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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第6話 〜オタク性格悪いな〜

 タジルの男達と一緒に頑張ったプランCだが、これは失敗した。

 トンネルがアンスラの結界直下に至った途端、道具の錆が始まったのだ。


「まぁ、そう簡単には行かないかぁ~」


 ゼンジは作戦会議室のソファに寝転がると、今日一日の疲れを絞り出す様に背伸びをした。

 これまで四つの作戦が全て失敗した。いつも余裕振っているゼンジもさすがにここに来て頭を抱えだした。

 武器は使えない。魔法は効かない。そうなると後は肉弾戦しかないのだが、あのゴムの様な身体では拳闘士のパンチもキックも有効打にはなりそうにない。


「あ、そうだ。鋭い爪や牙を持ったモンスターならアンスラを倒せるかも」

「モンスター? 使役者(テイマー)の冒険者なんぞ滅多に居らんぞ?」

「じゃあワーウルフとか竜人族みたいな亜人とかは?」

「今から亜人の冒険者を探すてか? そう都合良う居るかいな。大体アンタそれはウチ等ではアンスラを倒せませんって言うとるもんやんけ」


 ルイにはゼンジの案がかなり敗北主義の様に聞こえた。あの男から偉そうにクエストを引き継いでおいて、こんな事を言い出すなんて情けない。

 だがゼンジにはゼンジなりの思いがある。


「しかしねぇ……。武器も魔法も使えないんじゃあ俺とルイでは相性が悪いよ。たぶんザルムでも相性が悪い。ここは俺達のプライドよりこの件の解決を優先すべきじゃない?」


 アンスラが倒されない限りこの街は衰退し続けるのだ。

 タジル伯爵も交易が断たれて以来、伯爵は領地経営を見直し、他の領主との交渉、借金をして住民達の補償に当て何とか保っている。しかしそんな事はいつまでも続かない。

 既にタジルの人口の半分が職を求めてこの街を出て行ってしまったという。

 ルイもそういった事情は承知している。だからゼンジの言葉を否定する事は無かったが、だからと言って簡単に納得も出来ず眉間に皺を寄せて唸った。


「戻りました」


 ちょうどそこへクーデリカが入室して来た。

 

「おかえりクーデリカ。あ~昼間はごめん」


 ゼンジはソファから立ち上がると早速彼女に昼間言った事について謝る。

 対するクーデリカはゼンジと目が合うと緊張した面持ちになった。


「いえいえお気になさらず。アレがその場に合わせたお世辞だって分かってますから……。私こそ取り乱したりしてごめんなさい!」


 未だ動揺しているのか彼女はキョロキョロと目を泳がし早口で喋る。

 そんな二人の様子を見ていたルイは、さっきまでの難しそうな表情を解いてフッと意地悪な笑みを作った。


「熱いな~、お二人さん」


 面白かったので少し意地悪を言ってみる。


「茶化さないでよ」

「茶化さないで下さい」


 ほぼ同時に二人は言い返す。その後「あっ」とお互いを見て照れるお約束付きで。


「はっはっはっ! アンタ等息ぴったりやんけ! 何なら席空けよけ? 二人でええ事しときんか」


 面白がったルイは更にゲス顔と言っても差し支えない笑みを浮かべて二人を弄る。


「そんな時間ありません! お二人共、タジル伯爵がお呼びですよ!」


 そんなルイの意地悪に耐え兼ねたクーデリカは用件だけ言ってスタコラと部屋を出て行った。


「逃げよったな」

「オタク性格悪いねぇ」

「すまんの。おもろかったんでついな」


 口では謝るもののルイは全く悪びれた様子が感じられない。どっちかと言うとまだこの余韻を楽しんでいる感じだ。


「それよかあの娘、たぶんアンタに惚れとんで」

「そう? ただ照れてるだけじゃない? でもまあ、そうだったら嬉しいねぇ」


 ゼンジは照れ臭そうに頭を掻いた。


「何ぞいや。まんざらでも無さそうやんけ」

「こう見えて元の世界では結構人気者でねぇ。女の子友達も結構いたんで、こういうのには慣れてるんだ」

「タラシかい」

「酷いなぁ。ただ友達が多かっただけだって。ほら俺って愛想あるから」

「アンタにあんのは胡散臭さや」

「えーーー!?」


 わざとらしく声を上げる相棒にルイは呆れた様な目を向けた。

 照れて本音が言えないのか、本気で言っているのかイマイチ分からない。

 ゼンジとは一年以上バディを組んでいるがそれでも、たまに彼の腹の底が分からない事があった。


「まあええわ。それよりタジル伯爵んとこに行こけ」


 いつまでも無駄話をしている訳にも行かない。ルイはさっさと話しを切り上げた。


「伯爵は何の用だろうねぇ。クビじゃない事を祈ろうか」


 そう言ってゼンジが部屋の扉を引くが、その扉はいつもより妙に軽く感じられた。そして扉の向こうからはゼンジと同タイミングで扉を押したであろうクーデリカがバランスを崩してゼンジの飛び込んで来た。


「へ?」

「え?」

「よ?」


 一瞬時間が止まったかの様に全員が固まった。


「アア、アアァァァァァ――!!」



ーーー三十分後ーーー


 その後、何とかクーデリカを落ち着かせ三人は伯爵の部屋に向かった。


「呼び出してすま――。クーデリカ、顔が赤いが体調でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です……」


 大丈夫とは言いつつクーデリカの声はいつもよりトーンが高い。


「なら良いが。それで二人共アンスラ討伐はどうだ?」

「申し訳ありません。少々手こずっとります」

「そうか。やはり武器も魔法も使えんとなれば君達でも苦労するか……」


 ルイの答えにタジル伯爵は残念そうに顔を(しか)めた。


「ところで君達、ウーツ鋼は知っているかな?」

「確か錆びない鋼と言われる(もん)とちゃいましたか?」

「そうだ。私もこの街が廃れ行くのをただ傍観していた訳ではない。武器が錆びてしまうなら錆びない武器を用意すれば良いと考え、商人に依頼して隣国のアルトーレ連邦からウーツ鋼で作られた剣を取り寄せた」


 ゼンジとルイはお互いに顔を見合わせる。

 武器が錆びないのであればアンスラの討伐なんて容易い。一気に接近して奴の弾幕を掻い潜り、一刀を叩き込めば終わるのだ。


「タジル伯爵。その剣は今どこに?」

「もうじきこのタジルに届く。だが輸送ルート上には湿地帯があってな。そこにはヌマリザドが居て身動きの取れなくなった荷馬が食われるという事がある。だから君達に輸送の護衛をお願いしたい。勿論アンスラ討伐とは別で報酬を渡そう」


 その言葉に二人は希望が見えた様な顔になる。


「勿論引き受けます。武器が使えるんやったらアンスラなんぞ木偶人形同然ですわ」


 ルイが威勢良く宣言し依頼を受けた。

 その勢いにはタジル伯爵も満足そうに頷いた。


「うむ。では明日隣村まで行って合流してくれ」


 伯爵の部屋を出た三人は力強い脚で館の廊下を闊歩する。


「おっしゃあ! 光明が見えてったで!」


 今までの作戦が尽く上手くいかずフラストレーションが溜まっていたルイは発散するように声を上げた。

 ゼンジも気持ちは同じだ。ウーツ剣さえ届けば後は彼がアンスラに突撃し叩き斬る。前回のプランBでアンスラの攻撃は既に見切っているので接近する事は容易い。

 ただ少し気になる事もあった。


(本当に錆びないのかねぇ)


 ウーツ鋼は地球でも錆びない鋼として実在した金属だが、その製法は失われ現在では再現としてのウーツ鋼のナイフや包丁が販売されていた。

 で、そういう物が錆びないかと言うとそうでもなく、管理が悪いと普通に錆びる。あくまで「錆びにくい」止まりの金属なのだ。

 だからこの世界のウーツ鋼の「錆びない」もどこまで信用して良いものか分からない。


「あの。明日の輸送護衛に私も連れて行って下さい」


 そんな思考を遮る様にクーデリカが二人の前に出た。


「どうする?」

問題ない(べっちょない)やろ。それに遠距離攻撃出来るもんが居った方が、いざ戦闘になった時ええし」


 本来、魔法士も遠距離攻撃職に当たるんですがと言いたかったがそんな野暮は控えておく。


「ありがとうございます! お二人に負けない様に頑張ります!」


 クーデリカは嬉しそうに気合を入れる。

 そうしているとルイは自室の扉の前で立ち止まった。


「今日は朝から戦闘やら土木作業やらで疲れたわ。もう飯食って筋トレして風呂入って寝るわ」

「あんだけ肉体労働してまだ筋トレするの?」

「当たり前や。使ったら使った分だけ筋肉は応えてくれんねん。あなたも魔力を増やしたいんやったらもっと身体を追い込みよ」


 そう言うとルイは自室へと入って行ったが、何か思い出したかの様に、ヒョコっと首だけ出してルイはゼンジ達に意地の悪い笑顔を見せた。


「ウチは部屋戻っけど、アンタ等はご自由に楽しんどきや~」

「オタクもしつこいなぁ。そんなにクーデリカの反応が面白いかい? クーデリカも何か――ってアレ?」


 今さっきまで居たはずのクーデリカの姿が無い。

 すると元凶のルイが面白そうに笑い出した。


「ヤッバイわ~。猫並みの速さで逃げて行きよった。あの娘かわええわ~」

「オタク性格悪いな」


 クーデリカも今日1日いろいろあったので、遂に恥ずかしゲージが振り切ったのだろう。

 猛ダッシュで逃走するクーデリカをちょっと見てみたかったが、原因が自分であるので気が引けた。


「明日謝っときなよ」

「ホーイ。おやすみー」


 コイツまたやるなとゼンジは思った。

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