第6話 〜これは思ったより楽そうだ〜
――ードルトン決闘場前ーーー
「ええ!? 関係者以外は入れない!?」
その事実にマリアはガッカリして肩と尻尾を落した。
今日はゼンジのAランク昇級試験がここの決闘場で行われるのだが、通常の決闘とは違い試験は一般公開出来無いと言われ、ギルド職員に追い返されてしまった。
彼女達、週刊ノウのコンビはタジル以降、ゼンジ達の追っかけ取材を行っている。
Sランク冒険者であるザルムとのコネクションを持てたというのもあるが、何よりタジルでのゼンジ達の活躍記事の反響が大きかったからだ。
「はぁ、『タジルの英雄 遂にAランクへ』って見出しで記事を書こうと思っていたのに……」
「仕方無いっすよ。あんまりギルドを怒らせると、今後の取材がやり難くなるっすから」
項垂れながらとぼとぼ歩くマリアに助手のダイナがフォローを入れる。
そんな時、二人は黒い服を着た一団とすれ違った。
マリアは脚を止めてその一団を振り返る。
「マリアさん?」
「あの人達の服、司法官と陸軍……いえ刑務官の制服だわ」
すれ違った人達は二種類の服を着ていた。
マリアはその服が帝国の司法官の法服と刑務官の制服であると気付いた。
司法官の法服は魔法士と見間違えそうなガウン型の黒服で、胸元に蔦が絡み付いた様な美しい金の刺繍を施している。
刑務官は濃紺の上衣に肋骨の様な紐の装飾を付けた服を着ている。これは帝国陸軍の将校と同じ制服だが、刑務官の帽子には木槌を模した紋章が付いているのが特徴だ。
「何でそんな人達が?」
ダイナは疑問に思うがマリアもその答えを持ち合わせていない。
冒険者の昇級試験に何故、司法を司る人間達がいるのか?
「ああもう! 取材出来無いのが口惜しいわ! 決闘場の壁をよじ登って見てやろうかしら!」
「勘弁して下さい。流石にマズいッスよ」
知りたい事はいっぱいあるのにどうにもならない、このままならない状況にマリアは悔しそうに吠えるのだった。
――ードルトン決闘場内ーーー
通い慣れた決闘場の扉前でゼンジは装備の最終チェックを行う。
武器はいつもの愛刀とタジル伯爵から賜った短剣。
左腕のマジックガンレットにはワープとブーストの魔法カードをセットし、デッキポーチには彼が苦手とする硬質モンスター、遠距離攻撃モンスター、飛行モンスターに対応した魔法カードを用意した。
鉄板入りベスト、酸欠ガス入り瓢箪、その他ベルト類もズレない様にキッチリ締める。
「……ヨシ!」
いよいよだ。いよいよこの時が来たとゼンジは気合いを入れる。
この試験を突破してAランク冒険者となるのだ。
「問題無いけ? 気ぃ張って行きよ!」
律儀に見送りに来てくれたルイが背中を叩いて気合いを入れてくれる。
「心・配・御無用! 今日も絶好調さ。今ならドラゴンだって倒せそうだよ」
「調子乗んなっていつもやったら言うけど、今日ばかりはその調子できっちりやって来いよ。昇級したらお祝いや」
「期待しててよ。絶対ルイに追い付いて見せるからさ」
「アホ。こっちの方がAランク歴長いんや。アンタは一生ウチの後輩や」
二人はいつもの様に憎まれ口を叩いて笑い合う。
ルイもゼンジの昇級を確信している。
その期待に答える用にゼンジは顔を叩いて気合いを入れた。
「ヨシ! じゃあ行って来るよ」
「観客席から見とんで」
ゼンジは片手を上げて反応すると決闘場へと続く扉を開いた。
決闘場は異様なまでに静かだった。
いつもなら決闘を見物に来ている観客がいるのだが、今回は試験という事で関係者以外は締め出されている。巨大な空間に申し訳程度の人数しかいないと何処か寂しい感じがする。
がらがらの観客席にぽつんとノーラとクラウスを見付けた。
ゼンジは二人に手を降るとノーラは手を振り返してくれるが、クラウスは腕を組んだままその鉄仮面の様な表情を崩そうとはしない。
試験官はドルトンのギルドマスターとその部下達、そしてゼンジを推薦したザルムが務める。彼等は一般の観客席では無くギルド関係者等が座る特別席に居た。
その特別席に座るザルムと目があった様な気がした。
(ようやくだよザルム)
ゼンジは心の中で勝利を宣言する。
間もなく向かいの扉が開き兵士に守られた馬車がやって来る。
馬車から降りて来たのはプレートアーマーを着てクロスボウと剣を装備した5人組。
予想通りゼンジの苦手な防御重視に加えて飛び道具を持った装備をしている。
(へぇ、対人戦闘を想定した試験って訳ね)
だが相手が人間ならゼンジの得意分野だ。
この世界に来て何回この場所で決闘をしてきた事か。
当然プレートアーマーを装備した相手など何人も経験しているし攻略法も知っている。
プレートアーマーの弱点はその重量と鈍さだ。動き回って撹乱し、チクチクと嫌がらせの様に攻撃してやれば、それに対応する為に無駄な動きをして直ぐに疲れるだろう。しかも動きが鈍いので攻撃を避ける事も容易い。
視界の悪さも狙い所だ。あれではクロスボウも満足に狙えないのではないだろうか。
それに狭まった視界は装着者にストレスを与え、それはいずれ疲れとなるだろう。
そこを狙えば簡単に勝てる。
(これは思ったより楽そうだ)
ゼンジは慢心と言っても良い程に勝利を確信した。
「これより、冒険者ゼンジのAランク試験を行う」
音響魔法具を用いてドルトンのギルドマスターが試験開始の宣言を行い、続けて試験の説明に入る。
「試験内容は5対1の決闘方式。勝利条件は対戦相手の――」
いよいよ始まる。
ゼンジはいつでも飛び出せる様に身構えて刀の鯉口を切った。
「――殺害」




