第4話 〜第一印象は大事〜
城へと続く道は緩やかな傾斜となっていて比較的登りやすい勾配だが、その分板バネの様にぐねぐねしていて何だか遠回りしている様に感じた。
「ゼンジ前も言ったが、俺はお前の正体がバレようと自分の任務に集中する。そちらの身は自分で守れ」
忠告するようにクラウスは冷たく言い放つ。
「はいはい分かってますよ。そっちこそバレないでよ?」
「ザルムの為にも失敗はしない」
「ったく相変わらずザルム大好きなんだから」
クラウスはこいつロボットなんじゃないかってくらいザルムに対して絶対忠誠だ。彼の言動全てがザルム中心と言って良い。
やがて二人は城門前まで上がって来ると衛兵に声を掛けた。
「ごめんくださーい」
「誰か?」
衛兵が誰何する。
「本日より女中として働く事になりましたシンセです。こちらは麓で会ったーー」
「新兵のクラウス。よろしく頼む」
クラウスはいつもの様な素っ気ない挨拶をする。
(おいおい、いきなりタメ口とか大丈夫か?)
ただでさえクラウスは社交的とは言えない性格をしている。それが災いして正体がバレないか心配になった。
ゼンジ達は紹介状を渡し身分を証明するとすんなりと城に通された。
「新入りは俺に着いて来い。お嬢さんはそこの戸を潜ったら誰かしらメイドさんが居るはずだから適当に声掛けてよ」
そう言うと兵士はクラウスを連れて兵舎と思われる方へ去って行った。
ゼンジは言われた通り戸を潜って居館に入る。以前彼はタジル伯爵の屋敷で世話になっていた事があったが、そこに負けないくらいこの城も優雅な内装をしていた。
やはり貴族の住まいは凄いなと感心していると、綺麗なドレスに身を包んだ初老の女性が通り掛かった。
「あら? 貴女はどちら様かしら?」
その身なり、召使い達を従えている事から、彼女がこの城の主であるバートン夫人である事は明らかである。
「本日より女中として働くシンセと申します!」
「まあ新しい女中ね。これはまた可愛らしいこと。ヒルト、貴女の後輩です。面倒を見て上げて」
「はい奥様」
バートン夫人は引き連れた召使いの中から一番若いメイドを指名した後、ゼンジに「頑張りなさい」と励まし去って行った。
(うーん。悪い人には見えないねぇ)
ゼンジが感じた第一印象は、言っては失礼だが何処にでも居る優しいおばさんと言ったところだ。
「初めまして。ヒルトだよ」
自己紹介をしてくれた彼女はゼンジとそう年が違わない様な気がした。短髪でボーイッシュと言えば良いのか、少年がメイド服を着ている様なそんな感じだ。
「シンセです。これからよろしくお願いします」
「うん、よろしく。とりあえず空き部屋に案内するわ。後で屋敷を案内するから何処に何があるか覚えなさい」
空き部屋と言う言葉にゼンジは内心ガッツポーズを取った。空き部屋と言う事は個室だ。正体がバレてはいけない今回の任務において、プライベート空間が確保できるというのはかなり有り難い。
で、案内された部屋はお世辞にも良いとは言えなかった。
日本人であるゼンジから言えば、3畳程度の部屋にベッドが置かれ、それと接するように机と椅子が置かれている。床なんて幅1メートルも無い窮屈さだ。
(刑務所の一室かよ)
息が詰まりそうな小部屋に唖然としているとヒルトが声を掛ける。
「まあ狭いとは思うけど、下っ端はこの部屋からスタートするのが決まりだから。あ、仕事着はベッドの下の引き出しに入ってるから、着替えたら出て来て」
「先輩もこんな部屋ですか?」
「そ。あんたの隣の部屋。下っ端同士仲良くしよ」
ゼンジは「ありがとうございます」と言って扉を閉める。部屋の扉に鍵は無い。個室だからと油断は出来なさそうだ。
言われた通りベッドの下にある引き出しからメイド服を取出し着替える。
メイド服とは言うがその形は日本のメイド喫茶みたいなフリフリのミニスカではなくエプロンドレスと言う物だ。
この日の為に練習した成果もあって、慣れないドレスに手際良く着替えゼンジは部屋を出た。
「あれ? 首のそれ取らないの?」
ヒルトが首に巻かれたチョーカーについて指摘する。
「実は首に酷い火傷の跡がありまして、見られたくないので隠しているんです」
とっさに考えた嘘で誤魔化すと、ヒルトは「そっか」とすんなり納得してくれた。
それからゼンジはヒルトに連れられて城内を案内してもらった。その間、何か怪しい場所が無いか目を光らしていたが特段そう言った場所は見受けられなかった。
(証拠隠滅を徹底してるのか、それともここじゃ無いのか)
今見て回ったのは居館だけだ。城内には他に塔、礼拝堂、兵舎等がある。これらのどれかに証拠があるかもれない。
と考えていると居館の外から威勢のいい声が聞こえて来た。
「新兵! これからお前の実力を見てやる!」
見れば兵士として潜入したクラウスが先輩達に取り囲まれていた。
「あ~あ、可哀想にあの人。これからボコボコにされるよ」
「どういう事です?」
「何ていうの? 先輩達からの洗礼みたいな? とにかく新人はああやって最初に先輩達からしごかれるのよ」
なるほど新人イビりかとゼンジ納得する。
しかしこれはチャンスかもしれない。ここで根性を見せておけば、無口で素っ気なく人付合いが下手なクラウスも仲間として認めてもらえるかもしれない。
「力を見せれば良いのか?」
「ああ、そうだ。行くぜ!」
先ず一人がクラウスに襲い掛かる。それをクラウスは軽くいなすとカウンターの一撃を加え兵士を悶絶させた。
続いて取り囲んでいた兵士達が次々と襲い掛かるが、クラウスは慣れた動きで躱していき、手に持つ木剣で叩きのめして行く。
まるで大人が子供の相手をしている様な圧倒的勝利だった。
「な、何なんだお前は!?」
倒れ伏す兵士達の中、一人立っている新人に古参兵が問う。
「ただの新兵だが?」
クラウスはいつもの鉄仮面を崩さず一言だけ返した。
「凄い! 強いじゃないあの人!」
「ーーーーッ!!?」
単純に興奮するヒルトとは対照的にゼンジは言葉を失って絶句する。
(アイツ何やってんのー!?)
潜入任務だっつってんのにいきなり、とびきりの悪目立ちをぶちかましているではないか。アレでさっきあんな偉そうな事言っていたのかと思うと「お前が言うな」と言ってやりたい気分だ。
「ヒルト。兵士さん達にお昼を届けてくれないかしら?」
通り掛かった同僚メイドがパンの入ったバケットを持ってヒルトに頼む。
それをゼンジは丁度良いと思い二人の間に入った。
「私が届けます!」
「え? あんた今日は仕事しなくて良いのよ?」
「この機会に兵士さん達に挨拶して来ます!」
元気良く、愛想よくゼンジはバケットを奪うと外にいる兵士達へと向かった。
「なかなか良い娘ね。ヒルトよりずっと優秀かもよ?」
「うっさい」
クラウスとは違いゼンジは短い間で確かな信頼を築き掛けていた。




