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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第2章 凸凹冒険者コンビ
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第1話 〜デートやないわ!〜

「痛たた……」


 まるで出来の悪い糸人形劇の様なぎこち無さでゼンジは自室を出た。

 腕、胸、腹、太もも、身体の至る所が悲鳴を上げている。

 勿論、昨日の筋トレが原因だ。正直デモンゴブリン討伐より疲れた。


(これホントに身体強化と治癒のスキル効いてるのかねぇ?)


 全治二週間の怪我も二日で完治する事が出来る治癒強化スキルと、モンスターに匹敵する力をもたらす身体強化のスキルを以てしてもルイの鬼メニューには耐えられない。毎回、産まれたての仔羊の様になる。


「あらゼンジ君おはよう」


 エントランスまでやって来るとノーラが箒を持って掃除をしていた。


(ねえ)さんおはようございます。つってももう昼ですが。痛たた……」

「昨日は随分ハッスルしてたじゃない」

「ハッスルじゃなくてマッスルです」


 その言葉にノーラは思わず笑ってしまう。

 昨夜の夫婦の会話を知る由もないゼンジは何でそんなに気に入られたのか分からず首を傾げる。


「ごめんなさい。で、今からお出掛け?」

「次のクエストに備えて色々と買い出しに。特にワープの魔法カードはストックが無いので」


 魔法カードは魔法が使えないゼンジにとって、魔法を使える唯一の手段だ。

 特に『ワープ』と『ブースト』は彼がよく使う魔法カードで、デモンゴブリンと戦った時の様にワープで瞬間移動した後、ブーストで強化した斬撃を敵の死角から叩き込むという戦法をよく使う。

 ゼンジの懐にはデモンゴブリン討伐の報酬が二十万クォル入っている。

 内十万クォルを装備品のローンに当て、残りの十万クォルで今日は、冒険に必要なアイテムを買って、余ったお金でちょっと贅沢をしようと考えていたのだが、目覚めたら既にお昼だった。


「おそようさん」


 そこへ寝坊と筋肉痛の原因であるルイがふざけた挨拶と共に現れた。

 彼女はゼンジの老人の様な姿勢を見るなりフッと嗤う。


「何ぞいやアンタ。また筋肉痛かいな?」

「逆に何でオタクは平気なのよ」

「アンタと違って日々鍛えとるからな」


 ルイは誇る様に腕をパンッと叩くとヴィジットの袖が揺れた。

 彼女が好んで着るヴィジットはラッパの様に広がった袖が特徴の上衣だ。それがルイの筋肉質な身体のラインを上手く隠しており、こんな小柄な少女があんな格闘家顔負けの筋肉乙女だと誰が気付くだろうか。

 口には出さないがルイは美人だとゼンジは思っていた。これでノーラの様な優しい性格なら惚れていたかもしれない。だが残念ながらルイは二の優しさと八の意地悪で出来た人間だ。

 どうせまた「ざぁこざぁこ。ヒョロっこざぁこ」と馬鹿にされるに決まって――、


「しゃあないなぁ。ほれ『ヒール』」


 意外な事に優しさ二のルイが非常に珍しく回復魔法を掛けてくれた。

 ヒールはルイが無詠唱で発動出来る魔法の一つで、冒険ではいつもお世話になっている。

 ゼンジは痛みの和らいだ身体にきょとんとする。


「珍しいねぇ。どうしたの?」

「何ぞいや。ウチかて機嫌ええ時くらいあんねん」

「え? ああそうか。ありがとう」


 普段がアレなのでびっくりしたが純粋な親切には素直に感謝する。正直、あの筋肉痛には本当に参っていたところだ。


「さあて、それじゃあ行ってきます」

「ちょお待ちいな」


 出発しようとした矢先にルイに止められる。


買物かいもん行くんやろ。ウチも行くわ」

「デート?」

「ちゃうわ! ウチもよおけ買う(もん)があっから手伝(てつど)うて欲しいんや」


 やはり裏があったかとゼンジは思う。

 手伝いというのは十中八九荷物持ちだろうが、ゼンジに取っては特段嫌な事では無かった。

 

「ああ良いよ。一人で行くのも寂しかったし丁度良いや」


 こういう時、楽しい事が最優先なゼンジは快く引き受ける。

 そんな仲の良い二人を端から見ていたノーラは微笑ましそうに茶化した。


「二人共~、デート行ってらっしゃい」

「デートちゃいます。ウチはこんなヒョロっこい男は対象外ですわ」


 ルイは慣れたように訂正すると、ゼンジの背を叩いて急かす。

 そんな二人の後ろ姿にノーラは「いってらっしゃーい」と声を掛けて見送った。

 ドルトンはこの国――ジルガンド帝国の地方都市である。山と城壁でぐるっと囲われ、中世ヨーロッパの様な石造りの建物が建ち並ぶ、ファンタジー系ではお馴染みの街並みが広がる活気に溢れた街だ。

 そんな街の一角にゼンジ達が贔屓にしている魔法道具屋がある。

 

「おや、ゼン坊とルイちゃんいらっしゃい」


 店主の男は馴染みの二人を笑顔で迎えた。

 年齢は五十代で眼鏡を掛けたまん丸体型の優しそうなおじさんだ。


「ワープとブーストあるかな?」


 ゼンジは早速、お目当ての魔法カードを所望する。


「ワープはどの距離をご所望で?」

「短距離の十メートルくらい跳べるやつ。ただし発動までのラグは一番短いやつね。それを十枚。ブーストも同じ枚数」

「随分と豪気な買いっぷりだね」

「報酬がたんまり入ってねぇ。たまに在庫切れしてる時もあるし、商品がある時にまとめ買いしときたいのよ」

「短距離ワープは一枚五千クォル、ブーストは一枚千クォル。合計で六万クォルだよ」


 ゼンジは腰の雑嚢から財布を取り出すと金貨六枚を店主に渡す。

 そして購入した魔法カードは腰ベルトに着けた魔法カード用の小型ポーチ(通称デッキポーチ)に入れた。


「またその二枚け? アンタ好っきゃなあ」

 

 横から薬草やら魔法石が入った籠を下げたルイが茶々を入れる。


「これが一番使い易い組み合わせなの」


 そう、ここぞという時にワープで敵の死角に入り、ブーストで強化された斬撃を放つ。単純故にどんな相手でも有効な戦法だ。 


「芸無いな。普段からあんだけ魔法使いたい言うとんねやから、もっと色んな魔法カード揃えたらええやん」

「高価な魔法カードをお試しで買える程の余裕は無いよ」


 ゼンジは無理無理と手を振る。


「そんなゼン坊にはこれ! ランダムパックがオススメだよ!」


 何やら商機を見出したのか店主が棚の上から封筒が立て並べられた籠をカウンターに乗せた。


「ランダムパック?」

「そう! うちの店に入った色んな魔法カードを5枚入れて売り始めたんだ! 一つ五枚入りで一万五千クォル!」

「あー知ってる。それ昔買ったトレカの売り方だ」


 どの世界でも似た商法はあるんだなとゼンジは感心する。

 ただ問題はこの店主が自分でパックを作っているので、買い手が損するカード構成になっている可能性が高い。大金を出してゴミカードばかりなんてパターンは嫌だ。

 

「言っとくけど封筒の中のカード構成は最低でも一万クォルになるようにしてるよ。余りに悪どい商売してると信用に関わるからね」


 ゼンジは思っていた事が言い当てられてドキっとした。


「ほほーう。おもろいやんけ。おっちゃん一つ頂戴な」


 面白半分にルイが購入する。

 手に取った白い封筒を破り、内封されていたカード束を扇状にして確認する。

 ゼンジも横からルイが購入した魔法カードを興味津々に覗き込む。

 こういうアタリハズレの結果は他人事でもドキドキしてしまう。

 お!という喜びの声と共にルイが一番後ろのカードをゼンジに見せびらかす。


「アドバンスドテイマーや!」


 ゼンジも、おお!と驚きと興奮の声を上げた。

 アドバンスドテイマーはモンスターを従属させる事が出来るテイマー魔法の中でも上級の魔法だ。普通に購入すれば五万クォルはするだろう。


「ええんけ、おっちゃん!? こんなん(もろ)て!」

「良いの良いの。これがこの商品の面白い所さ」


 ルイは嬉しそうに鞄の中に戦利品を入れる。


「おじさん! 俺も二つ頂戴!」


 かつての童心に火が着いてしまったゼンジは三万クォルを店主に渡す。


「フフフ、どれにしようかねぇ」


 封筒には目印になりそうな物は無い。魔法カードの表面は上級魔法だろうが下級魔法だろうが同じなので、トレカの様なパックを擦ってサーチする事も出来ない。

 完全に運の勝負だ。

 そして選んだ封筒を破り、ドキドキしながらゼンジはカードを確認する。


「……微妙やな」


 横から覗くルイがゼンジの思いを代弁する。

 入っていたのはブーストやフレイムといった安物にワープやサイクロンといったそこそこ強い魔法カードだ。

 確かに大損はしていないが三万クォル程の価値があるかと言うと無い。


「知ってた! うん知ってたよ! 柳の下に何時も泥鰌(どじょう)は居ないって事くらい! こんなの小学生の時に何回も経験してるでしょーが!! なのに俺のバカァ!!」


 貴重な軍資金を溶かしてしまい嘆くゼンジ。かつてお年玉を全投入して買ったトレカで大爆死した記憶が呼び覚まされた。

 

「何やよう分からん事口走っとるで」

「これもこの商品の面白い所さ」


 ゼンジはその後もルイが買物をしている間、ずっと店の端っこで項垂(うなだ)れていた。

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