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噂のプロフィール

「ももしおちゃん、ねぎまちゃん。石爺、元気だった?」


ミナトが空気を和らげる。


「うん。お友達ができてたよ。ほら、前に横浜駅で会ったとき、石爺、『友達迎えに来た』って言ってたじゃん。その人、前歯に虫歯あったよ」


ももしおが嬉しそうに報告する。


「目がグレーでダンディだったよね」


ねぎまはにっこりとタレ目を泣きぼくろと一緒に更に垂らした。


「ね。他の人が『たぶん九龍城砦にいた』ってこっそり教えてくれたんだよ。ね、マイマイ」

「ね」


ももしお×ねぎまは、2人で顔を見合わせてこてっと首を傾けた。


「なに、くーろんじょうさいって」


初耳。

ねぎまが教えてくれた。


「昔、香港にあった不思議な街。映画のセットみたいにごちゃごちゃしてて。BBのPVに出てきてたの」

「ふーん」


ぜんぜん分からん。そして、またBBかよ。ホントにハマってるよな。

ミナトも首を傾げている。


「あのね、そこに逃げ込めば警察も追って来れないって街だったの。かっこよくない?」


ももしおは拳銃を構える真似をしている。おっと、今、撃ったらしい。銃口をふってやってる。

オレはスマホでくーろんじょうさいをググり中。


「つまり、スラム街ってこと?」


ミナトが聞くと、ももしお×ねぎまは頷いた。

ちょうど、スマホには写真が出てきた。


「なんじゃこれ?!」


ごちゃごちゃを超越した無法地帯。冗談みたいに継ぎ足されて造られただろう建物。なんというか、全体的にグレーと茶と黒。

そういえば、BBのPVにあったかも。あのブラックな映像は九龍城砦ってやつだったのか。絵になる。タトゥのあるロジャーのバックにあったから、犯罪や反社会勢力の危険な臭いがぷんぷんしてた。


「その人が九龍城砦にいたってことはガセだろーな」


オレは冷静。どや街の人達は過去を語りたがらない。過去を聞かないというのがどや街の暗黙のルールらしい。だから、石爺の友達が九龍城砦にいたということは信憑性が薄い。


「でもま、火のない所に煙は立たないじゃん。なにか言われそうな癖のある人?」


ミナトはももしお×ねぎまに尋ねた。


「ハードボイルドの臭いがするかも。ね、マイマイ」

「ね。『アウトレイジ』に出てきそうだよね、シオリン」


それ、ヤクザ映画じゃん。


ミナトに九龍城砦の写真を見せた。


「かっけー」


そっか?

写真だからいいんじゃね? すっげー不衛生っぽい。この街、きっとヤバい臭いするって。血の臭いとかってハードボイルドな響きのもんだけじゃなくて、掃除していないトイレの臭いとか何日も放置した生ごみの臭いとか。たぶん男子部室棟の比じゃねーって。オレ、生理的にムリ。想像しただけで気分悪くなりそ。


「そんな友達、石爺、大丈夫?」


オレは心配して、ももしお×ねぎまに聞いた。


「クリント・イーストウッドみたいなお爺さんだったよ。東洋系だけど」


とねぎま。ちょっと待った。


「日本人じゃねーってこと?」


マジでヤバいんじゃね? そーじゃん、九龍城砦にいたことがあるって噂だけで既にヤバいって。ネットの写真で見た限り、一般市民が近寄るとは思えねー。スラム街って犯罪の巣窟だろ?


「さあ。分かんない。香港にいたことがあるんならひょっとしてそーかも。別にいーじゃん」

「そのジジイ、香港にいたことがあるって?」


九龍城砦は昔、香港の中心部にあった。今仕入れたばかりの情報。


「中国訛りの英語がときどき出てたから聞いたの。ね、シオリン」

「うん。日本語も上手だよね。マイマイ」


ももしお×ねぎまは細かいことを気にしなさすぎ。


「不法入国とかありえるじゃん」


オレが焦ると、ねぎまが冷たい目で睨んできた。


「宗哲クンは誰かと友達になるとき、どこの誰で何をしてきたかってことを基準にするわけ? FaceBookんときプロフィールで友達になるかどうか判断するの? 投稿じゃなくて? 私は、石爺の友達ってだけで、すっごくステキな人だって思ったけど」


撃沈。


そうだよな。石爺には肩書なんてものは全く無い。たし算ひき算が苦手で地図も読めない。緊張すればするほどどもりが酷くなって、会話すら成り立たない相手もいる。その分、自分に向けられた善意には敏感で、純粋。


だから、ねぎまが言う通り。石爺の友達ってことは、見返りとかそんなものは関係なく接する人ってこと。


オレ、ダサっ。


ねぎまに幻滅されていることが手に取るように分かる。


気まずくてしばらく大人しくしていた。



電車に揺られていると、ももしおがスマホで何やら調べている。


「どーした?」


聞いてみると、


「どこの製薬会社かなーって」


とももしおから返ってきた。


「ももしおちゃん、ひょっとして株の銘柄? 歯の再生治療で狙うって?」


ミナトの言葉にももしおは首を横に振った。


「ううん。仕込んで実用化まで待つなんて悠長なことしてられないよー。ただね、研究費を費やすってことは資金力があるってことだからね、研究室がどこの企業と共同研究してるのか聞いてきたの」


「そーいえばシオリン、どんなところと研究のやりとりしてるのか聞いたり、名刺ファイルを見せて貰ったりしてたよね。熱心って思ってたら、そのためだったんだ」


すげー。マウスとふれあい動物園してきただけじゃなかったのか。ももしおの貪欲さ加減に脱帽。


「へっへー。アメリカの製薬会社の研究室とやりとりしてるみたい。巨大製薬会社にM&Aされた企業だよ。アメリカ株かぁ。今んとこ日本株専門だけど、この際デビューしちゃおっかなー。製薬大国アメリカじゃ、国費の何割かが製薬会社に流れてるんだよね。バイオ関連株とかステキじゃない? FANGみたいな激しい成長株の青田刈り」


人差指を顎に当て、超絶美少女はうっとりと金銭の夢を見る。やめろ。外見が台無し。


「で、ももしおちゃん、その企業はどーだった?」


ミナトはスマホでの調査結果を知りたがった。


「さっすが巨大製薬会社。企業業績ばっちり。特許のある薬いっぱい持ってる。後発薬も。でも、なんか変」

「変って?」


どーせ聞いても、オレには株のことは分からないだろうが質問してみた。


「業績は文句なしなのに下がって来てるの。そういえば、そこまで世界経済に不安材料があるとは思えないのに、雇用統計とかOKなのにナスダックもNYダウもなんかちょっと下がってきてるんだよね」


????


「へー」


聞いた手前、一応返事。


「アメリカと中国の関税合戦って、貿易戦争なんて言葉遣っちゃって騒いでるけど、GDPから考えたら言われてるほどじゃないと思うんだよね。確かに不安材料ではあよ。ヨーロッパの問題も大手銀行がドミノ倒しになるかもってときに比べれば平和。中東問題は通常運転。ってことはNYの指数が下がるなんて変だと思うんだけど」


よー分からん。ももしお、こっちの世界に戻ってこーい。


「シオリン、下がってるってことは安く買うチャンスってこと?」


流石ねぎま。伊達にももしおの一番近くにいるわけじゃない。ちゃんと会話のキャッチボールができている。


「うん。そこそこ円高だからドル転して買っちゃおっかなー♪ それとも、もうちょっと安くなるの待っちゃおっかなー♪」


歌うようににまにまと悩むももしお。心底楽しそう。

あれ? でも。


「ももしおって、製薬会社の株でベコンベコンにやられたって言ってたけど、資金あるの?」


オレの言葉に、ももしおはよろよろと座り込んでカタツムリのようになってしまった。


「そーだった」


なんか、溶けだしそ。

立たないとパンツ見えるって。盗撮されたらどーすんだよ。


「パンツ見えてっぞ」


小声でオレが忠告してやった。


「見せパンだからいーの」


とももしお。よくねーし。


どさっ


ミナトが背負っていたリュックをももしおの真ん前に置いた。

これで他からはスカートの中が見えない。手のかかるヤツ。



「そういえば。宗哲クンって、今日、すなぎもちゃんのこと足だけで分かったの?」


地下鉄の黒い壁が流れっる窓をバックに、ねぎまが不気味な笑顔を作った。

すると、溶けそうになっていたももしおが息を吹き返して、ぴょんと立ち上がった。手を挙げてオレにアピールしてくる。


「はーいはーい! マイマイの言葉を分かりやすくしてあげるー。

 カノジョの前で他の女見るなんて、いい度胸しとんのとちゃうか?」


後半、ももしおが凍り付きそうなドスの効いた声を出す。


ねぎまがずいっとオレに近づいてくる。

オレは自然に一歩後退した。


「白衣姿にはっとしてたよね?」

「マイマイはねー、こう言いたいわけ。

 白衣の女をエロい目で舐めるように見てんじゃねーよ」

「いや、その、足首にホクロがあったから覚えてて」


しまった! と思ったときには既に遅し。


「あら? あ・し・く・び? 宗哲クンって注意深いんだね」

「訳、ワレ、んなとこばっか見とんのか?」


ももしお、なんで関西弁で訳すわけ?


「……」


黙秘。


「すなぎもちゃん、綺麗だもんね」

「訳、ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたろか」


ももしお、口閉じろ。そんなこと言ってねーじゃん。超絶美少女が台無し。


「ぜんぜん。マイの方がずっと綺麗に決まってるじゃん」


オレ、なんで電車の中でこんなこと言わされちゃってるわけ? 周りに聞こえてるし。恥ず。


「ありがと。次の駅でどっか寄ってく?」

「訳、降りろや、ボケ。顔貸しな」


キキー

プシュ―


電車が停止してドアが開いた。


「あ、じゃな。ミナト、ももしお」


電車内に別れを告げた。

ミナトは心底、気の毒そうな顔をしていた。


シュー

ガタンガタンガタンガタン


電車が発車していく。


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