第7話 〜繰気術 インビジブルハンマー!〜
「アルギストって絶対防御魔法とか言われてる滅茶苦茶高価な魔法カードじゃん」
ゼンジは魔法道具屋のショーケースに並べられた数万クォル以上する魔法カードを思い出した。その中で最強クラスの防御魔法と謳われていたのがあの魔法カードだ。
「アルギストのカード効果はせいぜい数十秒や。この無駄話しとる間に効果は切れる。もう1回食らわしたら終いや」
さすがの天才魔術士はそんな魔法カードの弱点はお見通しの様だ。
だがスピットはその指摘を一笑する。
「ハハ、何の対策もしてない訳ねえだろ! 即効魔法――エターナルチャージで魔力供給を行う事で、アルギストは今も効果を発揮している!」
エターナルチャージも超高級魔法カード。その効果は発動者が自己解除するか意識を失う(要するに寝る)まで、半永久的に魔力を供給するというチート能力だ。
正直、魔力不足で魔法が使えないゼンジにとって喉から手が出る程欲しい1枚だ。
「金持ち所のボンボンかいな! こんな決闘なんぞにポンポン使うような物や無いで!」
確かにこの決闘にスピットが勝っても10万クォルしか入らないが、彼が使った魔法カードは合計でその10万クォルは軽く超えている。完全な赤字決闘だ。
「魔法カードはコレクションじゃあねえんだよ! 強力な力をケチって負けたら元も子もないだろうが!」
スピットの言葉はゼンジにとって耳が痛かった。まるでランダムパックで3万クォル出費して項垂れていた自分が小さいと言われている様な気がした。
(しかし厄介だねぇ)
ギガインパクトが効かないとなれば当然ゼンジの剣撃も効かないだろう。というかさっきの白刃取りもアルギストの効果だ。
ルイもギガインパクト以上の威力を持つ魔法はあるにはあるが、あの魔法は動きの速い相手では捉えられない。
「さあて、どうするか……。って、ちょっと!」
相手の出方が分からないと言うのにルイは狂犬の様に飛び出して行った。
「考えとっても埒が明かんやろがい! アイツが倒れるまでギガインパクトを叩き込んだる!」
「えー……。ホント猪突猛進なんだから!」
捨て置く訳にも行かずゼンジも駆け出す。ただしルイに追従するのではなく少し迂回してスピットの横から攻める気だ。
『ギガインパクト!』
早速ルイがギガインパクトを打ち込むが、バカ正直に真正面から突き出された攻撃などスピットは余裕で躱す。
そこへゼンジは間髪入れずに斬り込んだ。狙うは鎧に守られていない腕の関節部。
例えダメージが与えられなくとも刀を防ぐ為に僅かな隙が生まれる筈。そこをルイが攻撃すれば良いのだ。
しかしスピットは迫り来る剣撃を防御せず、そのまま我が身で刃を受けた。
「はあっ!?」
予想外の行動にゼンジは素っ頓狂な声を上げた。しかも鎧で守られていない部分を斬ったのにスピットの身体は無傷だ。
「ッ――! オラァッ!!」
スピットは受けた刀を掴み拘束すると、魔導杖を突き出そうとしていたルイに剣を振るい、返す剣で逃げられないゼンジに対し斬撃を見舞った。
ゼンジは左腕のガンレットでそれを受け止めるが重たい衝撃が全身に走る。鍛えてなかったらそのまま押し切られていたかもしれない。
いや、そんな事より厄介な事になった。スピットはこちらの攻撃は無視してカウンター攻撃を狙う戦法に切り替えたらしい。
(ゲームで言うスーパーアーマー状態かよ!)
ゼンジは受けた剣を払い退け脚を構えた。
『即効魔法――ブースト!』
強化魔法を脚力に付与しスピットの腹に蹴りを入れる。
何とか拘束からは脱したものの、魔法強化の蹴りを入れられたスピットは一歩退いただけで平然としていた。
『ギガインパクト!!』
そこへルイが割って入り魔法を撃ち込む。
さすがのスーパーアーマー状態も上級魔法を叩き込まれては耐えきれず、その衝撃で大きく後退した。
「ルイありがとう」
「どないすんねん? あのパチ騎士こっちの攻撃なんぞお構い無しっちゅう感じやぞ」
スピットは防御力強化でこちらの攻撃を無視して攻撃出来る。こちらから攻撃すればさっきの様にカウンターを食らうし、攻撃しなければ一方的に蹂躙されるだろう。
完全に攻撃の主導権を握られた。
「ルイ、少しの間だけ前衛代わってくれない?」
「あ? 問題無いけど何かあんのけ?」
「あの防御魔法を何とかなるかもしれない」
その言葉にルイはフッと笑った。
「ほな20秒でせえよ!」
「いや40秒くれ」
「分かったわ!」
そう言うとルイはスピットに突撃する。
だが一度剣技で負かされた上にスーパーアーマー状態の相手だ。普通に攻撃すればゼンジの二の舞となるだろう。
「おりゃあぁぁぁ!! ギガインパクト!! ギガインパクト!! ギガインパクト――!!」
まさかのギガインパクトの乱れ撃ち。
ルイらしい脳筋で単純な作戦だが放たれる衝撃波が牽制となってスーパーアーマー状態のスピットも迂闊には反撃出来ていない。
「クッソ、この女。どんだけ上級魔法を連発出来んだよ!?」
正直なところルイなら一日中あの魔法を連発することが可能だ。むしろルイより魔導杖の方がダメになってしまうだろう。
ゼンジはデッキポーチからあるカードを2枚取り出し続いて左腕のガンレットを展開する。展開と同時に使用した魔法カードが排出され、それと交換するように新たな魔法カードをセットした。
準備はまだ終わらない。ゼンジは更に左手に意識を集中させ魔法詠唱を行う。
『精霊よ。風をこの手に』
この魔法はただ手に風を収束するだけの名前も無い練習用の魔法だ。
だがゼンジの狙いは魔法にではなく魔法を発動した時に感じられるあの感覚にあった。
(あのいろんな粒が漂っている感じ……俺の仮説に賭ける!)
左手に集った風を収束し準備完了したゼンジは叫んだ。
「ルイ!! 準備完了だ!!」
「ッ! オウッ!!」
ルイが勇ましく応え魔導杖を構える。
『ギガ――』
「させるかよ!!」
スピットは完全にルイの動きを完全に見切り、魔法を撃たれる前に倒してやると剣を振るった。
しかしその剣は魔導杖によって防がれる。
するとルイは杖から手を放してスピットの鎧を掴み、そしてーー、
「どっっせいぃ!!」
ルイは渾身の力を込めてスピットを投げた。
「はあぁぁぁ!!?」
スピットは仰天の声を上げながらも上手く受身をとり着地するが、目の前にはゼンジが刀を構えた状態で待ち構えていた。
「オタクのその魔法ってさ鎧や身体への傷は防げるみたいだけど、運動エネルギーや肌への刺激は防げていないよね?」
「だからどうした!」
気に食わないその笑みに向けて剣を振り下ろすスピット。
だがゼンジはそれを身軽に躱すと刀を掲げた。
「つまり触覚や痛覚への攻撃は有効って事だ! 『即効魔法――サイクロン、フレイム』」
刀に炎魔法と風魔法が宿り、風を受けて炎は烈火となって激しく燃え上がる。
『融合魔法――火災旋風!!』
ゼンジは烈火を纏った刀を一線に振るった。
竜巻の魔法に火炎の魔法が追加され、それは巨大な炎の竜巻となってスピットに放たれる。
中心温度は凡そ1000℃にも達する灼熱地獄が容赦なく彼の戦意を焼き尽くすと思われた。
「馬鹿が! ただの熱さなんぞで俺が止められるかよ!」
スピットは自ら火災旋風に突っ込むと灼熱地獄を突っ切り無傷でこれを突破する。
火災旋風敗れたりーー。
「じゃあこれはどうだい?」
ゼンジは飛び出して来たスピットを待ち受け飛び掛かる。
火災旋風は目眩ましだ。まんまと策にハマったスピットは眼の前に飛び込んで来るゼンジへの対応が僅かに遅れた。
ゼンジは本命の一手である左手に収束したこの名も無い練習魔法を構える。
いや、これは今ここに完成した彼だけの魔法。名付けてーー!
『繰気術ーー見えざる一鎚!』
パンッーー!
飛び込んで来たスピットの横っ面をゼンジは広げた手で鋭く打ち叩いた。




