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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
97/169

中州街出発

96


リースは一度部屋へ戻り、リザの様子を窺ってから魔道具店へ向かう事にした。


今朝は早くに妖精界へ行ったとアリエルから聞かされていたので、無事ではいるようだ。


部屋へ入るとキャスは両手で小さな肉を持ち、美味しそうに食べていた。


「キャス?その肉どうしたの?」

「やらないよ~。プクククッ♪」

「…はぁ。リザは?」


相変わらずなキャスに溜息をつくリース。直後ケージランタンの中に何の前触れもなく影が差す。よく見ていたつもりだったが、リザは音もなく影の上に現れていた。


どうやって移動しているのか聞いても、なぜ教えなければならないと睨まれる。そして抱えていた果実を見せつけるようにどこかへ消して見せた。


「もぅ…私達は魔道具店に行くけど、どうする?」

「いくいく~♪さっさと運べ~!」

「丁寧に運びなさいよ?私に借りがあるでしょ?」

「ぐっ!うぅ…」


怒りを鎮めいつも通りランタンを背負おうとするが、ピクシー達は前が見えないと騒ぎ立て、両手で抱えて運ばなければならなくなった。


対等のはずがこき使われて涙目になる。部屋の入り口で待っていたカーマインには呆れられた。


「従魔の扱いはしっかりしろ。寝首を掻かれるぞ」

「…いえ、いいんです」

「リースは優しいな。よし、私が抱っこしてやろう」

「えぇ!?やっやめてください!」


抱き上げようとするフラウを振り払うと、ランタンの中から小さな肉片が転がり落ち、折り重なったリザ達が怒鳴る。


(う~!もういやっ!)


オリヴィア達の忍び笑いに気付いたリースは、恥ずかしさに顔を伏せ、緩やかに曲がって続く廊下を駆け出す。


「うおっと!?いきなり胸に飛び込んでくるなんて、君も大胆だね。けどもう二、三年してからまたおいで」


向かいから来ていたジェスターにぶつかってしまい受け止められると、一瞬にして耳まで赤くなり後ずさった。

するとフラウは背後からリースを抱き寄せ、カーマインがジェスターの胸ぐらを掴むと窓まで引っ張っていく。


「まてまてまて!?この高さは洒落にならないぞ!」

「リースに手を出したら灰にするぞ?」


ジェスターの後から西風のメンバーが現れる。ゴライオは軽く手を上げて挨拶すると、朝食後に伯爵家に雇われた事を話した。


「魔法王国へ帰国するまでな。本当はここで新年を迎えようかと思っていたが…」

「なぜかレインが伯爵家の坊っちゃんと意気投合しちゃってね。勝手に依頼を受けちゃったのよ」

「そうか…いや、お前達が同行してくれるなら安心だ」

「もう出発するの?まだ鐘二つよ?」


カーマインが躊躇っているとアリエルが答えてしまい、アーシェはニンマリと笑って、ついていくと言った。




ゴライオは巨大魚の鑑定が終わる頃だと言って冒険者ギルドへ向かい、リース達とアーシェにレインが昇降機前へ着くと、シャルロット達が受付嬢と話をしていた。


「昇降機を使って浴場の資材を運んでいるそうです。階段で行きましょう」


道中エルフを含む大所帯がぞろぞろと移動するのには問題があった。


三階の一般宿は日中という事もあり人は少なかったが、二階の商店が所狭しと並ぶ通りでは、品物の出し入れや出掛ける前の準備に立ち寄った冒険者達で溢れ返っていて、女性陣が頻繁に絡まれた。


その度にミリアンが蹴散らしていたので周辺の人の、特に男からの印象は悪い。


「まぁ男の敵が多いのは今に始まった事ではないですし、気になりませんよ」


爽やかに言い切るミリアンにリース達は苦笑いした。




トワンの魔道具店まで来るとより道は狭くなり、オリヴィア達は気を利かせて通路の入り口で待つと言った。


「おじさ~ん!来ましたよ~?」

「――おぉ!パメラちゃん!無事で良かった!もし何かあったら…あっ、いや失礼しました。皆さんようこそ」


トワンは狭い通路からより狭い店内に招こうとするが、とてもじゃないが入れないので、パメラとリースが先に入った。


「いやぁすまなかったね。最近泥棒に入られて、魔道具を幾つかと書類を持っていかれたんだよ。まさかこんな事になるとは…」

「おじさんは悪くないですよ」


それでもお詫びに何か欲しい物があれば譲ると言い、リースは駄目にしてしまった外套の事を話した。

するとトワンは奥へ向かい、二着の透明な外套を持ってきた。


「これは魔法王国でも珍しい外套でね。水棲魔獣の皮膜を錬金術で加工したものなんだ。雨風を一切受け付けず驚くほど軽い。それに…試しに着てみなさい」


渡された透明な外套はフードまで含めて継ぎ目がない一枚物で、羽根のように軽かった。

それを纏うと外套は首元の紐を残して霞んで消えてしまった。


「これどうなってるんですか!?」

「その外套はね、魔法の効果が現れると非物質化して、雨風を遮る透明な膜を展開するんだ。脱ぐ時は首の紐を外せば現れるよ」

「すご~い!本当にいいのですか?」

「もちろんいいとも…あ!それと…」


トワンはなぜか外の様子を気にしながら顔を近づけ、内緒話をするように話す。


「うちに魔道具を卸してくれている魔導技術者からも、お詫びの品を預かってるよ」

「え?誰です?」

「おや?知らない?彼は君達を招いた際に飲み物の一つも出さなかった事を謝っていたよ?客など滅多に来ないから忘れていたと」

「え!?…う、う~ん…」


二人とも覚えがなかったが、トワンは脇の棚から二つの箱を取り出して中身を見せる。中には同じ作りで色違いの花柄水筒が入っていた。


「こっこれは…」

「ん?これは魔道具の水筒だよ。同じ物が店にもあるが君達用に作ったようだね」


水筒は見た目以上に容量があると聞いて有り難く受け取るが、パメラと目が合うとお互いに同じ事を考えているとわかった。


「可愛い水筒ですね。お爺さんが小さな孫に贈る水筒みたい」


シャルロットが後ろから覗き込み、感想を述べると同感だとリース達は頷く。しかしトワンはその魔導技術者はまだ若い青年だったと話し、まったく覚えがない相手に困惑した。


と、リース達がいる店の奥から物音がして、トワンは賊を疑い慎重に歩み寄っていく。しかし奥から現れたのはピクシー達で、ゆらゆらと危なっかしく飛んで何かを運んで来た。


「あー!?また勝手に!」

「そ、それは…」


トワンはピクシー達が抱きつくようにして運んでいるものを見ると、しまったというような顔をした。


トワンの魔道具店は日用品を入り口に転がし、中程にパメラの実家の商会から仕入れた品を並べている。


奥には塔に出入りする魔導技術者から買い取った魔道具や、冒険者達が迷宮や遺跡から回収してきた魔道具など、貴重品が置いてあった。


リザ達は材質不明の梟の人形を持ってきて、これを貰うと当然のように言った。


「だめよ!返しなさい!」

「私も助けにいったのよ?その娘が魔獣相手に魔法を唱えている間、時間を稼いであげたんだから」

「パメラちゃんが!?魔獣と戦ったのかい?なんて無茶を…わかったよ。それはあげよう」


リザ達はとても喜んだが、ケージランタンの口に対して梟は大き過ぎて入らなかった。


リースはその人形が何か気になり、質問しかかるとリザに睨まれて、慌ててエルゥスィスの本を使って調べた。


梟の人形は古代の子供向けの魔道具で、魔力を流すと羽ばたいて飛ぶようで、飛行するような魔道具は目が飛び出るほど高いとリースでも知っていた。


とても貴重な品にパメラと話すトワンの様子を窺うと、魔法王国の研究所に送る予定で、連絡もついさっき魔法の便箋を使って済ませてしまったと、ひきつった笑顔を見せた。


梟の人形はどうやったのかランタンの中に収まっていて、リザ達は狭いと言いながらも笑いながら中へ戻っていく。これ以上は迷惑になると蓋を押さえたリースは店を後にした。




外へ出ると、代わりにカーマインの背中を押して入っていくアーシェとすれ違う。背後からはすぐにも言い争う二人の声がした。


店のガラス壁前には少し眠そうな目をしたフラウがいて、リースに気付くと手招きする。


「何を貰ったの?」

「雨具の外套と魔道具の水筒です。実はフラウさんから貰った魔法の外套を駄目にしてしまいました。ごめんなさい」

「知ってる。気にしなくていいよ。道具など替えが効くが人は違う。どんなに大切な物でも迷わないように」

「はい!」


元気よく返事をして辺りを見渡すと、オリヴィア達に加えてミリアンまでいなかった。


「馬車の準備に向かってもらいました。テオルドからの報告で、渡し舟が不足しているらしく出発を早めます」


ササネは指輪をした手を耳に当てていて、隠密部隊と念話による連絡をとっているようだ。


「カーマイン達が戻ったら、すぐ部屋に引き返し出ぱ――」

「お風呂…入りたかったな…」


ぽつりと呟いたフラウに困った顔をするアリエル。また子供っぽくなっているフラウに溜息をつき、帰りに一緒に入ると約束して機嫌をとった。




カーマイン達は暫くして出てきたが、予想通り機嫌が悪い。

しかしアーシェの肩には小振りの弓矢があり、一応は買ってもらえたようだ。


「貴族で魔導師級のくせに…ケチくさい女」

「なんだと?お前こそ半分でもエルフの血が入ってるなら、なんでそんなに欲深いんだ?」


店先でも言い争う二人に、アリエルとレインが引き離して連れていく。トワンに別れを伝えた後は、急ぎ部屋へ引き返した。




塔の外、周囲をぐるっと囲む厩舎に向かうと、ルヴァルと片腕のデリックが待っていた。


「腕を治せると聞いたが…神聖――」

「悪いが詮索はなしで頼む」


アリエルが遮り、フラウは軽く手を翳した。

デリックの右肘から先はゆっくりと再生されていき、驚愕するルヴァル達を余所にあっさりと完治した。


通常ではありえない速さの回復だが、デリックは元通りになった腕の方が気になるのか、震える左手で恐る恐る右手を触り、目に涙を浮かべている。


「…能力の限界を感じて自棄になったか?」

「っ!?」

「限界などない。そんなものは努力を怠り培ってきた経験を忘れた者の言い訳だ」


フラウはそう言うとリースを連れて馬車に乗り込む。

デリックは暫く地面を見つめていた。




千花の馬車を先頭に二台の高級馬車が渡し場へ向かう。

フラウ達の馬車の後に続く公爵家の馬車は、白を基調とした質素な馬車で、細かい細工が施してあるだけだった。

御者席にはササネがおり、馬車と並走する馬上のミリアンは、街の通りを行く女性達から黄色い声を受けている。


逆にルヴァルが乗る伯爵家の馬車は、黒を基調とした馬車で金の縁取りがしてある。扉や馬車の先端には伯爵家の紋章の、渦巻く風に雷が大地を割る意匠が付いていた。


御者をするビンスは右頬が腫ていて、隣りに座ったロランは腕を組んで睨み付けている。騎乗し並走するデリックは難しい顔をしていて、折れ曲がった斧槍を見つめていた。


出発までに馬車を用意できなかった西風は、オリヴィア達のように徒歩でついていくが、早くもアーシェがぐずりだしていた。


「しょうがないだろ?中州街に来る奴は大抵馬車か歩きで、ここで馬車を求める奴はいないんだってさ」

「西なら妖精里。東なら枯れ山を越えた先の自由民国の山野村で作ってるそうだ」

「なんであいつは馬車に乗ってるのよ!やだぁ~!疲れたぁ~!」


すると隣のレインは無言で神聖魔法を使い、アーシェに疲労回復と身体強化を施す。


「あっ!いっいいよ。大丈夫だから」

「レイン甘やかすなよ~?」




渡し場では先行していたテオルド達が舟を調達していて、すぐにも一台ずつ積載して大川を越えていく。その間も多数の渡し舟が行き交い、人や素材を運んでいた。


川向かいの渡し場では警備軍の兵士や冒険者達、商人までいて、さながら小さな村のようになっている。

外れでは寄ってきた魔獣がやる気の無さそうな兵士に追い返されるか、人が増えて気が強くなった冒険者達によって倒され、次から次に素材が積まれていく。

ヒドラはだいぶ小さくはなっていたが、解体人は猛毒持ち相手で慎重になり、時間がかかっていた。


アリエル達は前から担がれてくる街の代表を一瞥し、そのまま東の開けた場所で後続を待った。


ミリアンはニコニコしていて、到着すると代表の様子を話す。


「いやはやまさか本当に痛い目をみるなんて。私は呪いなんて掛けていませんよ?」

「ヒドラの毒液に触れたようだな。解体人に任せておけばいいものを」


アリエルの視線の先では解体人達が零れ出した毒液に避難を呼び掛けていた。


「でもさすがに死なれても困ります。あの男は魔法王国と繋がる者です。再び帝国や神聖教国と代表の座を争う裏工作が始まれば、街が荒れてしまいます」


ササネは首を振り、以前滞在していた時の不穏な街の様子を思い返していた。




伯爵家の馬車も無事に渡り終え、北に岩場と南に湿地がある平野を東へ進む。


腐敗湿地からは嫌な匂いがしていて、遠くには泥々な魔獣の姿があった。

元は森だったとアリエルは寂しそうに呟き、大陸南部には黒森、塩森、骸森、腐森の四つの危険な森があったという。

危険な森であっても森が消えてなくなる事に心を痛めているエルフ達を見て、森の民らしいとリースは思った。


向かう東の先には禿げ上がった山があり、その先が自由民国だとササネが指差す。山の麓にずい道と、北側に川と峠があるらしい。


鐘四つ。お昼になる頃、北寄りに進むリース達は大きな樹木が壁のように並び立つ、世界樹の森に辿り着く。森の前では白銀の軽鎧を着た、エルフの戦士団に出迎えられた。

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