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とある愚かな愚かな……

とある愚かな愚かな男の、その後

あらすじにも書きましたが、この短編は以前投稿した「とある愚かな愚かな王子の自己満足」の後日談となります。

 先にそちらを読まれていないと話が通じないので、まだの方は作者リンク等から先に「とある愚かな愚かな王子の自己満足」を読んで頂けると幸いです。


主人公の心の闇がそれなりに出ます。苦手な方はブラウザバックを推奨させて頂きます。

 ……………湿った風が森の中を吹き抜ける。


 仰ぎ見れば、木々の隙間から薄暗い曇天が覗いていた。

 どうやら、一雨降る事になりそうだ。


 それ自体は森の中なのだからあまり慌てる必要もないのだが、運良くそれなりに開けた場所に出会したので腰を下ろし休息をとる。


 もうどれ程遠くに来たことだろうか。

 かつて自分が居た場所の方角すらも思い出せないままに、鬱蒼とした森の彼方に聳える山岳を見やる。




 あの山を越えれば、国境だ。



 ろくな道具も金も食料もないままに此処まで辿り着けるとは最初から期待していなかったのだが……案外上手くいっている。


 とは言っても、食料と金は尽きたし服もボロ切れのような有様だ。

 途中野犬に襲われ負った生傷も癒えぬし、山を超えるどころか、明日を迎えられるかも定かではない。


 人里からも街道からも離れた森の奥でこの有様なのだから、後3日も経てば獣の餌になっている事は確実だろう。


 それは嘆くか怯えるかするべき事柄なのかも知れないが……心などとうの昔に枯れてしまった。今更浮かんで来るものも特にはない。


 この国を出る理由はあるが、別に辿り着きたい場所があるわけでもない。

 最後に自分の足で何処まで行けるのか、ふと試してみたくなっただけだ。


 そうすれば、何かを遺せるような気がして。


 私は生きていたと。きっと生きていたと。そう、最後に信じられるような気がして。




 ついに泣き出し始めた空の音を聴きながら、ふとかつての思い人の顔がよぎった。


 彼女は、今も幸せでいてくれているだろうか?







 ◇

 自分が選ばれた人間では無いと、そう気がついたのは、いくつになった頃だったろうか?



 大人たちがこの程度かと落胆する声を聞いた時かも知れないし、


 自分の名前をせせら嗤いながら話す声を聞いた時かも知れない。


 物心ついた頃には自分は()()()()存在だと自覚していたから、それよりは前の事なのだろう。


 別に望まれない子供だったわけでは無い。寧ろ望まれて生まれてきた方だろう。待ちに待った王太子の代わり(スペア)が生まれたのだから。


 しかし、それが落胆に変わるのは早かった。

 私は無能だったのだ。カリスマも、政治力も、知能も、目立った才能も、何一つ持ち得ない者に王座など任せられる訳もない。例え優秀な第一王子(兄上)がいなくなっても、私にその代わりなど任せられる事は無かっただろう。


 私はいつしか腫れ物のように扱われるようになり、価値がないと多くの人が、まるで潮が引くかのように離れていった。


 それは仕方の無い事だったのだと思う。私は王族に生まれておきながら、何の才も持ち合わせていなかったのだ。

 恵まれた立場に甘んじながら何一つなし得ないクズに、存在する意味など見出される筈もない。


 才能がない事は、罪だ。

 賢くない事もまた、罪だ。


 少なくとも、私たち人の上に立つ為に生まれてきた人間にとっては。


 私たちの存在価値は、人を率いて国を支えるという一点においてのみ成立するのだから。

 何の才もない愚かな王子など、豊かな生活に甘んじるゴミ屑でしかない。畜生の方が血肉を捧げる分、価値がある。


 国民が私を嫌うようになるのは当たり前だったし、才能溢れる第三王子()が生まれてからは目障りな私を排除しようと動く人間が出るのもまた、当たり前だった。

 それを恨むつもりはない。価値がないのに生まれてしまった私が悪いのだから、私はただ結末を受け入れようと思った。


 だがあの時、国王(父上)はそんな私を哀れんで下さったのだと思う。例え王家の汚点と呼ばれる子供でも、父親としての情はあったのだろうし、今思い返すと自分の妻を流行病で亡くした事もあったのだろう。

 私を救う為に、家臣の中でも最も力のあるヴァーミリオン家の御令嬢、アンジェラとの婚約を行ったのだ。



 その日から何の価値もないゴミ屑でしかなかった私は一転、ヴァーミリオン家と繋がりを持つ為の駒という価値ある存在になった。

 最も、価値があるのは私ではなくヴァーミリオン家の方だが……。


 可哀想だったのは無価値な私に価値を持たせる道具にされたアンジェラだ。貴族に生まれた以上、愛や恋など望むべくも無いとは言え、彼女は美しく、誰からも愛される理想の女性と呼ばれていた。

 そんな彼女が、よりにもよって王家の汚点である私と結ばれた事に落胆した人はとても多かったと聞いている。

 アンジェラ自身もきっと落胆していたのだろう。私との面会の時も、いつも何かを憂いているようだった。



 だから私は、彼女との婚約を破棄する事にした。彼女の害にならない形で何とか婚約破棄をしようと決意した。……それによって私が価値を失うと知った上で。


 ゴミ屑にも矜恃くらいあるのだ。 


 彼女のような素晴らしい人が、私のようなゴミ屑のせいで人生を棒に振るなど、決して許容できなかった。



 わざと黒い噂のある貴族たちの傀儡になり、アンジェラとも距離を取り、それまで以上に愚かに振る舞い、誰からも嫌われるように努めた。


 辛うじて私に情のあった人の多くが、私に忠告をしては離れていった。途中、第三王子()が兄上と呼んでくれなくなったのは流石に堪えたが、それでも私は止まらなかった。






 そして今、婚約破棄を成立させ、晴れて無価値どころか害悪となった私は王都から遠く離れて此処にいる。

 近いうちに死ぬだろうが、どうせ最初から()()()()ゴミに生まれたのだから、死体を利用されない場所ならば問題ないだろう。


 最後まで仕えてくれていた部下は、ちゃんと王太子(兄上)にあてた手紙を届けてくれただろうか?

 もし届いていたなら尻尾の掴めなかった貴族(クズ)が何人か処刑出来た筈だ。少しは役に立てただろうか。耐えきれず私の真意も綴ってしまったが、そちらは信じて貰えなくとも良い。私の自己満足だ。


 アンジェラと第三王子()には最後まで嫌われたままだ。あの二人ならお似合いだから、きっと幸せになってくれるに違いない。


 それが私の望みでもある。


 アンジェラが幸せになれたなら、私の生まれた事に価値があったと、そう信じられるのだ。それは私が信じたいだけかも知れないけれど……彼女が幸せになってくれるなら、私は別に何だって構わない。


 彼女は私をきっと好いてはいなかったけど。それでも私は、彼女の事が好きだったのだ。


 愛しているとそう呼ぶ資格は無かったけれど、彼女の事が好きだったのだ。


 私の存在に価値を与えてくれたから。


 彼女にとっては災難でしかなかっただろうけれど、それでも私にとって彼女は人生に射した唯一の光だったのだ。


 これが愛でない事は分かっている。

 歪んだ感情であると自覚している。


 価値を与えてくれたから好きなのか。

 彼女だったからこそ好きなのか。

 それすらも分かっていない私に、愛や恋を語る資格はきっと無い。


 私は所詮、ゴミ屑だ。

 愚かな愚かな罪人だ。


 そんな奴に彼女を愛する資格など無い。だから、せめて彼女の幸福だけでも祈らせて欲しい。


 それくらいしか、私に出来る事は無いのだから。





 木の幹にもたれ、雨空をぼんやりと眺めながら、己の半生を嗤う。もう少し行けるかと思ったが……体が上手く動かない。ここまでか。まぁ、保った方だろう。


 ―――あぁ、何と価値のない人生だろうか。


 私のせいで生じた不利益は最後に何とか帳尻を合わせたつもりだ。

 もっと上手い方法が幾らでもあったのかも知れないが………愚かな私にそれを求めるだけ無駄なのだから、この程度で許して欲しい。


「やっと、終わり…か……」






「いいえ、これからですよ」


 思わぬ返答に、瞑っていた目を開ける。

 足音も無かったというのに、目の前に山守の格好をした女が立っていた。

 まぁ勿論の事、そんな平和な職についた人間ではない。この女は所謂“影”に属する人間で、最後まで私に仕えていた物好きである。

 王太子(兄上)に手紙を渡し、そのまま仕えるように言っておいた筈だが……腕章を見る限り、ちゃんと従ってくれたようだ。


「何を…しに、来た?首が、いるなら…もっと早くに……狩れた、だろうに」


 身分を剥奪され放逐された元王子に、監視がつかない筈がない。まして、私のような王家の汚点なら秘密裏に処理されるだろうと予想していた。

 優秀なこの女ならば、私の首を狩る程度の事、いつでも出来た筈だった。


「いえ、現在の私の任務は()()()ではありません。貴方を探し出し、連れてくるようにと新たに命を受けましたので」


 私を呼び戻すという事は……国民の悪感情でも溜まったのだろうか?それとも不祥事でも起きたのだろうか?

 何にせよ今の私なら、人身御供には最適だろう。それで役に立つなら本望とも思える。


 そもそも最初から逃げ出す余地など無い。予想してはいなかったが、クズに与えられる結末としては最上だろう。


「時間もありませんので、失礼致しますね」


 諦めと共に聞いた、そんな言葉を最後にして――私の意識は暗転した。



「終わらせません。あんな結末で、終わらせてたまるものですか。全く、貴方という人は」







 ◇

 冷たい風が吹き込むのを感じ、目を開く。


 陰鬱な牢の中で此処はどこかと考えて、連れ戻された事を思い出す。

 あの日、最後に見る景色だろうと雨空を見上げたというのに、ままならないものだ。


 どうやら此処は王城にある座敷牢の様だ。石で囲まれた部屋の隅に、鉄製の扉が嵌っているのが見える。あまり使われない施設ではあるが、権力者達を収容する都合上そこそこ重要度は高いので、来た事はある。

 最も当時は此処に入るとは思っても見なかったが。王族が死ぬのは王宮か断頭台と相場が決まっているからだ。

 既に身分を失っているので本来は入れない筈の場所なのだが、そこらの囚人と同じ牢に入れるのも問題があるし、貴族特有の魔法を封じる必要もあるため此処が選ばれたのだろう。流石に寛げるような場所では無いが、これまでの流浪の旅に比べれば雲泥の差である。


 簡素なベッドを降りて自分の身体を改め、牢座敷を見渡す。手足は一応縛られている。服も改められているようだ。当然魔法は使えない。

 貴人用の牢だからかカーペットやテーブルセットまで用意されている。椅子が二つあるのは面会する事も想定されているということだろうか?


 どうしたものか―――と考えた所でぼんやりと眺めていた牢の扉が開いた。


 思わぬ人と目が合い、一瞬の混乱の後に納得する。私を恨む最たる(ひと)だったから。

 ―――少し、血色が良くなっただろうか?



「お久しぶりですね、殿下」


「私にそう呼ばれる資格はありませんよ、アンジェラ公爵令嬢様」


「アンジェとは呼んで下さらないの?」


「そう呼ばせて頂ける価値が、私にはありませんから」

 ―――意地の悪い事を仰るものだ。その権利を私が持たない事はご存知だろうに。まぁ、これが彼女なりの復讐なのだとすれば私は受け入れるしかないのだが。


「そうですか…」


 少し残念そうな顔をしながら部屋に据えられた簡素な椅子に彼女が座る。護衛は居ないのかと不思議に思って目をやると、扉の前で立ち止まっている弟と目が合う。彼以外の供は居ないようだ。

 まぁ、彼は才能の塊だ。騎士としての実力も高いから、私相手ならば問題無いという判断なのだろう。頼もしい事だ。向こうは私を大いに嫌っているから、こんな事を口にすれば怒るだろうが。今も不機嫌そうに此方を見据えているだけで、声を発しようとする様子すら無い。アンジェラが心配で付いてきただけなのだろう。


「……」

 ―――相変わらず仲の良い様子の二人を前にして思う事は様々だ。しかし、私にそれを口にする資格はない。思わず強張りそうな表情を取り繕いつつ、取り敢えず反対側の椅子に座りアンジェラの目線を見つめ返す。私に出来るのはそれだけだから。



 躊躇うような数瞬の無言の時間が過ぎたのち、アンジェラが躊躇いがちに口火を切る。



「何故、あのような事を為されたのですか?」



「……真実の恋に「嘘を仰らないで」


 硬い声に遮られ、知らず逸らしていた目を合わせて、その瞳の鋭さにたじろぐ。


「貴方が王太子殿下に宛てられた手紙については知らされています。その上で尋ねているのです。……何故、あんな真似を為されたのですか」


 ―――出来れば知らせないで欲しい、という願いまでは聞き入れられなかったか……。恨みますよ……‥王太子殿下(兄上)


貴族(クズ)共の摘発をするためですよ。奴らの尻尾を掴むには傀儡になる他ありませんでした」


「そんな事の為に地位を捨てのですか?」


「元々、地位を望んだ事はありません」

 ―――そう答えると、彼女と弟の瞳が剣呑になる。まぁ、二人からすれば許し難い発言だろう。私がその地位に居たせいで、アンジェラは苦しんだのだから。


「そんな理由で捨てた、と?」


「いいえ。私には到底背負えなかっただけです。王家の汚点と呼ばれる男に背負えるほど、軽いものでは無い事はお二人もご存知の筈でしょう」

 ―――こうして顔を合わせて話すのはいつ以来だろうかと、そう思いながら心中を吐露する。そうだ、これだけは言っておかなくては。


「元王家の人間として、貴方に謝罪いたします。原因である私が言っても腹立たしいだけでしょうが……。どうか良き幸せな人生を歩まれますよう」


 告げるべき事は告げた。

 後は裁きを待つだけだ。


 と、此処で初めて弟が口を開いた。

「何ですかそのしおらしい態度は。貴方らしくも無い。いつもの高慢な振る舞いは何処へ行ったのです?」


「………」


「返事すらしませんか……。今更当然の責任すら投げ出すくらいなら、何故最初から逃げ出さなかったのですか?貴方の自己満足のせいでどれ程の人が迷惑したと思っているのですか?貴方が余計な事をしなければアンジェラ様も苦労を「ジェリド殿下!それ以上は!!」………申し訳ない。取り乱しました」



「……余計、迷惑………か」

 ―――そうか、余計だったのか。私が人生を賭けて成した事は。


 いや、分かっていた。

 分かり切っていた。


 所詮私の自己満足に過ぎない事も。

 あまりにも稚拙な計画であった事も。


 しかし、改めて突きつけられると、案外堪えるものだ。


「殿下……。お気持ちは察せる、とは言えませんが…。ほ、本題に入らせていただけますか?」


「いつですか?」


「え?」


「私の処刑日でしょう?いつでしょうか?」


「え?え?いや、その………」


「?」

 ―――アンジェラの様子がおかしい。どうされたのだろうか?


「えぇ……いや、まぁ、処刑と言えば、処刑、なのかしら?人生の墓場と言いますし……」


「アンジェラ様、落ち着いて下さい。流石に違うと思います」


「そ、そうですよね!ジェリド殿下!!」


「?失礼ですが、どういう事でしょうか?」

 ―――何を言おうとしているのか全く分からない。急にお顔を真っ赤にされて一体どうしたのだろうか?処刑ではないのか?では拷問?吐かされるような情報握っていないのだが……?


「わ、私アンジェラは、ルード元殿下に、け、結婚を申し込みます!!」


「はい?」

 ―――あまりに予想外過ぎる発言のせいで頭が真っ白になった。聞き間違いだろうか?だめだ、疲れが残っているのだろうか?


「で、ですから求婚です!!結婚して下さいと言ってるんですぅーー!!」

 ―――聞き間違いじゃ無かった。嘘だろう。ちょっと待ってくれ、何故?何故私と?いやだってアンジェラは私の事を嫌って……


「因みにこれは決定事項です。拒否権はありません。式は二ヶ月後と成りますので、そのつもりでいて下さい」


「ま、待ってくれ!!」


「待ちません。いい加減くっついて下さい。弟に婚約者押し付けて逃げ出した罰です。マリッジブルーで追放とか前例無いですよ、本当に何やってるんですか」

 ―――弟よ、マリッジブルーの一言で片付けられると流石にお兄ちゃん悲しい。いや、それ以前に。


「しかしアンジェは私の事を嫌って……」


「嫌ってません。これ見ればわかるでしょう」

 ―――これ?弟の指差す方を見れば真っ赤になって悶えているアンジェラの姿が。


「アンジェって言った。今ルード様がアンジェって言ったーー。うぅーー、えへへぇ」

 ―――溶けていらっしゃる。いや、誰だこれ。あれ?アンジェラってこんな人だったっけ?可愛いけど……


「見ての通り彼女の意思の方に問題はありません。そもそも毎度毎度兄上を前にするとドキドキして何も喋れない、とか相談してくるくせに、未だに好意を伝えてなかったのが驚きです。で、兄上はちゃんと受けてくれますよね?今更彼女と結婚したく無いとか言い出しませんよね?」

 ―――あ、今度は急に真っ青な顔して、不安そうに涙目でこっちを見ながら震えていらっしゃる。何だこの可愛い生き物。


「あ、あぁ、謹んでお受けさせて頂く」


「私に言う事じゃ無いでしょう。ちゃんと本人に言ってあげて下さい。貴方のせいで一時期、精神病んでたんですからね?この人。本当に何で兄上が関係するとポンコツになるのか……」

 ―――精神を病むって………だから普段のアンジェラらしく無いのか。


 椅子を立ち、彼女の前に跪き、手に唇を落とす。


「アンジェラ公爵令嬢様、貴方からの求婚をお受けします。私と、共に歩んで頂けますか?」


「は、はい!!勿論です!!」


「私の能力では、貴方を幸福にすると、そう確約は出来ませんが……」


「そんな事はどうでも良いんです!!所詮幸福なんて、結果であって目標では無いんですから!貴方が隣に居てくれるなら、私はどこへだってついて行きますから!!」


「ありがとうございます。アンジェ」


「二度と置いて行っちゃダメですよ、ルード様」


「ははは、まぁ、多分大丈夫だと思いますよ」






 ◇

「やっとくっつきましたか、本当に長かった……。あぁ、兄上の身分を整える必要があるので結婚式までは人前に出ないで下さいね。大騒ぎになります」


「私の身分?」


「ドミニク・ヴァレンシュタイン、と言えば殿下には分かりますよね?」


「!!…‥‥バレてたのか。まぁ、私が居ない時点で時間の問題だったな」

 貴族(クズ)共の傀儡をしていた頃に、被害を受けた平民達をフォローする為に使っていた名だ。


「貴族の横暴から民を守る資産家としてそこそこ有名ですよ。誰の呼び出しにも応じない事から、貴族嫌いの謎の英雄と呼ばれています。アンジェラ様の結婚相手になるならば、少なくとも平民は文句を言わないと思いますね」


「そうか……。無駄にならなかったなら良かった」


「殿下がしてきた事は、どれも無駄にはなっていないんですよ?ずっと貴方の隣に居た、私が保証します」


「そう、か…‥‥。良かった…本当に」






 ◇

 蛇足


 登場人物

 ルード(ドミニク・ヴァレンシュタイン)

 元第二王子。幼少期からのトラウマで自信が全くないが、実は本人が言うほど能力は低くない。官僚の一人としてならば十分にやっていける素質はある。アンジェラと結婚後はヴァーミリオン家の次代当主として扱かれている。

 元第二王子なのは察しの良い人にはバレているが、第二王子の行動が明るみに出て、「国のために命を捧げ貴族()を討った悲劇の王子」として評価が上昇した事もあり、公然の秘密扱いされている。


 アンジェラ・ヴァーミリオン

 ルードの元婚約者。ルードに婚約破棄されてからは周囲が心配する程必死にルードを捜索。ルードが発見された報告が来るまでは徐々に精神をすり減らしていた。その結果ルードに再会できた際には感情が制御しきれておらず、普段態度に出ていない部分が言動に出てしまっていた。

 ルードを好きな理由は、誰からも期待されず無能と嗤われる幼少期を過ごしながら、腐らず努力し続ける姿に惚れたから、だと思われる。


 ジェリド殿下

 第三王子。文武両道の秀才。二人の兄を尊敬しつつも若干の反抗期に入っていた。ルードを兄と呼ばなくなったのもその一環。

 兄達の恋愛相談を受けさせられた苦労人。本文中で若干喧嘩腰なのもそのせい。


 影の女の子

 ルードが幼少の頃から仕えている諜報員兼暗殺者。第二王子という身分に苦しめられ続けながらも努力し続けるルードを、陰ながら弟のように可愛がっていた。

 アンジェラと結婚すればきっと幸せになれると信じていた矢先にルードがまさかの婚約破棄。第一王子に仕えるよう言われ渋々従ったものの、第一王子から捜索を命じられ、これ幸いと捜索。無事発見に成功した。

 ルードとアンジェラがくっついた後は第一王子の命令でルードの部下に戻っており、幸せそうな二人を遠目に眺めながら「お姉ちゃん嬉しい」などと呟いている姿が目撃されている。

 告白のシーン、物足りない方が多いと思われますが、これくらいで勘弁して下さい。

 前作に引き続き、好き好みが分かれるストーリーだと思います。ご不快だった方には申し訳ありません。

 以前感想で続編書くよーと言いつつ大分時間がかかってしまいました。そちらも合わせて謝罪させていただきます。

※誤字報告、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前半部分で、死を受け入れようとするルードの内面が重苦しくしっかりと書かれていて、後半部分の、弟&アンジェラとの遣り取りでのテンポの良い会話やルードの驚き、アンジェラの喜びといった感情が跳ね…
[良い点] あー、多分普通の王族としては十分な能力を持っていたけど、 父王・兄・弟と周りが皆優秀過ぎて、教育係や官僚達が 過度な期待と発破を掛けるつもりで 「お父様や王太子殿下は出来たんですから、あな…
[一言] 自分自身を敵に回した王子をよく描けていて結構好きです。 でも二作に独立させるより一作にまとめた方が話として完成度が高くなる気がします……
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