第5話 〜鍛えが足らんねん! 鍛えが!〜
「あ? アイツ何しとんねん」
ゼンジが道を譲るようにクリスとロロを通したのを見て、ルイは一瞬眉をひそめた。
一番倒したかったあのパチ騎士は今、ゼンジに襲い掛かって剣を打ち合っており、代わりにその取巻き二人がこちらに向かって来ている。
「まあええわ。速攻で倒してあのパチ騎士ド突きに行こ」
ルイはアンチマジックフィールドによって使い物にならない魔導杖を地面に突き刺すと、羽織っていたヴィジットを脱ぎ捨て、シャツの釦を外した。
「来いやぁ!!」
ドスの効いた叫びで迎え討つ。
それを見たクリスとロロはその滑稽さにほくそ笑んだ。
「ハ~ン、魔法の使えない魔法士が素手でアタシ達とやろうって馬鹿じゃな~い?」
「さっき阿婆擦れって言った事、後悔させて上げるよ!」
クリスが4メートルはあろうかという槍の切先をルイに定める。
槍が突き出された瞬間、ルイは何も動じずそれを裏拳で払うと一歩踏み出し、クリスの首目掛けて自慢の剛腕でラリアットを叩き付けた。
「コォッ!?」
クリスは嘔吐でもしそうな息を吐き、宙を舞って地面に落ちる。
続いてルイはロロの拳を受け止めると、空いている右手で彼女の顔面を狙うが流石に拳闘士であるロロには受け止められた。しかしその瞬間ルイは「勝ったな」と思った。
武人は握手で相手の力量が分かると言う。達人級の武人なら大地に根を張った巨木の様に重心がブレず、わざわざ拳を交じ合わさずとも力量を相手に知らしめす事が出来るのだとか。
それに比べればこのロロという冒険者は畑に生える雑草の様に軽い。これでDランク――中級冒険者と言うのだからお笑い者だ。
対するロロの顔がどんどん引きつって行く。押しても引いてもビクともしないルイに格の違いを思い知らされているのだ。
「何で!? 魔法使えないのに!」
「鍛えが足らんねん! 鍛えが!」
グイっと力を入れてやるとロロは片膝を着く。その様子は正に「赤子の手をひねる様に」という言葉が相応しいだろう。それほどまでに魔法士であるルイが拳闘士であるロロを圧倒しているのだ。
そこへ先程ラリアットを受けて倒れたクリスが文字通りの横槍を入れる。
しかしキレの無い攻撃など当たる筈もなど無くひらりとルイに躱された。
だがおかげでロロは拘束から解放され、何とか体勢を立て直す。
「ありがとうクリス」
「ゲホッゲホッ、オエ……」
クリスはまだ息が整っていないのか、息苦しそうにえずきが混じった咳を繰り返している。
「クソッ、魔法は封じてる筈なのに何で……?」
「魔法が使えんからザコとでも思たんけ? Aランク舐めんなや!」
ドスの効いた声で一喝する。
「ゲホッ、ざけんじゃ無いわよ。アタシをこんな目に合わせて、ただじゃ置かない!」
口から垂れた涎を拭いクリスは怒りに満ちた目をルイに向ける。
「ほな終いにしたるわ!」
仕掛けたのはルイだ。突き出された槍を避けるとクリスの懐に入るが、そこにロロが割って入る。
「このぉ!!」
ロロの拳がルイの腹に刺さる。手応えはあった。
「どうだ!!」
「ハッ! ハハハ――」
だがルイの口から出たのは苦悶の声では無く馬鹿にしたかの様な嘲笑だった。
「ハハハハハハッ!」
ルイは笑いながらロロを掴むとお返しとばかりに、ロロの腹へとパンチを食らわせた。
「オウッ――」
強烈な一撃を腹に受けたロロはそのまま気を失う。
「この阿婆擦れがぁ!!」
間髪入れずクリスが槍を構えて突っ込んで来る。
ルイはもたれ掛かって来るロロの身体を退かすと、クリスの槍を片手で受け止めた。そして槍を脇に挟むとムンッと槍をクリスごと持ち上げた。
「キャアァァ――!!」
金切り声の様な悲鳴が木霊する。
向こうから「なんじゃそりゃー!!?」とあのパチ騎士が仰天する叫びが聞こえた。
「ウラアッ!!」
ルイは高く持ち上げた槍とクリスを力任せに地面に叩き付ける。
「ウ……ウゥ……!」
地面に激突して身体を強く打ったクリスだったが、まだ諦めず槍を持って身体を起こそうとする。
だがルイは足下に転がるロロを軽々と投げ付け、そしてクリスの手から槍を引っこ抜くと、それを膝で容易く真っ二つにへし折りポイッと投げ捨てた。
カランッと音を立てて落ちた槍が彼女の戦意を遂に失わせ、クリスはロロと共に立ち上がる事は無かった。
そして戦闘不能と判断したギルドによって転移魔法で強制退場させられる。
「さぁ、次はアンタやパチ騎士!」
ルイはとても少女がして良い物ではない悪い笑みを浮かべ、メインディッシュとなるスピットに狙いを定めた。




