其の壱 達成と裏切り
ー五年前ー
ここ魔族の王の住む魔王城の最深部、つまり魔王のいる場所で聞こえるはずもない破壊音が鳴り響いた。
ヒト族の勇者と呼ばれる四人が魔王軍幹部を全員討ち、遂に魔王《ホロニア=コロニクス》のもとにたどり着いたのだ。
最深部の大部屋は既に大破しており、勇者達と魔王の闘いの激しさを#彷彿__ほうふつ__#させる……。
魔王と勇者達の闘いはまだ続いていて魔王の強力な魔法と【心器】という武器を使って戦う勇者達の技がぶつかり合う度に周囲を消し飛ばす。
……闘いはまだ続くだろう。
しかし、互いの実力はほぼ互角、勇者達も魔王もボロボロだ。
「……ここまでやるとは正直思ってなかったぞ、勇者達よ……。」
すると魔王は急に余裕を感じさせる態度で話し出した。
この態度には勇者達も怪訝な態度をみせる。
「どういうことだ?その言い方だと俺たちがお前にもう負けるみたいに聞こえるぞ。」
「そう言ったのだ……我は魔族のなかでも魔力量は一際多くてな、通常命をかけて使う技を瀕死で済ませることが出来る。いわば我の最終奥義のようなものだ………楽しかったぞ勇者達よ!」
「「「!!!」」」
「【#破壊の哀歌__バーストレクイエム__#】!!!」
技名が叫ばれると同時に魔王からとてつもない威力の衝撃波が前方に放たれる。
……魔王の目の前の景色は見渡す限りの平地となった。
魔王は反動で壊れた体と共にそこへ崩れ落ちた。
そして、自らの勝利を確信すると高笑う……。
「……フハハハハッ!やはり我は最強だ!このホロニアに敵う者などいないのだ!」
「……そこに這いつくばる愚かな蟲よ!何故勝ち誇っているのだ!貴様の敗北は確定したというのに……」
「……なっ!?」
黒い霧のようなものの中から人影が現れる。
魔王の背後にいるのは四人の勇者。
それに、ボロボロの勇者の中に、一人無傷の勇者がいる。
魔王は戸惑いを隠しきれないといった様相だったが、すぐに理解し、諦めたように微笑んだ。
「……そうか、《仮面の勇者》。我が戦っていたのは剣、杖、鞭だけだったのだな……。」
「今さら理解したところで遅いぞ魔王よ……貴様は確かに強かったが、俺からすれば幻のなかで踊るピエロにしか見えなかった……残念だがここで逝け。」
「おい!そこの厨二病野郎!見せ場全部持っていくんじゃねえよ!……確かにお前の【幻術】には助けられたけどな、お前がそな最高級の幻術を練れたのは時間稼いだ俺らのお陰なんだからな!」
「なっ!……ちゅ、厨二病だと!この俺が!?」
魔王が奥義を撃ったのは仮面の勇者が練り上げた幻術だった。
他の三人の勇者が稼いだ時間で全力の幻術を練り、奥義を撃つ直前に魔王を幻術の中にはめたのだ。
そして、勇者達は背後に回り込んでいる時に魔王は自滅した。
勝ち誇り、仮面の勇者が気持ち良さそうに台詞を言っていると、一番ボロボロの剣の勇者が文句を言う。
すると、女性陣二人も続く。
「こんなに私達は頑張ったのにローテルは傷一つないなんて不平等だよ……という事でローテル帰ったらリンチね。」
「ひいい!」
「そうですよ!この厨二病勇者!さっきの黒い霧は何ですか!趣味でしょ!どれだけ余裕かましてるんですか!」
「はいいいっ!」
いつも平然と怖いことを言う杖の勇者はともかく温厚な鞭の勇者にまで怒りをぶつけられ、ローテルはすっかり縮こまってしまった。
「……フフフ。愉快な奴等だな貴様らは……。」
魔王は笑いながら呆れたように呟く。
そしてこう続けた。
「だが、貴様らはまだまだ青い。希望に満ちすぎている。
……いずれ絶望するときも来るだろう。
そして気づくだろうな、『欲』というものの恐ろしさに……。」
そして魔王は力尽きた。
勇者達は複雑な表情を浮かべるも、自分達が遂に目標を成し遂げたことに気付き歓喜した。
「魔王を倒したぞおおおおあお!!!」
そして報告のため彼らは王都へ帰ることにした。
といってもワープが使える以上、数秒とかからないのだが……。
ー王都 リコトー
ワープで帰った、四人の勇者達は大歓声の中に迎え入れられ、国王から褒め称えられ………なかった。
彼らのワープした場所は王宮兵士で囲まれ、ヒトの国の右大臣がいた。
そして太った腹をさらに突き出して言い放った。
「お疲れ様、勇者諸君。まずは功績を称えて拍手を送ろう。」
「ドトーリオさん?どうしてここに?」
「………でも、正直お前らは用済みだ。これからのより良い国のために死んでくれ。
そうしたら手柄はお前らを派遣した俺のものになり………俺は王になる。」
「……話が見えて来ないのですが?」
「……まあ心配するな、相討ちってことにしてお前らのことは語り継いでやる。
……勇者達は弱っている!総員かかれ!」
兵士達は一斉に勇者に襲いかかった。