第2話 〜女んなれゼンジ〜
「はあ?」
と、その突拍子も無いワードに困惑するも、余りにも馬鹿馬鹿しさに思わず笑いが込み上げて来た。
「アッハッハ! 何それ冗談? 中々に面白いねぇ!」
流石にこんな作戦は現実味が無さ過ぎる。自分の女装なんてそれこそ直ぐバレるに決まってるだろとゼンジは今日一番の声で笑った。
「いや冗談じゃねえよ。ゼンジはメイドとして潜入し、夫人と使用人達の様子を探れ」
だがザルムは改めて女装潜入を命じる。
こうなって来るとゼンジも笑ってはいられない。開いた口が塞がらないと言った感じで唖然として聞き返した。
「マジで……? ってかそれメイドの意味ある? 様子を探るくらいならボーイで良くない?」
「城で働くメイド達も行方不明となっているんだ。だったら囮としてメイドの格好してた方が尻尾を掴みやすいだろ。それにお前なら例え襲われても切り抜けられるだろうし、毒を盛られても治癒スキルで無効化出来る」
確かに普段から凶暴なモンスターを相手してるゼンジ達にとって一般人の相手など物の数ではないし、彼が持つ治癒スキルには耐毒性があるので睡眠薬を盛られたとしても何て事は無い。
「とは言ってもねぇ。俺の女装なんて直ぐバレるって。 例えば風呂はどうすんのよ? 裸なんて見られたら一発アウトよ?」
「風呂は個室だそうだ。ただし浴槽ではなく水瓶に貯めた掛水で身体を洗うから風邪引くなよ?」
「トイレは?」
「それも個室だ」
「着替えは?」
「隙を見て着替えろ」
「テキトーだなぁオイ!」
やはり無理がある。女装潜入なんてマンガじゃあるまいし上手く行くはずがない。仮にそれらの失敗イベントをクリアしたとしても大きな問題がまだある。
「あと声は? この声じゃどんなに上手く女装してもバレるっての」
働く以上、同僚との会話は必須だ。まさか声が出ないという設定で忍び込むのだろうか。いやザルムの事だから裏声でなんとかしろとも言いかねない。もしそれを言ったら引っ叩いてやる。
「ああ、それなら声紋を施すから大丈夫だ」
「声紋?」
元の世界では声の高さ、周波数、喋り方等で人を識別する声の指紋と呼ばれるものだ。だが当然この世界でそんな高度な技術がある訳が無い。一体どんな物だろうかとゼンジは首を傾げた。
「魔族が使う淫紋ってあるだろ? あれを応用して声を変える魔法紋を喉に施すんだよ」
「ちょーっと待とうか! いきなりR18感出て来たけど大丈夫? 淫紋の応用って要するに呪いじゃん! それを喉にってマジ!? 感度3000倍になったりしない!?」
日本のオタクなら登場作品は知らずとも、その名前と効果は知っているでだろう淫紋というワード。
この世界においてもその認識は変わり無く、それを受けた者はどんな禁欲な精神を持っていても発情してしまうという一部の魔族が得意とする魔法だ。
そんな物を喉に施すと言うのだから、ゼンジは身の危険を感じた。
「声紋は既に軍でも使われている確立された魔法だ。健康にはなんの影響も無い」
と言うもののゼンジの不安は拭えない。
露骨に嫌そうな顔をしていると横にいるルイがにこやかに彼の肩を叩いた。
「大丈夫大丈夫イケるイケる」
「その言い方止めて! 余計心配になる! て言うか相棒なら助けてよ!」
「いやだってオモロ……、事件解決の為やんけ。腹くくって女んなれゼンジ」
今絶対「オモロイやんけ」と言い掛けた。
(この性悪め!)
声紋がどうこうよりゼンジが女装する事を面白可笑しく見てるに違いない。
助け舟を求めてゼンジはノーラの方を見るが、既に彼女は蕩けた笑みを浮かべ鼻血を出している。ダメだ、ただの変態のようだ。
クラウスに至っては論外だ。どうせ「ザルムの指示だから」と言って向こうに着くに決まってる。
(俺の味方居ないじゃん……)
完全に外堀を埋められてしまった。
「とにかくゼンジ。お前しか適任が居ないんだよ。新たな行方不明者を出さない為にもここはやってくれ」
ザルムの言い方は一見すると優しいが「やってくれないか?」ではなく「やってくれ」と言うのはパーティリーダーとしての命令だ。
ゼンジもこちらの言い分を聞かれた上で、尚も命じられてはリーダーに従うより他は無い。
「あー分かったよ。でも俺なんかが女装しても絶対すぐ男だってバレるからね。そん時はクラウス、ちゃんとフォローしてよ?」
「出来れば自力で対処してくれ。怪しまれたく無い」
鉄仮面の様な無表情の顔から素っ気ない返答が返って来る。
「薄情者!」
ゼンジはムスッとした顔で言い捨てた。




