捨てる神あれば拾う神あり
小説書くの初めてです
思い付きで書いてます
ゆっくり考えながら書いています
よろしくお願いします
晴れてるけど雲が多くて過ごしやすい昼下がり
私は人通りがそう多くない歩道をトボトボとやる気なく歩いていた
道路と歩道を分けた段差からは雑草が所々で元気よく育っている
田舎ではよく見る光景だ
しばらく歩いていると、歩道の道路側ではない端の方で丸い形をしている物が視界に入ってきた気がしたので近寄ってみる
「…ん?なんだろう、メダルかな?お金…?」
地面に落ちていたのでしゃがんで確認してみる
それは歩道と同化するくらいに酷く汚れて黒ずんでいた1円玉だった
誰にも気付かれずに長い間放置されていたのだろう
光に反射させて表面の凹凸を確認しないと分からないレベルで変色が酷い
これが雨の日や夜だったら確実に見過ごしていた
(うわぁー、めっちゃ汚れてる。これ拾っても使えるかなぁ?どうしよう?募金箱行きならセーフか?)
なんて考えを巡らせてしばらく拾うのを迷っていると
《……た…む…》
「…ん?何?今声がしたような?」
辺りを見回して声の正体を探してみるも人影はない
見通しのいい道なので隠れられるような場所はどこにもない
《………行か……で…くれ…》
「…え?」
《やっと…気…付か……た……》
「っ…は?!」
《…たす…て……くれ》
な?!
まさか!この1円玉が話してるっていうの?!
どうゆう事?!
《………も…う…力が………頼…む…………》
えぇぇぇぇぇー!!!!!!
凄い勢いでもう一度辺りを見回してみるもやはり人影はない
「空耳?…じゃあ…ない…よね…?あは…あはは…」
私は固まってしまった
夢でも見ているかのような信じられない気持ちのまま汚れた1円玉を警戒しまくる
もう声は聞こえてこない
ゴクリ…
(も、もしかして…か、神様?だったりして…本当にこの1円玉が私に語りかけてきてたのならこのまま見捨てたら…私、祟られる?!)
「…こ…怖いっ!どうしよう!」
どう処理をしていいかわからない情報に頭が混乱している
(…助けてって言ってたよね…とりあえず…拾って洗えばいいのかな)
無理矢理自分を納得させて心を決める
「…よし!」
散歩どころではなくなり変な汗をかきながらサッと1円玉を手にして帰路についた
*
私は中学1年の娘(芽依/めい)と旦那(幸兎/ゆきと)がいる
ごく普通の一般家庭で裕福ではなく、私も働こうと思いつつもトラウマがありいざ面接を取り付ける電話をかけようとするとなかなか踏み出せず、電話と睨めっこ状態になる為、生活はカツカツ
なので贅沢する余裕は一切無い
こんなダメ人間でもたまにはカフェに行って美味しい紅茶やケーキを楽しんだりランチには誰もが知っている店のハンバーガーやチキンを食べたりしたいと思うのである
だが現実は厳しく、月一のペースで(旦那や娘とは別枠で)独り占めのポテチBIGを1袋買ってそれを一気に食べずにチマチマと少〜しずつ数日かけて味わって食べる
外食に行ったのなんてもう随分前
思い出すと記憶の中の肉やお寿司はエフェクトで美化されてキラキラとしている
服も化粧品も買えず美容院にも行けないのでド素人の私が旦那と娘の散髪をするようになりもう数年が経った
全部、働かない私が原因だ
無職の罪悪感がのしかかって肩身も狭い
こんな私に文句のひとつも言わず、見守ってくれる旦那の優しさが余計につらい
こんな調子ではとても友達付き合いなんてできるはずもなく長い間ボッチ街道を突き進んでいる(白目)
スマホも古い型であるせいか、つい先日通話が使えなくなってしまった
発着信は問題ないが、相手の声は聞こえても私の声は届けられないのでこちらからかけると無言電話になってしまうのだ
やはり緊急時に通話ができないのは非常にマズイ
色々ガタきてるし機種変するのが1番なんだけど、旦那に買い換えのお願いするのは気が重すぎてとても言い出せず、通話ができないのは言わないといけないので故障してる事だけは伝えておいた
このままで良い訳がない…
ネガティブ思考に陥り溺れそうになる
そんな負のループを抱え込んだ面倒臭い女、それが私なのである
私は自分が大嫌いだ
「ダメだ、気分転換に外の空気吸ってこよう」
逃げるように自宅を後にした
そして冒頭の出来事に繋がる
*
帰宅後、水洗いで落とせる汚れは落とそうと試みたが全然綺麗にならなかった
洗剤はダメな気がして使わなかった
「焼け石に水か…でも洗ったから大丈夫…だよね?」
少し不安だけど水気を拭いて目に付く所で保管する事にした
最初は怖かったが、もしかしたらまた声が聞こえるかもしれない!と不思議な出来事が起こる期待もしつつ恐る恐る様子を見ている最中なのだ
実は私は不思議体験系の話を割と信じる部類の人間である
ちなみにこの出来事は家族にはまだ話していない
あれから1円玉はうんともすんとも言わずに3日が過ぎる
いつものように弁当と朝ごはんを作り旦那と娘を送り出して、家事は後回しで夕方にやればいいかとスマホを見ながら居間で過ごしていた
付けっぱなしのテレビがワイドショーをダラダラと垂れ流している時間になる
スマホに飽きた私は座卓テーブルにあの拾った1円玉を持ってきて目の前に置いて自分の座椅子に座った
愛用している座椅子は安価だったが大きすぎず邪魔にならない丁度いいサイズのお気に入り
でも本当はソファーに憧れているので妥協した結果である
頬杖をつきながら1円玉を眺めて拾った日の出来事を思い返す
(あの日確かに声がしたんだけどやっぱり夢だったのかなー?)
指で摘んで持ち上げて色んな角度にしてじーっと観察していると、1円玉の輪郭に沿って弱々しい光が放たれた
《……我を見つけてくれて感謝する》
「ーーーっ!!!」
ビックリして勢いよく仰け反ってしまい座椅子の骨組みに背中を強打して後ろにひっくり返りそうになるも、テーブルの底面に膝をぶつけた反動のおかげで前に戻され、その代わりにテーブルは衝撃で少し持ち上がりフローリングの床に擦れて大きな音をたてながら斜めに移動した
(っ!!痛~ぃッ!)
腕はビックリしすぎてピーンと伸びきってしまっていたが、1円玉は落とさずにしっかりと人差し指と親指が掴んでいた
(っ!!キター!やっぱり夢じゃなかったんだ!)
《………。驚かせてすまぬ。ほんの少し力が戻った…》
「………」
《…名は何という?》
「…し、志帆です」
《ふむ…志帆よ、あの日お主が我を見つけて持ち帰らねば我はあのまま力を失い完全に消えてしまう所であった》
《前の持ち主が財布を持たぬ阿呆でな。我を落としよったのだ!それからお主に拾われるまでは誰にも気付かれずに拾われる事もなく18ヶ月…もう諦めかけて途方に暮れていた所だった。志帆は我の恩人。心から礼を言うぞ。有難う》
まぁそやつは我と一緒に紙幣も落としてたがな。と呟いていて、表情は見えないのに不敵に笑っているような気がした
財布持たないでポケットに直入れしてる人いるいる!
スーパーで精算後にパック肉を入れる半透明のビニール袋を財布代わりにしている人も見た事がある
普通の茶封筒の人もいるよなぁ
やっぱりお金落としてるんだ…
仕事で会費を集めてジップロックみたいに口が綺麗に閉じる厚手の袋にお金を管理する事があったのでそうゆう事もあるよねと理解はできるが
自分の専用の財布を頑なに持たない人が謎すぎる
…が、気にしたら多分負けだな
「いえ、助かったなら良かったです…」
《それにな、持ち主を失い行き場をなくした中身のある金は、ある条件下に置かれている者達の元に辿り着くようになっている事がほとんどでな。その中でも声が聞ける者はごく稀だ。お主が通りかかってくれて我は運が良かったが、拾われるまでが長過ぎた。消えるかと思って後少しで絶望する所だったぞ…》
「そ、そうだったんですね」
つか、声が聞こえていなければぶっちゃけスルーしてたかもしれないんですけど!
拾ってよかったぁ!スルーしてたらヤバかったんだな。って、怖いよ!落ちてるお金にそんな事情を抱えてるのがあるなんて!重いよ!
それにそのある条件下の条件って何だ?中身のあるお金?じゃあ中身のないお金もあるって事?
私の他にも似たような体験している人がいるの?
あーもー!なんだこれ!
《して、志帆よ、本来なら礼を返す所なんだが我は力を失いすぎてしまった。情けない事にその…礼ができぬ。ここまで力を失っては最低限は自力で回復できるがそれ以上は望めん…この依り代も穢れすぎてしまっているしな。我が本来の力を取り戻すには神社にある水を手に入れてほしい。できれば弁財天を祀っている所が望ましいな》
弁財天の祀られた神社?!
神社なんか滅多に行かないからわからないけど近くにあるか調べないと…って、はっ!…それより!
「あ、あの!あなたは一体、何者なのですか?」
《…すまぬ、まだ話していなかったな。我は…この1円玉を依り代にした白蛇だ。名は無い》