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三駅目 マーガレットの興味

 森の中にある謎の家で目を覚ましてから約一時間。

 誠斗はこの家の住民である幼女マーガレットと机越しに対面していた。


「……魔法の存在しない世界……非常に興味深いわ」


 彼女は誠斗の話を一通り聞いた後、腕を組んで窓の外に視線を移す。


「……魔法とは、この世界の根幹を担うものといっても過言でもない。それなのに……」


 マーガレットが先ほどからぶつぶつといっている話の内容を聞く限り、空からの自由落下という手段によって訪れたこの世界は魔法というものが当たり前のように存在しているらしい。


 それだけではない。


 マーガレットが追い出した少女。ノノンもまた、妖精という誠斗が暮らしていた世界には存在していなかったものだ。


 誠斗としては、その時点で疑問点が多すぎて、頭がパンクしそうなのだが、目の前の少女は腕を組み、時々誠斗から情報を聞き出しながら考察を重ねるばかりである。


「……ところであなた」


 唐突にマーガレットが話しかける。


「えっと……どうしたの?」

「……あなたがほかの世界……ニホンだったかしら? から来たということは、この世界に衣食住のいずれも持っていないということよね?」

「えっあぁ……そうなるね」


 これまでの話とは全く違う内容だったので、誠斗は少し戸惑いながらも返事をする。


 状況が状況であるがゆえに指摘されるまで考えてもいなかったが、確かに人間の生活に必要な衣食住はこの世界には有していないし、もっと言えばこの世界でそれを手に入れるための通貨も持ち合わせていない。


「……ふむ。まぁ当然といえば当然よね……」


 マーガレットは再び腕を組んで考え込む。


 それにしてもだ。衣食住の話になるまで気にもしていなかったのだが、この家のほかの住民はどこにいるのだろうか?

 見た目の割にはかなり落ち着いているとはいえ、目の前の幼女が一人暮らしをしているとはとても思えないので、単に出かけているだけなのだろうが、家族が帰ってきたときに知らない男が癒えに居座っているという状況は、変な誤解を与える可能性すら存在している。


「あのー」

「そうだわ」


 行く当てはないものの、このまま家にいても迷惑になる。


 そう考えて、誠斗が話しかけるのとほぼ同時にマーガレットがポンと手をたたく。


「どうかした?」

「あぁいや。先にどうぞ」


 誠斗がマーガレットに先に話すように促すと、小さな体を一生懸命乗り出し……何なら机の上に乗って誠斗のすぐ目の前まで顔を持ってくる。


「……あなた。うちで働きなさい」

「はい?」


 元居た世界についての話かと思っていたところに対して、あまりにも斜め上の言葉が飛んできたため、誠斗は思わず聞き返してしまった。


「だから。うちで働きなさいって言っているの。どうせ、この世界で家すら持っていないあなたの場合就職先なんて簡単に見つからないだろうし、私としては興味深い話をしてくれる助手ができて、再呼応だと思わない?」

「……いや、でも、マーガレットさんの家族の了承って得られるの?」


 彼女が見た目相応の歳ならば、一人暮らしなどしているはずもない。


 そんな前提で呈した疑問だったが、彼女はこれまた予想の斜め上を行く回答を口にする。


「……いないわよ。そんなもの」

「えっ?」


 まずいことを聞いてしまったのだろうか?


 そんな誠斗の考えとは反対に、マーガレットは、新しいおもちゃを与えられた子供のように明るい笑顔で言葉を続ける。


「私は永遠の時を生きる魔法使いマーガレット。見た目はこんな感じでも、あなたよりもずっと長いこと生きているわ」

「……不老不死?」

「まぁ一般的にはそういうわね。それで? 私のところで働くの? それとも、この広大な森の中に身一つで放り出されてみる?」


 魔法。妖精と来て、今度は不老不死と来た。


 本当に訳が分からない。信じたくはないが、気を失って変な夢を見ているとかでなければ、今見聞きしていることは間違いなく現実なのだろう。


「マコト。人の話を聞いているの? 早く答えなさい」


 ボーとしたまま答えない誠斗を前にして、マーガレットは今度はいら立ちを見せ始める。


「えっと……」


 とりあえず、目の前にいる幼女の質問に答えなければならない。


 そこまで思考が進んだところで、誠斗の頭の中に一つの疑問が浮かび上がる。


「……働くって、具体的に何をするの?」

「そうね。簡単に言えば、私の手伝いかしら?」

「というと?」

「うーん……家事とか、魔法の準備、薬の調合の手伝いなんて言うのもいいわね。別に人体実験をやったりはしないから安心してもらってもいいわよ。なんだったら、少しぐらいならお給料も出すし」


 彼女が言うことが本当だとすれば、悪い条件ではないだろう。


 右も左もわからない世界で衣食住を手に入れられるし、どの程度かわからないがお金を得ることもできる。


「……うん。わかった。ここで働くよ」


 そこまで考えてから、誠斗が答えを告げると、マーガレットは小さく笑みを浮かべる。


「そう来なくちゃ。そうと決まれば、さっそく薬に使う薬草の採取に向かうわよ」


 マーガレットはその笑みを浮かべたまま机から飛び降りると、いすの横に置いてあった靴を履いて、扉の方へと向かう。

 誠斗はその姿を目で追いながらいすから立ち上がり、彼女と同様に扉の方へと向かう。


「……とりあえず、今日は痛み止めと風邪薬がよく売れたから、そのあたりの材料に使える薬草の採取がしたいわね。ついでに言うと、きれいな水と……あぁそうだ。マコト、玄関の横にあるカゴを二つぐらい持ってきてね」

「えっと、カゴね。うん。わかった」


 答えながら、誠斗は玄関の扉の横においてある木の枝を編んで作られているカゴを二つ手に取る。


「さて、それじゃ早速行きましょうか。こうして誰かと出かけるなんて久しぶりだから楽しみね」


 言葉尻に音符でもつきそうなぐらい楽しそうな口調でその言葉を口にすると、マーガレットは軽い歩調でツリーハウスから地上へと続く階段を下りていく。


「えっ早い。ちょっと待ってよ」

「早くしないとおいていくわよ」


 明らかに手作りのその階段は作りが不安定なのか、新しい段に到達するたびにグラグラと揺れるため、誠斗は一段降りるだけでも手間取るのだが、さすがにこの家の住民であるマーガレットはそんな階段の現状などものともせずにあっという間に地上に降りていく。最も、彼女は口ではおいていくとは言いつつも、待っている気はあるようで地上につくなり、こちらの方へと視線を送って誠斗が下りてくるのを待ってくれている。


 ツリーハウスの玄関を出てから、約5分。


 意外と高いところにあるツリーハウスから四苦八苦しながら地上に降り立った誠斗と下の方で腕組をしながらも待っていてくれていたマーガレットとともに森の中へと入っていく。


「さて、さっきも少し説明したけれど今日採取するのは痛み止めと風邪薬の材料よ。まず、痛み止めの材料だけど……」


 森の中に入ってからすぐに採取する薬の材料がどんなもので、どこにあるのかという説明が始める。


 そんな彼女の姿はとても生き生きしており、とても楽しそうで、誠斗はませた妹ができたような気分になりながら、その説明に聞き入っていた。

 お久しぶりです。白波です。


 2年以上も更新がない状況になってしまい、申し訳ございません。


 これからは少しずつでも投稿できるようにしたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

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