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転生聖霊物語  作者: けんろぅ
第二章 世界樹篇
92/169

パメラ救出

91


大広間を抜けると、再び似たような構造の地下水路へ出た。

先を行く女性の姿は既に見えず、左か右かで悩むリース。


「あんたがもたもたしてるから!」

「うぅ…右、かなぁ?――っ!?」


小走りに右側の通路を進むと、水路の中や左右の通路には、魔物の死骸が散乱していた。

辺り一面に飛び散る血と臓物、砕けた骨、潰れた姿に耐えられず吐いてしまう。


「ちょっと…大丈夫?」

「――うっ…さっきは大丈夫だったのに」

「そりゃ私の側に居たからさ」

「え?…な、なんで?」


目の前の暗闇から黒髪の女性が現れ、背中を優しく擦ってもらうと、急速に気分が晴れていった。


「あんな濃密な死臭の中にいて吐かない常人はいないよ。色煙、私の出してた煙管の煙でまぎらわしていたのさ」


女性はそう言うとまた先に行ってしまうので、慌ててついていくリース。腰のブックホルスターに挟んでおいた巻き貝を確認すると、白かった巻き貝はどす黒く変色し割れていた。


女性は普通に歩いているように見えるのだが、リースが小走りに着いていくも徐々に離されていく。


「はぁはぁ…ま、待って…」

「おや?いいのかい?パメラちゃんを拐った連中は待ってくれないよ?」

「あっ」

「…早くおいで」


曲がり角で立ち止まってくれた女性の元に辿り着くと、煙管で前を指し示す。


「あれもこれも私が手を出したんじゃつまらないからねぇ。こうしようじゃないか。私が道を示し拐った連中を倒してあげる。代わりにここから先の障害はあんたが片付けるんだよ」

「――え!?私が…」


曲がり角の先にランタンをかざすと、ここへ来て最初に見た草の塊が壁にくっついていた。

それほど大きくはないが、毒を持っていそうな赤紫色の草はヌラヌラしている。数本の草の触手を垂らし、ゆっくりと半円の天井に向かう後には、泡立つ気味の悪い液体が残っていた。


「…リザ」

「おっと、私はあんたに言ったんだよ?そのハイピクシーは預かるからね」

「リザ!?」


女性が煙管を吸い、吐いた色煙がリザを包むと、急に虚ろな目をしてリースの肩から離れていく。


(っ!どうしよう…)


左手のランタンを前へ突き出し、右手の魔爪杖を構える。一歩また一歩と近づいていく途中、ふとリザの言葉を思い出した。


(エルゥスィスの本!――魔草樹…毒!熱病と腫れ。火に弱い。ここで魔法石を使う?でも再充填まで時間がかかるわ」


右腰のエルゥスィスの本に触れ毒々しい色をした草の魔獣を睨みつける。草は天井まで上がると自重に堪えられなかったのか、バサリと地面に落下してきて驚かされた。


(さっきは足跡を追っていた…音でなく近くの熱に反応するのかも)


しっぽからボロボロになった魔法の外套を取り出して引き裂くと、女性に向き直る。


「火種をください!」

「へ?」


微妙な顔をしつつも、吸っていた煙管の先に燻る赤い光りをボロ切れに落としてくれる。リースは消えないようにボロ切れで包み、フゥフゥと息を吹き掛けていたが、急に首根っこを引っ張られて落としてしまう。


「――なっなにを!?」


その時、目の前でゴゥ!っという音と共に赤い炎が立ち上ぼり、ボロ切れが天井にまで達するほどに燃え上がった。


「…危ないねぇ。魔法はもう少し勉強してからにしな」

「え?あっ!」


立ち上ぼる炎の先、草の塊はゆっくり近づいて来ていたのだが、炎に触れる前から突然激しく燃え上がり、瞬く間に炭化した。


「まったく…女の執念ってやつは…」

「え?何ですか?」

「何でもないよ」


女性が煙管を一振りすると突風が巻き起こり、炎はあっさり消えてしまう。


先に進みながらどこからか取り出した小さな筒を出すと、中の粉を煙管の先で掬い上げ、キンキンと音を立てて赤い光りを灯す。


「…あの、貴女は――」

「名乗らないよ。あんたも名乗ってないじゃないか?」

「――あっ!ご、ごめんなさい!私はリ――」

「リース。迷宮都市の孤児。連れの女の為に世界樹に向けて旅の途中」

「――!?な、なんで?」

「その本の主の助言はもう忘れてしまったようだねぇ」


煙管を吸いながら流し目で見てくる女性は、話してもいない事を次々と言い当てた。

エルゥスィスが言っていた何気ない会話の中で、様々な魔法を仕掛けてくる存在がいる事を思い出し、警戒心が増す。


「……」

「クックックッ…ほんと素直な子だねぇ。そんなガチガチに心を閉ざしても、格上の相手にはわかっちまうもんさ」


青い顔をするリースは急に色煙を吹き掛けられ咳き込む。

恨めしそうに見上げるが、女性は再び前を指し示し、ランタンの明かりに照らされた虫が向かってくるのを見る。


(――ひっ!?ま、魔虫!麻痺針とあっ!)


エルゥスィスの本から情報を得ようとするが、脚が沢山生えた虫は素早く近づいてきて、飛びかかってくる。悲鳴を上げて魔爪杖を振り回し、幸いにも弾き返す事に成功した。


虫は黒光りした甲殻に沢山の目らしき物があり、吸盤状の頭に尾は長い針を持つ。


(き、気持ち悪い…吸盤で吸い付いて針で麻痺させる、目玉が沢山あって動きが素早い――っ!)


再びゾゾゾッと近づいてくる虫にランタンをかざすと、ガラス部分に吸い付いて針を突き立てようとする。

だが長さが足りず、空を突いているところをランタンごと地面に叩きつけて潰した。


「うぇ…」

「やるじゃないか。次、来るよ」


前からはリースの腰位まである化け鼠が駆けてくるのが見え、もはや余裕のないリースは本より先に魔爪杖を突き出し、魔力を流す。卵型魔法石は赤く輝き、内に秘めていた火球の魔法を前方に形成した。


――ゴオオォォォ!――


通路一杯に膨れ上がった火球は化け鼠に迫り、避ける空間もなく正面から当たると爆炎が吹き荒れる。炎は一瞬でリースの目前まで迫り、呆然となる中、黒髪の女性が前に出て何かを振るう。すると炎が二人を避けて後方へ流れていった。


「いたっ!」

「…言ったろう?魔法は勉強してからにしな。次使ったら本気でぶつよ?」


一瞬気遣うような表情を見せた女性は、涙目ながらも見上げてくるリースにそう言い捨てた。

炎が過ぎ去り熱気が籠る地下水路。化け鼠は跡形もなく消え去り、頭に拳骨を受けたリースは蹲り涙する。


(カーマインさんより痛いよぅ…)

「この分じゃ近場の敵は粗方燃えたろうさ」


女性が紙と木でできた扇状の物で顔をパタパタ扇ぎながら進んでいく。




暫く進むと広間の入口で女性が立ち止まった。

前に出ようとするリースを手で制し、ここで待つように言う。


「これは私がやるよ。あんたは見てな」

「なにがいるんですか?」


リースの問いには答えず指で本を指し示す。気を失っているらしいリザを渡されると、代わりに魔爪杖を取られてしまう。


「お手本を見せてやろうかね」


左手は相変わらず煙管を吸い、右手で魔爪杖を器用に回す。

広間に入る女性にランタンを向けると、先には作りの雑な鉄兜を被り、ボロ切れを着たオーガが三匹いた。

囲まれた中央にはゴブリンだろうか、バラバラになった死骸があり、オーガ達は小さな緑の肉片を握っていた。


(食べっ!?うっぷ…いっ!?)


吐きそうになったリースは、リザを持つ右手で口を押さえようとして引っ掻かれる。


「私にかけたらコロス」

「ご、ごめん…!」


目の前では三メートルをゆうに越えるオーガ達が、床に放り出していた大きな剣を拾って女性に迫る。右手に持つ魔爪杖を剣のように構えると、赤い炎の刀身が吹き出した。


先頭のオーガは好色そうな顔をして、剣を使わず掴み掛かっていくと、女性は身を捻るだけで避けて一振り、丸太のような腕はスパンと絶ち切られて地に落ちる。

血が吹き出すより先に炎は瞬時に傷口を焼き、腕を這い上がっていく。


パニックになり後退りするオーガを背後のオーガが蹴り倒し、女性に向かって大剣を振り上げる。下から上へ振り抜いた魔爪杖を右肩に担ぐような構えを取った女性は、炎の刀身とは逆の三本爪をオーガの顔へ向けた。


三本爪は目にも止まらぬ速さで伸びていき、オーガの顔や胸を貫くと瞬く間に元の長さに戻る。


両目を貫かれ背後に倒れゆくオーガの先、遅れて来ていたオーガが剣を投げるが、一歩横にずれただけで避け、逆に炎の刀身を上段から振り下ろす。


両手を前に突き出し迫って来ていたオーガまでは距離があり届かない筈だったが、オーガは後二、三歩と言うところで左右に別れて崩れ落ちた。




燃えるオーガ、両目と心臓がないオーガ、真っ二つなオーガが山の様に重なる部屋に入ると、女性は魔爪杖を放ってくる。


「こんな狭い場所で大技に頼るんじゃないよ。それ自体だって十分使える武器さ」

「伸び縮みってどうやったらできるんですか!?」

「あんたはほんとうに質問の多い子だねぇ…その本は飾りかい?」


何度も聞いて同じ返しをされて、自身の愚かしさに赤くなるリース。


(伸び縮み…真名と同じ!?ガルーダの爪!…は古代人の人達が勝手に呼んでいた名前か…この人は知ってるのね…妖魔が作った魔道具の真名を…?)


異様に長い黒髪の女性をチラチラ見ながら進んでいると、女性に違和感を覚える。

先程までとどこか雰囲気が違い、ジロジロ見ていると、目が合いニヤリと笑う。


「フフフ…そうだねぇ…ここを出るまでに気付けたら名乗ろうじゃないか?」




リースは悩んだ末、話題を変えて情報を得ようとすると、女性は少しだけ答えてくれる。時折禁啓言語に触れてわからない所もあったが、聞き出せた事は意外な事ばかりだった。


パメラを拐った連中の事は知らないと、ニヤリ顔で嘘をつかれてしまったが、リースが滑落してきた穴は、塔に備わる緊急脱出路だと教えてくれた。

本来はゆっくり降りれるものを、外套を敷き、目を閉じ、足で速度を調節せずに滑り落ちたリースは、途中の分岐を見過ごしていたらしい。


連中は北西寄りの脱出路に入ったと明言する女性に疑問を持ち、なぜ自身があの場に現れると知っていたか問うと細い目をさらに細め見つめてきた。


「…ある男に聞いた。―――の書を持つ男だ。賭けていたんだよ。あんたが現れない方に――の調査権利をね…ま、いずれあんたの前にも現れるだろうよ」

「…?」




三方向に出入口があったが真っ直ぐ広間を抜け、再び地下水路を行く。

魔獣の死骸がある場所まで来ると、奥から話声がする。


「着いたみたいだね。あんたは離れてな」


カランカランと軽い音をさせながら奥へ向かっていく女性の後を、明かりを消して少し離れてついていく。奥から漏れる明かりに三人の人影を確認し、パメラの姿を探す。


白いローブを着た男達に、挟まれるようにしてパメラは立っているが、目は虚ろで女性を恐れ、男のローブにしがみつく姿は操られているとリースは予測した。


「誰だ貴様…なぜこの階層にいる」

「小さな女の子を拐うとはねぇ。極刑だよ」

「…見られたからには生かしてはおけん。シネ」


その声だけで瞬時に大火球を生み出し放ってくる。

だが女性は一切慌てず、色煙を吹き掛けるだけで大火球の炎を包み込み、掻き消してしまう。


「――!?…貴様」

火球を放った男がローブを脱ぎ捨て干からびた姿を晒すと、ローブから紫色の皮膚が覗く男が、パメラを連れて奥へ下がる。両手を己の顔の前にやり、ブツブツと呟き始めると、両手首にした紫色の荊腕輪から黒い靄が揺らめきだした。


「禁忌に触れるなんてバカな奴だよ」

「チカラヲテニシテシマエバ、キンキハキンキデナクナル!フハハッ、フハハハハッ!――」


干からびた男が黒い靄のローブを纏うと、僅かに残っていた肉が削げ落ち紫色した骸骨の姿になる。足が地から離れて宙に浮遊すると、黒い靄の刺々しい冠が頭上に現れる。


異常な気配が波のように押し寄せ息苦しさに喘ぐリース。

リザが顔の前に来て何かを話しかけているが、酷い圧迫感と耳鳴りで聞き取れない。


その時、急に背後へ引っ張られ何かに包まれるような感じを受ける。


「タマランナ!カギリナイチカラヲカンジルゾ!シシジュカンノウデワハ、ホンモノダ!」


紫骸骨が骨の手を軽く振るうと、黒い靄の斬撃が走り女性を襲う。いつの間に持ち替えたか、左手には煙管はなく、右手に長大な片刃の剣が現れ、黒い斬撃を受けると霧散させた。


「まったく…何が限り無い力だ、負の魔力の供給を受けてる時点で有限だってのっ!」


淡く光る青い膜に包まれたリースは、不思議と苦しさが無くなり、風の様に飛んで迫る女性を見る。


黒い靄の斬撃を無数に振り撒く紫骸骨。最小限の動きで斬撃の間を吹き抜け、振るわれる刀は紫骸骨の黒いローブを容易く切り裂いた。


「グッ!?バカナ!?ナンダソレハ!?キサマハイッタイ!?」


黒い波動を放ち遠ざけた紫骸骨は、纏うローブの力の弱まりを感じ驚愕した声で問う。薄く笑う女性は、鋭く光る刀を振るうと光りの斬撃が飛び、さらに黒いローブを切り離す。


「オオォォォ!」


黒い靄が一際膨れ上がり、黒い波動を放つ。

女性が刀を斜めに構えて受けきると、一跳躍で間合いを詰め、数回刀が閃くと黒いローブを霧散させ、紫骸骨がバラバラに砕け散った。


「ば、ばかな…!?」


見ていた男がパメラを連れて奥へ逃れようと振り返る。しかし奥へ続く通路には、淡く光る青い人影が現れた。


「また貴様か!死に損ないが!」


男が放った火球を受けて人影は霧散するが、すぐにもパメラの横に現れる。紫荊の腕輪をする腕を光りが一閃すると、男は切断された腕を押さえて叫ぶ。青い人影はパメラの手を取りリースの元へ戻った。


青い人影をよく見れば、ずいぶんと古風な鎧を着た男の姿で、顔はぼやけていてわからない。


「パメラ!パメラ私よ!」


パメラの両肩を掴み話掛けるも反応は薄く、リースから離れようとさえしている。すると青い人影が手を翳してパメラを眠らせた。


片腕となった男がパメラを捕まえようと後を追ってきたが、女性が長刀を突きつけると下がった。


「ぐぅぅ!なんたる事だ…迎えさえ来ていれば…」

「お仲間に裏切られたかい?予定と違う相手を拐ったんだ、迎えに来るより次の計画でも練ってるんじゃないかい?」

「おのれぇぇぇ!」


男は残った腕を後ろに引いた状態で駆けてきて、女性に袈裟懸けに切り捨てられると、リース達へ向かって紫荊の腕輪を投げつけ息絶える。


「――チッ、面倒臭い事を!」


女性が振り返るが間に合いそうもなく、腕輪はリース達の頭上で黒い靄を吹き出す。次の瞬間全てが真っ黒になり音が消えた。

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