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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第5章 特務クエスト
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第3話 〜新しい自分に目覚めそうだねぇ!〜

 バートン伯爵領はカスティオン侯爵領の隣にある小さな領地だ。ドルトンの様な大きな街は無く、領民は農業や狩りで生計を立てている。

 平地には長閑な麦畑が広がり、それを見下ろす様に領主が住まう城が丘の上にあった。

 ザルム達はその城からそう遠く離れていない山中にある山小屋を隠れ屋とした。


「なあザルム」

「何だ?」


 小屋の外にある石に腰掛けたルイは、双眼鏡から見える例の城に対しての正直な意見を言った。


「あんな小城、ウチのデーモンハンドで城壁崩して突っ込んだ方が早ないけ?」


 開口一番、物騒な事を言う彼女の短絡さにザルムはやれやれと返す。


「それで無実でしたなんて事になったら大問題だろうが。決定的証拠が無い以上、荒事には出来ねえ。だからカスティオン家も俺達に依頼して来たんだ」

「はあ~、貴族っちゅうのは面倒いのお。ちゅう事はウチ等はゼンジ等が証拠見付けるまでこの小屋でジッとしとらんとアカンねんな?」


 今回、バートン夫人に顔を知られているザルム、ノーラ、ルイはこの山小屋で待機する事になっている。城に潜入したスパイ二人からの合図があるまで、この何も無い小屋の中でひたすら待機するのだ。正直暇である。

 ルイはこれから始まる退屈な生活に肩を落とした。


「ゼンジ君の準備出来たわよ」


 そこへ小屋の中から満足気な笑みを浮かべたノーラが出て来た。彼女は女装して城に潜入するゼンジの仕度を手伝っていたのだがその表情はなんなのだろうか。


「おう、どんな感じだハニー」

「もう凄いの。凄くて凄いの」


 何だかノーラの語彙力が壊滅的な事になっている。

 そんな説明では伝わるはずもなく皆訳が分からないと言った顔をする。

 ノーラは何とか伝えようとその壊滅した語彙をかき集め精一杯の言葉を紡いだ。


「私の娘が可愛過ぎるんだが!?」

「娘じゃないですって姐さん」


 聞き慣れない少女の声が聞こえたかと思うと、彼女よって綺麗に女装させられたゼンジが小屋から出て来た。

 質素で地味な村娘を装った服を来て、絹糸で作られた黒髪のかつらを被り、喉には例の声紋が青白く描かれている。

 奇跡かノーラの腕か、ゼンジは見違えた姿となっていた。


「ブフッ! おーおー、ええ感じに仕上がっとんやんけ」


 あまりの完成度にルイは思わず吹き出す。

 だがどれだけ綺麗に変装しても中身はあのゼンジなのだ。あれだけ女装を嫌がっていたのだから、ここは一つ恥ずかしがる相棒を面白可笑しく笑ってやろうと顔を覗き込んだ時、彼の口元がクイッと上がった。


「ハーハッハッハッハッハ! そうだろそうだろ! 俺、いや私けっこう可愛いでしょう?」


 元気ハツラツとした高めの声を響かせ、ゼンジは嬉しそうに笑った。

 その様子にルイは「は?」っと訳が分からない顔をする。


「いやはや私にこんな素質があったとはねぇ。何事もチャレンジしてみるもんだ。『笑えば太陽、眠れば月、落ちる涙は星の如く』とは正にこの事じゃないか。ヤッバ、何か新しい自分に目覚めそう!」


 あれだけ嫌がっていたのが嘘のように、ゼンジはくるくる回って踊るが如くはしゃぎ回る。


「姐さん。このアホどないしたん?」

「鏡に写った今の自分の姿に惚れたみたい」

「アホやん!」


 だが嬉しそうにする姿は天真爛漫な少女その者で、さらに声まで変わっているのだから何も知らない人間から見たら、まさか彼が男だとは誰も思うまい。


「う~ん。私的にはもうちょい低い声が好みなんだけどねぇ。まあこれはこれでアリか」


 人差し指を頬に添わせて困った様な仕草をする。もう完全に女になりきっているようだ。


「おい、ゼンジーー」

「今の私はシンセと呼んで」

「何がシンセや。名前逆さにして濁り取っただけやんけ。おいその仕草止めーや。気色悪いんやって」


 少女に成り切っているゼンジ改めシンセに、ルイは突っ掛かる。


「何さ。オタクの言ったように女になってやってんじゃん。なのにその言い方は酷くない?」

「それとこれとは別じゃボケ。女振るんやったら城に行ってからやれや」

「いーッだ」

「それを止めろ言うとんじゃ」


 いつもの如く二人は喧嘩を始める。

 その光景は傍から見るとまるで姉妹喧嘩の様だ。


「おい戯れるのはそれくらいにしておけ。そろそろ本題に入るぞ」


 いつまでも遊んでいる訳にはいかない。ザルムはパーティを纏め上げると小屋の中で、今回の作戦について改めて説明を始めた。


「改めて言うぞ。今回の目的はバートン夫人による誘拐の証拠を掴む事。一番良いのは囚われた女達を見付ける事だな。証拠を見付けたら魔法光を打ち上げる。それを確認したらここで待機している俺達がカスティオンの騎士達と共に城へと乗り込むという算段だ」


 実を言うと既にカスティオン侯爵の手の者が猟師や商人としてこの領内に数十名隠れている。

 今回、城へ潜入出来たのも彼等が手引きしてくれたからなのだ。


「今回は対象を討伐する目的じゃない。あくまで証拠探しである事を忘れるな。いつもと勝手は違うが上手くやってくれ」

「了解」


 いよいよクラウスとゼンジは城へ向けて出発する。

 小屋から出ようとした時、ルイがゼンジを呼び止めた。


「おいゼンジ」

「何さ? シンセだって言ってんじゃん」


 喧しいわと言いたそうな顔で黒いチョーカーを渡された。


「喉の紋見られたらマズいやろ? 持ってけや」

「ありがと」


 早速チョーカーを首に巻く。正直首を締め付けられるみたいで好きではないが、折角用意してたのだ。彼女の気遣いに感謝してゼンジは城へと向かった。

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