2
なぜ2階に逃げたのか……。地下を探すなら1階からって自分で言ってたのに。
荒い息を整えながら階段登って直ぐの扉に入って自分を叱咤した。
体力に自信が無い自分にとって階段を上ることは自殺行為にも思えたが、逆にあの大男が追ってこないであろう方向でもあった。案の定、扉を背もたれにして余裕をかませているのはそういうことだ。
ただ心配なのは、やつが愛香を狙って行ったということだ。扉を入る前に確認した時点では、入口から右側の扉に愛香が入り、それを追っていったのを確認した。足の早い龍太は反対の扉へ走っていくのを見ていたから、どうやらオレたちは有言実行する気は無いらしかった。
ここで、オレに選択肢が襲う。
〇このまま2階を散策する。
〇龍太と合流する。
〇愛香を助けに行く。
さて、どうしたものか。確実に1階から調べるのが定石だが、男として愛香をほっておくのもどうかと思う。ただ、危険なのは間違いない。
あの男があの噂の主であるならば、捕まったら拷問だ。いや、その表現は生温いか。━━死ぬ。逆に危険だということを言いに来た人なら……、そんな人こんな所にいないか。
なにがあるかわからないけど、やっぱりほっておくことができない。
オレは踵を返し扉を引いた。
「……あれ?」
開かない。間違いなく押して入ったのに……。力いっぱい引いても、押してもうんともすんとも言わない。
「くそっ!」
ゲームみたいな選択肢なんてないのか。まるで運命が決まっているように。
仕方ない、2階を探そう。オレはまた振り返り、ライトで周りを確認した。
どうやら廊下のようだ。そこまで長くないが特に何かがある場所でもない。危険なものがないか確認してゆっくり進んでいく。
突き当りには扉があった。何の変哲もない、大扉。
「こういうの開けるの嫌なんだよなぁ……」
中から急に何かが飛んできたり、開けた瞬間爆発したり、待ち伏せしていたやつが襲ってきたり……。
ライトを口に咥え、ナイフを握る。……こうなりゃやけだ!
一気に開ける。中に足を踏み入れると脚部が激しく揺れる。なんだと思って見回せば、この部屋の異様さに足がすくんだ。
鍋の底が焦げて汚れたように、部屋には血が満遍なくこびり付いていた。周りにはひとりだけではない人の四肢が無惨に転がり、部屋の中央にはラッポくん。気味悪く笑うその手には……。
「なんだこりゃ……」
誰のものかわからない。……。
「うぇっ……、おぅぇっ!!」
生首があった。日にちが経っているのかほとんど腐っていて誰だかわからない。酷い異臭と相まって衝動的に嗚咽する。
その時に携帯がバイブルしているのがわかった。やっと嗚咽を我慢出来るとまだ呼び出している携帯のボタンを押した。
「……もしもし」
「大丈夫か?」
龍太の声。向こうも何かあったようで咳き込んでいた。
「大丈夫じゃないね。物凄い歓迎だよ」
「そっちもか……。愛香は大丈夫かなぁ?」
女々しく問う彼にオレはライトを拾った。周りを見回せばこの空間のより異様さが明確になってきた。
「とりあえず今は信じよう。それより、早く合流しないとな」
「合流ねぇ。確か最終地点……、ラッポくんが悪い奴を倒す場所はそれぞれから行けるはずだから、そこで合流だな」
「そうだな。愛香から連絡あったら伝えよう」
「あぁ……。あっ、あと、」
何かを躊躇って口を閉ざした瞬間に聞こえた恐怖心を煽る口笛。重苦しく差し迫っているそれに少なからず彼の危険を察した。
「愛香から連絡あったら言っといてくれ。……愛してるって」
「おい! なにバカなことっ……」
既に通話は切られていた。虚しい音が耳元で鳴り響く。肩を落とす。いつもより重く感じる携帯も……、
「通話できた……?」
一筋の希望? それともメシアの救い?
なんでもいい、ここは電波が繋がる! オレは携帯の画面を点け電波が間違いなく通っていることを確認する。
「助けを……」
110。ここから逃げるための手段。素早くコールして無駄に長引く音に焦燥感と希望を高まらせる。
何コール目だろう。その音と共に途切れたのは。
「もしもし! たすけてください!」
心からの叫びが届いて欲しかった。どんなに嘘でも、誰かに繋がって欲しかった。それで救われたかった。
「やっほーー! ラッポくんでーす! 警察だと思った? ぷぷぷっ。ざーんねーーんでしたーー。こちらは特別室直通の電話番号です! 逆探知により君の居場所がわかりましたー! 今から迎えにいくね!」
耳障りな電子音。急転直下の絶望感。
逃げなきゃ……。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
走り出す。真反対に確認した扉めがけて……。




