5
たどり着いたのは最後の間だ。ラッポくんが悪いやつを倒して大きく喜ぶ場所。それがこんな悲惨な場所になっているなんて昔では考えもしなかった。
ここは全ての道の合流地点。そして、奥の扉を出ればすぐに出口だ。
オレは、奥の扉から丸い月が顔を出しているのが見えた。きっとすぐに外に出れる。
しかし、後の2人をほっとけるだろうか?
目の前にある下り階段。全ての扉から引きずった後のような血痕がその先へと繋がっている。まだ、2人は生きているのだろうか……。
そして、香苗は……。
意を決して階段を下る。アイツに気づかれないように。ゆっくりと、ゆっくりと……。
どんどん生臭くなっていく。今まで通ってきた中では段違いだ。襲い来る吐き気を我慢しながら、どんどん降りていく。
光が見えた。思わずライトを消す。きっとここに奴がいる。
中は思った以上に広かった。牢獄のようなコンクリート丸出しの壁と床。ちょっとずつ区切られていてそれぞれの部屋におぞましい拷問器具が並べられていた。
その一角だ。異様な光景が広がっているのは。
「嫌だ嫌だいやだいやだムリムリムリムリぃぃいい!!」
人の形をした木に両肩を五寸釘で打ちつけられている愛香。その右腕に付けられた手錠は鎖にゆっくりと引っ張られている。
鎖は真横に伸び滑車を経て天井へ。さらに滑車から下り、その先には龍太がいた。鎖が龍太の脇の下にある切れ味の鈍そうな刃物をに繋がっていて、すでに下から挙げられてそれが右腕を床に落していた。左腕は半分抉れているが辛うじてあるようだ。
しかし、その刃物に重りを乗せていくヤツがいる。そう、あの男だ。何個目だろう。既に数え切れない数だ。
「やだ!! ちぎれちゃう! やめて!」
彼女の左手の鎖は微かにたわんでいた。
龍太は右腕の喪失のせいか気を失っている。
助けられるのか? そんな思考をさせないような状況だった。
「やだやだやだやめてやめてやめて!!」
またひとつ乗せた時だった。ゴキゴキという音と共に彼女の腕が引きちぎれたのは。
「ひぎぃぃぃ!!」
彼女は泡を吹いて気を失った。それと共に流れ出る尿が木を濡らした。
助けられるのか? そんな考え、もう捨てていた。
逃げよう。そうやって視線をふたりからそらした瞬間だった。
「…………!!?」
鉄の人形に囚われているのは間違いなく、
「香苗!?」
急いで口を閉ざした。
聞こえたか?
奴に視線を向ける。その瞬間、龍太の頭が潰された。
そして、ゆっくりとこっちを向いた。
━━━━殺される━━━━
しかし、逃げるわけには行かなかった。まだ、香苗が生きているから。
こうなりゃやけだ。
鉄人形に駆け寄る。どうやれば外せるんだこれは?
六角レンチだらけの人形に鍵穴なんて見つからない。
どうすればいい?
そう思った瞬間に背後に影ができた。
オレはナイフを取り出し、アイツ首元に突き刺してやる。
思った以上に上手くいった。これで、コイツの足を封じることが出来る。
そんな簡単な話ではなかった。
ナイフは容易に抜かれた。そして、易々と捨てられたそれに恐怖しか覚えなかった。
「なんでだよ!!」
振り下ろされる鉄拳を辛うじて避ける。その先にあったのは五寸釘。それを手にするとすぐにヤツの首を狙う。
そう何度も上手くは行かない。腕ごと止められ、お返しにとばかりに横っ腹を殴られる。そのまま、トロイの木馬にぶつかる。
「くそっぉ」
起き上がり、次の手を考える。そんな暇与えてくれなかった。
どこからか出してきた愛用の斧を振り下ろす。目の前にあった丸太を前に出すと、それに刃を取られ抜くことが出来なくなった。
チャンスとばかりにまた香苗の所へよる。
「あった!」
鍵穴だ。それを外すには……。周りを見回す。地面にもどこにもないなら、あるのは……。
オレは龍太に寄った。念の為、確認しておきたかった。
「そうか……」
いけそうだ。さっきを感じて振り返る。するとやつがいた。斧を振り下ろす。それを避けると龍太の左腕が切断された。
「すまん……」
そう思いながら愛香の右腕を取り、引っ張りながらヤツの後ろをとる。
「このくそやろう! これでもくらえ!!」
背中を蹴り飛ばすと同時に持っている腕を引っ張る。すると滑車の力で刃物が勢いよく上がる。
それがヤツの頭をとらえた。
骨の砕ける音がした。腕を離すとやつはその場に倒れた。
「よっしゃ!!」
これがアドレナリンというやつか。興奮しすぎて気持ち悪かった。
「こんな場所、早く出よう」
ヤツの体をまさぐる。小さな鍵はすぐに見つかった。
それを奪い、愛香に近寄った。
「……くそっ」
既に死んでいた。彼女から出る糞尿の臭いはまさにそれを意味していた。
「ごめんな……」
2人に手を合わせて、香苗を助けに行った。
鉄人形から解放する。彼女は奇跡的に生きていた。息もある、心臓も動いてる。これを奇跡以外の何があるのか。
彼女を背負い、階段を上り、外に出る。
そして、急いで車まで戻り彼女を後ろに乗せてすぐに発車した。
逃げられた……。助かったんだ。
ほっとする気持ちと、無残な結果に複雑な感情を抱いた。
これから警察に向かう。そして、今あったことを洗いざらい話すんだ。それが、あのふたりに対しての報いになるはずだと。
街頭のない道を進んで行く。生を実感して、復讐心に魂を燃やして。
オレは行く。元の世界へ。
「ざーーんねーーん。ゲーム失敗です!」
その声は、後部座席から聞こえた。ルームミラーで確認すると、彼女が満面の笑みでこっちを見ていた。
「実は……、━━━━私ガ、ラッポ君ナンダヨ」
次の瞬間、車がなにかに追突した。
急に止められた車の前方を見ると、ヤツがそこに立っていた。
お読みいただきありがとうございました。
かなり駆け足で書いたのでちょっと手荒かも知れませんが、どうでしたでしょうか。
個人的には吐き気を催していますが。
またお会いする時がありましたら、そのときもぜひともお読みください。