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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第4章 Aランク試験
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第9話 〜覚悟してたのに〜

 試験終了の後、ルイは様子のおかしかったゼンジを探して決闘場内の通路を走っていた。

 彼が出て行った扉はこの先だ。

 すれ違ってないという事はまだこの先に居る筈。

 決闘場に続く通路を曲がった所でルイは通路の端に(うずくま)っている相棒を見つけた。


「ゼンジ!」

「……」


 だが反応は無い。

 何処か怪我をしたという訳では無い。試合を見ていたが、相手から一撃を受けた様子は無かった筈だ。

 

「どないしたん?」


 ルイは顔を隠して突っ伏すゼンジの肩を揺さぶった。


「……ごめん、ちょっとこのままで居させて。今日は疲れた」


 震える声で絞り出す様に応えるゼンジ。

 そこにはいつもの飄々と楽天的に構える姿は無かった。


「どっか怪我したっちゅう訳や無いな?」

「…………」

「どないしたん?」

「…………」

「泣いとんけ?」

「泣いてない」


 強がりなのかそこだけは否定の言葉を即答する。


「覚悟してたのに……」

「あん?」

「Aランクになったら人を殺す事になるって、覚悟してたのにこんな……情けない……」


 ゼンジは手に残った殺生の感覚に身を震わせた。

 そんなもの、今までモンスターを狩って来て幾度も感じたであろう感覚なのに、もう慣れている筈なのに何故か今更になって身体が震えて来る。


「最後の一人が言ってたんだ『誰が海賊なんかになりたかったもんか』って。なぇルイ。俺は本当にあの人達を殺して良かったのか?」

「……それがアンタに与えられた仕事や。ソイツの過去がどうあれ、ウチ等はお上から命令されたら否が応でも悪党共を始末せんとアカンねん。もし人殺しに罪悪感があるんやったら、こんな依頼を出して来るお上の所為にしぃ」


 ルイは励ますでも同情するでもなく現実を相棒に聞かせる。

 その言葉に漸くゼンジは顔を少し上げるが、向けられた目は酷く淀んでいて、思わずルイは顔を強張らせた。


「そう、だよなぁ。うん、分かってる。分かってるけど俺は結局、そう簡単には割り切れ無かったみたいだ……」


 ゼンジはまた頭を抑えてどうしたら良いか分からない様に、自ら踏み込んだ地獄の深さに苦しむ。


「ゼンジ……」


 これまで見たことも無い相棒の苦しむ姿にルイは戸惑うが、直ぐに彼女はしゃがみ込んで目線をゼンジに合わせた。


「なあ、ウチ、アンタにえらい偉そうな事言うたけどな」


 ゼンジは顔を伏せたまんまだがルイは構わず続ける。


「正直言うと、ウチも初めて対人クエストで人殺した時は、今のアンタと同じ様に自分のやった事が恐ろしゅうて泣いたんや」


 まるで言いたく無かった秘密を暴露する様なヤケクソな感じの告白にゼンジは驚いた顔で相棒を見る。

 今までいろんな対人クエストに参加している彼女がそんな事を言うなんて意外だった。


「オタクが? あんなに犯罪者達を憎んでいるのに?」

「それでもや。人を殺して平気な訳無いやろがい」


 反論の余地のない言葉にゼンジは閉口する。


「それでもウチはやっぱり、オトンやオカンを殺した奴等みたいなんが許せんかったからな。何回(なんべん)か熟したら恐怖を乗り越えれた。アンタもそう思ったら大丈夫やと思ったんやけどな……」

「ルイ……」

「ごめんな。アンタに気合い入れたろう思たんやけど、ウチの考えは合わんかったみたいや」

「いや、そんな事無い……」


 少なくともゼンジは彼女の言葉を支えに戦えたのだ。でも結局戦いが終わった後、彼女の言う通り罪悪感に潰された。


「結局、俺の覚悟が、あっーー」


 するとルイは優しくゼンジを抱き寄せた。


「殺しの覚悟なんて誰が最初から出来んねん? そんなん騎士でも軍人でも無理やわ」


 ルイはまるで子供を慰める母親の様に語りかける。


「アンタにはウチ等が居る。アンタの覚悟が出来るまでウチ等がフォローしたる。せやから今は焦らずドーンとしとれや」


 その言葉は、何処か自分で何とかしなければと思っていたゼンジにとって、改めて寄辺となる存在を気付かせてくれた。


「ルイ、ありがとう……」


 ゼンジはグッと彼女の気持ちに甘える。

 ルイは赤子をあやす様に彼の背を優しく叩いてやった。

 その腕の中でゼンジは一頻り静かに泣いた。




ーーーーーー




 その後二人は一緒にアパートまでの帰路に着いていた。


「その、今日はありがとう……」

「もっとわんわん泣いたら良かったのに。おもんない」


 恥ずかしそうに言うゼンジに、ルイは珍しい物でも見て面白かった様な態度で返す。

 彼女の胸を借りて溜まっていた物を吐き出したゼンジだったが、ふと我に返ってみると、女の子に泣き付いていたという、中々に恥ずかしい所を見せてしまったと今更ながら思えて来てしまったのだ。

 

「いやぁ……、じいちゃんに男は泣くなって言われて育ったもんでねぇ」

「ああ、それ分かるわ。すぐ泣く男とかウチも嫌いやもん」

「オタク今、俺に泣けって言ってなかったっけ?」

「アンタはいっつもヘラヘラしとってムカつく(ごーわく)からな。泣くくらいでええ塩梅(あんばい)になるんや」


 何だその変な理論はと言ってやりたかったが、彼女はアパート玄関に続く階段を駆け上がり、見下ろす様な格好でこちらを向いた。


「早()いや。誰かさんが遅おまで泣いとっからウチは腹減っとんねん」

「さっきから泣いた泣いたってしつこいよ」

「へへん。また泣きとうなったらウチの胸貸したるわ。高いけどなぁ」


 ルイは手でマネーサインを作って嫌らしい笑みを浮かべる。

 彼女曰く、今回は初回限定という事で無料らしい。

 まあ、辛い時に駆け付けて全部受け止めてくれた事には感謝している。がーー。


(感謝はしているけど、何か腹立つなぁ)


 やっぱりこうも相棒に上から目線で見られるのはどうも嫌だ。これはルイが逆の立場だったとしても同じ事を思うだろう。


「いやぁそれは勘弁だわ」

「照れんなや~」

「オタクのゴーレムみたいな胸板借りるくらいなら姐さんの方を借りるよ」


 実際、初回限定無料の胸を借りてみたが、日々のトレーニングの賜物と言うか、彼女のソレはまな板なんて優しい、否、柔らかい言葉では無い。

 鍛え上げられた筋肉が全てを弾く鋼のボディとなって……いやもう面倒くさいストレートに言おう。

 鉄筋コンクリートに向かって泣いている様でした。


「ど突き回したろかワレ!」


 言うより速く階段上から繰り出された飛び蹴がゼンジを捉えた。


「痛ったい!? もう蹴ってるじゃん!」

「ナマ言うとらんで早()いや。ノーラの姐さんが飯作って待っとっぞ」


ルイに 首根っこを掴まれて引っ張られて行くゼンジ。いつの間にか彼の顔にはいつもの様な笑顔が戻っていた。

 

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