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二駅目 家の主と妖精と

 大空から落下してどれくらいの時間がたっただろうか?


 誠斗はゆっくりと目を覚ます。


「知らない天井だ……」


 両手両足になんだか冷たい感触がある以外は痛みなどはなく、五体満足で生還できたらしい。


 そもそも、あんな空から落下して生きていること自体奇跡であり、なおかつそんな奇跡が起こりうる状況で知っている場所で寝ているなんてことはそうそうないだろう。いや、空から落下したと思っているだけで、あの山道で倒れていて病院とかに運ばれたのかもしれない。


 きっとそうに違いない。


 天井は明らかに木材を簡素に組み合わせただけの代物であるが、そういう病院なのだろう。


 そう考えながら、体を起こそうとするとじゃらりという音が鳴って、体の自由が利かないことに気が付く。どうやら、鎖で両手両足を縛られているらしい。両手両足の冷たい感触の正体をつかんだところで誠斗は状況を整理する。


 見知らぬ場所。首を動かすと見える謎の言語がかかれた手紙。手足の鎖……この状況から考えると、何かしらの理由から監禁されていると考えるのが妥当だろうか?


「あれ? マーガレット以外の人間さんがいる」


 幼い女の子の声が聞こえてきたのは、そんなときだった。


 声が聞こえてきたのが、手紙がある方とは逆側だったので、首を動かして反対側を向くと、緑色の髪とエメラルド色の瞳が目を引く小学生ぐらいと思われる少女が木で作られたベランダの欄干に腰を掛けていた。

 もっとも、彼女が身に付けている白いワンピースの背中につけられている……と思われる大きくて半透明の四枚の羽が彼女が普通ではないと主張している気がする。


「えっと……言葉。わかる? あなた、空から降ってきたよね?」

「えっと……わかるよ」


 彼女が言っている言葉は理解できる。理解できないのはこの状況だ。


「……ここは君の家? あと、空から降ってきたって?」


 誠斗の質問に対して、女の子はキョトンとした表情を浮かべてから、笑い始める。


「あははっ面白いこと言うわね。あなたが空から降ってきたとき、このあたりの妖精たちは大騒ぎだったんだから。『カノン様。空から男の子が!』ってね。大方ドラゴンに乗っててバランスを崩したってところかしら。あぁそれと、ここは魔女のマーガレットの家であって、私の家じゃないわ」


 訳がわからない。妖精に始まり、ドラゴン、魔女ときた。


「君はカノンって言う名前なの?」


 一つでも情報を得るために彼女の素性に探りをいれてみる。

 すると、一旦落ち着いていた彼女の笑い声が再び響き始める。


「あはははっ! 違う違う。私はこの辺りにすんでいるただの妖精。私はカノン様の命令で様子を見に来ただけ」


 話から察するにカノン様とやらは、それなりの地位にいる人らしい。


「あぁ……そう」


 なんか疲れた。


 これ以上会話を続ける必要があるのだろうか? 本気で考え始めたその時、女の子(仮称:妖精)が座っているベランダのちょうど対面に当たる場所にあるところから、扉が開く音がする。


「……ノノン。何をしているのかしら」


 その直後に聞こえてきたのは非常に冷たく、淡々とした女の子の声だった。首だけ動かして向き直ると、ノノンと呼ばれた妖精よりも、さらに小さい女の子が立っていた。ノノンにランドセルがぴったりだとすれば、それこそ、幼稚園に通う子供が身に付けているようなスモックが似合いそうなぐらいには。


「あーえーと、空から人が落ちてきたから偵察してこいとカノン様に……」

「なるほど。それで人の家に勝手に上がり込んでいると」

「えっと……うん」

「……そう。まぁいいわ。どうせ、出て行けって言っても出ていかないでしょうし」


 玄関に立っていた幼女は深くため息をついてから、かぶっていた黒の三角帽子を脱いでこちらに歩いてくる。

 ノノンとの会話からして、この家の住民なのだろうが、家主の娘か何かだろうか?


 目の前の幼女について思考をする誠斗のすぐそばまでやってくると、彼女はスモック……もとい。エプロンドレスのポケットから鍵を二つ取り出して誠斗の拘束を解く。


「……ところで、手紙は読んだ?」


 誠斗は首を振る。どちらかと言えば、読めなかったが正しいのかもしれないが。


「……そう。読んでくれたら説明の手間が省けたのだけど……まぁいいわ。まず、あなたの名前は? どうして家に来たの? しかも空から。あぁあと、大胆に登場してもらったところで申し訳ないけれど、弟子入りならお断りよ」


 状況が飲み込みきれないなか、なぜか尋問が始まる。彼女やノノンの口ぶりからして、空から自由落下の後、この家に着地したと言うことぐらいは理解できたのだが……


「えっと、名前は山村誠斗。〇〇県の晴郷村出身で……ここに来たのは……なんというか、単なる事故……かな?」

「私に聞かれても知らないわよ。それに〇〇県という場所も知らないわ。それはどこの領かしら?」

「領?」


 都道府県が通じないということはここは日本ではないのだろうか? 会話がかみ合わないまま、少しの時間が過ぎて、少女は小さくため息をつく。


「スュードコンティナン帝国シャルロ領シャルロの森。この地名に聞き覚えは?」


 少女の質問に対して、誠斗は小さく首を振る。シャルロ領というのはもちろんのこと、スュードコンティナン帝国という国の名前も聞き覚えのないものだ。


「……さて、どうしたものかしらね。統一国という名前だとわかる?」

「いや、まったく」

「うーん。ますます訳が分からなくなってきたわ」


 少女は誠斗が何者かという点について、理解できないのか頭を抱え始める。


「えっと……日本国○○県晴郷村。そこがボクの……」

「日本国? ないでしょ。そんな国」


 日本の出身だといった瞬間、その存在が全否定された。もはや訳が分からない。


「全く。あなたはいったい何者なの?」

「さっきから名乗っていると思うけれど?」


 このままでは埒が明かない。そう思ったその時、ノノンが口をはさむ。


「その人。別の世界線からきているんじゃないかしら?」

「別の世界? 何を言っているの?」


 あまりにも唐突なノノンの発言に少女は眉をひそめる。おそらく、彼女の行っていることが理解しきれていないのだろう。残念ながら誠斗も同様なのだが……


「あなたにはわからないでしょうけれど、理由は単純かつ明快。()()()()()人間は魔法を行使するための魔力(マナ)を体内に有している。マコトはともかく、マーガレットには要らない説明でしょうけれど、この魔力(マナ)は人間のにならずエルフやドワーフといった一部を除く亜人が持つ力であり、その一部の亜人達が魔法を行使するために必要な絶対的根幹……」

「それがどうしたのよ?」

「まだわからない? 存在していないのよ。マコトの体の中には。魔力(マナ)が。つまるところ、彼は魔法が存在しない世界の住民である。そんな結論もあるんじゃないかしら?」


 訳が分からないものがさらに訳が分からなくなった。ノノンの口調が大きく変化していることもそうだし、魔法だの魔力(マナ)だの亜人だの明らかに非現実的な言葉が飛び交っている。


「そんなことあるわけ……」

「……はぁ信じられないなら確かめてみればいいじゃない。大魔法使いなんて言われているあなたならその程度の技術はあるはずでしょう?」

「わかったわよ。そのことについてはこっちで調査するからあなたは帰りなさい」

「はいはーい。それじゃまたねー」


 ノノンの指摘を受けて明らかに機嫌が悪くなった少女はノノンを追い出してから誠斗の方を向く。


「さて、そういうわけだからちょっと付き合ってもらえるかしら?」


 そういうと、彼女は誠斗の頬に手を伸ばした。

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