第2章 奇妙な同居人
「僕、東堂琢磨といいます。実家が料亭やってて、いずれは家業を継がなければいけないので、高校卒業と同時に上京して調理師専門学校に通うことにしたんです」
「俺は西条隆だ。二浪の末にこのたびめでたく第六志望の大学に入学することになった。よろしく」
実は俺は東大、早稲田、慶応、立教、法政を三年続けて受験したのだが、奮闘むなしくすべて不合格となり、滑り止めに受けた第六志望の○○大学にようやく合格したのだ。ちなみに○○大学を受験して不合格になったやつというのを、俺はいまだかつて聞いたことがない。
「僕、実習もかねて朝食は二人分作ります。都合が合うときは夕食もいっしょにどうですか。そのかわり材料費だけ半分負担してください」
「それはありがたい。俺の実家はじいさんとばあさんが農業やってるから、米と野菜はよく送ってくるんだ。それ使ってくれよ」
こうして美少年タクマとの共同生活が始まったのだが、さすがに実家が料亭で板前を目指しているだけあって、料理の腕はすごかった。毎回安い食材で見事な料理を作るので、俺は感心するばかりだった。
「このお米は熊本の森の熊さんですね」
「えっ、たしかにそうだけど、なんでわかるんだ?」
「そのくらい、一口食べればすぐわかりますよ」
たしかにその米は熊本の実家で作っているブランド米、森の熊さんだったのだが、俺にはコシヒカリやあきたこまちやひとめぼれの違いすらわからない。タクマはよほど料理のセンスがあるに違いない。
タクマは快適な同居人だった。平日昼間は専門学校へ行って、部屋にいないときが多いし、俺が朝遅くまで寝てるときも、ちゃんと朝食は俺の分まで作っていってくれる。休日には料理の研究もかねて一流の店で食べ歩きをしていて、そのため家賃などの生活費を節約しているらしい。
同居生活を始めて一月ほどたつと、タクマはときどき専門学校の同級生の女の子を何人か部屋に連れてくるようになった。そしていっしょに料理を作るのだ。俺が遠慮して外出しようとすると、一緒に食べるように頼まれるのだった。
「タクマ、おまえの彼女はいったいどの子なんだ?」
「彼女なんていませんよ。みんなただの友達ですよ」
「おまえ、本当はモテるんだろ?」
「モテますけどね」
「一人ぐらい俺に紹介してくれよ」
「イヤです」
あっさり言われて、俺は落胆した。だがタクマはたしかに少女マンガにでも出てきそうな美少年だから、きっと女の子たちもタクマのことを狙っているのだろう。その一方で、タクマには男の友達らしいのが一人もいないようなのが、ちょっと気になった。