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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第3話 〜プランA 全力魔法攻撃!〜

 タジルは鉱山と鍛冶の街である。

 周囲は山に囲まれ他の街との行き来は街の中心を貫く一本の街道を利用するしかなく、この街道こそが街の生命線と言って良い。

 その街道に設置された門を守る門番は夕焼けの空を見ながら大きな欠伸をした。


「今日も誰も来なかったな」

「ハンスん所のボウズが来ただろ?」

「馬鹿。旅人とか商人だよ」


 最近は見知った顔しかこの門を通っていない。

 行商人や旅人は隣街からこの街に来る事は無く、迂回して別の街へ行ってしまう。

 以前は活気のあったタジルの街は、今では嘘の様にゴーストタウンと化してしまった。

 全ては突然街に現れたあのスライムのせいだ。

 このままタジルは物流と交流が断たれて、いずれ滅びてしまうのではないかという不安が門番の気を一層重くした。


「おーい!!」


 聞き覚えのある声に二人は顔を上げる。

 見れば一台の馬車と騎馬四騎がこちらに向かって来ていた。

 そしてこの声の主は馬車から顔を出しこちらに手を振っている。


「クーデリカ!? クーデリカだ!」


 門番の一人が街へ報せに走る。

 馬車が着く頃にはタジルの住民達が次々と門前に出迎えに来ていた。


「皆、ただいま!」

「クーデリカ! 良く無事で!」

「パパ! ママ!」


 久しぶりに家族や知人と再会するクーデリカ。その様子はゼンジ達といた時の畏まった感じではなく、天真爛漫な年頃の少女であった。

 クーデリカの周りには大人だけでなく同い年くらいの少年少女や街の子供達が駆け寄り、彼女がどれ程街の人々から慕われているのかが窺える。だから彼女も必死になって街を救おうとしたのだろう。

 馬車から降りたゼンジとルイも街の人達は暖かく歓迎してくれた。

 そんな門前に出来た人集りを割って兵士を連れた男がやって来た。


「クーデリカご苦労だったな」


 男はクーデリカに労いの言葉を掛けるとゼンジとルイに向き直る。


「貴方達がタジルを救いに来た冒険者か?」


 金糸と銀糸が編み込まれたベストを着た三十歳代くらいの男。その態度は毅然としており声にも重みがあった。服装と後ろに控える兵士を見れば彼が高貴な身分である事が分かる。


「私はこの街の領主 マルク・タジルだ」

「Aランク冒険者のルイと申します。こちらにおりますはBランク冒険者のゼンジ。タジル伯爵、お出迎え痛み入ります」


 ルイは普段からは想像出来ない丁寧な言葉で挨拶する。いくら彼女でもTPOくらいは弁えてる。

 ゼンジもルイと一緒に一礼した。

 AランクとBランク冒険者と言うハイランクの称号にタジルの住民達の顔に希望が宿る。これで街は救われるともう解決したかの様に湧き立った。

 それをタジル伯は手で制して場を静めた。


「失礼。遠路遥々よく来てくれた。早速で悪いが現場を見て欲しい」


 伯爵はゼンジ達を連れてスライムが現れた場所へと案内する。

 ゼンジにはその様子が何だか焦っている様に見えた。


(ここ二ヶ月どんどん街が衰退していくのを見てたんだから当然か)


 税収が減るというのもあるが、さっきの住人達との接し方を見たところかなり慕われている様だ。

 領主としては自分の領地が荒れて行くのを何も出来ず見ているだけなんて苦痛だっただろう。

 連れて来られたのは門から街道を街の中心へ進んだ場所だ。


「ここから300メートル進んだ大交差点に謎のスライムがいる。大交差点はこの街道と鉱山、市場、鍛冶町を結ぶ道が交わる場所だ。そこを封鎖されては街は血が止まったも同然。君達には何とか早急にあれを排除してもらいたい」


 伯爵が示した方に何やら黒い物体が見える。

 ゼンジは腰の嚢から双眼鏡を取り出した。


「あれが例のスライム……。いやあれスライムか?」


 シルエットは確かにスライムだが、その身体は全く水々しく無い。何と言うか練り消しゴムの様な体表をしている。大きさは一般的なスライムより大型で全高1.5メートル程ありそうだ。

 スライムの周囲の建物は石造りの物は健在だが、木造の物は金具が腐って崩壊している。そして赤い染みがべっとりと地面を染め上げていた。


「酷い。いったい何人が犠牲に……」


 その凄惨な光景にゼンジは胸が痛くなる。


「いや、あれは全部錆だ」

「へ? 錆ですか?」

「奴の能力で錆びた金属が崩壊し、雨に流されてあんな血溜まりの様になってしまった。あのスライムに殺された者はいない」


 被害者がいないという言葉にゼンジは少し安心した。

 タジル伯は地面に引かれた白線を指差す。


「ここから先は奴の結界内だ。剣や鎧を装備してるとこうなる」


 彼は手に持っていた釘を白線の向こう側に投げる。すると釘は瞬く間に錆に覆われボロボロになってしまった。


「タジル伯爵。釘はまだありますか?」

「ああ、あるぞ」


 ゼンジは伯爵から釘を受け取ると急に魔術詠唱を始めた。


『精霊よ。風をこの手にーー繰気術』


 編み出したばかりの自分だけの固有魔法を発動する。

 空気中に存在する窒素を釘を持つ手に集中させる。そして魔力を釘に僅かに注ぐと繰気術で操られた気体もまた釘に張り付く。

 その窒素が張り付いた釘をゼンジは白線の向こう側に置いた。

 その様子を伯爵や街の住人達は不思議そうに見ている。

 さっきは一瞬にして釘は腐ちてしまった。しかしゼンジが置いた釘は数秒経っても錆が浮かんで来ない。


「何をした?」


 伯爵は驚きの表情でゼンジに問い掛けた。


「錆の原因になる酸素を取り除きました。と言っても錆の進行を遅らせる程度ですが」


 錆とは金属と酸素が結合して出来る酸化物だ。ならばその原因となる酸素を排除出来る繰気術なら、腐食結界の打壊策になるかもと思ったのだが、残念ながら繰気術では酸素を0パーセントにする事は出来ないし、手から離れた酸欠ガスも次第に周囲の空気と混じり合ってしまう様だ。

 その証拠にもう一度釘を見ると僅かに錆が浮かんでいた。


「錆の原因? 酸素? 君は学者なのか?」

「いやいや、コイツはただの変人ですわ」


 知った様な顔をしているがルイも絶対理解していない。

 そもそもこの世界ではそれらしい物が空気中に存在するとは言われているが、酸素自体はまだ発見されていないのだ。


「で、アンタは何がしたかったんや?」

「繰気術で錆を抑えれるかと思ったんだけどねぇ。この様子じゃあ無理そうだ。ルイ手筈通り頼むよ」

「よっしゃ、ほなあのアンスラを(いわ)そか!」

「何、アンスラって?」

「アンノウンスライム、略してアンスラや」


 また変な略し方をとゼンジは思ったが気持ちを切り替える。


「よしそれじゃあプランA。行ってみようか」


 プランAは魔法による遠距離攻撃作戦だ。

 アンスラ(仮称)が攻撃してくるのは半径30メートル以内。だから金属を取り除いた装備で出来る限り接近し魔法で仕留める。


「んで、何ぞいやこの服は?」


 街を救う為、いざ作戦開始っという場なのだが主役であるルイは不満気な顔をした。

 いつも着ているお気に入りのヴィジットは取り上げられ、ズタ袋に首や腕を通す穴を空けただけの、凡そ服とは呼べ無いみすぼらしい格好をさせられているからだ。


「オタクの服、金属部品多過ぎなのよ」


 ルイの服には至る所に金属部品が使用されていた。ヴィジットの襟と前閉じには金属ホック、ハーフパンツは金属釦、ベルトは金属バックル等々。

 それで急遽ゼンジがズタ袋を加工して代用服を仕立てたのだ。


「せやかてもうちとええ(もん)無かったんけ!? ちくちく痛いねん麻の繊維が!」

「ずべこべ言わない。だいたい何で金属部品を使った服なんかで来てんの? 馬鹿なの? 俺なんかベストから鉄板抜いたし、ベルトも紐に交換済みだよ?」


 金属が錆びるというのにそんな服を着て来たルイが悪いのだ。


「あの私の服で良ければお貸ししますよ?」


 不憫に思ったクーデリカが家から自分の服を持って来る。


「クーデリカの服を汚す訳にはいかないよ。大丈夫、この一撃で終わるから。ほらルイ前進前進!」

「後で覚えとれよ!! ゼンジィ!!」


 ゼンジに押され渋々進み出すルイ。

 アンスラに至るまでの街道沿いには、タジルの住民達がアンスラ退治を一目見ようと崩壊してない石造りの建物から見物していた。

 だからズタ袋服を着てアンスラに近付くルイに注目が集まる。


「おい、あの冒険者の嬢ちゃん何でズタ袋なんか着てんだ?」

「何か服に金属部品があったらしいぜ」


 耳を澄ますと住民達の会話が聞こえて来て恥ずかしくなる。のだが、


「つかなんて逞しい腕してんだ! あんなのそこら辺の若手鉱夫でもそうそういねぇぞ!」

「冒険者って女魔法士でもあんな筋肉付けてるのか? やべぇな」


 と言う会話が聞こえたルイはちょっと上機嫌になり、得意気に腕の筋肉を見物人達に見せ付ける。すると特に男連中から感嘆の声が湧き上がった。


(単純だな~)


 ゼンジは心の中で呟く。

 アンスラが射程に入った所でルイはその脚を止めた。


『精霊よ集え。冥界の門を開き、彼の地に封印されし魔人を解き放て。顕現せよーーデーモンハンド!!』


 ルイの背後に次元の裂目が出現し、ゾワゾワとした気配と突風が巻き起こる。


「何ですかこれは!?」


 予想を遥かに超える大魔法にクーデリカや街の住人達が驚愕する。

 デーモンハンド――その名の通り次元の向こう側から悪魔の手を召喚するルイの最大にして最強の魔法だ。

 その威力はドラゴンすら捻じ伏せ、山すらもまるで砂山崩しの如く削り取る程の力を持つ、正に破壊を呼ぶ悪魔の手だ。

 召喚された手は禍々しいオーラを纏いアンスラの直上から影を落とした。


「潰れぇ! 虫みたいに!」


 ルイの意思に従い巨大な手がアンスラに向けて叩き付けられた。

 大地を揺るがし轟音と共に捲き上げられた砂塵と錆で辺りの視界が悪くなる。

 それはオーバーキルといって良い圧倒的な戦い、いや処理だった。

 だが既に異変は起きていた。土煙が晴れると悪魔の手

の甲からヒビが入っており、そこから崩れる様光の粒子となって消滅して行く。

 そして消え行く手の中から無傷のアンスラが現れたのだ。


「嘘……やろ……」


 その信じられない光景にルイは絶句する。


「ルイ!! 解析を!!」


 ゼンジの声にルイはハッとなって新たな詠唱を唱えた。


『精霊よ。我に見透す目を――アナリシス』


 自分の目に解析の魔法を掛けアンスラに何が起こっているのか確認する。

 そしてアンスラの体表にある魔法が掛けられている事が分かった。その魔法の名は――、


(アンチマジックフィールド!?)


 全ての魔法を無効化する魔法がアンスラを覆っていた。


「ッ! くそったれがっ!!」


 ルイは捨て台詞を吐き、歯を噛み締めながらその場を後にする。


「マジか……」


 その光景にゼンジも唖然として呟いてしまった。

 まさかのルイの後退は予想外であった。

 そしてこのクエストが一筋縄では行かない物だとゼンジは思い知らされたのだった。

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