第13話 〜私も貴方みたいに!〜
ルイと別れてから暫くゼンジは買い食いを楽しみつつ街を散策していた。
街の人達ときたらゼンジを見掛けるとお礼としてお菓子や食物をくれるので、彼のお腹もそろそろ限界に近付くなっていた。
ちょっと休憩と思い大通りから外れると、とある家の前に子供達が屯している。
何だろと通り過ぎざまに覗いて見ると、どうやら的当てゲームをやっている様子で、プレイヤーの子供が見事ボールを的に当てると「よっしゃぁ!!」と力一杯に叫んだ。
「ハハ、ありゃルイの真似かねぇ?」
今日あった出来事がもう子供達の間で流行っている。
子供は純粋だなぁと微笑ましく思っていると、今度は聞き慣れた声がゼンジの耳に入った。
「――っけぇ! ………さーん!」
何処かで聞いた台詞と聞いた声。
何をやってるんだろとゼンジは声がする方へ行ってみる。
そこは家々の並びにぽっかり空いた空地スペースで、昔見ていた猫型ロボットアニメを思い出させた。
その子供達の遊び場になっている空地で私服姿のクーデリカが子供達に囲まれて困った顔をしている。これまでは冒険者姿の彼女しか見ていなかったので新鮮な気分だ。
「クーデリカねーちゃん。次は俺にもやってくれよー」
手に木の棒が握った男の子が彼女の手をぐいぐいと引っ張って何かをせがんでいる。よく見ると他の子供達も木の棒をまるで剣の様にして持っていた。
「もう許してよ~。誰かに見られたらお姉ちゃん恥ずかしいから」
一体何をやっていたのか分からないが、クーデリカの顔は真っ赤になっている。
「分かった。じゃあ全員でやろ。これで最後にしてね。ね?」
子供達は「うん」と言うと一列に並び、剣に見立てた木の棒を肩に託した何処か記憶にある構えをとった。
「行けぇ! ゼンジさーん!」
は?と思うゼンジの目の前で子供達は走り出し、そして空地の端まで来ると木の棒を振り下ろしつつ叫ぶ。
「とったー!!」
ああ、なるほど。これは俺達の真似をしてるんだ。
言うなればアンスラ討伐ごっこと言った所か。そして大方あの場に居たクーデリカが本人役として巻き込まれたのだろう。
(いやはやホント子供って純粋だねぇ。そしてそれに付き合うクーデリカも面倒見が良い)
「さあ、これでお仕舞いだよ。皆お祭りに行こ!」
そう言ってクーデリカは子供達を誘導しようとした所で、一部始終を見ていたゼンジと目が合う。
「やあやあクーデリカ。どうよ楽しんでる?」
意地悪心からゼンジは見てたよとでも言うようにニヤけた顔で声を掛けた。
「ゼン……!? ひやあぁぁぁぁぁ……!」
「あ、ゼンジにーちゃん!」
顔を真っ赤して塞ぎ込むクーデリカ。
それとは対象的に子供達は元気いっぱいにゼンジに群がって来た。
「ゼンジにーちゃんカッコよかった!」
「ぼくも大きくなったら冒険者になる!」
「ハッハッハ、そうかいそうかい! じゃあ冒険者になったら一緒にクエスト行こう!」
子供達に慕われるゼンジはもうヒーロー気分だ。
「ゼンジにーちゃん、とったーってやって!」
子供達にせがまれればゼンジはすんなり快諾し、男の子から木の棒を借りると、子供達を危ないからと遠ざけてから虚空に向かって一閃させた。
「討った!」
生「討った」を見た子供達がキャッキャとはしゃぐ。
ゼンジは満足気に剣舞の様に木の棒をくるりと回すと借りていた男の子に返した。
「さあさあ皆、にーちゃんはクーデリカねーちゃんと話があるんだ。向こうの武器屋さんで木刀が合ったから見に行くと良い」
子供達ははしゃいで走って行く。明日には街中が修学旅行帰りの様な木刀を持った子供達で溢れるんじゃないだろうか?
そしてゼンジはずっと恥しがっているクーデリカに目を向けた。
「オタクも大変だねぇ」
「くぅ、一番見られたくない人に見られた……恥ずかしい……」
クーデリカは目を合わせてくれない。
まあ確かに本人が居ないと思って色々叫んでいたら実は居ましたなんてシチュエーションは恥ずかしい。モノマネしてたらご本人登場みたいな。
クーデリカのこの慌てる姿を見るのも何度目だろうか。ちょっと面白くなって来てる自分も居たが、そんな気持ちはうっちゃってゼンジはクーデリカを励ます。
「でもねぇ、クーデリカのあの言葉があったから、俺はあの時踏んばる事が出来たんだよ」
「へ?」
塞ぎ込んでいたクーデリカが顔を上げる。
「謂わば今回の勝利の女神はクーデリカさ。あのままだと確実に俺は気持ちで負けてたからねぇ。いやぁ助かったよ。ありがとうね」
ゼンジの言葉にクーデリカは嬉しいような恥ずかしいような顔をした。
「私、冒険者になってこんなに沢山の人に喜んで貰えたの初めてでした。これがゼンジが冒険者になった理由なんですね」
「そうさ。どう? とっても良い気分でしょ?」
「はい!」
クーデリカは力強く答えた。そして目を真っ直ぐ力の籠もった瞳をゼンジに向ける。
「ゼンジさん! 私もゼンジさんみたいな冒険者になります! それで困っている人達を助けるんです!」
クーデリカの手と目に一層力が入る。
ゼンジは真っ直ぐに向けられるその目を受け止め、にっこりと口元を綻ばせた。
「そうかい。じゃあまた縁があれば一緒にクエスト行こう。俺も強くなっておくから」
ゼンジはクーデリカの前に右手を差し出す。
クーデリカも同じく右手を差し出し、その小さくも温かい手でゼンジの手を力強く握り締めた。
二人は固く握手を交わし真っ直ぐな目でお互いを見詰め合う。言葉は無いがお互いの思っている事は確かに伝わっている。ほんの数秒間の握手だったが決意を確かめ合うには十分だった。
「ところで……、そこに隠れてるのは誰かなぁ?」
ゼンジは唐突に振り返りさっきからこちらを伺っている誰かに尋ねる。いや大体の見当は付いているのだが。
空地の端に積んである木箱。その影からヒョコリとルイと先程の記者が顔を出した。
「あちゃーバレとったか」
「素晴らしい! 夢見る少女を導く英雄! これは良い記事が書ける!」
「これぞ青春! ああ、尊いッス!」
「いや一人増えてるし。どちら様です?」
ルイとマリアの他に知らない顔がもう一人増えている。見たところ彼もマリアと同じ獣人だ。
「あ、どうも。マリアさんの助手してるダイナと言います。よろしくッス」
「それはどうもご丁寧に。ところでルイ、いつから居たのさ」
「取材っちゅうのが終わって歩いとったら、クーデリカの声がしてのう。アンタも居るんちゃうか思て来たんや」
「え? 私の声。そんなに響いてたんですか? アアァァァ……」
自分の叫びを聞かれたと思ったクーデリカはまた恥ずかしがる。
そこへ記者根性逞しいマリアがお構い無しに彼女へ是非取材をと迫った。
クーデリカは取材という物が何か分からないようだったが、マリア達からアンスラ討伐の事を世の中の人に知ってもらい、街が救われた事を広めたいと説明されると、彼女は街の復興に役立つと言い快く快諾する。
ゼンジはさっさとこの場から立ち去ろうとするが今度はルイにがっしりと腕を掴まれた。
「ゼンジ、アンタも来い」
「ルイ、さっきも言ったでしょ? 俺こういうの嫌いなんだってば」
「アンスラ倒した本人が居らんでどないすんねん。街の為や思て取材受け」
街の為と言われゼンジの心が揺れる。何よりルイに掴まれては絶対逃げられない。まるでネズミが象に引きずられる様に圧倒的な腕力でゼンジは連行された。
「もう分かったよ~」
遂にゼンジも降参して五人はマリアの奢りという事で酒場へと向かう。
街はまだまだ嬉しそうに騒いでいた。そこかしこで他の街から帰って来た知り合いと喜び合う人達がいる。明日から仕事だというのに今夜ばかりは楽しもうとどんちゃん騒ぎする職人や鉱夫達が下手っぴな歌を歌っている。
これが自分が成し遂げた成果である事にゼンジは嬉しさで胸がいっぱいになった。
――街のとある家の屋上ーー
そこに一人の褐色肌の中年男が居た。
彼はタジル伯爵がゼンジにアルトーレ連邦からの移民者と紹介した男だ。
男は夜鳥の脚に手紙を括り付けると星空に解き放つと悔しそうに溜め息を吐いた。
「まさか私が手土産で伝えた亜鉛によって人造モンスターが倒されるとは何とも皮肉な話です」
以前ゼンジはアンスラの能力を「人間への嫌がらせみたい」と言ったが、それは決して間違いでは無かった。
何故ならこの男こそがアンスラをこの街に召喚し、その能力が街にどれ程の被害を与えるか実験をしていた犯人だからだ。
「しかし収穫もありました」
彼は賑わう街を楽しげに行く英雄達を見詰めて不敵な笑みを浮かべた。
「やっと見付けた。我等が魔王……! フフフ、フハハハハ!」
その不気味な笑い声は街の人々の声に混じり消えていった。




