圧倒的に危険な存在があらわれたので招き入れる、それであいつらが片付くなら自分にふりかかる危険も受け入れる
「来てるな……」
たまたま窓の近くに出た。
見つめる外には怪物がたむろしていた。
それを見ても感情が動くこともなく。
少年は怒鳴られてやれと命令された事をやりに歩いていく。
林間学校の最中だった。
山の中に来た中学生達は、二泊三日の旅行を楽しんでいた。
一部を除いて。
そんな中で、どこからともなく怪物があらわれた。
宿舎の周りを取り囲むように集まったもの。
人の姿をした、人手無い化け物。
それが生徒達を囲んでいる。
逃げようがなかった。
周りは囲まれてる。
外に出られない。
出たら殺される。
宿舎の中に避難できなかった、逃げ遅れた者達は化け物に殺された。
警察に連絡をしたが、それも無駄だった。
接近してきた警官隊は、全て化け物に殺された。
ある一定の距離に入ったら、化け物達が動き出す。
縄張りとでもいうのだろうか。
「ここからここまでに入ったら許さない」という領域を勝手に作ったようだ。
ただ、幸いなことに宿舎の中には入ってこない。
窓の外などに漂って中を覗いてくるが。
それ以上の事はしない。
やろうと思えば、ガラスも壁も簡単に破壊できるだけの力はあるのに。
それは、警官が乗ってきたパトカーを残骸になるまで破壊した事で証明されている。
建物の中に入らない。
あるいは、入れない。
どういうわけか化け物はそうしてる。
理由は分からない。
だが、理由は不明ながら、そういう行動をとってる。
決して宿舎の中には入らない。
だから、誰も外に出ない。
出れば命にかかわる。
そして、宿舎の扉や窓はあけない。
意味があるのかどうかは分からないが、外と隔てるもの。
それが無くなったらどう動くかわからない。
ひょっとしたら、それで一気に中に入ってくるかもしれない。
何も分からないから迂闊なことができなかった。
だから生存者は宿舎の中に立てこもってる。
外に通じるものを決して開かないように。
そんな中で、窓の外を見つめてる少年は、命令されて動いていく。
いつもの事だ。
学校ではあれこれ命令されていた。
奴隷扱いである。
そんな状況に嫌気がさしてるが、対抗手段もないのでどうにもできないでいた。
いっそ、殺してしまえば楽だとは思うのだが。
刑法と警察が動くのでそれもままならないでいる。
だが、この状況になって願いがかないそうになった。
それを試すために、適当な道具を集める。
なんでもよい、外と繋がる事ができれば。
ありがたい事に、警戒や監視は無い。
不審な事をしても咎められる事は無い。
一応見回りなどはいるのだが、それらも数が足りてない。
隙はたくさんある。
その隙を突いて、少年は動いていく。
金槌でもなんでも。
ガラス窓を壊せるものがあれば。
「まあ、こんなんで本当に入ってくるか分からんか」
そう思いつつも、手にした道具を窓に打ち込んでいく。
上手くいくよう願いながら。
窓が割れる。
外にいた怪物が割れた窓を見つめる。
近寄ってきて、そこから中に入る。
それを見て、少年は他の窓も割っていく。
開ける扉も次々に開いていく。
外にいた怪物が宿舎内に侵入してくる。
さらに少年は、宿舎内のあらゆる戸を開いていく。
どこにでも怪物が入りこめるように。
怪物はそんな少年の意図通りに動いていく。
開いてる戸から中に入り、隠れていた者達に襲いかかる。
宿舎の中は安全と思っていただけに、すぐに対処できたものはいない。
そもそも、効果的な対処法などすぐに思いつくものではない。
生存者がこの時点で死んでいく。
そこかしこで悲鳴があがる。
怪物に襲われていく。
掴まれて引き裂かれていく。
例外はない。
最後の戸を開き、窓をたたき壊した少年も例外ではない。
他の者が怪物に殺されていくように。
少年も怪物に襲われる。
あらゆる所に入り口をつくり、押し寄せてくる怪物に捕まる。
「あーあ」
最後、少しだけ無念を抱えた少年は呟く。
「俺の手でやりたかったな」
他人の、怪物の手では無く。
自分の手で殺したかった。
復讐をしたかった。
そんな思いがこみ上げてくる。
自分を掴む怪物の姿を見ながら。
その怪物に引きちぎられながら。
凄まじい痛みを感じながら。
そこで意識を失った。
痛みで意識が途切れたのか。
急所を攻撃されて即死したのか。
理由は分からない。
だが、激痛が一瞬で終わったのは、ある意味幸せだったのだろう。
すぐに死ぬ事も出来ず、痛い思いをしながら死んでいった他の者達に比べれば。
あるいは。
それは慈悲だったのかもしれない。
宿舎に入ろうとした怪物に協力した少年への。
せめて最後は苦しませないようにという、怪物の配慮だったのかも。
ただの偶然の可能性の方がよっぽど高いだろうが。
そして。
更なる恩恵が少年に与えられた。
それもまた、偶然でしかないかもしれないが。
途切れた意識が戻る。
目を開けて周りを見渡す。
そこには、宿舎を襲った怪物が揃っていた。
「え?」
頭が即座に混乱した。
なんで怪物がいるのか。
どうして襲ってこないのか。
そもそも、なんで意識があるのか。
「俺、死んだんじゃ?」
なのに、どうして生きてるのか?
疑問はすぐにとけた。
即座に理解した。
「ああ、そうなの」
自分が何になったのが何故か分かった。
「俺もなったんだ」
化け物に。
襲いかかっていた怪物に。
そう分かった瞬間に高揚感をおぼえた。
最高の気分だった。
「やった」
これなら何でもできると思った。
だから動き出す。
やりたい事をするために。
動き出す。
やりたい事をするために。
まずは学校に。
学校の関係者達が集まってるところに。
大量の死者を出して、合同葬儀をしてる場に。
そこにいる関係者を殺すために。
「本人はどうにもできなかったからね」
だが、身内の人間は生きている。
同じ血を持つ者達が生き残っている。
元凶を生み出した者達と、その兄弟姉妹が。
そんな連中が生きてる事など、許せるわけがない。
生かしておけば、同じ事をどこかで繰り返すに決まってる。
同じ因子を持ってる者達なのだから。
だから処分をしにいく。
二度と同じ事が起こらないように。
原因になる者達を残らず処分にしにいこうと。
「俺みたいなのは、俺で終わらせないとねー」
軽い口調でそういって、少年は向かう。
都合良く集まってる者達の所に。
探す手間が省けて丁度良い。
「楽しみだねー」
これから起こる事が。
これから起こす事が。
これから作る、平穏な世界が。
その日。
不可解な惨殺事件の被害者の合同葬儀場。
そこで同じく不可解な大量殺戮が行われた。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい