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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
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中州街後日談

95


「―――、――ス」


誰かの呼び声に、ひどく気怠いリースは身をよじって逃れようとする。だが肩を掴まれているらしく、寝返りを断念してゆっくりと覚醒していった。


「リース?目を覚ませ」

「…ふぇ?」


うっすら目を開けると、横から心配そうに覗き込んでくるカーマインがいた。


「…カーマインさん?」

「大丈夫か?どこか痛かったり苦しかったりするか?」


ボーッとする頭を懸命に働かせて、眠る前の事を思い出そうとするも、記憶は曖昧で徐々に不安が強くなる。


「え?…私」

「目覚めましたか?」


足元の方からシャルロットの声がして、カーマインに支えられながら身体を起こす。そこは昨夜も泊まった高級宿で、フラウが眠るベッドの隣りに寝かされていた。


部屋の隅にはうっすら覚えのある隠密部隊の三人が集まっており、やはり心配そうに様子を窺ってくる。


「シャルロット…!?パメラは?あれ?私どうして?」

「落ち着け…いいか?お前達は迷宮路で保護されてから、階段を上がる途中で気を失ったんだ」


フラウとは反対側のベッドにパメラが寝かされていて、周りにはアリエルを始め、討伐に出ていた三人も揃っていた。


「え?気を?…私、私はパメラを助けに行って、それで…?」

「とりあえず水だ。ゆっくり飲め」


ガラスの杯に入った水をアリエルから渡されて乾いた唇を潤す。喉が乾いていた様で、お代わりを何度も貰い、しばらく部屋にはリースが水を飲む音だけがした。


人心地つくと、部屋の入口から覗いているオリヴィア達に気付く。


「オリヴィアさん!?無事だった…耳が!?」

「私は大丈夫よ。それより今はあなたの方が心配です」


よく見ればオリヴィアは左耳を失っていて、背後の二人も傷痕が痛々しい。しかし先程から違和感を覚えて落ち着かないリースは、カーマインに向き直って問いかけると、思いがけない事を逆に問い返された。


「…リース。お前はどうやって迷宮を抜けて来た?」

「え?どうやってって…!?」


必死に記憶を辿るも霞がかかったように不明瞭で、誰かの影がちらつくが思い出せない。


「だ、誰か…誰かと一緒でした」


額に汗をかきつつ答えたリースに、その場の全員が息を飲む。確認の為に向けられたシャルロットの視線を受けて、隠密部隊の三人は困惑した表情で首を振る。


「アリエル、やはりいたぞ」

「あぁ、聖霊様に報告しなくては…」


丁度目を覚ましたパメラも同じく記憶が混濁している様子で、カーマインはゆっくりと話し始める。


「お前達はギルドから迷宮路へ繋がる直通階段で彼らに発見された…おかしいと思わないか?凶悪な魔法使いに拐われたパメラを助けに行ったお前はたったの鐘三つ、僅か六時間で無事連れ帰った。ろくに戦えもしない少女が魔法使いを倒し、罠が無数に張り巡らされ、武装した魔物や高ランクの魔獣が蔓延る迷宮を迷うことなく帰って来た?」


カーマインは話していて熱が入ったのだろう、だんだん早口になり、聞いていたリース達は目を見開いて驚いた。

彼女の話している事は第三者の協力なしには不可能だが、リース達は覚えていない。

深呼吸をして落ち着こうとするカーマインに代わり、アリエルが紙を見せてくる。


「これに見覚えは?」

「あっ!あります!」

「それは…!?」

「「ナナシンさん!?」


リースとパメラは顔を見合わせ同時に言うと、僅かに頭がスッキリした。


「私、地下水路まで落ちて…リザ?リザは!?」

「寝ている。だいぶ疲れているようだ」

「…蝙蝠に襲われてリザに助けてもらったんです。それから先に進んで…広間に出たらナナシンさんに会いました」

「…ナナシンと言うのはどんな奴だった?」


そう問われても姿がよく思い出せず、パメラは不安から泣き出してしまった。

シャルロットと抱き合い背中を擦られている横で、リースはアリエルに渡された紙をじっと見入る。


「思い出せない。どうして…」

「恐らく記憶操作を受けたのだろう。そのナナシンという者の助力を得てパメラを救出し、迷宮路まで上がったのだな?」


頷くリースは迷宮での出来事を順を追って話した。

その途中、炎を使った場面を思い出すと全身の血の気が引き、急に激しく震え始める。


「あっ…わっ私、魔法を…ひっ火が!いやぁー!」

「――!?リース!もういい!思い出すな!落ち着け!」


火を消そうとでもするかのように、両腕を叩き始めたリースを、カーマイン達が慌てて取り押さえる。

突然の出来事にパメラは呆然とし、シャルロットも硬直したまま見つめていた。


「アリエル見てやってくれ!」

「あぁ…気を失っている」


場所を交代したカーマインは怒りに顔を歪ませ、テーブルを叩く。


「くそっ!」

「…リースさんはどうしてしまったんですか?」


怯えを含んだシャルロットの問いに、カーマインは拳を握るだけで答えない。代わりにアリエルが以前聞いた話を伝える。リースの腕は強く叩いたせいで青アザになり、アリエルは痛々しそうに触れて治療をした。


「でっでも…リースさんは普通に使ってました」


泣きながらも話すパメラにカーマインが振り返り、声を荒げて話す。


「記憶を封じたか改竄して恐怖心を忘れさせたんだ!その上ゴブリンに…リースは丘の村でゴブリンに襲われた際には動けなかったと聞く。それを戦意向上などの魔法を用いて無理矢理戦わせたに違いない」

「そんなっ!?あの人が!?」


驚愕するパメラ。はっきりとは思い出せないが、厳しくも優しかった誰かの姿と今の話との違いに動揺する。


アリエルは治療を終えると、フラウのベッドまで運んで寝かせる。サイドテーブル上のケージランタンの中では、キャスがアリエル達を睨みながら未だ眠っているリザの羽を撫でていた。


「パメラ、水よ?」

「あ、ありがとうございます」

「…パメラさん。その人は休憩時間を与えてはくれなかったのですか?」


ゴクゴクと飲み干しお代わりをする姿に、地下で休憩や水を飲む機会がなかったか問うササネ。

だがよく思い出せないとパメラは表情を曇らせ、水を飲む機会はなかったと思うと話した。


「休憩も水分補給も無しに六時間もの間、迷宮内を連れ回すとは…」

「記憶操作などという力を使う相手です。人の都合など考えないのでしょう」


それからパメラからも覚えている事を聞き出すが、疲労の色が見え横になるとすぐに眠ってしまった。

カーマイン達はベッド周りから離れて中央のテーブルに集まると、そもそもの誘拐事件の話を始める。


「たしか伯爵家の執事が来て、パメラの親戚が階下まで来ていると言ったか?」

「はっはい。ですが私が先回りした所、それらしい姿はありませんでした。それと先程知らせを受けましたが、パメラちゃんの親戚で商人のトワン本人は、商業階層から出ていないそうです」


不機嫌なカーマインに睨まれたシェーラは少し怯えながらそう言うと、テオルドが話を引き継ぐ。


「その点を執事に問い質しましたところ、たしかにいたと。ただ執事自身はトワンと面識がなく、その男が本当にパメラちゃんの親戚だったかはわからないと言うのです」

「なんだそれは?警備が手薄になる時に、そんな怪しい奴の使いをなぜ執事はしたんだ」


執事はその男がパメラの特長を細かく言い当て、パメラの実家、商会との取引書類を持っていたと言う。それを聞いたミリアンは呆れた顔をして首を振る。


「いやいや、怪しいでしょう?取引書類まで持ち出して来るなんて…」

「…その後執事はなぜか取り込み中だと言って、話を切り上げようとするので訳を聞くと、ルヴァル君が朝食後から眠ったままなのだとか。そのまま今も部屋に籠っています」

「執事の動向には注意しておいた方がいいな。誘拐直後、魔導技術者達は紫の血痕を残したとか、パメラの話では魔法王国内で暗躍する…アンダーロザリウムの可能性があると」


一瞬言い淀むカーマイン。

首を振り気持ちを切り替えると、目の前にいる少女を見た。

シャルロットはパメラ達が心配なのだろう、ベッドの方を見ていて、視線に気付くと俯きながら答える。


「…はい。たしかに紫の血でした。私とリースさんが見ています」

「私が確認に向かった時には現場は荒らされており、使用人は気づかなかったと言っております」


シェーラの言葉に深く溜息をつくカーマイン達。とその時、部屋に備わる大時計が月の印と八時を示す。


「ナナシンなる者の狙いはわからないが…リース達は戻った。だがアンダーロザリウムの手の者がまだいる可能性もある。しばらくは警戒を続け、明日は再び魔獣が集まる前に川を渡ろう」


これ以上話をしていても新しい事はわからないと、疲れた顔をする皆を見回しアリエルが話を終える。


「…夕食にしましょう。パメラさんには私がついていますから。ミリアン、テオルド達も、ロッテをお願いね」


ササネに促され、背中を押されて部屋を出ていくシャルロット。オリヴィア達は部屋で軽めの食事を取ると床で眠り、テーブルで向かい合うアリエル、カーマインは今までの出来事を整理していた。




討伐から帰って来たカーマイン達は、お祭り騒ぎの中州街渡し場で、ビンスを見つける。彼は津波によって流され辿り着いたと言うが、位置的に自然に辿り着けるか怪しいもので、気を失って肩を借りていたデリックとロランの姿に、酷く動揺した様子を見せた。


渡し場を上がって急ぎ塔へ向かう途中、街の代表代理を名乗る苦労していそうな痩せた男が現れ、南組は全滅と伝えられた。


代表の行方を問えば急に額に汗をかき始め、視線を逸らす。

睨み付けると塔で起きた事件の対応中と白状し、足早に離れていった。


塔へ急ぎ昇降機で四階まで上がると、支配人と口論する街の代表に、向かいの扉からは慌てた様子で飛び出してくる、リースとパメラを背負ったテオルド達と遭遇した。




窓際では毛布に包まりオリヴィア達が眠っている。その隣りでパメラやリースの様子を見守るササネ。


静かな部屋でカーマインはずっと不機嫌でいた。


「気持ちはわかるが…ナナシンなる者はリース達を害したくてした訳ではないだろう?無事戻ったのだ。今はこれ以上の問題が起きないよう注意しよう」

「…わかってる。だが旅に出てから街に着く度に、危険な目に遭うリースが…な」

「たしかに…だが明日には私達エルフの領域である世界樹の森だ。既に里にも迎えの要請を出した」


アリエルが勧める軽い食事をササネも含めて三人で取る。

するとカーマインだけが急にウトウトし始め、テーブルに突っ伏したまま眠ってしまった。


「いいのですか?後で怒られますよ?」

「いいんだ。カーマインは魔力を失い過ぎている」


アリエルの背後からスルリと現れた風の精霊は、微笑むと空に解けて消えていき、ササネはカーマインに毛布を掛けた。




翌朝、リースはいつも通りにフラウに揉みくちゃにされながら目を覚ました。


パメラ達は既に自分達の部屋に帰っているようで、部屋にはアリエル達とカーマインが残っている。部屋の入口にある姿見周辺では、フラウに傷を直してもらったオリヴィア達がいつまでも喜んでいた。


フラウはご褒美が欲しいと言って、リースの髪をおもちゃにしていた。


「き、聞いてますか聖霊様?記憶操作を使う怪しい者がリースに接触してきたのですよ?」

「聞いてる。私はここ数日リースと感覚を共有し、彼女の体験した事を知っている」

「え!?そうなのですか!?」


赤髪を左右に分け角のように持ち上げるフラウの発言に、アリエル達は驚き、リースは恥ずかしさに俯いた。


「あのナナシンという者は今のところ敵ではない。が可愛いリースの頭をポンポン叩いたのは許せないな…追々罰を与えよう」

「そ、そうですか…何者なのですか?」

「ん…恐らく迷宮主だろう」

「え!?迷宮主!?」

「…なんだと?」


赤髪を襟巻きにしようとするフラウを止めるリース。温泉郷の無料券を指差し、自由民国の迷宮主ではないかと言う。


「で、でも!…朧気ですけど、人の言葉を話していた記憶があります。それに迷宮主って迷宮の外を出歩くものなんですか?」

「人の迷宮主なんて聞いた事がないぞ?」


リースとカーマインの質問に少し考えてから答えるフラウ。幾分か元気なっているようで、以前よりも人らしさがある気がした。


「言葉など知識があればそこらの魔物でも話す。詳しいことは知らないが、実際迷宮から離れているのだからできるのだろう…人ではない。人の姿をした人外の者だ」


それからリースの記憶は一時的に封じられていただけで、気を失ったのは魔法の効果が解け記憶の整理が始まったせいだと言い、姿が思い出せないのは格が違うからだと話す。


そしてナナシンがこの機会に強引に戦い方を教えたのは、今後も襲撃があるからだと予測した。


「私はリースに戦ってほしくないが…だめだと言っても聞かないのだろうな…」


言いつけを聞かず部屋を出た事を指摘し、リースの頬をつねる。


「リースと感覚を共有していてわかった。私もそうだが…深い心の傷は早々克服できるものではない。だが一緒に乗り越えられるはず…」

「…はい」


その後、六時になるとフラウは一緒に朝食へ行くと言って、しっかりした足取りで部屋を出る。その際久しぶりに一緒に歩けた事が嬉しくなり、リースから手を繋いだ。




食堂ではシャルロット達とカーマインの冒険者仲間である西風の者達。そしてルヴァルと執事が揃っていた。

シャルロットはフラウに合うと真っ先に挨拶に来て、軽く話すとテーブルへ戻っていく。


「リース。彼女の事をどう思う?」

「え?…可愛いですよね。髪とか肌がすごく綺麗で羨ましい」

「いや、そうじゃないんだが…」

「…?」


その後、フラウは水とイチの実という小さな赤い果実を少量口にするだけで、食欲がわかないリースも早々に済ませた。


食事が終わると皆で集まり出発の予定を話し合うが、ルヴァルはだいぶ具合が悪いようで、青い顔をしている。その様子を見たフラウが手を翳すと、ルヴァルはビクリと怯えた後、体調が良くなっている事に驚いた。


「あ、ありがとうございます…後程、伯爵家に報告してお礼をさせてもらいますよ」

「これくらいどうということはない」


注目されて落ち着かない様子のルヴァルにフラウが答えていると、シャルロットは伯爵家のデリックの怪我も治療できないかという。簡単に了承するフラウにルヴァルは再度驚かされ、欠損の治療もできる彼女は何者かと問うが、アリエルに遮られた。


「東の渡し場周辺には多数の冒険者達と街の警備軍が滞在しています。ヒドラや他の魔獣の解体は一日掛かるそうで、空いてくるお昼に出発してはどうかと話していました」

「そうか…そうだな。では昼に出発し、世界樹の森へ向かう」


シャルロットの提案を受けてアリエルが話を終えると、西風の男達が溜息をつきながらヒドラの素材を取られたと嘆く。

結局ゴライオ達は巨大魚を担いで、あの欲にまみれた場所から逃げてきたようだ。


「街の代表にヒドラを条件に軍を手配してもらいました。本当は代表の失態を条件にしてもよかったのですが、これ以上彼の人望が失われると色々よろしくないので…」

「あの代表は一度痛い目に合うべきですよ。この街の為にも」


ササネに続いてミリアンは呆れた様子で首を振る。


中洲街は七都市連合に属してはいるものの、実際には中立を保つ事で、南大壁国の侵略を受けた際には、国や組織の垣根を越えて支援を受けれるようにしている。その為、代表の座を巡って隣国から圧力が加わる事もあった。


今回の騒動で多数の死傷者を出した事により、街を預かる者としての立場が危ういと認識した代表は、陣頭指揮を執って存在感を見せるのに忙しいらしい。


アリエル達は戦いの後、冒険者達と先に話をつけてしまっていたが、結局あの場にいた火事場泥棒も同然な者達を気にする者はいなかった。


解散となるとルヴァルは西風のメンバーに声を掛け、共に退出していく。うずうずしていたフラウはリースの手をしっかりと掴んで、お風呂に入りたいと言い始めた。


カーマインが睨む中、ササネが女性浴場は男性浴場の事件を受けて現在改装中だと話すと、急に元気がなくなってしまった。


代わりにササネは魔道具店のトワンが、紛失していた取引書類を悪用された件で、お詫びがしたいと言っていた事を伝え、店へ向かう事になった。

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