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飄々ゼンジの異世界謳歌  作者: 寒原
第3章 魔の300m
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第1話 〜メタるスライム〜

「悪いなゼンジ。俺達は動けない」


 クーデリカを連れアパートに帰ったゼンジとルイは早速、リーダーのザルムに討伐クエストの件を相談したのだが、彼の口から出た言葉は良い物では無かった。


「今日ギルドから海賊討伐の依頼が来てな。俺達はそっちを対処しなきゃならないんだ」


 ザルムの言葉にクーデリカの表情が曇る。

 アパートの応接室に通された時、彼女はこのアパートの主がSランク冒険者のザルムと聞いて、希望に満ちた顔でこの上なく喜んでいたのだが、そんな希望があっさり潰えたのである。


「じゃあ俺だけで行っても良い? Aランクに上がれてない俺は対人クエストには参加出来無いし」


 ゼンジは直ぐ様切り返す。

 対人クエストはAランク以上の冒険者でなければ参加する事が出来無い。

 ゼンジはこれまでもザルム達が対人クエストに出ている間は留守番をしていた。ならば自分だけでもクーデリカのクエストを受けてやろうと思ったのだ。


「いや、お前だけじゃあダメだ。ルイ。ゼンジに着いてやっててくれないか?」


 ザルムはルイを指名する。


「かまへんけど海賊退治はええんけ? 海賊船とかウチの魔法のええ的になるで?」

「俺とノーラとクラウスで十分だ。お前は相棒の面倒を見てやってくれ」

「りょーかい。ウチも乗りかかった船やし、その方がええわ」


 せっかくの戦力を割いてくれたザルムにゼンジは感謝する。

 ルイが加わってくれるのは凄く心強い。これで火力の心配は無いだろう。


「あの! ありがとうございます!!」


 クーデリカが深々と頭を下げる。


「お嬢さん、コイツ等の腕は俺が保証する。大船に乗ったつもりでいてくれ!」


 そう言うとザルムは応接室を出て行った。

 その後、ゼンジ、ルイはスピット達から引継いだクエストの資料を見ながら、クーデリカから事情を聞いていた。


「これが今分かっているそのスライムの情報かい?」


 クエスト内容は未確認スライム1体の討伐。ギルドからのサブクエストとしてもその調査も入っている。

 場所は鉱山と鍛冶の街タジルの市街地を通る街道。2ヶ月前突如として現れて以来、そこから全く動かず居座っているらしい。

 スライムは駆け出し冒険者が必ず倒すモンスターと言われている。

 ブヨブヨしたゲル状の身体を持ち、動きが遅く、攻撃も大した事が無いので冒険者でなくとも簡単に倒せてしまう弱小モンスターだ。

 そんなだからスライム1体の討伐クエストなんて逆に見ない。

 しかしこのスライムには厄介な能力があるらしい。


「周囲約300メートルの金属を錆させる能力持ちとは厄介だねぇ」

「はい。そのせいで街の経済は滅茶苦茶になってしまいました」


 街の中心部から周囲300メートルの金属が全て錆びてしまった街は荒れ果て、住んでいた職人や鉱夫達は職を求めて別の街に出稼ぎに出て行った。街道を通る行商人や商隊も自分達が使っている荷車の金属部品が駄目になる事を嫌い街を避ける様になったらしい。

 このままではいずれタジルの街は滅びるだろう。


「ルイ、この金属腐食結界って魔法かねぇ? アンチマジックフィールドの魔法カードなんかで打消しつつ接近して攻撃するのってどう?」

「見てみん事には分からんけど、どの道無理やろうなぁ。ドラゴンのブレスみたいな特殊能力(スキル)ならアマフィでは消せんし、魔法やったとしても周囲300メートルもの結界を張る相手には出力で負けてまうわ」


 アンチマジックフィールドで対抗するという策は呆気なく否定された。

 こういうゼンジでは分からない魔法に関する意見を言ってくれるので、ルイの存在はとても頼もしい。

 因みにアマフィとはアンチマジックフィールドの略だ。ルイはよく長ったらしい名称を略す癖がある。


「クーデリカ、街の人達が何度かスライムを倒そうとしたらしいけど、その時の状況はどうだった?」

「はい。先ず街中の武器を集めて挑んだのですが、結界内に入った瞬間武器に錆が浮かんで来て、100メートルを進んだ辺りで全ての武器が崩壊しました。続いて木槌を持って挑んだのですがスライムまで後30メートルという所で魔法攻撃で返り討ちにされました」

「その魔法の属性は?」

「雷魔法です。あれはおそらくサンダーボールです」


 サンダーボールは下級の雷魔法だ。しかしスライムが使うなんて聞いたことが無い。


「つまり金属製武器は100メートル前進すると錆びて使えなくなって、非金属製の武器を持って行っても魔法で迎撃される。スライムまで300メートルもあるから弓も銃弾も届かない……か。このスライム、人間様に対してメタり過ぎじゃない?」


 金属を使う生物なんて人間くらいなものだ。一応モンスターの中には体表が金属で覆われたメタル系モンスターなんて奴等もいるが、体表が錆びたくらいじゃどうって事ない連中だ。

 だから弱肉強食のモンスター世界に於いては全く役に立たない能力と言って良い。

 まるで人間だけをピンポイントで狙って来た様な能力。それがゼンジから見た印象だ。

 だがそんな事を考えても意味が無い。今はそんなモンスターをどう討伐するか考える事が先決だ。


「武器がダメって事は魔法攻撃しか無いか」


 ゼンジは魔法士のルイを見る。


「ウチの出番け? ええで! トロくさいスライムなんぞ瞬殺したる!」


 気合の入った声でルイは掌に拳を打った。


「ヨシ! 作戦も決まった事だし、今日は休むとしますか」


 ゼンジは立ち上がると大きく背伸びをした。今日は色んな事があって疲れたのだ。


「クーデリカ、宿あんのけ?」

「いえ、本当なら今日この街を出る予定だったので」

「ほな今日は(うち)に泊まりぃな」

「へ? ええ!? 良いんですか!?」


 ルイの申し出にクーデリカは喜ぶ。


「かまへんかまへん! よっしゃ今日は女子会や!」

「オタク等、明日の朝出発だから余り夜更ししちゃダメだよ」


 はしゃいでいる2人に釘を刺しておくゼンジ。だがこの感じに妙な懐かしさを感じていた。


(ああ、そうか。この感じ修学旅行の感じだなぁ)



ーーーその夜ーーー



 夜も深まった頃、ゼンジは自室でランプを灯して机に向かっていた。

 すると部屋の扉がノックされる。


「どうぞー」


 またルイだろうかとゼンジはノックした人物を招き入れる。


「よ。ゼンジ」

「ザルム、珍しいねぇ」


 入って来たのはルイではなくザルムだった。


「ハニーが部屋にルイとお客さんを呼んじまってな。追い出されて来た」

「えー、ルイ達まだ寝て無かったの? 夜更しはダメって言っておいたのに」


 まあルイの事だから聞かないだろうとは思っていたが。


「そう言うお前も絶賛夜更し中じゃないか。何してる?」

「明日のクエストの作戦考えてた。ルイの魔法に頼りっぱなしって訳にもいかないからねぇ。俺なりに予備の作戦を考えておかないと」


 ザルムは机に置かれた紙束を手に取る。そこにはスライムの情報、街の地形、予想されるトラブル、必要物資、追加の作戦等が走り書きで書かれていた。


「大したもんだな」

「これくらいやらないとザルム達には追い付けないからねぇ」


 ザルムの手から作戦書を取ってゼンジはまた頭に浮かんだ事を書き始める。


「自分だけの魔法を編み出したんだって? お前の成長は見てて飽きないな」

「はっはっはっ! 家族にもよく言われてたよ!」


 ゼンジは謙遜もせずに笑う。


「初めて会った時もそうだ、お前は絶体絶命の状況でも諦めない度胸とセンスがある。それがあれば今回のクエストも大丈夫だ」

「それは特段心配してないよ。何せルイが居るんだ。どんなモンスターだってワンパンさ」


 ルイの火力は絶大だ。彼女のギガインパクトの前ではほとんどのモンスターが一撃で霧散する。

 未確認のスライムと言ったって所詮はスライムなのだ。ルイの敵じゃない。


「このクエストを達成してすぐAランクになって見せるよ」


 それを聞いたザルムはフッと笑う。それはまるで壮大な目標を語る弟を応援する兄の様だ。もっともゼンジの場合、その目標は叶う程の実力があるのだが。


「そうか。邪魔したな」

「おや、もう帰るのかい?」

「お前の邪魔しちゃ悪いからな。クラウスと一杯やって来る」


 そう言うとザルムは扉を開け部屋を出ようとするが、ふと立ち止まり背後のゼンジに語り掛ける


「ゼンジ。Aランクは厳しい世界だが期待してるぞ」


 ザルムの言葉にゼンジは笑みを浮かべ頼もしく答える。


「ああ、期待しててよ」


 ゼンジはザルムの大きな背中を扉が閉まるまで見詰めていた。

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