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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号


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能無しの利点


ーージジッ




「・・・ん?」



気付くとエリス・ラクラットは夕焼けと頼りない街灯に照らされた路地に立っていた。


あたりを見回してみても先程のコンビニもなければ綾人もおらず、周囲に他の人の気配すら感じることはない。



「・・・ふむ、前向きに考えると捜査は進んだが、代わりに変なところに連れ込まれたということか。」



顎に軽く手を当てて考えるが状況は良くないだろう。不気味な感覚がするし、綾人もいない。


バラバラに飛ばされたか、それか巻き込まれていないか。



「それにしても入った瞬間に奇妙なところに飛ばされるとはまるでダンジョンだな。」



ただ、運がいいことに元いた世界でも似たような現象にあったことがあるので、そこまで冷静さを欠くことなく分析できる。


もし迎えが来る可能性があるなら動くことは愚策だが、この変な場所に綾人が来ていないとなると行動を起こさなければ出ることも叶わない。


取り敢えず歩いてみようかと、一歩踏み出すと前に一匹の黒猫がいた。



「うん? さっきの黒猫か?」


「ニャー」



猫は一声鳴くと踵を返して歩きだし、少し進んだ後にこちらを振り向いてもう一度鳴く。



「・・・・・ついてこい、ということか?」



それだけ呟くと猫は再び歩き出す。

不気味な感覚がするが、他に思いつくこともないので猫についていくことにする。


猫は何度も路地を曲がりながら先導していく。



「ニャー」


「・・・ん?」



すると、今度は後ろから鳴き声が聞こえたので振り向くがそこには猫はいなかった。

気のせいかと思い視線を戻すと先程まで前を先導してくれていた猫は姿を消していた。


暗い路地裏に一人取り残されてしまう。



「むぅ、流石に帰り道がわからん。進むしかないか?」



・・・これは、惑わされたか?


もはや帰り道もわからず路地の奥に誘われ、取り残された。このまま出ることが叶わければ餓死することになるだろう。



「歩いても仕方ないな。」



普通の人であれば恐怖と焦りで思考を止めることになるだろう。

だが、エリスは歴戦の騎士であり、手は残されている。



「『精霊武装』」



そう唱えると白銀の鎧と剣が顕現し、背中には純白の翼が広がる。

エリスは翼に力を込めて飛び上がり、上から路地を見渡すことにした。


すると眼下に広がる入り組んだ路地。



「巨大な迷路だな。」



明らかに先程までいた場所ではない。

それを確認して視線を巡らせると、ある一箇所だけ開けた場所があることを見つける。


特に怪しい雰囲気があるわけではないのだが、少しでも情報が得られればいいとそこに降り立つ。


降りた場所はビルとビルの間に形成された僅かな空き地。周囲にはなにもない。



「ニャー」



再び聞こえた猫の鳴き声


振り向くと一匹の猫。



「ニャー」



別の方向からも鳴き声が響きそちらを向くとまた別の猫がそこにはいた。

それを皮切りに次々と色んな方向から猫の鳴き声が聞こえると一匹、また一匹と現れていき、気づいたら周囲を囲まれ、埋め尽くす。



「・・・ここまで多いと不気味だな。」



明らかな敵意を感じたので剣を構え、戦闘態勢を整える。あの可愛い生き物を斬るのはいい気分ではないが戦場での躊躇いわ大きな災いを呼ぶ。

そのことをエリスは身にしみて理解していた。



【ニャーーゴ】



全方位に警戒を割いていたら一際体の芯まで響く低い鳴き声が響いた。

そこには逆立った灰色の毛と真っ黒の目を怪しく滲ませた巨大な猫と呼ぶべきかすら危うい化け物が現れる。


その異様な雰囲気に自然と頬を汗が伝う。



「お主を斬ればこの世界からでられるのか?」


【ニャーゴ】



言葉が伝わっているのか知らないが化け猫は一度ウデを上げて振り下ろす。

すると、エリスと化け猫の間にドサドサッとなにかが落とされる。



それはよく見ると街中でみたような服を着た人達だった。


全員が痩せ細り、急所の首を噛みつかれたような生々しい傷跡が目に入る。

骨等もばら撒かれているのをみるとだいたい状況は理解できた。



「・・・なるほど、人を誘い込んで喰らう化け物か。」



この空間の外にいた猫たちも人を寄せ付け誘い込む手伝いをしていたのだろう。



【ニャーーゴ】



化け猫は鈍く光る鋭い歯をのぞかせながら口を弧の形に釣り上げる。


まるで嘲るかのようなその笑みは化け猫の残虐な気性を表していた。


化け猫が腕を振り上げると周囲の猫たちが黒い瘴気を纏い、目を光らせてこちらに飛びついてくる。



エリスは極めて冷静に剣を振るう。



彼女にとって敵に囲まれることなどは日常であり、小さくはあるが飛びかかってくるだけの小動物に遅れを取ることはない。

舞のような剣閃で次々と斬り落とし、それが30秒ほど経つと化け猫は異常に気づき、突撃を止めた。


エリスはその瞬間を決して見逃さずに化け猫へと肉薄下から上へと首めがけて斬りかかる。


化け猫の首は血しぶきを上げながら地面へと落ちた。



「これで、、、ッツ!」



殺したと思い込んだ化け猫は前の首のない死骸はそのままに気づくと横に現れ大きな口を開けてこちらの首を狙う。


エリスはその噛みつきを剣で受け、回るように受け流す、そしてがら空きになった背中に剣閃をお見舞いした。



【ニャーーゴ】



しかし、遠くから響く低い鳴き声は止むことはない。


跳ねるように振り返ると猫は再び腕を振り落とし、周囲の猫たちが突撃を始めた。

先程より数が多く、その場で足止めをくらってしまい、化け猫に近づけない。


その現状に焦りを覚える。


もし、化け猫が不死身なら。

もし、この攻撃が止むことがなければ。

もし、この異界に出口がなければ。


嫌な考えはとめどなく溢れ、呼吸が乱れる。


だが、エリスは口に笑みを浮かべた。



「いいだろう、なら殺し合いだ。貴様が死ぬまで斬り尽くしてやる!」 



言葉とともに剣閃は鋭さを増す。

だが、繊細は鳴りを潜め、被弾が増えて小さな怪我は増えた。


それでもエリスは化け猫へと一歩ずつ近づいていく。



両者ともに口元へ笑みを浮かべる。



決死の一撃を加えようと今一度化け猫の下僕を払おうとした瞬間、エリスはある違和感に気づいた。



(・・・ん? 猫の数が減った?)



怒涛の質量攻撃が気づいたら薄くなっていた。

それは、化け猫にとっても予想外らしく、顔を歪めている。



「・・・お前って、どちらかというと狂戦士寄りだったりする?」

 


血の匂いが充満する空間に緊迫感の欠片もない気だるげな声が耳に届いた。

その声の方をみると化け猫の背に添えるように右手を置いた綾人が立っている。



「お前、来れたのか?」



綾人の異能は能無し、能力を食らうことはないはず。

エリスの視線を受けて綾人は頭の後ろを掻いた後、ヤレヤレと肩を竦めた。



「ん? あー、勘違いしたか。残念だけど俺の異能はすでに発動された異能には無力なんだよね。」



その自嘲気味な笑みは「本当に半端な異能だよね」と語る。


化け猫は背中に手を添えていた闖入者に顔を歪め、振り向きながら爪を振るう。


しかし、その爪が綾人に届く前に眉間に添えられたハンドガンの引金が引かれ、化け猫は崩れ落ちた。



「綾人! まだ終わりじゃない! その化け猫は不死身だ!」



エリスは油断しないように叫ぶ、すでに二度は殺しているのに生き返っていたのだ、三度目がないはずない。


そう思ったのだが、、、



「猫の魂は九つあるらしいね。でも、俺に触られた時点で打ち止めだよ。」



綾人の呟きとともに空間にヒビが入り、次の瞬間にはコンビニ横の路地に戻されていた。



呆然と立ち尽くしていると、横の綾人が服のホコリを落としながら告げた。



「帰るか。」



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