクラットさん、魔法は使えますか?」
「あー、魔力は未だに万全ではないがこのくらい充填されていれば倒れることはない。」
エリスは手を閉じたり開いたりしてなにかの調子を確かめている。恐らく魔力なんだろうけど傍目から見たらただ体の調子を確かめてるだけだな。
ちなみに俺は既に立ち上がってニコニコしていた。
「・・・なんで貴様は負けたのに不気味に笑っているのだ?」
「別に負けたところで俺に損はないしね。あと、不気味は余計な?」
負けたら焼肉奢らないとも言われてないしね。条件は戦うことだし、帆哭さん的にも俺に意図を汲んでもらえて満足だろう。
「・・・まぁ、上司としては勝って欲しかった所ではありますが役割は果たしてくれましたし、夕飯位はおごりましょう。ラクラットさん、貴方も前の世界で戦いに身を投じていたとは思います。しかし、この世界での戦闘はあの様に搦手を多用してくる輩が多くいます。」
「ふむ、なるほど。魔法での搦め手を使う敵もいたがここまで予備動作なく自然とやられる事はなかった。綾人の動きを私は一切疑えなかったのは確かに脅威だな。」
「そこは彼が意識の隙を上手く付いたからですね。予想外の動きで錯乱、隠し持った武器の使用など参考に出来ることもあると思います。これからもよく見て対策や活用を勉強してくださいね。」
・・・なんか遠回しに小賢しいって言われてたりする? 考え過ぎかな。
ーーー
その後は魔法について検証を始める。
結果的に言えば俺が触っていればエリスは魔法を使うことはできなかった。というか剣と鎧すら出せなかったな。
原理はよくわからないけど魔法と異能は似たようなものかも知れない。
ま、どっちみち専門家じゃないから詳細はわからないし、俺の異能が通じることがわかっただけでも上々かな。
ただ、勿論それは獣屋に知られるわけでして、、、。
「え、え、な、なんすかいまの?」
降りてくるように言われた獣屋がバインダーをタブレットを持ちながら明らかに狼狽していた。
彼にも異能は武装召喚と伝えてあるのに手から炎とか水とかだしてればそういう反応にもなるわな。
ちなみに彼は黒が混じった金髪を肩まで伸ばしたつなぎを着る工場勤務のヤンキーみたいな格好をしていた。
「実はですねーーー。」
どうやって誤魔化すのかな?と考えていたのだが、帆哭さんは彼にすべてを告げた。
彼は一瞬顔を唖然とさせたが顎に手を当てて考え始める。
「・・・異世界、、、異能とは別の異常能力っすか。多重世界なのか、多次元世界に位置するのか、それとも別の星からの転移なのか。うーん、召喚されてる現場と召喚原理がわからないと再現は難しそうっすね。」
「え? 何お前異世界召喚を再現しようとしてんの?」
「で、出来るのか!?」
考え出した獣屋に疑問と驚きを抱き、エリスは思わず聞き返すが、獣屋は手を振って否定した。
「いやいや、まだ無理っすね。異界先の座標も分かりませんし、界を開く方法もまだわからないっすから。その魔法陣とやらと使われたエネルギーを詳しく調べたいところすっけど、燃え尽きちゃったとなると調べられないって話っすよね?」
「はい。ただ、グリーンパイソンを調べればそのうち分かるかもしれませんね。」
まさか本当に異世界の渡り方を考えてんの?
やっぱ頭のいいやつは考えることが違うんだな。出来る出来ないと決める前にできる方法を考えようとするんだね。
エリスはがっかりしていたが、希望があるとわかっただけ表情は明るい。
「ふむ、やはり古賀君を巻き込んで正解でしたね。・・・では皆さん次は座学ですよ、行きましょう。」
「・・・えぇ、まだ続くの?」
「うむ、まだまだわからないことも多い。よろしく頼む。」
「え、自分もっすか?」
長い検証が終わると、次は眠気を誘う座学となった。内容は単純でお金の使い方や法律等など、俺が教えた常識より圧倒的に幅広く、難しい内容となっている(なぜか参加させられる俺)。
その座学が終わって俺達はようやく開放されたのだった。
ーーー
とあるビルの12Fにある高級焼肉店の個室に俺達4人はいた。
睨むように網を囲み、焼けた瞬間に喰らおうと目を光らせる、、、ことはなく普通に焼いて楽しむ。
まぁ、エリスは焼肉初めてだし、ここにいるメンツは我先にと焼肉を取り合うような性格じゃないからね。
「・・・おぉ! これは素晴らしくうまいな、肉がとろけるぞ。」
「お口にあったなら良かったです。」
近所の子供をあやすように帆哭さんはエリスの世話を焼き、俺と獣屋は適当に人数分焼いた肉を取り分けたりしていた。
「いやー、外食なんて久しぶりっすね。最近は工房に引きこもってたのでいい気分転換になるっす。」
「へー、そうなのか。でもお前副リーダーだろ? 接待で外食とかないの?」
「そういうのは基本リーダーに任してるっすからね。てか、お前には向いてないって言われたっす!」
そう言って獣屋は笑うが、俺は顔をひきつらせる。
こいつは製造、開発関係にはピカイチの才能があるが、交渉や商談には不向きなんだよな。
自分の喋りたいことや言わなくていいこともズケズケ言ったりするいい意味だと裏表がない人間だが、足元を掬われやすい。
開発班リーダーである楠木さんの心労が推し量られる。
「・・・まぁいいや、そんで? お前はどれだけ異世界転移が可能だと考えてるんだ?」
俺は獣屋が考えていた転移に付いて聞くことにした。
この店は帆哭さんの行きつけであり、更に個室で防音仕様と内緒話にうってつけの環境になっている。
「直球っすね?」
「まぁな、お前なら開発できる可能性が高いと踏んだから帆哭さんがお前に話したんだろうし、口は軽いが秘密を漏らす性格でもないだろ。」
彼に異世界のことを伝えたのもそのためだろう。どのみち対策班だけにできることは限られる。帆哭さんが信用できると踏んだ人物だけに少しずつ伝えていくんだろうな。
その初めの人選が獣屋だったら納得だ。
「綾人くんにそこまで言ってもらえるなんて嬉しいっすね。」
「別に褒めてねぇわ。」
「相変わらずツンデレっすね〜。男のツンデレは需要ないっすよ?」
(・・・うぜぇぇ。)
明らかに不機嫌になった俺に軽く謝り、獣屋は俺達に向かって自分の考えを話した。
「まず初めに言っとくっすけどこれは俺の推測であって正解とは限らないっすからね?」
「えぇ、構いません。私達は少しでも情報がほしいので。」
(コクコクッ!)
先程まで焼き肉に感動していたエリスも今は獣屋に期待の視線を向けていた。
「・・・そうっすね、では綾人くん。君は世界ってなんだと思うっすか?」
急に哲学のような話を振られ、俺は戸惑いながらも答えた。
「地球?」
「それも答えの一つっすかね。俺は今いるこの場所こそが世界だと思ってるっす。」
哲学とかに一切興味がなさそうな職人が楽しそうに目を細める。帆哭さんも獣屋が開発以外の話をすることが珍しいのか興味深そうにしていた。
「つまり?」
「つまりこの宇宙全体、銀河系よりも遥かに遠いすべての星が俺達のいる世界っす。何が言いたいかって言うと、異世界に宇宙があるとは限らないって話っすよ。」
「???」
なんか色々と飛ばされた気がする。
思わず疑問符を浮かべた俺に獣屋は苦笑いを浮かべた。
「異世界は層の重なりに存在してると俺は思ってるんすよね。例えばっすけど天国や地獄に宇宙はありそうっすか?」
「それは、、、。」
そう言われてみるとあると思ったこと、とういうか考えたこともないな。
「天国と地獄は別世界である、、、そう考えるとこの世界に置いて地球に転移出来たというのはかなりの確率だと思うんすよ。しっかりとした転送場所の座標と指定、世界間の繋げ方が立証できない限り、無茶な転移は自殺みたいなものっす。だからこそ多くのデータやそれに耐えうる設備と素材が必要なんすよ。」
話だけを聞くと本当にとんでもない。
先は長く多くの時間が流れるだろう、それは本当に俺達が生きている間に可能なことなのか?
各々が道行きの長さに顔をしかめるが獣屋だけは晴れやかな顔をしていた。
「つっても俺の頭には理論が出来上がってるんすけどね。」
「は!?」
思わぬ返答に俺とエリスは顔を上げた。絶望から希望を抱かせるとは、、、こいつ本当に交渉下手か?
「さっき言った天国地獄すよ。地獄は宗教の違いで魔界と呼ばれることもあるっすけど、異世界においての魔界とやらも、もしかして地獄と同じ世界じゃないのかと俺は思ってるんすよね。」
「魔界は地獄で、異世界にあるという天界は天国ってことか?」
「そうっすね。すると、一つの行事が思い浮かぶんすよ。この国には古来からの祖霊信仰でお盆って行事があるんす、それは祖先を一時的にこの世界に迎え、讃える行事なんすけど、死者の世界が天国地獄であるならこの世界はその時、繋がってるとは捉えられないっすか?」
得も知れないオカルト話だ。
それでも、思わず納得してしまう説得力があった。
ただ、その話には欠陥がある。
「・・・死者の魂なんて誰を見たことないだろ。世界があるかどうかの証明にはならん。」
「確かにそうっすね。でも、世界には昔から幽霊やらゴーストといった摩訶不思議な現象が確認されてるっす。今回のエリスさんの件で異世界があるとするならば、ないとは言い切れないんすよ。」
そう言われて俺は目を見開いた。
そうだ、そもそも異世界というのも今まであったらいいな面白そうだなという理想論でしかない。
それが立証された今、そういった世界の存在を否定することは出来ないだろう。
「ま、仮にそうだったとしても、言うは易し行うは難し何すけどね。現象の確認ができてない今、藁にも縋りたい思いっす。必要そうなものは若干頭に浮かんでるっす。後は、似通った能力の異能者とエネルギーっすね。・・・ちょうど綾人くんが捕まえた引き寄せの異能者からも良いデータが得られそうっす。」
実行犯ロット兄弟の弟であり、引き寄せの異能を持つブルル。彼は実際開渡りを成功させた男だ、話を聞く必要はあるだろう。
「やるべきことは定まってきましたね。まずはロット兄弟の尋問とグリーンパイソンの制圧を目指した方が良さそうです。元々彼等はラクラットさんを狙っていますし、丁度いい。」
「・・・狙われてる? どういうことだ?」
まだそのあたりの話はエリスにしていない。
別にもう隠す必要もないな、彼女は当事者で力もある。遠ざける必要はない。
「そこら辺もちょうどいい機会なので説明しますか。」
帆哭さんは改めて姿勢を正しこの国に巣食う悪について説明を始めた。
「数ある異能犯罪者集団の一つ、グリーンパイソン。彼等は過激派で薬の売買に破壊活動、思想の押しつけに誘拐や窃盗、殺人などに躊躇いがありません。・・・そして一番厄介なのはリーダーが未だに判明していないところですね。」
「隠れているのか?」
「いえ、表立って動いていますがマスクをしていてわからないのです。」
彼等の特徴は雨合羽に特徴的な爬虫類のマスクを付けている。それはリーダーも同様でリーダーの異能は判明しているが姿は確認できていなかった。
「リーダーの異能は『倍化』未だに底が知れませんがとても危険な異能です。構成員達も厄介な異能者ばかりで容易に潰せるような組織では決してありません。」
最初は小さくても今では裏を牛耳る一大組織。
無策で挑めば対策局が潰されかねない危険な相手だ。
相手するには十分な準備が必要になる。
「・・・後、一人だけ知っておいたほうがいい人物がいます。」
その瞬間、帆哭さんの無表情な目に深い、深い、怒りが宿った。
「その人物は神斗。永久指名手配犯で見つけた瞬間、即殺害が許可されてるほどの危険人物です。」
ーー
「ーーへきしゅっ!」
誰もいないビルの屋上。
そこにいた仮面を被ったスーツとトレンチコートを合わせた怪しげな青年。
「うーん、誰か噂でもしてるのかな? ま、僕の話しなんてされてないほうが珍しいか。」
仮面の青年は特に気にした風もなく立ち上がって伸びをした。
風が吹き、彼のコートをたなびかせる。
「ーーう、うぐ」
風の音にまじり、青年の後ろからうめき声が聞こえた。それに応えて青年は振り返る。
そこには二人の男女が倒れていた。
男の方は腹を刺され、血を流していたが生きている。致命傷ではあるが死んではいなかった。
もう一人の女性は目立った外傷は無く、血も流れていなかったが目を閉じ微動だにしない。
青年はステップを踏むような軽快な足取りで男に近づいてゆく。
「・・・あはっ! 辛そうだね?苦しそうだね?どう? 僕が憎い?」
場にそぐわない明るい声で男に声を掛ける。
男は登る血を呑み込みながら青年を睨みつけた。
「ーーテメェ! よく、、、も!」
「うーん、苦痛の顔って最近見飽きて来たんだよね〜。」
青年は男の前にかがんでつまらなそうに呟く。
仮面で顔色は伺えないがとても退屈げであった。
「てことで、、、」
ーーパンッ!
青年が手を叩くと、男の隣で倒れていた女性がふらりと立ち上がった。
その目に光はなく、口からは涎が垂れている。
「・・・摩那香?」
「・・・。」
男が女性の名を呼ぶが返事はない。
女性はふらりと動いた後に男の腕を叩き潰した。
「ーーッ! ぐぁああぁ!」
苦悶の声を漏らして脂汗を流すが、男は青年をにらみ続けた。
「摩那香に何をした!?」
「良いよ良いよ、もっと頑張って怒ってね。後に見える色が僕は本当に好きなんだ〜。」
青年は何かを励ますように手をたたきながら男を応援する。
男は鬼の形相で腕に力を込めて無理やり立ち上がった。
そのまま手に雷を纏わせ、青年を刺し貫こうと地面を踏みつけ飛びかかろうとするが、、、
だが、その時には状況が変わる。
ーーベキッ! ゴキバキグキベキ!
骨と筋肉と関節が軋む音が響き、男は視線をずらす。
摩那香と呼ばれた女性の体が無理な方向に曲がり、更にそこから昆虫の脚の様な節足がいくつも飛び出し、顔からは口の割れたカマキリが飛び出した。
「・・・は?」
男は立ち尽くし、手の雷は霧散する。
苦楽をともにし、バディとして長年共に生き抜いてきた彼女の歪な姿は男の心を壊すのに十分の威力を誇っていた。
「ばいばい」
青年がヒラヒラと手を振ると姿を変えた彼女が腕を振るい、男の上半身を吹き飛ばした。
男はその一撃で絶命し、血溜まりを作りながら倒れ伏す。
「ーーッ! いいよ! いや~、やっぱり綺麗だなー。」
青年は歓喜に打ちひしがれたように身を震わせて手を広げた。彼女だったものは骸となった男を見下ろしながら涙を流す。
「君もとてもきれいだよ、摩那香ちゃん。これからもよろしくね。」
青年は彼女の肩を叩いてその肩に飛び乗った。
摩那香だったものは背中から翅を生やしてビルから飛び降りる。
「ーーもっと、もーーっと綺麗な色を探すとしよう! 僕が飽きるまで、、、ね。」
夜空に目の模様が描かれた仮面が鈍く輝くのだった。




