第3話 〜知らなかったの?〜
ゼンジはデッキポーチから魔法カードを取り出すと、今回セットするカードを吟味し始めた。
「ふーむ。どれにしようかねぇ。いつも通りワープとブーストにするか。いや、これは敵が一体か密集してないと効果薄いからなぁ。けどまぁ良いか!」
そう言ってゼンジは結局、いつものワープとブーストの魔法カードをカードの束から引抜く。
左腕の盾付きガンレットからカードポケットを展開し、その中に魔法カードをセットする。このガンレットは盾兼魔法カード発動の為のマジックアイテムだ。魔法カードを2枚までセットする事でゼンジは無詠唱での魔法を使う事が出来る。
ゼンジは格好つける様にカードポケットを強く閉じた。
「そんな強おやったら壊んで」
「これくらいでダメになるなら盾としても使えないよ」
このガンレットは盾としての耐久性、取扱い易さ、何より「腕に付けたアクセサリーにカードをセットする」というアクションがゼンジの少年心にどストライクだった。因みにローンが半分以上残っている。
あとはモンスターを召喚する魔法カードまたはカード名を読取ってくれる音声があると凄くテンションがあるのだが残念ながら無いらしい。
決闘はまだ始まってはいない。
決闘に参加する者達は場内の投影魔法で冒険者情報が公開されるのだが、ルイの参戦がたった今決まったので準備中なのである。
因みにスピット側の冒険者情報は次の様なものだ。
Bランク冒険者 スピット
Cランク冒険者 クリス
Dランク冒険者 ロロ
Dランク冒険者 ハイン
クリスはゼンジに対して「弱そう」と言ってきた|槍使いの女だ。ゼンジとしては彼女を真っ先に撃破して先程の言葉を撤回させたいと思っている。
ロロはゼンジに謝れと言った拳闘士の女だ。こちらも速攻で撃破して一泡吹かせたい。
ハインは肥満体型の弓使いの男だ。こちらは特に恨みは無いが飛び道具は厄介なので早目に排除しておきたい。
全員ゼンジより少し歳上の中級ランクの冒険者達ばかりだ。スピットがずば抜けているが、中々の面子が揃った若手エリートパーティーと言った所か。
(あれ? あの娘は居ないのかな?)
ゼンジはカフェテラスでオドオドしていた少女が居ない事が気になったが、今更参加人数の追加は出来ないので観客席にいるのだろう。
「用意が出来ました。中央の投影魔法をご覧下さい」
漸くルイの冒険者情報が投影魔法で映し出される。
まあ、この街の住人ならルイがどんなレベルの冒険者なのか知っているのだが。
「ッ!? Aランク!?」
スピット達に動揺が走る。
「あれ? まさかオタク等知らなかったの? この娘『赤毛の悪魔』って呼ばれるくらいには有名だよ?」
そう言えば昨日酒場で、帝都ではどうのこうの言っていた気がする。ドルトンでは有名なルイの異名も帝都までは届いていないらしい。
しかしルイのランクを見て青ざめて行く彼等の表情は申し訳無いが胸がスカッとする思いだった。
「どうするのよスピット! 今日の相手はBランクって話しだったじゃない!」
「あの男だけなら数で押し切れると思ったのに!」
「Aランクなんて殺人も厭わない狂人じゃないか勝てる訳無い! 見てよスピット君あの目を! 僕達殺されるよ!?」
スピットの仲間達が取り乱す。
それもその筈。殆どの冒険者がBランク以下で引退する中、Aランク冒険者は上澄み連中だ。それも時によっては対人クエストに赴く対人戦のエキスパートだ。それがAランク以上の上級冒険者とBランク以下の決定的違いだ。
今、彼女達は竜の尾を踏んでしまったかのような絶望感に襲われているのだろう。
「お前等うるせえ!! 策はある!!」
そんな仲間達をスピットは一喝する。
「あとデブ! オレもAランク目指してんだ。今の言葉はオレの事を言ったのかぁ?」
「ひっ! ゴメン!」
「チッ、役立たずのくせに俺を苛つかせるな!」
八つ当たりなのかスピットは異常なまでにハインを侮辱する。
そこにクリスとロロが加わり、更に彼を追い詰めた。
「ハイン~、アンタ冒険者学校同期の誼で入れてもらってる分際なんだから分を弁えたらどうなの~?」
「君なんかいつでもクビにしても良いのよ?」
一連の様子を見ていたルイが般若の様な形相でゼンジに物申す。
「ゼンジィ! あのパチ騎士等はウチがいわせる! 今のでまた腹立って来た!」
「戦いの展開次第だよ。俺だってあいつと女2人には腹立ってるんだから」
人が虐げられている所を見るのは他人事であっても良い気分はしない。この二人はそういう人間だ。
「うおらぁ、パチ騎士と阿婆擦れ二人!! アンタ等何時まで待たせねん!! ビビったんやったらさっさと帰れや!!」
見るに見兼ねたルイが挑発して注意をこちらに向けさせる。狙い通り喧しい雑言が返って来た。
「で、作戦は?」
ルイがゼンジに尋ねる。
2人でいる時の作戦立案はゼンジ担当だ。
「全・力・勝・負! 格の違いを見せ付けてやろうじゃないか!」
ゼンジの返答が余程気に入ったのかルイはニッと異名通りの笑みを浮かべ闘志を滾らせた。
「オモロイやんけ!」
決闘の合図が今、鳴り響こうとしていた。




