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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第2話 〜いざタジルへ!〜

 窓から射し込む朝日がゼンジを目覚めさせる。

 正直、早起きは得意では無い。

 元の世界にいた時の休日なんかは昼前まで寝ている事なんてざらだった。しかし学校やら何かしらの目的があれば、SFアニメのロボットの様に目覚めて布団から発進するのがゼンジた。


「あ~た~らし~い、あ~さがきた、き~ぼ~のあ~さ~だ♪」


 懐かし歌を口ずさみゼンジは身体を伸ばす。

 部屋の窓を開けるとスウッと優しい風が彼の顔を撫でた。

 昨日買っておいたパンと白湯で簡単な朝食を取った後、冒険者の装備を身に着ける。

 今回の討伐対象のスライムは金属を腐食させるという厄介な能力を持っているので、装備から金属部品を使っている装備品を取り除いておく必要がある。面倒臭い作業だが商売道具を守る為には仕方無い。

 鉄板入りベストからは鉄板を抜きボタンも木製に替えた。ズボンを締めるベルトはバックルが金属なので代わりに紐で縛った。

 だがどうしても金属を取り除け無い装備が出て来てしまう。

 デッキポーチのキボシ、双眼鏡入れの留具と双眼鏡本体、刀帯のバックル、刀、マジックガンレット、雑嚢の留具、背嚢の留具、これらはいざスライムと対峙した時は奴の腐食結界の外に置いて行くしかない。

 デッキポーチと双眼鏡入れを装着した刀帯を巻いて刀を佩びる。雑嚢を袈裟掛けに掛け、毛布を縛着した背嚢を背負い、左腕にガンレットを装着した。


「よし、行こう!」


 遠征の準備は整った。

 ゼンジは意気揚々と部屋の扉を開けた。

 タジルへは馬車での移動となる。クーデリカが言うには日暮れ前には到着するとの事だ。

 ザルムが手配した馬車は上流階級の人間が使う高級馬車だ。木造の箱型客車はスプリングによって地面からの衝撃が抑えられ、外には4人の騎馬傭兵が護衛してくれる。内装も革張りの椅子が備付けてあり、床には絨毯が敷かれていた。


「凄い。こんな馬車に乗れるなんて……」


 クーデリカは迎えに来た馬車を見て、これ以上の言葉が出て来なかった。

 一般的な馬車は荷馬車と大して変わり無い。屋根は布張りの物が多く、椅子が備付けてあれば上等な部類だ。客車を荷車と併用している物もあり、魚や肉を運んだ後の馬車なんて悪臭が残っている事すらあったし、それらの忘れ物が隅に転がっている事もあった。


「それじゃあ行って来るよ」


 ゼンジは見送りに来てくれたザルム達に声を掛ける。


「ん、しっかりやって来い」

「ゼンジ君、可愛い女の子達と一緒だからって羽目を外しちゃダメよ~」

「ハハ、気を付けておきますよ」


 仲間達に見送られゼンジ達を乗せた馬車は街道を西に向かった。

 タジルまでは穀倉地帯を通り、川を渡り、山岳地帯に入って峠を2つ越える。

 日も高く昇った昼頃、道中には馬を休憩させる為のポイントがあるのだが、そう言った場所は運搬業者や旅人を狙って商人達が集まり道の駅と化していた。

 当然、上等な馬車を見付けた商人達が見逃す訳がなく商品を売付けにやって来る。


「やあ旅の方、ここいらの牛で作ったソーセージは如何かな?」


 商人が押すワゴンの中には焼き立てパンにソーセージが挟まれていた。

 ゼンジは目を輝かせて一つ購入すると、別の商人からも葡萄ジュースを購入しそれらを堪能する。

 ソーセージから溢れた肉汁が焼き立てパンに染み込む。パンは仄かに甘く、肉汁の旨味が何倍にも引き立つ。葡萄ジュースは元の世界の物より甘くは無いが酸味が効いていてこれはこれで美味しい。

 ゼンジはそれだけでは飽き足らず道の駅を見て回り、買い食いして回る。

 朝食を簡単に済ませたのはこれが目当てだった。旅先の食べ物を堪能する。これが彼の異世界冒険での楽しみの一つだ。


「ただいま! いやぁこの土地の料理はどれも美味しいねぇ! ついつい買い過ぎちゃったよ!」


 ゼンジはバスケット一杯にパンとお菓子と果物を入れ馬車に帰還する。


「おや? ルイは出てるのか」

「はい、昼食を買って来ると言っておられました」


 馬車内はクーデリカだけが残ってビスケットを食べていた。


「もしかして昼飯それだけ?」


 ビスケットは携帯食料として冒険者から重宝されているが、食事と言うには余りに質素だし何より不味い。ゼンジも冒険者成り立ての頃は「固ーい! 変な味!」と面白がって食べていたが今はもういざという時にしか食べたく無い程に飽きてしまった。


「お恥ずかしい話、手持ちが少ないもので……。実は昨日もアパートに泊めてもらえなかったら、橋の下とかで野宿するつもりだったんですよね。アハハ……」


 クーデリカは自虐的に笑う。

 そんな彼女にゼンジは手に持ったバスケットを差し出した。


「お食べ」

「とんでもないです!」

「腹が減っては戦はできぬって言うでしょ? 食える時に食って置かないと健康にも悪いよ」


 観念してクーデリカは一番小さいパンを手に取るが、その遠慮気味な態度が気に入らなかったゼンジは適当にパンと果物をチョイスし無理矢理押し付けた。


「あの、ありがとうございます」

「なんの。元々皆で食べる為に買ってきた物だしねぇ」


 そう言ってゼンジはバスケット内の林檎を掴み一噛りする。


「いえ、そっちでは無くクエストを受けてくれた事です。あの時、私まだ経緯だけで、報酬やモンスターの事を何も伝えていなかったじゃないですか。実際、高報酬とは言い難い内容ですし」


 今回の新種スライム討伐報酬は10万クォル。普通のスライムなら1体1000クォルくらいなので、一応100倍の報酬額ではあるが、金属腐食能力で最悪装備が全部お釈迦になると考えると割に合わない。


「何故こんなクエストを引き受けてくれたんですか?」

「言ったでしょ? 俺達が原因で街が滅びたら目覚めが悪いって。オタクの訴えが必死だったから助けたいと思っただけさ」

「でもやっぱりゼンジさん達には関係無いじゃ無いですか」


 それでもクーデリカは納得出来無い様だ。


「つまりオタクは、俺達が損得勘定抜きでまるで慈善事業の様に手を差し延べた事が腑に落ち無いといった所かな?」

「失礼な事を聞いているのは分かってます。でも実際、報酬額が低いとか未知のモンスターだからと色んな冒険者に断られていたので」


 成る程とゼンジは合点が行った。

 冒険者のクエストは慈善事業では無い。クエストは依頼する側と報酬やモンスターの素材等の冒険者側のメリットが成立するから成り立つ。彼女も冒険者の端くれならそういった事情は分かるのだろう。


(まあ、あの低報酬もギルドがピンハネしたからだろうけどねぇ)


 誤魔化すのは簡単だ。しかしこのまま不信感を持たれたままで居られるのも良くはない。

 観念してゼンジは正直に話し出した。


「俺さあ、このパーティーに入った切っ掛けって、ドラゴンに襲われているのを助けてもらったからなの。もう皆格好良くてねぇ。俺もああなりたいって思ったんだ」


 ゼンジはまるでヒーローショーを見た子供の様に楽しそうに語る。

 いやあの時の彼等はゼンジにとってヒーローその者だった。


「それでさ。それと同じくらい俺を助けてくれた事も嬉しかった。ルイなんてドラゴンを包囲する作戦を無視してまで俺を助けてくれたんだって。俺を見殺しにしていれば楽に倒せてただろうに……。だから報酬の割が合うとか合わないとか二の次。自分が納得したクエストなら高難易度低報酬だろうが受けてやるのが俺のやり方さ。まあ、だからってひもじい生活は()だけど」

「何か、損な役回りの様な気がしますね」

「馬鹿馬鹿しく思うかな?」

「いえ、す――」


 そこに勢いよく馬車の扉を開けてルイが飛び込んで来る。


「ゼンジ! 厄介な事になった!」


 道の駅から1km程進んだ峠道で事件は起こっていた。


「落石かぁ」


 山から落ちて来た岩が道路を塞いでいる。

 地元住民や旅人、商人、馬車業者の男達が何とか岩を谷底に落とそうとしているがビクともしていない。


「どうしましょう……。タジルまであと少しなのに……」


 一難去ってまた一難。一刻も早くタジルの街を救わなければならないのにとクーデリカの焦りが募る。


「大丈夫。たかが石ころ一つ押し出してやるさ。ルイが」

「いや、ウチかい!」

「タジルがダメになるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ!」


 とゼンジは一度言ってみたかったセリフをここぞとばかりに使ってみる。惜しむらくはここが異世界で元ネタを理解出来る人間が居ない事だ。


「アンタも手伝えや!」


 そしてやっぱりルイに首根っこを掴まれて引きずられて行く。


「ウチ等も手伝うわ」

「冒険者!? ありがてぇ!」


 ゼンジとルイの加勢に男達の士気が湧き立つ。


「ルイ、ギガインパクトで岩の底を削って。それと同時に皆で押すから」


 そう言ってゼンジはデッキポーチからブーストの魔法カードを2枚ガンレットへセットする。


「3、2、1――」

『即効魔法――ダブルブースト』

『ギガインパクト』


 ギガインパクトによって接地面が削られてバランスが悪くなった岩に男達が一気に群がる。


「押せ押せ押せぇぇ!!」


 岩を押す、ロープで引っ張る、木材でこじ上げる、皆の力が合わさり遂に岩が谷底へと落ちて行く。

 現場からは拍手喝采が起こった。

 ゼンジは男達と喜びながらクーデリカの元へと戻って来るとその光景を示した。

 そこにあったのは人々の喜ぶ顔だった。


「どうだい? 金は出ないけど皆喜んでくれてる。これでも損な役回りに見えるかい?」

「いえ、とっても素敵です」


 クーデリカは優しく微笑んだ。

 それにゼンジは「でしょ」と返すと気合を入れるように声を上げた。


「さあ、いざタジルへ!」

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