第3話 〜酔っ払いの迷惑行為はみっともないねぇ〜
冒険者と言っても根無し草に各地を旅して周っている者はごく一部だ。今では殆どの冒険者が何処かの街を拠点としている。
ザルム率いる冒険者パーティーもここドルトンという街を拠点としていた。
ギルドの酒場はソロ冒険者や冒険者パーティーで賑わっている。次の冒険の作戦会議、打上げ、ただ呑みに来ているだけの冒険者と様々だ。
給仕が料理やお酒を持って酒場内を動き回る。
冒険者達は給仕に声を掛けると料理や酒を注文した。
どの職業でもそうだがマナーの悪い者は必ずいる。モンスター等の危険に立ち向かう冒険者も例外ではない。
良く言えば命を賭ける勇者、悪く言えば恐いもの知らずな蛮勇な彼等が集まる酒場では喧嘩なんてものは日常茶飯事だ。
今夜も酒の入った若い男冒険者が側を通り掛かった女冒険者の尻を触ったとして口論となっている。
「んな格好でいたら触ってくれっつってるもんだろうが。お前実は誘ってるんだろ?」
金髪で碧眼のツリ目。歳は二十歳前後と言った所だろうその男は何の悪びれる素振りも無く、下卑た表情でショートパンツを穿いた女冒険者を挑発する。
女冒険者の方は相当頭に来てる様子で男に怒りをぶつけた。
「少なくともアンタみたいなブスは対象外よ!」
「ああ? テメェ俺が誰だか分かってんのか!?」
男は絵に描いた様な横暴っぷりを見せると荒々しく席から立ち上がり口上を上げた。
「俺はBランク冒険者のスピット様だ! 冒険者学校を首席で卒業、帝都でも一目置かれるエリートホープなんだよ!」
「ッ!? Bランク……!」
スピットの言葉に女冒険者はたじろぐ。
冒険者のランクは九段階ある。下級と呼ばれるE~Gランク、中級と呼ばれるB~Dランク、上級と呼ばれるSS~Aだ。
冒険者はその実績によりランクを上げて行く。長く冒険者を続けて入ればそれなりに上がるが、大抵の冒険者はAランクまで上がれずCランク、良くてBランク止まりだ。
だからスピットの様に若くして中級、それも最上位のBランクまで上がれる冒険者は彼の言う通りエリートだ。
しかしそれ故、この騒動にわざわざ近寄る少年に店内の注目が集まった。
「へえ、オタクもBランクなの?」
ゼンジだ。彼は右手に愛刀を携えて怖いもの見たさに騒ぎを起こす無頼漢にちょっかいを掛けた。
「おいアレ。ザルムん所の……」
「やべぇ、久々にスゲェ喧嘩が見れる! お前どっちに賭ける?」
「いや、でもあの坊主って確か次Aランクに……」
酒場内にどよめきが起こる。
「何だぁお前?」
「高ランクを鼻に掛けて人様に迷惑かけるなんてみっともないねぇ。酔ってるんなら水でもどうだい? 奢るよ~」
ゼンジはトンボを捕まえる様に指を回して相手を煽る。
そんな舐められた態度を取られたスピットは更に顔を赤くした。
「テメェ、痛い目みたいようだな!」
激昂したスピットは眼の前の細腕を掴むと力付くでゼンジを引き寄せる。
だがゼンジは人を見透かした様な顔を崩さない。それどころか更に相手を怒らせる台詞を吐く。
「生憎と俺はこれからクエストの打ち上げでねぇ。あまり長く相手出来ないんだよ」
「バカが! テメェみたいなヒョロは瞬殺なんだよ!」
スピットはゼンジが逃げない様に彼の腕を一層拘束するともう片方の手で拳を作り振り被る。
その時、ゼンジは掴まれた手の内からレモンを出すと、パンチを避けようするどころかむしろスピットに詰め寄り、彼の眼の前でレモンを摘み潰した。
「おわっ!? 目がぁッ!」
レモンの汁を目に受けて怯むスピットの手を振り払い刀を掴むとその鞘でスピットの頬面をぶん殴る。
木製の身に真鍮の飾りで補強している鞘は鈍器としては十分な強度を持っている。
スピットはその一撃でフラフラとよろめき、更にゼンジはトドメとばかりに彼のみぞおちに鞘の石突をめり込ませた。
「オフッ!?」
横隔膜が止まり一瞬スピットの呼吸が止まる。急所を突かれたスピットはもう立ってられないと膝から床に崩れた。
「アァ、テメェ卑怯だぞ……」
「喧嘩に卑怯もラッキョウもあるもんか」
ゼンジは悶絶するスピットを放置し受付嬢の所へ向かう。
「いつものVIPルーム空いてる?」
「あ、はい。鍵はこちらになります」
「ん。ありがと! 皆々様、お騒がせしました~!」
渡された鍵を指に引っ掛けてくるくる回しながら、ゼンジは上機嫌に酒場奥のVIPルームへと歩いて行った。
「呆気なかったなぁ」
「やっぱりあいつには中級冒険者じゃあ敵わないよな」
白けた様子で見物していた客達は自分の席へと戻って行く。
悶絶していたスピットはいつの間にか代金を置いて消えていたらしい。




