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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第4話 〜プランB 木と骨で殴る!〜

 タジルでの滞在中、ゼンジ達はタジル伯の屋敷で過ごす事になった。提供された部屋は三部屋で、ゼンジとルイの個室と作戦会議用の大部屋だ。

 その作戦会議室でゼンジはタジルの地図を広げて次の手を考えていた。


「まさかまたアンチマジックフィールドとはねぇ」


 ゼンジは昨日の決闘を思い出した。あの時はそれ程厄介とは思わなかったが、今は目の上のたん瘤以上に厄介だ。


「あの、ルイさんは大丈夫でしょうか?」


 同じ冒険者としてこの作戦会議室に詰めているクーデリカが心配そうに部屋の隅で丸まっているルイを示す。


「ウチの……最強魔法が……デーモンハンドがぁ。ウチは……フフ、フフフフフ……」


 不気味な笑いとズピーという鼻をすする音が聞こえて来る。


「ルイー。いつまで落ち込んでんのさー?」

「スライムごときに負けたウチなんか放っといて……。もう冒険者は廃業や。田舎戻って畑耕す(かじく)わ」


 アンスラに撃退されてからずっとこんな感じだ。自分の最強魔法であるデーモンハンドが呆気なく打ち破られた事が余程ショックだったのだろう。


「はいはい、これが終わったら荷駄引(にだひ)きにでも馬鍬引(まぐわひ)きにでもなれば良いさ」

「おい何で家畜扱いやねん」

「オタクの馬鹿力には持って来いじゃん。馬三頭分くらいの力はあるでしょ?」

「失礼な! 五頭はイケるわ!」

「お二人、一体何の話しをしてるんですか!」


 筋肉馬鹿なルイの機嫌が戻ったところで、三人は今分かっているアンスラの情報について整理してみた。


 一、周囲300メートルにある金属を腐食させる結界。

 二、周囲30メートルに近付いた者を迎撃する魔法。

 三、体表にアンチマジックフィールドを展開しておりこちらの魔法は効果無し。

 四、移動しない。

 五、捕食行動を行わない。


「これ……絶対スライムじゃないよね?」


 アンスラを見張ってる兵士達によると、アンスラは出現したその日から全く動いてないらしい。それどころか近付いた鳥やネズミを捕食する事も無かったという。

 普通のスライムは移動もするし虫や小動物を捕食して生きている。

 動きもしない、食事もしないなんてまるでーー、


「植物みたいですね」

「それな。一体どうやって生きてるんだろ?」


 生き物である以上、活動の為のエネルギー源が必要な筈なのだ。


「大方、地面からマナでも吸い上げよんねやろ」


 ルイが私見を述べる。

 マナとは万物に宿るエネルギーと言われており魔力の源だ。元は精霊がこの世界にいた時代の名残りとも、精霊そのものという説もある。魔法詠唱の頭に「精霊よ」と付くのはこれが由来だ。


「ますます植物じゃん。まあ動かないで居てくれるのはありがたいけど」

「ゼンジさん何か案でも?」

「非金属武器で攻撃する。武器が錆びるなら錆びない武器を使うまでさ」


 この世界にはモンスターの骨や爪で作られた武器が存在する。金属の様な加工性や品質の安定は無いものの、良い素材と熟練工が手を掛ければ鉄製の剣にだって負けない強度を有する事が出来る。


「でも前に街の大人達がその作戦を試しましたが失敗しましたよ?」

「その時はアンスラの反撃で撃退されたんでしょ? 逆を言えば反撃さえ回避出来れば問題無いって事さ」


 以前、アンスラに立ち向かったのはタジルの男達だ。屈強な鉱夫と鍛冶職人達とは言え、戦闘慣れしている訳では無い謂わば素人だ。

 冒険者である自分達であればもっと上手くやれる筈。


「クーデリカ、街に武器屋はあるかい?」

「はい、武器屋は結界の外だったので無事です」

「よし、明日はそこで適当なのを買おう。ルイも良いね?」

「おう、今日のリベンジや。明日こそ叩き潰したる!」


 ルイは気合十分といった感じで手を打つ。


「後はあの結界が地下にも及んでいるのかも気になるねぇ。上手く行けば地下から奴を攻撃出来るんだけど、時間掛かるし街へのリスクもあるからこれは伯爵に相談するとしよう」


 結界系の魔法は地表だけ展開される物と地下にまで影響を及ぼす物がある。

 もしアンスラの結界が地表だけに効果がある物であれば、トンネルを掘って地下から攻撃してみようかと考えていた。

 ただこれには問題があり、トンネル掘削に時間が掛かる事と、街の下に穴を掘るという下手をすれば街を壊しかねないリスクがあった。街を救うために街を壊しては本末転倒だ。

 

「じゃあ私、武器屋のおじさんにうんと良い武器を用意するように言って来ますね!」


 明日の作戦が決まりクーデリカは張り切って武器の手配に向かう。


「クーデリカ!」


 そんな彼女をゼンジは呼び止めた。


「はい、何でしょう?」

「クーデリカはクライアントなんだから別に俺達を手伝わなくたって良いんだよ」

「せやせや。後ろで見とったらええねん」


 当人では解決出来無い事を依頼するのがクエストだ。

 今のゼンジとルイはクーデリカが出したクエストを受けた冒険者で彼女は依頼主だ。全てを二人に任せて家で家族とゆっくり過ごしていても誰も文句は言わない。


「何言ってるんですか。ここは私の街なんです。自分の街を救うのは当たり前じゃないですか」


 クーデリカは二人の言葉を力強く突っぱねる。

 ここに来るまでの気弱なイメージがあった二人はその力強さに少し驚いてしまった。


「それに私も街が救われて皆が喜ぶ顔が見たいので。利益なんて二の次。でしょゼンジさん?」


 そう言うとクーデリカは会議室を後にした。


「アンタ、あの娘に何か言うたんけ?」

「あ~うん。こりゃあ一本取られたねぇ」



 ーーー翌日ーーー



 昼前、ゼンジとルイはアンスラを挟み打ちにする様に別れていた。

 二方面から接近する事でアンスラの攻撃を分散させるのが狙いだ。

 今日もアンスラ退治の見物人はいるが昼前だからか、はたまた失敗した事でがっかりさせたのか昨日よりずっと少ない。

 プランB:非金属武器による直接攻撃。

 プランA同様に可能な限り接近した後、突撃を敢行しアンスラの攻撃を回避しながら直接攻撃をする。

 ゼンジは木製のハンマーと盾、ルイはモンスターの骨で作られた槍と盾を装備し待機した。

 因みにルイの服装は、昨日の反省から金属部品を取り除いて、シャツにハーフパンツという出で立ちとなっている。

 クーデリカにはスタートのタイミングを合わせる為に拍子木を渡した。火の用心でカンカン打ち鳴らすアレだ。


「用意は良いですか?」

「おうっ!」

「いつでも良いよ~!」


 ゼンジとルイは武器を構えて走り出す体勢を取った。

 

「ヨーイッ!」


 ーーカンッ!!


 快音と共にゼンジとルイは走り出した。

 突撃距離50メートル。10秒と掛からずアンスラの元に辿り着けるだろう。問題はーー、

 

(さぁて、貧乏くじはどちらかねぇ?)


 アンスラの身体がボウっと怪しく光る。アンスラはグニャリと身体の上部を筒口の様に開けると体内で作り出したサンダーボールをゼンジに発射する。

 ゼンジは発射されたサンダーボールを盾で受け止める。


(よし、攻撃は大した事無い!)


 これまでチートの様な能力を見せられてどんな威力だろうかと心配だったが、軽い衝撃と盾が少し焦げた程度で済んだ。この程度なら接近は容易い。そう思った瞬間、新たな雷球がゼンジに迫る。


「うおっ!?」


 身を屈めて回避するが雷球は次から次へと飛来する。見れば雷球は発射口で二つに別れてゼンジとルイを同時に迎撃していた。

 だがハイランク冒険者のゼンジ達に取っては避けられない程ではない。

 それどころか不思議な事にアンスラの攻撃は機械的というか魔法発射に一定のリズム感があり、むしろ避けやすいまである。


(このリズム、まるでメトロノームみたいだねぇ)


 ゼンジ達は直ぐにその単調な攻撃を見切り始めると、まるでステップを踏む様に距離を詰める。

 対するアンスラは逃げようともせず機械的に雷球を飛ばして来るだけだ。

 完全に攻撃を見切ったゼンジが木槌を魔法発射口に振り降ろす。しかしアンスラは発射口を閉じ、強い弾力と共に木槌を返されてしまった。

 次にルイが槍を突き出すが刺さりが浅い。

 スライムでは有り得ない固さ。まるで粘土を刺しているかの様だ。


「コイツ、ホンマにスライムけ!?」

「だから絶対スライムじゃないって!」


 再度二人は武器を構える。

 するとアンスラに動きがあった。先程まで魔法を発射していた上部から触手を出すと全身を雑巾絞りの様に捻り始めた。


「「来るよ(で)!!」」


 二人は同時に叫ぶと攻撃を止めて後退に転ずる。

 アンスラはまるでぜんまい仕掛けの様に回転し、身体から出した触手を遠心力で伸ばし、横薙ぎの一撃を二人に見舞った。

 ゼンジとルイは直撃の寸前、盾で触手をガードするがその衝撃は凄まじく、いとも簡単に吹っ飛ばされ周囲の崩壊した家に突っ込んだ。


「ゼンジさん! ルイさん!」

「ヤバい! 冒険者の二人が吹っ飛ばされた!」


 見物人達が慌てて二人が突っ込んだ家に集まる。

 ゼンジは瓦礫の中から自力で立ち上がる事が出来た。これも彼のスキルである身体強化と治癒強化のお陰だろう。

 しかし肝心のプランBは失敗してしまった。


「ゼンジさん大丈夫ですか!?」


 立ち上がったゼンジにクーデリカが駆け寄る。

 

「大丈夫だよ。それよりルイは?」

「無事です。あちらにいらっしゃいます」


 クーデリカが示した先に服に着いた汚れを払っているルイがいた。さすが鍛えているだけあって身体は頑丈そうだ。


「クソッタレが! 何ぞいやあの身体は? 骨槍が刺さらんやんけ!」

「何だかゴムを殴ってる感じだったねぇ。打撃系武器や切れ味の悪い刃じゃ厳しそうだ」


 とは言え今回用意した骨槍はタジルの武器屋にある物で一番出来の良い物なのだ。それで駄目となると非金属武器での攻撃は諦めるしかない。


「次はどないする?」


 二度も撃退されたルイが不機嫌そう尋ねる。

 プランBが失敗した以上、次の手を打たねばならない。

 だがそんな状況なんて関係無いとばかりにゼンジのマイペースな腹の虫が鳴いた。


「アハハ、とりあえず飯にしよ」

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