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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第1章 冒険者ゼンジ
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第2話 〜その魔法近くで撃つな!〜

 流星の様な一閃がデモンゴブリン達を襲った。

 ゼンジの直ぐ近くに居た一体はその一撃で胴が真っ二つに裂かれ地に伏し、他のデモンゴブリン達も深々とその刃を身に受けた。

 だがゼンジは止まらない。この好機を逃さない。

 薄氷の上で踊る様に軽くそれでも力強い踏込みと共に一撃必殺の刃をデモンゴブリンに叩き込む。

 もはやデモンゴブリン達に勝目は無い。

 ほんの数秒の間にその全てがただ一人の少年によって骸と変えられた。

 血生臭い匂いは風に流されて、それまでの死闘が嘘だったか様に元の静かな森へと戻っている。

 ゼンジは大きく息を吐くと刀の切先を骸に向けてそれらを見渡した。

 残心という物がある。事を終えた後、乱れた心を落ち着かせ、集中力を途切れさせず、不意打ちを防ぐ状態だ。


「フー……フウ……フゥ……」


 荒くなった呼吸を整える。

 辺りに転がる骸は少しも動かずこれで終わったかの様に思われた。

 だがその時、背後で倒れていた一体が起き上がり剣を振りかざしゼンジを襲う。

 ゼンジは分かっていたかの様に振り返ると刀で受ける構えを見せたが、そこに一人の影が割って入って来て、手に持つ魔導杖でデモンゴブリンを突いた。


『ギガインパクト!』


 まるで砲撃の様な腹に響く衝撃と共にデモンゴブリンの身体が霧散する。

 ギガインパクト――接触した対象に衝撃を与えて攻撃する上級魔法で、その威力は硬い鱗と頭骨で守られたドラゴンでさえ頭部に受ければ昏倒し、デモンゴブリン程度のただ強靭なだけの肉体なら霧となって飛び散ってしまう程強力だ。


「なぁ!? 耳が! その魔法近くで撃つなって、いつも言ってんでしょうよルイ!」


 そんなギガインパクトの余波を近くでもろに食らったゼンジは魔法を放ったルイに文句を言う。


「うっさいわ! そっちこそ仕留め損なうとか半端な仕事しとんちゃうぞ!」

「別にオタクの横槍が無くたって対応出来ました~!」

「あん? アンタそれが助けられた(もん)が言う台詞け? どつくぞ(ちゃーすぞ)ワレ!」


 このバディの仲はいつもこんな感じだ。

 お調子者のゼンジと少々気が強いルイによって繰り広げられる痴話喧嘩は日常茶飯事ではあるが、だからと言ってバディの仲が悪い訳では無い。

 今回もいつも通り、いつの間にか仲直りするだろう。

 だから横であーだこーだ言い合う二人を放っぽってパーティーメンバーのクラウスは、さっさとデモンゴブリンから魔石や牙等の利用価値のある部位を回収し始めた。


「おーい! お前等首尾はどうだ?」


 太鼓の様によく響く野太い声が辺りに木霊する。

 三人はその聞き慣れた声がしたであろう空を見上げると、鎧を着た大男がセイレーンと呼ばれる亜人の女に両肩をガッチリと鳥の様な脚で掴まれ宙ぶらりんの状態で腕組をしていた。

 彼こそがこの冒険者パーティーのリーダーであるザルムだ。

 年齢は32歳でパーティー内最年長にして唯一のSランク冒険者である彼の特徴と言えば筋肉達磨と言う表現がピッタリな大きな身体だろう。

 彼が持つ火縄式のマスケット銃は軍が使う物より大口径で、普通の人間なら反動でひっくり返ってしまう代物だが、ザルムの肉体はそんな物ではビクともしない程強靭だ。


「ザ~ル~ム~!」


 そんな宙に浮くリーダーに向かってゼンジは怒り口調で叫ぶ。

 リーダーだからって不満をぶつけない訳にはいかない。と言うかパーティー内で無礼講を布いているのはリーダーであるザルム自身だ。


「おーゼンジ、無事全部倒せたか。さすがだな」

「さすがだなじゃないよ! 今日の討伐目標は三体の討伐だって言ってたじゃん! なのにこれ何?」


 ゼンジは地面に転がる三体を優に超えるデモンゴブリン達の骸を示す。

 だがザルムはそれらを見渡すと「ほう」と満足そうに笑みを浮かべた。


「ハハ、悪かったな。俺も巣から十体も飛び出した時は驚いたが、お前を信じて敢えて試練を与えたと言うわけだ! ガッハッハッハッハッ!」


 豪快に笑うリーダーにやっぱりそういうノリだったかと呆れてしまう。

 ザルムがいい加減な性格なのは分かり切ってた事だ。まあその性格のお陰で今自分はここに居れるのだから批判は出来ない。

 何せどこの馬の骨とも知れない異世界人である自分を「面白い!」の一言で仲間に入れてくれて、冒険者として育ててくれたのだから。

 でも何というか「俺凄いだろ」みたいな感じを出されると、割りを食ったこっちとしてはちょっとムカつく。


「お~いザルム~。何や偉そうにしとっけど、今のアンタの格好、巣に運ばれよる牛みたいでこれっぽっちも威厳無いで~」


 横に居るルイがザルムのイキりを叩き潰す様な突込みを入れる。

 そんな彼女にゼンジは「ナイス!」と心の中で拍手を送った。


「何? そいつはイケてねぇな。ハニー降りよう」

「は~い」


 ザルムに言われセイレーンの女性は腰に生えた翼を操りゆっくりと降下を始める。装備を含めれば百キロはあるであろうザルムを掴んでいるのに全くヨレないその飛行能力はさすがセイレーンと言った所だろう。

 そんな彼女はノーラと言いザルムの奥さんだ。

 セイレーンである彼女の特徴はその半人半鳥の身体だろう。腰からは翼が生え、脚は完全に鳥のそれだ。髪や体毛は羽毛に近く孔雀の様な青と緑の羽根がとても美しい。

 パーティー内では空中からの索敵や奇襲を担っているのと、その強靭な脚で物資の空中輸送もやってのける。

 因みに年齢は「ヒ・ミ・ツ」らしいが見た目は人間で言うと二十代前半くらいだろう。

 ザルムを地に降ろしたノーラはその視線をゼンジに向けた。そして翼を羽ばたかせると彼の元に舞い降り、頑張った我が子を褒める様にゼンジを抱擁した。


「ゼンジくーん! 頑張った! エラい! いい子いい子!」

「ちょおっ、(ねえ)さん止めて下さいって!」


 ゼンジは頬を赤らめて抱擁から逃れようとするが、元々人間より体格の良いセイレーンから力付くで逃れれる訳が無い。

 まるで我が子の様に頬擦りしてくるノーラになす術無くゼンジは揉みくちゃに可愛がられる。


「んーー! やっぱりゼンジいい子ね。ねぇそろそろ私達の養子にならない?」


 ちょっと語弊があった。「我が子の様に」ではない。ノーラは本気でゼンジを「我が子」にしようとしているのだ。


「だから養子にはならないってずっと言ってるでしょう」

「え~でもゼンジ君この世界じゃ天涯孤独じゃない。私達と家族になりましょうよ~」

「勘弁して下さい」


 ノーラは初めて出会った時からゼンジの事を大層気に入っていた。

 見知らぬ土地にやって来てしまったゼンジを気にかけて、いつもフレンドリーに話し掛けて来て色々相談にも乗ってくれたのだ。

 それでゼンジは彼女の事を感謝と親しみを込めて「(ねえ)さん」と呼んでいたのだが、ここ最近は養子にならないかと言われ続けて流石のゼンジも困惑している。


「ザルムも何とか言ってよ」


 (ねえ)さんの無茶を止めてくれとその伴侶に助けを求めるが、


「ゼンジ、うちは躾けが厳しいぞ」


 と面白がって悪ノリし余計ゼンジを困らせる。

 そこへ相棒であるルイがしゃーないなあと言う様に助け舟を出してくれた。


(ねえ)さんそろそろ仕事しましょか。さっきからクラウス一人に任せっきりですさかい」


 見れば自分達が戯れている間もクラウスはせっせとデモンゴブリンの解体をしている。さすが熟練の冒険者だけあって見事な手際だが十体もの解体を彼一人に任せる訳にはいかない。

 ノーラは名残惜しそうにゼンジから離れると太ももに装着したナイフを取り出し、手が着けられていないデモンゴブリンに刃を入れた。


「よし、じゃあさっさと取る物取って帰るぞ」


 まるで盗賊の様な台詞で音頭を取るザルムにゼンジはちょい待ちと呼び止める。


「ザ~ル~厶~。今回の報酬だけど俺頑張ったんだし……ね?」

「上乗せしろってんだろ? 分かってるよ」

「わあ、助かる~!」


 報酬の確約を取ったゼンジはさっきまでの不満はどこへやら、小躍りする様に喜んだ。

 その現金な態度にルイが呆れた視線をゼンジに向ける。


「ちゃっかりしんとんなアンタ」

「今回魔法カードを二枚使っちゃったからねぇ。一回数千クォルの魔法は財布に響くのよ」


 ゼンジはまだ修行中で魔法を使えないのだが、そんな彼でも魔法を使う方法があった。

 それが先程彼がガンレットに挿入した魔法カードというマジックアイテムを使うことだ。

 魔法カードはカード内に魔法情報と発動に必要な魔力を封じたアイテムで、特殊なカードリーダーに読み込ませる事で詠唱無しの即効魔法を発動する事が出来る。

 魔法の素養が無い人間でも魔法が使える便利アイテムなのだが、魔法カードは使い捨てな上にまあまあ高い。あと本職の魔法士が放つ魔法より性能も落ちる。

 今回、ワープとブーストと言う二枚の魔法カードを消費したのでゼンジとしては何とか報酬を多く貰いたかったのだ。


「ふ~ん。ほなもっと稼げる様に売れるモン剥ぎ取んで。何や魔石を欲しがっとった商人が居ったからな」


 ルイもナイフを取り出し解体作業に加わろうとゼンジを誘う。


「あーそうだ。ルイ」


 ゼンジは思い出した様に彼女を呼び止めた。


「何ぞい?」

「さっきのギガインパクトありがと」


 屈託の無い顔で助けてくれたお礼を言う。

 ルイは一瞬微笑みかけたものの照れ臭さからか直ぐに表情を取り繕った。


「ふん、最初からそう言えや」

「悪いねぇ。キツく当たられると跳ね返したくなるんだよ。俺の悪い癖だ」

「ったく、アンタはいっつも一言余計やねん」


 二人は憎まれ口を叩き合いながらデモンゴブリンの解体を始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧な戦闘描写が印象的でした。 読みやすさもあり、くどくならない文章で話に集中しやすかったです。 [一言] これからもがんばってください
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