表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
95/169

白塔地下迷宮脱出

94


魔道具のランタンを返してしまったリースは、パメラと一緒に暗い地下水路をゆっくりと進む。途中で借りに戻ろうか悩むが、先を行くナナシンは待ってくれそうにない。


そんな中、パメラが両手で何かを包むように合わせると、明かりが灯る。ユラユラと漂い始めた光は、小さいながらも足元を照らすには十分な光量があった。


「え?魔法?もう使えるの?」

「はい。学園では学士課程で基礎知識と基礎魔法を覚え、優秀な者が魔素儀式を受けて、魔法士課程に上がりますから」

「…へ、へぇ~」


パメラはさらっと言ってのけたが、自分は優秀な者に含まれると言外に言っていた。


明かりに照らされて煌めく金の指輪は母親の形見らしく、大切そうに指先で触れている。肩に乗るリザはその様子を何処か懐かしそうに眺めていた。


ナナシンと名乗った女性は、腰下まで伸びた黒髪を揺らしながら暗闇を進んで行く。しばらく沈黙が続いた後、急に立ち止まって振り返った彼女は、道を譲るように脇へ寄った。


「もう慣れたろう?やってみなね」

「――!はい」

「え?リースさん、あれは魔草樹ですよ?」


慌てた様子のパメラを手で制し前へ出るリース。今度はどう対処しようか悩んでいると、隣で何事かを呟くパメラに気付いた。


「―――・――・――――」

「え?」


ついさっきまで取り乱していたパメラが、急に真剣な表情をして手の平を突き出す。すると拳大の火の玉が生まれて、暗闇に蠢く草の塊に向かって飛んでいった。


避ける様子もなく正面から受けた草は、瞬く間に燃え上がり崩れ落ちる。呆けっと見ていたリースの頭をナナシンが扇子で叩き先を行く。


「あの魔草樹は学園でも見かけました。火に弱いんです」

「…そ、そうだね。知ってるよ?」


恥ずかしさから目を逸らすと、リザが気に障る笑い声を上げた。




それからも数体の魔獣を倒しながら地下水路を進む。

パメラはほとんどの魔獣を知ってるようで、一人で的確に倒していく。時にはリザが進んで手を貸したりもして、リースは複雑な気持ちで見ていた。


鋭く光る金属のナイフを持ったゴブリンには、さすがに怯むパメラに、リースは魔爪杖を手に前へ出る。ナナシンからの無言の圧力を受けて、魔法を使わない方法を考えた結果、エルゥスィスの本から得ていた、魔爪杖の真名を使うことにした。


最初それが何を意味しているのかわからず、てっきりまだ理解できない言葉なのだと考えていたが、ナナシンとウォローの話を聞いて閃いたのだ。


「ギャイァイヤベェッ!――いった!?」


駆けて来るゴブリンに魔爪杖を向けて真名を唱えていると、後ろから頭を叩かれ舌を噛む。ナナシンが手を一振りするとゴブリンの頭がポロリと落ち、振り返った彼女に半眼で睨まれた。


「なにトチ狂ってんだい?」

「酷いです!せっかく魔爪杖の力で倒そうとしてたのに!」

「あれが真名だって?あんたほんとバカだねぇ。魔物の言語を正しく発音できるってのかい?」

「…え?」


隣のパメラを見ると困惑した顔をしており、自分がどんな事を言っていたのか思い出せない。


「突然、呂律が回らなくなったかのような感じでした。意味わからないことを真剣な表情で言っていたので、どうしようかと…」


リザは完全に見下した目を向けてくるだけで何も言わず、リースは顔を真っ赤にして抗議する。


「じゃ、じゃあどうしたらいいんですか!?わからないばかりか、発音もできないなんて。使えないじゃないですか!」

「また質問かい…どこの子供も同じだねぇ。まったく…真名はその名を知っていれば使えるし、使って知るとも言える。それと魔法ってのは必ずしも口にしないとならない訳じゃないだろう?」

「――!?矛盾してます!意味わかッ――いった!痛いです!そんなにポカポカ叩かないでくだ――っ!」


再び頭を叩かれ憤慨するリースだったが、ナナシンに頭を掴まれ、覗き込むように睨まれた。


「調子に乗るんじゃないよ。私はあんたの親でもなければ、教師でもない」

「……」

「リ、リースさん。もう一度、今度は無詠唱でやってみましょう」

「う、うん」


パメラに仲裁されて、もう一度試してみる事にした。


(ちょっと近づき過ぎたかなぁ…怖かった。真名、真名…)


魔爪杖を構え直し、念話をする要領で唱える。しかし杖に変化はなく、色々試してみるが何もわからなかった。


「もう行くよ。パメラちゃんも助けたのだから、本来これ以上付き合う義理もない…」


後半ブツブツと何かを言うナナシンは先に行ってしまい、パメラに気遣われて手を引かれるリース。自身の頼りなさに目頭が熱くなった。




広々とした円形広間に着くと壁際に螺旋階段があり、迷宮路へ続いているようだ。


壁には今までと違って松明の明かりがあり、ふと迷宮都市の迷宮と違う点に気が付いた。


「ここ迷宮だよね?迷宮って天然の明かりがあったり、消えて魔石を残す魔物が出てきたりするんじゃなかったっけ?」

「そうですね…そう言えば最深部ってウォローさんは言ってました?」

「今更なに言ってんだい?ここは攻略済みの迷宮だよ。さっきぶっ飛ばしたって言ったろ?」

「「え?…えー!?」」


ナナシンは呆れた感じにそう言って階段を上がっていく。

彼女が言っている事が本当なら、この迷宮は迷宮核ではなく迷宮主が管理する迷宮で、ウォローはその迷宮主になる。

一般的に魔物と同類と考えられており、倒すべき存在と言われているが、言葉の通じる相手だった事はなかった。


「どどどどうしよう!パメラ!?迷宮主だって!」

「どうしようと言われましても…ウォローさんは恩のある方ですよ?」


そう言って背負っていた巻き貝を見せられる。

動揺する二人の間では、リザがいつの間にかパメラの首筋に抱きつき、眠ってしまっていた。




心を落ち着かせようと、二百二十段の階段を数えながら迷宮路へ上がる。薄暗い迷宮路は広く、入り組んだ通路がどこまでも続く。


何度目かの曲がり角を曲がると、微かに風の流れがあった。

風上へ向えば東西に抜ける脱出路へ出るとナナシンは言う。


「ここの魔物はほとんどが脱出路から流れて来た黒森の連中さ。少しは東側の湿地のもいるかもしれないけどね」

「地下水路にいた草も…」


リースは聞きそうになって途中でパメラの方を見ると、ナナシンが笑う。


「別にこんな事まで怒りゃしないよ。大事な事は自分で気付けって話さ…あの草は水路の水の中で、勝手に種蒔きでもして増えてるんだろうよ」


あの淀んだ水を思い出して、リースは落ちなくて良かったと心底安堵した。


それからも右に左に曲がりながら迷宮路を進む。既にリースもパメラも道など覚えておらず、ナナシンに引っ付く勢いでついていく。


リースはフラウと出会ってから、身近な人の匂いを嗅ぐ癖がついてしまっており、なんとなくナナシンの後ろ姿にクンクンと鼻をひくつかせていた。


(う?う~ん?なんだろう?変わった匂い)

「…あんた変な趣味してるねぇ。嫌われるよ?」

「――っ!ご、ごめんなさい…」


ナナシンに再び呆れた顔で振り向かれ、パメラまで恥ずかしそうに離れてしまう。


「まっ、西側の連中には馴染みのない香りだろうね。お香って言うんだよ」

「オコーですか?聞いたことないです」

「あっ、私は見たことはあります。ただ高かったので、実際使っている場には居合わせませんでした」


そう話すパメラに、ナナシンは袖から取り出した小さな袋を振ってみせた。

するとキツい匂いではなく、僅かに香る爽やかな匂いに二人とも目を閉じる。


ヒュン、コトリと言う音に目を開けると、目の前の通路には首が落ちて、真っ赤な血の噴水を上げるゴブリンがいた。


「目を閉じるのはベッドの中だけにしな」

「「…はい」」




それ以来不思議と魔物に出会わず、だいぶ進んだ辺りで立ち止まる。言われるまでもなく目的地に着いた事がわかった。


「私が相手するから下がってな」

「はい…でも巻き貝の効果があれば助けてあげたいです」

「…わかったよ」


今まで通路に通路の連続だったが、広い部屋に入ると左右にも別の通路があり、奥にはずいぶんと汚れた広い通路と急な傾斜の階段があった。


どの方角からか、獣のキツい匂いが漂ってきている。ナナシンはいつかの長刀を空より取り出し、ゆっくり部屋の中央へ向かう。


――ヒュンヒュン――


風切り音を耳にしたリースが左を見れば、黒い礫がナナシンへ向かって飛んでいく。それを僅かに身を傾けただけで躱すと、右の通路から巨大な獣が飛び出してきて、太い左前足を振り降ろした。


ナナシンの小さな頭が前足の大きな影に隠れ、思わず目を瞑るパメラ。瞬きもできない速さで光の筋が閃き、その前足は左通路に飛んでいった。


パメラが抱えた大きな巻き貝は左右のどちらにも反応を示し、黒い靄がゆっくり流れてくる。


「両方!?どうして――っ!」


辿った先には獅子の頭と山羊の頭を持つ巨大な獣で、背後からは蛇が舌をチロチロとさせながら、ナナシンの隙を窺っている。反対側の左通路からは不気味な光を揺らめかせた人影が現れ、黒い刀身の剣を構えた。


「リースさん!?巻き貝が!」

「二体は駄目なの!?」


パメラが持つ巻き貝は早くも灰色に変色し始めていた。

警備隊長が真横に振り抜く黒剣を、ナナシンは右手に持つ長刀で受け流し、黒い靄を放つ混合魔獣の獅子の噛み付きを、半回転から左の裏拳で打ち据える。そのままもう半回転して山羊頭を蹴りつけた。


黒剣の突きを背面で持ち替えた左手の長刀で弾き、撫でるように両太股を切り付ける。


「それはもうだめだよ。捨てな!」

「早く、早く!」


見入っていたパメラは、リザに耳を引っ張られると弾かれたように黒い巻き貝を放る。しかし巻き貝は割れずに貝を背負った黒い生き物になった。


「「えー!」」

「アッハハハハッ!ウォローの奴。やってくれるね」


ナナシンの長刀が黒剣を砕き、何かを吐き出そうとしていた混合魔獣の山羊頭を縦に両断する。直後に蛇がその長刀へ噛み付き動きが止まると、獅子の牙がナナシンの頭を捉えパメラが短い悲鳴を上げた。


次の瞬間にはナナシンの姿は掻き消え、混合魔獣の胴体が輪切りになる。その脇にナナシンが現れて蛇の頭がリースの足元に飛んできた。


「ぼさっとしてるんじゃないよ。その貝はあんたがやりな」

「え?あっ!パメラ待って!」


隣で詠唱を始めていたパメラに待つよう言い、魔爪杖を構えて真名を念じる。


「リースさん!来ます!」

(――私も戦いたい!守られるだけなんて嫌だ!)


飛びかかってくる黒巻き貝の化け物。

その時、魔爪杖中央の球状の柄に触れる右手が熱くなる。三本爪はそのままに炎の爪が伸びていき、黒巻き貝を貫き燃え上がらせた。


あっという間に黒い靄も残さず燃え尽きると、炎の爪はリースの意思に反して、ナナシンと打ち合う警備隊長にまで伸びていき貫いた。


「あぁ!?だめ!」

「リースさん!危ない!」


前へ出ようとするリースを背後から抱き留めるパメラ。

三本の炎の爪に胸を貫かれた警備隊長は、なぜか抵抗する事もなく燃え続け、後には何も残らなかった。




「まぁまぁ成長したんじゃないかい?」


階段下ではナナシンが俯くリースの頭を撫でる。


「でも…警備隊長さんは消えてしまいました」

「一度魔に落ちたものが元に戻る事は滅多にないんだ。戻っても以前とはなにかが違うと、わかるものにはわかるからねぇ」


脱出路の奥から遠吠えが、階段上からは人の声がする。

ゆっくり話もできない状況に、ナナシンが袖から数枚の紙を取り出してリースへ手渡す。


「ん~?なんとか温泉…郷?」

「時間が出来たらおいで。その時はちゃんと自己紹介でもしようかね」


微笑むナナシンに頭を優しく撫でられたリースは、長らく張り詰めていた緊張が解けていくのを感じた。


「あっ!遅~い!何やってたんですか!?」


パメラの声を聞いて階段を見上げてみれば、黒ずくめの男女三人組が降りてきていた。


いずれも知り合いのようで、リース達を確認すると、急いで降りてくる。ふと気配が離れていくのを感じたリースが振り返ると、ナナシンはいつの間にかいなくなっており、お礼を言えなかった事を悔やんだ。


「やはりここでしたか…フゥ」

「なにが――やはり――よ。さんざん道に迷ったくせに…ブツブツ」

「救出対象リースちゃん。パメラちゃんを発見。これより帰投する…ビシッ」


周りを取り囲む者達はどこか緊張感がなく、パメラは見るからにイライラしていた。


リーダーらしき男は一番の年長でどこにでもいそうな、特長のない顔をしており、ブツブツ呟いている女性は貴族令嬢と言われれば通りそうな美女で、リースはどこかで見た気がしている。

三人目は頻りに胸に拳を当てて敬礼する背の低い少女で、言葉とは裏腹に眠そうな目をしていた。


「また迷ってたんですか!?私が、どんな思いで…」

「うっ…す、すみません。色々ありまして…」

「あぁ!泣かないで~。お嬢様に怒られる~」

「あわわわ…」


泣き出してしまったパメラを女性達に預け、男はリースに身元を明かす。彼らはシャルロットの身辺警護をする隠密部隊で、シャルロットの命によりリース達を救出しに来たと言う。


ミリアン達がシャルロットの回りに一人も残さず離れていく事に、疑問を持っていたリースは納得し、綺麗な女性が浴場ですれ違った人だと思い出した。


「けど誘拐された時にはどこにいたのですか?」

「う…うむ。まず私に見覚えはないかな?」


特長のない男は三、四十代で懸命に思い出そうとするもわからなかった。


「うむ…あの時、私は支配人に変装していたのだよ」

「――!あの時の!?」


煙の中、シャルロットを庇い倒れた支配人は目の前の男テオルドで、警備が薄くなる時期に現れた魔導技術者達を警戒していたのだと言う。


「そして彼女、シェーラは伯爵家の執事の話を聞いた後、先回りしていて、そのちびっ子ォオアア!?、アーッ!」


パメラと同じ身長の少女を指差したテオルドは、その指を掴まれると、パキッという乾いた音を響かせる。額には脂汗をかき、震えながら膝をついた。


すぐにも治癒魔法がかけられたようで、青い顔したテオルドは、短く「チェルシー部屋待機」と話した。


「そ、そうだったんですか…シャルロットは?」

「部屋で別の者が警護しています…さぁ戻りましょう」


三人の隠密部隊に囲まれて階段を上がろうとした時、迷宮路から聞こえていた遠吠えが止んだ。


振り返れば青白い人影が通路を横切り、微かにお香の香りがする。パメラと目が合うと、二人揃って頭を深く下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ