第8話 〜理に従う戦いの天才〜
「ほう。驚いたな」
試験の様子を見ていたギルドマスターが感心した様子で呟く。
「先程まで人殺しを嫌がっていたとは思えん戦いっぷりだ。君の弟子は中々に切り替えが早いな」
「アイツは……、ゼンジは例え感情に反しても、頭ん中じゃ常に理に従って行動する奴です。だから殺されるくらいなら相手を殺す事を必ず選びます」
傍らで試験を見守るザルムは答える。
その言葉通りゼンジはまた一人の喉を猿叫の様な叫びを上げながら切り裂いた。
「ふむ、頼もしい事だ。君が拾って来た少年がここまでやるとは。これでまた私の懐剣が増えるな」
ギルドマスターは満足気にそんな冗談を言う。
「ええ、ゼンジは稀に見る戦いの天才ですよ」
ザルムは過大な表現で褒めるがその目は全く笑ってはいない。
(そう、ゼンジは天才だ。俺やクラウスなんかよりずっと。だが……)
彼には心配があった。
だがもう止まれない。
ゼンジが望んで自分が仕組んだこの死合。
ザルムはただただ黙ってこの行く末を見守るのだった。
ーーーーーー
ゼンジの速攻に死刑囚達はもう戦意を失いかけていた。
たった一人を殺せば恩赦。しかも相手がどんな奴なのか何に弱いのかも教えてもらえた。
こんな美味しい話はないと。むざむざ死刑を待つくらいならと。彼等は獄中にやって来た司法官の話しに乗ったのだ。
絶対自由の身になってやると対象の情報を分析し、刃の通らない重装備を身に着け、遠距離攻撃出来るクロスボウを装備し完全なる対策を練った。
だが蓋を開けて見ればその尽くが攻略された。
これでは獄中で大人しく絞首台行きを待っていた方が良かったのではないか?
そう思った次の瞬間、兜の狭い視界に死神の姿が迫った。
「ギイィィィ!!」
歯を噛み締め唸るような雄叫びを上げゼンジは死刑囚達を斬り捨てる。
敵は怯んでいる。こうなったらもうこっちの勝ちだ。
(止まるな。考えるな。感じるな。奴等は罪の無い人達を殺し、奪い、犯し、悪逆非道の限りを尽くして来た罪人。これは当然の報いだ!)
ゼンジは必死に自分の善意や慈悲といった感情に蓋をする。
そうしなければ罪悪感が溢れて腕を鈍らせてしまうのだ。
(自分の手は汚したくないとかそんな事言ってらんないだろうが!)
あと一人。あと一人で終わる。
ゼンジは刀を構えて最後の一人を追い詰めた。
「クソッ、見えねえんだよ!」
そう言って最後の一人は視界の悪い兜を脱ぎ捨てる。
金髪で顔に入墨を入れた若い男は怒りと恐怖が混じった目でゼンジを睨み付ける。
「クソ、クソクソクソクソクソ!! 死んでたまるかよ!!」
クロスボウを構え矢を発射するが呆気なく外れた。
だったらと剣に持ち替えて斬り掛かる。
「殺してやる!! お前も、見物してる奴等も全部ぶっ殺してやるからなぁ!!」
死刑囚は怨みの籠もった絶叫を上げゼンジに斬りかかる。その目に正気は無く完全な死兵だ。
ゼンジはその剣を刀で往なすと直ぐに返して真向から斬り捨てた。
「アァァァァァァ!?」
頭を割られた男は鮮血を吹き出しながらよろめき、そしてフッと力が抜けた様に膝を着いた。
「あー、あ……」
呆けた様なうめき声を上げる。
放っといても直ぐに死ぬだろうとゼンジは試験官達が座る席に目を向けた。
「止めを刺せ」
ザルムから冷酷な指示が返って来る。
ゼンジは彼の後ろに立ち介錯の構えを見せる。
項垂れて無防備になっている首を狙い刀を掲げたその時、
「誰が……」
男はうめく様に言葉を発した。
「誰が、海賊にな……て……、なりたか……たも……か。俺、だって……」
虫の息の男が後悔の言葉を漏らす。
いや違う男にとっては、後悔なんて物ではない。これは自分をこんなになるまで追い詰めた世界と、それに抗えなかった自分自身に対する恨みと怒りの呪言。
「い、今更、悔やんだってっ!!」
もう遅い。
この男にどんな過去があろうともう遅いのだ。
止めを刺す為にゼンジは刀を構えたその時、男は消える蝋燭の火の最後の煌めきの様に声を一層張り上げた。
「お前達みたいにぃーーっ!!」
「喋るなぁっ!!」
ゼンジは振り切る様に男の首を跳ねた。
ゴトンと鈍い音と共に首が落ちる。その表情は恨みの目で何処かを見詰めていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……ウゥ……」
ゼンジはよろめきながら辺りを見渡す。
もう生きている死刑囚は居ない。
やがて決着を告げる鐘が鳴り響くと決闘場の扉が開かれ、ギルドの職員と黒ずくめの男達が入って来た。
黒ずくめの男達は倒れた死刑囚達の周りに集まると彼等の死亡確認を行う。
この男達はマリアが見かけた司法官と刑務官なのだが、ゼンジには関係無い。
彼は憔悴しきった足取りで決闘場から立ち去った。
ーーーーーー
「ふむ、まだ殺しには抵抗があるようだが実力は申し分無いか」
試験を見ていたギルドマスターが満足そうに目を細めた。
彼の持つ審査用紙にはほぼ満点の評価が付けられている。
「見事だ。良い人材を育てたなザルム君」
「ありがとうございます……」
ザルムはギルドマスターに頭を下げて謝意を示すが、その声にはいつもの豪快さは無かった。
(ゼンジ……)
力無く決闘場を後にする仲間を目で追う。
人を殺すという罪悪感とストレスは計り知れない物だ。だがそれを乗り越えなければAランク冒険者としてはやって行けない。
「これからも期待しているよ」
「……はい」
ギルドマスターはザルムの肩を叩き去って行った。




