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一駅目 はじまり

 某県のとある村の山間。

 谷間を縫うようにしてい走る線路を見下ろせるその場所にはたくさんの人が集まり、線路に向けてカメラを向けていた。


 かつて、国鉄の時代に作られたその線路は少し離れた街と盆地に隔離された集落とを結ぶローカル線であり、普段は一両編成の旧型気動車がのんびりと走っているだけの路線である。


 そんな路線を見下ろせるこの高台はどこぞの鉄道雑誌で紹介される程度には有名な撮影スポットであり、今となっては貴重な存在となっている旧型気動車の撮影を目的とした人が訪れることが多いのだが、今日集まっている人たちは目的が少し違う。


「……そろそろ来るんじゃないかな?」


 そんな人々の中に混じっている一人の少年……山村(やまむら)誠斗(まこと)がつぶやく。

 真っ黒で短く切りそろえられた髪と健康的な麦色の肌、おまけに高校生にしては低い背のせいでよく運動部の中学生だという誤解を受ける彼は首から大きな一眼レフのカメラをぶら下げて線路の方を見つめている。


「せっかちだな。まだ前の駅に到着したぐらいだぜ」


 そんな彼の横に立つは誠斗とは対照的に大柄でがっしりとした体形の少年だ。


 海原(うみばる)飛翔(つばさ)は誠斗の同級生であり、手には小さなデジタルカメラが握られている。


 そんな二人……というよりも、この場にいる人たちの目的はこれから通過するある列車だ。

 これからくるものの話をしている二人の眼下で一両編成の列車がカタンカタンという音を立てて通り抜けていく。


 その瞬間に一斉にシャッター音が鳴り響くが、誠斗たちがシャッターを切ることはない。通過した気動車……周りの人たちがキハ40と呼んでいるその列車はこの場に来た人たちにとっては立派な撮影の対象なのだろうが、誠斗たちにとって大切なのはその列車と行き違いをしてからくる次の列車だ。


 しばらくの間、待っていると山の向こうから黒い煙がチラチラと見え始める。


「来た」


 誠斗がつぶやく。

 それと同時に飛翔がカメラを構え、誠斗も線路の方へとカメラを向ける。


 ファインダーを覗いていると、やがてその列車は姿を現す。


 真っ黒な体を持つD51……通称デゴイチと呼ばれいているその機関車は青色と茶色の客車をけん引して、力強く煙を吐きながら通過していく。


 誠斗がその姿を撮影し始めると、周りでもシャッター音がし始める。


 それは列車が通過するまで続き、列車が遠ざかり周りの人々が帰っていった後も誠斗たちは線路を眺めていた。


「すごいな……」

「うん」


 そんな会話を交わした後、二人は広場を出て山を下り始める。


「それにしても、だれがあんなところに広場を作ったんだろうな」

「さぁ? でもおかげですごいもの見れたわけだし。せっかくだったら乗ってみたかったな……」

「仕方ないだろ。抽選が外れたんだから」


 時間はすでに夕刻。

 暗くなり始め山道を二人は会話を交わしながら急ぎ足で歩いていく。


「……んっあれ。なんだ?」


 最初に異変に気が付いたのは飛翔だった。


 飛翔の言葉に反応するような形で誠斗が彼の指さす方を見ると、薄暗い山道で煌々と輝く白い球がこちらに向かってきていた。


 大きさからして、人ひとり簡単に呑み込めそうなそれは徐々に速度を上げながらこっちに向かってきている。


「おいっ! よくわからないけれど逃げるぞ!」


 飛翔が広場の方へ向けて駆け出す。

 その背中を追うような形で誠斗も走り出す。


「ダメだよ。このまま広場に戻っても行き止まりだから!」

「じゃあどうするんだよ!」

「……あそこの看板を過ぎたら右にそれて。けもの道があるから」

「大丈夫なのか? それ」

「大丈夫だから。子供のころからこの山で遊んでたんだ。道ぐらいわかるよ」


 必死に走りながら作戦会議を終えると、飛翔は誠斗の指示通りにけもの道に入る。


 誠斗が光の玉にに飲み込まれたのはその直後だ。


「……飛翔……逃げて……」


 その言葉を最後に誠斗の意識は深い闇に沈んでいった。




 *




 目を覚ました時、誠斗は空を飛んでいた。


 いや、正確に言えば飛行機でも飛んでそうなぐらい高い場所から自由落下を始めていた。といったところだろう。


「何これ! どうなってるの!」


 眼下に広がる森やその周囲を囲む道路、そこから少し離れたところにある街や農地がジオラマのように小さく見える。


 残念なことに空を飛ぶ能力を持たない誠斗は、この先地面にたたきつけられる未来しかないだろう。


「誰か助けてー!」


 それでも叫ばずにはいられない。


 訳の分からない光の玉に追い回され、挙句の果てに訳の分からない場所の上空からパラシュートなしのスカイダイビングである。


 途中で小説から飛び出してきたのではないかと錯覚するほどの真っ赤な羽が生えた超大型トカゲ(つまるところドラゴンなのだが)の近くを通過したが、助けてもらえるような気配はない。


 眼下の家が米粒大から拳大になったあたりで、誠斗は再び意識を手放した。




 *




 スュードコンティナン帝国北部。

 旧妖精国。別名で人類最後のフロンティアとかなんとかいわれている土地の南の端の方にある森の中。


 その森の奥の奥に一軒のツリーハウスがあった。


 周囲に比べれば高い木の太い枝の上に作られたその家の中で一人の少女がバタバタと身支度を整えていた。


 水色で肩ぐらいまで伸ばされた髪は緩くウェーブがかかっていて、背は小学生はおろか、幼稚園児ではないかと見まごう程の低さ、肌は病的なまでに白い。そんな彼女は黒を基調としたエプロンドレスに身を包み、衣服の山から引っ張り出した黒い帽子をかぶる。


 その恰好のまま鏡の前に向かうと、鏡を見ながら一回転して見せる。


「うん。今日も決まってるわね」


 自らの服装に満足した彼女はそのまま机の上に置いてあった薬瓶入りのカゴを持つと、そのまま出かけようとする。


 異変が起きたのはその直後だ。


 バキバキと枝が折れるような音がして、続いてドスンという重い音がする。


 その音に驚いて振り向くと、一人の少年がベランダに倒れていた。


「えっ? あれ? どういうこと?」


 訳が分からない。

 この少年はどこから落ちてきたのだろうか? 住んでいる自分が言うのもなんだが、この場所は普通の人間が気軽に足を踏み入れるような土地ではない。


 マーガレットがここに住んでいるのは、マーガレットがいわゆる一般人ではないからであり、この森で暮らすのに適しているからこうして住居(手作り)を構えているのである。


 それなのに上から人が降ってくるというのはどういう状況なのだろうか?


「あのー大丈夫?」


 声をかけながら、恐る恐る少年に近づく。


 血は流れていない。腹が上下に動いているあたり呼吸もあるだろう。どの程度の高さから落ちたか知らないが、見たところ気を失っているだけでけがはなさそうだ。


「……困ったわね。あいつとの約束もあるから出かけないとだけど、放っておくわけにもいかないし……新手の盗人だって可能性もないことはないわね……」


 仮にこの少年が屋根の上にいたとしたら、家主にして唯一の住民であるマーガレットが出かけるのを今か今かと待ち構えていた泥棒である可能性も捨てきれない。だからといって、(なぜ無傷なのかは別として)何かしらの事故で偶然この場所に落ちてきたのなら、外の放り出してしまうのは少々かわいそうだろう。


「……はぁもし泥棒じゃなかったらごめんなさい」


 結局、ある人物との約束の時間が迫っているマーガレットがとった選択は少年の手足を縛り、彼が見える位置に置手紙を置くというものだった。これだったら、盗人だった場合でも家のものをとられる心配をしなくてもいい。もっとも、ただの事故で迷い込んだただの一般人だった場合でも、むやみに森に入って迷子になるということはなくなるだろう。


 マーガレットは自分の対応は完ぺきだと勝手に満足して少年を置いたまま家を出る。


「約束の時間に遅れてしまう」


 そんなことをつぶやいて、彼女は森の中へと消えていった。

 お読みいただきありがとうございます。


 この作品は以前投稿していた「異世界鉄道株式会社」のリメイクとなっています。早い話、設定の矛盾等が多くなってきたので作り直しです。


 リメイクとは言いつつも、前の「異世界鉄道株式会社」とは少し違う展開を予定しています。


 これからもよろしくお願いします。

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