表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/23

ボトルネック

ねぎまと2人でパン屋へ行ってびっくり。


清潔なライトグレーのニット、オフホワイトのカーゴパンツ、ジャケットは何の変哲もないデニム。

どっからどう見てもユニクロコーデなのに、めっちゃお洒落な外国人。

黒髪、堀の深い顔、厚い胸、白い歯。

年齢は恐らく20代前半。


待っていたのは文句なしのイケメンだった。


外国人、反則。もう遺伝子レベルで骨格が違い過ぎる。


「マイマーイ、ここだよー」


ももしおが席から手を振っている。そんなことしなくても店に入った瞬間に分かったから。すっげー目立つもん。

ももしおだって目立つ。ヤツは小顔過ぎるし超絶美少女。

2人並ぶとアメリカ映画のワンシーンのよう。


「ハーイ」


カレシ未満は手を挙げてくれた。


「ハーイ」


とオレは手を差し出して、自己紹介をしながら握手。

ねぎまは英語で自己紹介。ねぎまは帰国子女。インド訛りの英語を話す。

オレも英語が分かる。ボストンにいたことがあるから。


と、そこにミナトが到着。ミナトも英語でペラペラと会話。

ミナトんとこは、長期休暇に外国に家族旅行したり留学生のホストファミリーになったりする家庭。英会話はお手の物。


「ちょっとー、私だけ? 英語話せないのって」


ももしおが両手をグーにしてテーブルをだんだんとする。その振動で、カレシ未満の前に置かれていたiPadがカタカタと揺れた。


「(英語)はは、そうみたいだね。シオリ」


カレシ未満はももしおの鼻をぴっと弾いて笑う。


「もう」


ももしおが頬をぷくっと膨らます。瞳はカレシ未満だけに向いている。

あかん。見ているこっちが恥ずい。


フレンドリーに聞いてみた。


「(英語)日本へは旅行ですか?」

「(英語)そ。東京オリンピックの時に来ようと思ってたけど、あまり人が多いのもなって」


どうやらカレシ未満は人が多過ぎるのは苦手らしい。


「(英語)じゃ、もう、オリンピックのときには来ないんですか?」


友達思いのねぎまが残念そうに聞く。


「(英語)たぶん。そろそろ大学にも戻らないと」


え?


「(英語)ってことは、大学生?」

「(英語)そ」


オレの質問に笑顔で返事。爽やかさにくらくらする。


「(英語)カノジョはいますか?」


畳みかけるようにねぎまが尋ねる。

カレシ未満はちらっとももしおの方に視線を送り、肩をすくめた。


「(英語)んー。シオリに愛の言葉を教えてやって」


なんだって?


「(英語)それって、それって、カノジョにしたいってことですか?」


ぐぐぐっと、ねぎまはテーブルに身を乗り出す。

と、この核心に迫る質問のところで、ももしおがにょきっとねぎまの前に顔を出した。


「(日本語)スト―ップ! マイマイには宗哲クンがいるでしょ?」

「(日本語)シオリン、今、シオリンをカノジョにしたいかどうか聞いてたのに」

「(日本語)え、そーなの? 続けて」


「(英語)お嬢さんたち、ケンカはいけないよ」


日本語を理解できないカレシ未満がももしお×ねぎまを止めた。

あー、質問のタイミング逃した。バカだな、ももしお。


「(英語)日本へは1人で?」


ふっと笑い、ミナトが空気を元に戻した。


「(英語)そ。ふらっと」


そういえば、とオレは不思議に思って聞いてみた。


「(英語)Mr.サイモンとはどこで知り合ったんですか?」


まさか九龍城砦ってことはないよな。九龍城砦は1994年に取り壊されたはず。

大学生ってことは、まだ生まれていない。


「(英語)横浜で道を聞いた。話しかけても、大抵の日本人は逃げちゃって。サイモンだけだよ。マクドナルドを教えてくれたのは。ついでに味が薄いってことも」


言いながら、カレシ未満はiPadを起動して地図を出し、Mr.サイモンに会った場所とマクドナルドを表示した。


「(英語)マクドナルドが好き?」


とミナトが聞けば、


「(英語)チーズバーガーはこの世で1番クール」


と返って来た。アメリカ人ってみんなバーガーが好きなのかも。


カレシ未満はしばらく横浜に滞在するらしい。

ももしおの案内で、人気のラーメン屋に行き、マリンタワーに上り、シーバスに乗り、元町、伊勢佐木町、どや街などを歩いたと嬉しそうだった。そのチョイスどーなの。

普通、港町ヨコハマを案内するんだったらさ、中華街に行き、ランドマークタワーに上り、遊覧船に乗り、元町、みなとみらいを歩くだろ。

あ、元町だけ被ってる。


カレシ未満はいたく横浜を気に入ったらしい。

この街に住みたいと言っていた。

iPadに自分が撮った写真を次々と表示させる。マヨネーズのキャップをとった星の形、なんか食ってるももしお、蜜入りリンゴ、電柱、なんか飲んでるももしお、しゅうまいの湯気付オブジェ、測量鋲、ぶら下がった肉の燻製、なんか齧ってるももしお、化学コンビナート、寝転ぶおじさん、なんか食おうとしてるももしお。視点が独特。

へー。ももしお多め。


嬉しそうにももしおが写真をタップして大画面表示し、カレシ未満と見つめ合う。

ごちそーさま。


と、ももしおは間違ってタップしたのか、画面にグラフが表示された。

バックは黒。オレンジ色の線。


「間違えちゃった。ごめんなさい」


言いながら、ももしおは画面を眺め、次に目をぱちくりさせてカレシ未満を見た。


「ン? シオリ?」


カレシ未満が「どうかした?」というようにももしおに向かって首を傾げる。


「ストック?」


ももしおがいきなり英語を喋った。


「ヤー」


ストックってなんのストック? スキーのストックじゃないことは確か。


「ティッカーは?」


ももしおが何だか興奮している。

ももしおの言葉を受けて、カレシ未満はアルファベットが並んだ部分を見せた。


「どーしたの? シオリン」


ちょいちょいと、ねぎまがももしおをつつく。


「これ、アメリカの株のグラフなの」


は? それを見ただけで分かったって? 英語も分かんねーのに。すげーな、ももしお。


「(英語)経済学を専攻してる。MMTってとこからも、日本に興味があって」


カレシ未満がももしおに話す。オレ、英語分かるはずなのに、何言ってんだかさっぱり。


「いつの間にか日本がMMTのモデルみたいに言う人が出てきたけど、それはどーなんだろ。そのティッカーって**でしょ? 最近、株安なのはなぜだと思う?」


ももしおは日本語を話しているはずなのに、オレにはさっぱり。ただ、**というのは、先日ももしおが言っていたアメリカの大手製薬会社だった気がする。


「(英語)シオリとそういった話ができるなんて思わなかった。アメージングだよ」

「私も♡ ね、最初に下がって来たのはNYだよね。中国経済とヨーロッパ経済が不安材料だと思う?」

「(英語)んー。僕は、それだけじゃないと思ってる」


ももしおとカレシ未満は日本語と英語で難なく会話が成り立っている。不思議。

2人がなんだかよく分からない世界へ行ってしまったし、あまり2人の邪魔をするのもなんなのでねぎまとミナトとオレは退場することにした。


帰る前にこっそり、カレシ未満に「SUKIDAYO」という愛の言葉を教えておいた。


「じゃね」

「See You.」

「「「See You.」」」


最後は手を挙げて別れの挨拶。



かもめ歩道橋を横浜駅の方に渡りながら、ねぎまは笑顔満開。


「シオリンったら、私達に1番最初に紹介してくたんだよ♡」


喜び方が可愛いすぎ。


「「そーなんだ」」

「そーなの! あ、私、電車の時間、次のに乗りたいから行くね。じゃね」

「「じゃ」」


ミナトと2人でねぎまを見送った。

ひらひらと振った手を下ろして、ミナトを見ると、ミナトもオレの方をじっと見た。

見つめ合うこと3秒。


「な、宗哲」

「うん」

「ももしおちゃんとねぎまちゃんって、気づいてねーの?」

「っぽい」

「宗哲は?」

「気づいた。たぶんだけど。でも、まさか」

「いや、今ってワールドツアーは終わったとこだよな?」

「そこまで知らねーし」


「ももしおちゃんって、BBのファンなんだろ? なのに?」

「ボーカルのロジャーしか見てないんじゃね?」

「バンドやってるヤツだったら、カリスマギタリストの方を見るのに」

「でもさ。いやいやいやいや、まさか」


まさかすぎる。

カレシ未満は、アメリカのヒットチャートを独走中のBBのギタリストだと思われる。


BBでのカリスマギタリストは、長めの前髪で前かがみになってギターを弾く写真や映像が多く、それではほとんど鼻辺りから下しか見えない。服装は、BBのカラー通り、基本Tシャツ、ランニング、黒の革ジャン。破れたバンダナを腕に巻き付けている。足元は主に黒いブーツ。

BBの世界観は不良っぽいし不健康で刹那的。


カレシ未満の外見は、全くイメージが真逆。


が、していたのだ。

BBのカリスマギタリストの売り、泣きのギターで使うボトルネック替わりの幅広の指輪を。あの工具みたいなやつ。



「ももしおちゃん、すげー」


いつもは穏やかなミナトの顔が驚嘆極まっている。

どう見てもラブラブな雰囲気だったよな。

今をときめくBBのカリスマギタリストのカノジョとか、本当だったら凄すぎ。


「でもさ、似てることを利用して、一緒のゴツイ指輪してただけかも」


オレは首を横に振りつつ否定した。だいたい雰囲気が違いすぎる。


「でも、傷あった」


とミナト。


「傷?」

「なんかのインタビューのときに、他のメンバーはタトゥーをしてるのに、どーしてDがけしないのかって聞かれててさ。プライマリースクールのときに友達とふざけてて、シャープペンの芯が刺さって痛かったから、痛いのはムリって」

「タトゥは痛そうだよな」

「そのとき、雑誌にMy Tatooってシャープペンの芯の痕が写真載ってた」

「それと一緒のがあったって?」

「最後に『See You.』って手ぇ挙げたじゃん? そのときに見えた」


なんと、ミナトの注意深さに感服。


「ガチで?」

「BBの活動はどーなってんだろ。あれ? さっき大学生って言ってなかった?」

「ググってみよっか?」


BBをググってみた。

結成は7年前。そのときのギタリストは別の人。

今のギタリストが変わったのは2年前。そのときからBBがヒットを飛ばし始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ