第3章 ある秘密
そんなある日、タクマが具合悪そうな顔をして帰ってきた。顔が赤く火照っていて、熱っぽい感じだ。
「おい、タクマ、大丈夫か。熱でもあるんじゃないか?」
「ちょっと夏風邪をひいたみたいです。ゆっくり休めば大丈夫です」
俺はタクマの額に手を当ててみた。
「すごい熱だ。医者へ行こう」
「いえ、風邪だからしばらく寝てれば治ります。お金もないし」
「ばかやろう!はやく保険証を用意しろ」
俺は怒鳴りつけ、強引にタクマの腕を引っ張って、近所の医者へ連れて行った。
医師の診断はただの風邪だった。治療費と薬代は合わせて数千円だったので、俺が立て替えておいた。
「すみません。治療費は近いうちにお返ししますから」
「気にすんな。今夜はもうゆっくりやすんでろ。おかゆぐらい作ってやる」
俺はおかゆの作り方をネットで調べ、どうにか作ってみた。見てくれは悪いし、味もいまいちだが、まあ仕方がない。
「おかゆ作ってやったぞ。おまえほど上手にはできないが、かんべんしてくれ。卵と刻みネギも入れたからな」
俺はスプーンですくったおかゆをふうふうと口で吹いて冷まし、ベッドで寝ているタクマの口元に近づけた。タクマは口を開けてスプーンからおかゆをすすった。
「お、おいしいです。今まで食べた中で一番おいしいです……」
「そ、そうか? まあ、風邪ひくと味覚もなくなるからな。ははは」
タクマも笑ったが、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「じゃあ、ゆっくり休めよ。明日の朝もおかゆぐらい作ってやるから」
俺はそう言って、食べ終わったおかゆの容器を持ってタクマの部屋を出た。
翌朝、俺は早起きしてタクマのためにまたおかゆを作った。今度は昨日よりはちょっとましな味になったようだ。もう起き上がれるかもしれないと思い、俺はタクマの部屋のドアを開けた。
「おい、タクマ。おかゆできたぞ」
「きゃっ!」
タクマは着替えの最中で、上半身はだかだった。
「あっ、す、すまん!」
俺はあわててドアを閉めた。一瞬見えたタクマの上半身の裸体に、何か奇妙な違和感が残った。胸が、少しだけだが、膨らんでいたのだ。ま、まさか、タクマは実は……
俺は何か見てはいけないものを見てしまったような気がして、黙ったまま自分の部屋に戻っていった。