第7話 〜覚悟を決めろ〜
一瞬、言葉の意味が理解出来無かった。
いや、そもそも聞き間違えたんじゃないかとさえ思った。
「ちょっと待った!!」
ゼンジは叫ぶ。
「ギルドマスター今何と言いました? 相手を殺せって言いましたか!?」
ギルドメンバーがその問いに答えようとした時、横からザルムが音響魔法具を奪い取る。
「そうだ。お前はそこに居る死刑囚達を殺せば晴れてAランクに昇級という事だ」
「死刑囚……?」
ゼンジは目の前に並ぶ者達に目を向けた。
死刑囚だからといってこんな方法で死刑を執行する。本当にそんな非人道的な事をやるのだろうか?
混乱して固まるゼンジにザルムは更に言葉を重ねる。
「その死刑囚達は先日俺が討伐した海賊達の生き残りだ。そいつ等にはお前を殺せば恩赦する事になっている」
その言葉にゼンジは耳を疑った。
「俺を殺す!? 何の冗談なのさザルム!!」
「冗談じゃねえよ。これは対人クエストを想定した試験だ。殺らなきゃ殺られるぞ」
「そんな……!」
「嫌なら目の前の敵を殺せ!!」
場内に怒号が響き渡る。
(本気だ。ザルムは本気で死合をさせる気だ)
相対する死刑囚達はクロスボウに矢を装填している。
顔は見えないが、アレが対人クエストの討伐対象になった人間なのか。
『罪の無い人等を襲うモンスターと極悪人に何の違いがあんねん?』
ルイに言われた言葉を思い出す。
(あの人達はモンスターと同じ……? 人々の幸せを奪う極悪人……?)
そうだ。何を今更怯えているのか。
こいつ等は対人クエストの対象になった極悪人で、今までどれ程の人々を不幸にして来たのか。
(そうだ。俺は人々をそういう奴等から守る力が欲しくて冒険者に、Aランクになろうとしたんじゃないか!)
自由を与えて何になる?
また犯罪行為に走るかもしれない。
そうなった時、必ず誰かが不幸になる。
そんな奴等の為に殺されてやる事は無い!
Aランクになれば人間を手に掛ける事になるなんてずっと前から分かっていた事だろうに。
(覚悟を決めろ。俺はザルム達みたいな冒険者になるんだ。例え相手が人間でも……!)
試合開始を告げる鐘が鳴り響く。
それと同時に死刑囚達は立ち尽くすゼンジに向けて一斉に矢を射掛けた。
(ここで死にたくはないんだよ!)
『即効魔法ーーワープ』
刹那、ゼンジの立っていた場所を矢が通過する。
10m程距離を詰めたゼンジはマジックガンレットを展開し、まだ使っていないブーストのカードをあっさり廃棄する。
クロスボウの射程は長くてせいぜい50mだ。更に装填に時間が掛かる為、弓の様に連射が出来無い。
ゼンジはデッキポーチから遠距離戦用の魔法カードを引くとマジックガンレットにセットした。
『即効魔法――矢除けの加護』
風がゼンジを包み込む。
この魔法は風によって飛来してくる矢等の軌道を逸らすものだ。
矢を装填し終えた敵がクロスボウを構え矢を放つが風の加護によって全て逸れて行く。
ゼンジは矢が当たらずたじろいだ死刑囚に飛び掛かった。
相手はクロスボウを捨てて剣を抜こうとするがもう遅い。
左手に収束させた酸欠ガスを兜のスリットから内部に叩き付けてやる。
死刑囚はたかが平手攻撃かと安心しただろう。だがその思ったの次の瞬間、彼の思考は止まっていた。
フルプレートアーマーの甲高い金属音と共に先ず一人が地に倒れた。
「先ず、一人……」
ゼンジは倒した死刑囚から離れる。
いつもの決闘ならここで転移魔法が発動するはずだが、倒された死刑囚に魔法が発動する事はなく放置されている。
(これは本当に殺し合いなんだ……!)
ゼンジは歯を食いしばり深く息を吐いた。
「アアァァァァァ!!」
絶叫を上げて残る四人がゼンジに斬り掛かる。
ゼンジは素早く飛び退いて回避するが死刑囚達は遮二無二になって彼に殺到する。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!」
「クソギルドが!! お前を殺して自由になんだよぉ!!」
兜の中から呪詛の様な叫びが発せられる。
ゼンジはワープを発動し一瞬で彼等の背後を取ると、脚を薙ぐ一閃を与えて、その勢いを駆って蹴りを入れた。
無防備な膝裏を斬られ、バランスを崩した一人が悲鳴を上げて転倒する。
いきなり倒れた仲間を見て他の三人は振り向く。
その内の一人の振り向き様を狙いゼンジは兜のスリットへと刀を突き刺した。
「ギャアァァァ!!」
兜の中から喉が裏返りそうな悲鳴が発せられる。
頭蓋骨に阻まれた刀から硬い感触と、痛みで悶えるこの男の震えが直に伝わって来る。
その感触に歯を食いしばりつつ男を蹴って別の死刑囚にぶつける。
続けて背後より襲い来る敵の剣を受け、そのがら空きとなった脇に短剣を突き刺した。
「アアァ!?」
短い悲鳴と共に敵の剣が軽くなる。
ゼンジはそれを見逃さず剣を押し返すと死刑囚の兜を掴み、開いた首元の隙間に刀を突き刺した。
まるで箸を豆腐に突き刺した様に手応えを感じなかったが次の瞬間、鎧内部から水風船を割った様に鮮血が吹き出した。
(これで、二人……!)
ゼンジは男を突き飛ばして刀を引き抜くと、ブンっと振って血を飛ばした。
喉を掻っ切った男はスマホのバイブ音の様なうめき声を上げて動かない。
むせ返る様な血の匂いからか、それとも自分の行いからか、ゼンジはぶるりと身体を震わせた。




