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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第5話 〜プランC 土竜作戦〜

 ザッ、ザッ、ザッ――。

 スコップで舞い上がった土煙で咽る。

 ザッ、ザッ、ザッ――。

 土と汗の匂いが辺りを漂う。

 ザッ、ザッ、ザッ――。

 泥だらけの手、汗塗れの顔、男達は逞しい肉体を黙々と動かし、目の前の途方も無く続く土壁を穿いている。


「月が~出た出た~月が~出た~、ヨイヨイっと」


 ゼンジは歌を唄いながら穴から出される土砂を手押し車に積込んでいた。


「冒険者の兄ちゃんそれ何の歌だ?」


 土を入れたバケツを外に出しに来た鉱夫の男が陽気に唄っているゼンジに聞いた。


「俺の故郷の祭りで唄われてた民謡ですよ。元は鉱夫さん達が仕事中に唄ってたらしいねぇ。まあ出だしのこの部分しか知らないけど」

「へぇ、中々良い歌じゃないか」


 そう言って鉱夫の男は同じ様に歌を口遊みながら縦穴に入って行った。

 ここはアンスラの結界の外にある家の庭。

 そこではゼンジが立てたプランCが着々と進められていた。

 プランC:トンネルを掘って地下からアンスラを攻撃する。

 街へのリスクがあるからと消極的な作戦だったが、タジル伯爵に相談したところアンスラが倒せるならと掘削場所と作業員を提供してもらえたのだ。

 ゼンジも言い出しっぺである以上、他人任せになんて出来無いので作業を手伝おうとしたのだが、


「そんな身体じゃあ役に立たないから土砂の運搬でもしててくれ」


 鉱夫のおじさん達にボディチェックを受けた結果、圧倒的な筋肉不足として遠慮されてしまった。だからこうして穴と盛土の間を手押し車で行ったり来たり土砂運搬をしている。


(ルイの時はめっちゃ盛り上がってたのにねぇ)


 確かにルイ程の立派な身体はしていないが、自分も鍛えているのに何故ここまで差があるのか納得いかない。

 それにゼンジの肉体は身体強化のスキルで見た目以上にパワフルだ。だがやはり見た目が物を言うのだろう。


「よし、皆休憩だ!」


 作業リーダーの言葉で鉱夫の男達が穴から出て来た。

 鉱夫達は家の軒下に集まると差入れのパンやジュースを片手に談笑を始める。


「ゼンジ君余り無理するなよ。君はさっきアレと戦ったばかりなんだから」


 心配して声を掛けてくれたのはここの作業リーダーでクーデリカの父であるフェルムだ。


「心配入りませんよ。ルイのヒールで傷は癒えたし、それに俺には治癒強化のスキルがありましてねぇ。多少の怪我は直ぐに治ってしまうんですよ」


 そう言ってゼンジは傷がすっかり癒えた自分の身体を見せる。


「へぇ! 君スキル持ちだったのか珍しい!」


 フェルムも他の鉱夫達も珍しい物を見た様に驚く。

 それもその筈、この世界でスキルとは一万人に一人と言われる珍しい能力だからだ。

 だから皆に持て囃されゼンジはついつい調子に乗った。


「はっはっはっ! あと身体強化のスキルもあるんでそこら辺の人よりは力持ちですよ! どうです俺にもトンネル掘らせてもらえますか?」

「とんでもない。娘から無理をさせるなと言われているんだ。それに力があったとしても、素人が慣れない事をすると事故に繋がるからな。穴掘りは俺達に任せてくれ」


 フェルムが力強く言うと仲間達から次々と同意の声が上がった。


「そうだそうだ。あんた等ばかりにしんどい事はさせねぇよ!」

「ここは俺達の街だからな。俺達にも手伝わせてくれ!」


 おじさん達の言葉が胸を打つ。彼等もまたクーデリカと同じく自分達の手で街を救いたいのだ。


「皆さんありがとうございます! アンスラは俺達が倒して見せますよ!」


 勇気付けられたゼンジはお返しとばかりに高々と宣言すると男達はパチパチと応援の拍手を送る。

 ゼンジは嬉しそうに差入れのパンを噛った。 


「ところでゼンジ君。ウチの娘の事なんだが冒険者としてどう思う?」


 唐突なフェルムの質問にゼンジは頬張ったパンをジュースで流し込む。


「冒険者としては実力を見てないから何とも。でも第一印象としては何か頼りない感じがしますねぇ」


 ここに来るまでの道中やカフェテラスで初めて会った時も、クーデリカは冒険者としては頼りない。荒事には向いてない普通の少女という印象だった。


「やっぱりか。あの娘は魔王退治のおとぎ話に憧れて冒険者になったんだが、どうにも向いているとは思えないんだ」

「そのおとぎ話ってこの国の初代皇帝の伝説を描いたアレですか?」

「そうさ。特に勇者の仲間だった弓使いのエルフに憧れていてな。それで得意でも無いのに弓を使ってるんだ」


 勇者伝説はこの国で最も有名なおとぎ話だ。初代皇帝がその勇者で700年前にこの地に君臨していた魔王を仲間と共に討ち倒して建国したのがこのジルガンド帝国。帝国はその冒険譚をプロパガンダとして広めている。


「もしかしてフェルムさんはクーデリカが冒険者である事を良く思って無い?」

「危険な職業だからね。正直、街で畑仕事でもしてて欲しいよ」


 フェルムはその冒険者であるゼンジの前だからか少し申し訳無さそうに答えた。父親としては可愛い娘を命の危険がある冒険者になんて就かせたくないのだろう。


「変な事を聞いて済まない。別にゼンジ君から冒険者を止めるように仕向けてくれって事じゃ無いんだ。ただ同じ冒険者から見てどうなのか気になって」


 フェルムは早口で取り繕う。本音としてはゼンジを使ってでも冒険者を止めさせたいのだろう。

 しかしゼンジもクーデリカと同じ様に憧れから冒険者になった人間だ。フェルムの気持ちは分かるがクーデリカの方を応援したい。


「あくまで第一印象なのでアテにはならないですよ。実際クーデリカみたいな優しい性格の冒険者なんてごまんといますから」


 自分の言葉で要らない心配を掛けないように、ゼンジは念の為に釘を刺しておく。

 フェルムからは分かってると返ってきたが少し気不味くなってしまった。

 そんな空気を察してか周りの鉱夫の1人が冗談っぽくゼンジに問い掛けた。


「因みに女の子としての印象はどうだ? クーデリカちゃん結構可愛いだろ?」

「おい! 何聞いてんだよ?」


 とは言いつつフェルムはまんざらでもなさそうに笑っている。

 他のおじさん達も興味津々にゼンジがどんな事を言うのか見ていた。

 さて困った立場になったのはゼンジだ。お父様の前で彼の娘について評価をしなければならないとはどんな罰ゲームだろう。下手な事は言えない。まあ短い付き合いだがクーデリカの欠点なんて、さっき言った頼りなさくらいしか思い付かないのだが。


「そうですねぇ。街を救いたいと一生懸命だったり、その為に俺達の手伝いをしてくれたりと健気で優しい良い娘だと思います。おまけに美人だ」


 ゼンジの評価に男達はうんうんと頷く。


「好きですよ俺」


 その最後の一言に全員が吹き出した。

 声を上げて笑い出す人もいれば、よく言ったと面白そうにゼンジの肩を叩いて来る人もいた。


「フェルム良かったな! クーデリカちゃんに彼氏が出来たぞ!」

「兄ちゃんアンタさてはタラシだな!」


 周りのおじさん達が酒宴の様に盛り上がる。

 そんな中フェルムは呆然としていたが、ふと我に返りゼンジに一言。


「む、娘はやらん!!」


 そのお決まりの台詞でおじさん達は火に油を注いだ様に盛り上がった。


「休憩終わり! 行くぞ!」

「あ、逃げた!」


 作業リーダー特権で休憩を強制終了させスタコラサッサと縦穴に入って行くフェルム。そんな彼にニヤニヤしながら鉱夫達も戻って行った。

 ゼンジも作業に戻ろうと立ち上がった時、


「アンタ、アホやな」


 いつから居たのか窓からルイに呼び止められる。


「ルイ、聞いてたのかい?」

「ウチだけとちゃうけどな」


 そう言ってルイは後ろを示す。

 そこには顔を真っ赤にして呆然と突っ立っているクーデリカがいた。そしてゼンジと目があった瞬間、ビクッと身体を震わせた。


「あ、あのっ……、すみません今は、ごめんなさーい!!」


 そう叫んで逃げる様に部屋を出て行ってしまった。


「マズかったかな?」

「マズいわアホ。アンタは何であんな小っ恥ずかしい事を平気に言えんねん」

「好きなものはちゃんと好きって言えって言われて育ったものでねぇ。つい出ちゃったよ」


 などとゼンジは供述する。


「つまりそれはクーデリカの事を嫁にしたいって事け?」

「おいおい、何で皆そっちに行くのさ。好きにもいろいろあるでしょうよ。さっき言ったのは人柄が好きって意味の褒め言葉な」


 さすがのゼンジも昨日今日知り合ったばかりの女性に手を出すほどプレイボーイではない。クーデリカが素敵なのは事実だが、さっきのは本当に「どう思う」と聞かれた返答の褒め言葉の感覚なのだ。


「アンタはそうでもクーデリカはそう受け取っとらんで」


 ルイはクーデリカが出て行った扉を指差す。

 確かに彼女の様子を見るに勘違いさせてしまった事は間違いない。


「あー、後で謝っときます……」


 これからは褒めたり好意を伝える時は気を付けようと誓った。


「ほな、プランDの報告すんで」


 ルイが話しを切り替える。

 ゼンジが汗水垂らし土木作業をしている間、ルイとクーデリカはプランDを実行していた。

 プランD:火炙り。

 プランBでアンスラの身体が少なくとも、通常のスライムの様な水々しい物ではなく、ゴムの様な物である事が分かったので火炙りを試してみた。

 だがそれも一筋縄には行かない。

 本来ならば油をぶっ掛けて燃やしたかったのだが、そこまで接近するまでにサンダーボールに被弾すれば油に引火してこっちが火だるまになれかねないのだ。だからゼンジは次のような策を与えた。

 先ず乾燥した藁を縄で縛りアンスラを迂回して逆側に回り込む。そして縄を引いて藁をアンスラの周りに藁を集め魔法を放ち火炙りにする。

 アンスラの身体がゴムならば火は効果抜群だと思ったのだが、


「失敗や。触手で藁を全部飛ばされたわ」


 ダメだったようだ。


「そっちはどないやねん。トンネルどこまで掘れたん?」

「もうすぐ結界に到達するよ」

「ウチも手伝(てっだ)おか? 土木作業なんかええトレーニングになりそうやんけ!」


 ルイはウキウキしながら服を脱ぎ始める。


「ゼンジ君、何やって……ってルイちゃん?」


 中々来ないゼンジを呼びに来たフェルムは脱衣中のルイを見て一瞬固まる。


「おう! クーデリカのお父ちゃんウチも手伝(てっだ)うわ!」

「え? え? ええ!?」


 困惑するフェルムを放っといてルイは部屋にあった余りの作業服を着ると、腕が鳴ると言わんばかりに気合いを入れてツルハシ片手に穴へ向かった。


「ウチの筋肉バカがすみません。アレはもう趣味みたいな物なのでお気になさらず」


 呆気に取られるフェルムにフォローを入れてゼンジも手押し車を転がして土砂運びに向かった。

 穴の中ではおじさん達がいきなりの女神(?)登場にテンションは最高潮に達していた。

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