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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第12話 〜取材NGです〜

 長かった一日が終わる。

 今日の勝利をずっと見守っていたお天道様はもう山に隠れて辺りは暗くなり始めていた。

 しかしタジルの街はこれからが本番だと言うように一層の賑わいを見せており、その真っ只中に今回の主役であるゼンジとルイはいた。

 二人は街を救った英雄として讃えられ、タジル伯爵から感状と伯爵家の紋章が入った短剣を拝領し、街の人達からは大きな拍手を受けた。

 褒賞式が行われている壇上の場所は数時間前までアンスラが居座っていた場所であり、街道と街の東西を繋ぐ大通りが交差するこの場所は見通しが良く、街を救った英雄を讃える場所には持って来いだった。

 真面目そうに一礼するルイとは対照的に、ゼンジはアイドルの様に笑顔で手を振り賞賛してくれる人々に応えた。

 アンスラを倒してからタジルの街はお祭り騒ぎだ。アンスラ討伐の報を持った早馬が他の街に出稼ぎに出ている住民達の元へ走った。その知らせを聞いた人々が次々とタジルの街に戻って来て、そして日が落ちる頃にはランタンが煌々と灯され街を上げての宴となった。

 褒賞式が終わり壇上から降りたゼンジは伯爵から賜った感状と短剣を衛兵に預けると首を回して凝りを解す。


「はぁ、終わった終わったぁ」


 ゼンジは堅苦しい場はどうも苦手だ。賞賛される事自体は純粋に嬉しいのだが、こうも仰々しくされるのは性に合わない。もっとこうノリ良くフェスみたいな感じで騒ぎたい派なのだ。

 だから式典が終わった今、ゼンジとルイは年相応の少年少女の様に心弾ませて宴で賑わう街に飛び込んだ。


「ルイ、何食べに行く?」

「肉! 肉しかないやろ!」


 二人は雑踏を掻き分けて羊肉を焼く店に辿り着く。

 店のおばさんは二人を見ると満面の笑みで迎えてくれた。


「まあ、英雄のお二人さんじゃないの! お代は要らないから好きなだけ持ってっておくれ!」

「アカンアカン。そんなん言われたら遠慮してまうわ。お代はキッチリ払いますさかい串焼き十本頂戴な」


 ルイはきっちりとお代をおばさんに渡し、皿で出された串焼きを豪快に食らう。噛んだ瞬間、肉汁が溢れ唇を濡らし、それを彼女は舌で舐めて一滴残らず堪能する。


「美味しそうだねぇ。一本頂戴」


 そう言って取ろうとした彼の手をルイはペシッと叩いた。


「これはウチのや。欲しかったら自分で買い」

「ケチんぼ! つーかどんだけ食うのよ?」


 するとルイは「こんだけ」とでも言うように山盛りの串焼きを見せる。

 仕方無しにゼンジは自分で串焼きを購入するが、ルイの様な馬鹿食いはせずとりあえず一本だけ注文した。

 受け取った焼き立ての羊肉を頬張ると旨味と香りが口に広がっり、あまりの美味しさにこれはもっと食べるべきではと迷ってしまう。

 結局もう二本追加で注文し、ゼンジは満足気に羊肉を堪能しながら街を練り歩く。

 街の人達はゼンジ達を見付けると挨拶代わりの様に感謝や賞賛の声を掛けてくれた。


「いやはや街の人達が喜んでくれて良かった。俺達も頑張った甲斐があるというものだねぇ」

「アンタ後ろでめっちゃ煩かったわ。そんで急に飛び出して行くんやからホンマ勝手なやっちゃで」

「悪いねぇ。あの時はもう突っ込むしか無いと思ったからさ。でも最後の援護はナイスだった。ありがとね」


 その素直な感謝にルイは満足気に笑う。


「気にすんなや。アンタの勝手は今に始まった事や無いからのう。どないとでも対応したるわ」

「おお、頼りになるねぇ! じゃあこれからも無理難題押し付けるからよろしくぅ!」

しばく(ちゃっす)ぞアホ」


 そんないつもの漫才を繰り広げる二人の横を子供達が駆けて行く。

 子供達はゼンジとルイに気が付くと「ありがとう」と言ってまた楽しそうに走って行った。


「やっぱり良いな。人に喜ばれるのって」


 ゼンジは手を振りながら自分達が取り戻した街の笑顔を感慨深く感じていた。


「すみません。街を救われた冒険者のお二人ですよね?」


 唐突な声に二人は振り返る。

 そこに居たのは犬耳と尻尾を持つ獣人の女性だ。


「こんばんは。週刊ノウの記者マリアと申します」

「週刊ノウ?」

「はい、世の中で起きている色んな事件や珍事を紙に書いて皆さんにお伝える仕事をしています」


 要するに新聞だ。


(そう言えばこの世界に来てから、そういった類のメディアを見た事が無かったなぁ)


 元々ゼンジは新聞を読む様な人間では無い。元の世界では専らネットニュースやテレビで情報を得ていたし、この世界に来てからも冒険者仲間やギルド経由で、ある程度の世間の情報を知る事が出来ていたので特段気にした事が無かった。


「記者さんがウチ等に何か用だっか?」

「お二人が二ヶ月もの間、街を恐怖に陥れていた凶暴なモンスターを討伐されたと聞いて、是非とも取材をと思い()()着けた次第です!」


 何だかだいぶ話に尾ひれが付いているなとゼンジは思った。確かにアンスラは街に多大な被害を与えていたが「凶暴」と言えるだろうか。


「あの失礼ですがどんなモンスターだと聞いてますか?」

「一夜で街の半分を消滅させて、討伐に来た百人の冒険者が全滅したと聞いてますが?」


 やっぱりとんでもなく歩調された話を掴まされている。きっと彼女の頭の中ではエンシェントドラゴンかタイラントジャイアント並のモンスターが暴れていたと思っていたのだろう。

 残念ながらタジルに居たのはそれらより弱いが別ベクトルで厄介なモンスターだ。アンスラの被害は街自体より街の経済へのダメージの方が大きい。


「見ての通り街は向こうの一角以外は被害ゼロです。大人しいスライムだったので死者いませんよ」


 ゼンジは真実を教えて上げる。


「え? ええ!? じゃあこれガセネタだったんですか!? え? でもじゃあこの街の騒ぎは何? 何でただのスライムに戦勝記念みたいなお祭り騒ぎやってるんですか!?」


 マリアは頭の整理が出来ず混乱する。 

 そんな彼女を見てゼンジとルイは顔を見合わせた。


「ルイ、どうする取材?」

「ウチは受けてもええで。おもろそうやし」


 意外にもルイは乗り気だった。


「俺はパス。何か気が乗らない」

「何ぞい。目立ちたがりのアンタにしては珍しいやんけ」

「昔、新聞記者にある事無い事書かれた思い出があってねぇ。この手のものはどうも……。だから相棒頼むよ」


 ジャーナリストというのは基本読み手の興味を惹く様な文章を書く仕事だ。ただ脚色してくれるだけならまだしも話を捏造する記者なんてのも元の世界は居た。

 ゼンジは子供の頃、その被害にあっていたので殊更ジャーナリストに対しても懐疑的だ。

 それに事件の概要を説明するだけならルイだけでも十分だ。


「早速押し付けよって。まあええわ。記者さんはウチが相手しとくからアンタはこのイベントを楽しんどき」

「悪いねぇ」


 そう言うとゼンジは手を振って、さっさとその場を立ち去る。背中に感じるマリアの残念そうな視線から逃げる様に雑踏の中に身を隠した。

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